リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結) 作:リーニエたんhshs
嘘をつく、人間を食べる必要が無くなった魔族の収斂進化と自分の中では納得して書いたのできっと違和感はそんなに無い…と思いたい
「……久し振りですね、アウラ」
「お前は相変わらず全く変わらんな」
「ハイター、アイゼン……数年振りね。アンタ達はすっかり老いぼれたわねえ。身体には気を付けなさい、特に生臭坊主はちゃんと酒辞めたんでしょうね?」
「流石に辞めましたよ。貴方に会う度数時間も説教されてれば引き時も考えるというものです」
「俺は最初驚いたがな。酒が無きゃ死ぬような男がこうも潔く酒から離れるとは思わなかったからな」
結論から話すと私は半世紀彗星の旅には着いて行かなかった。
あの旅はヒンメルにとって神聖なものであり、50年振りの想い人との再会……だとするならそれを邪魔立てするというのはあまりにも野暮というものだしヒンメルも悲しむだろう。
アイツにとってこれが最後のフリーレンとの再会という事も察していたというのも大きい。
そんな訳で今は旅から帰ってきた4人の内、フリーレンとヒンメルを2人きりにさせておくという無駄に空気の読める事をしたハイターとアイゼンと数年振りの再会をしていた。
しばらくは帰ってこないだろうと付け加えられて。
「辞めたのなら良いのよ、もう70も過ぎた身体で酒なんて死にに行ってるようなものなのだし」
「はは、違いありませんね」
「……しかし、まさかかつての敵とこうして親交を深める事になろうとはな。今でも夢かと思う時がある」
「私だってそう思ってるわ。50年もアイツと暮らすのすら夢にも思わなかったのに、それに加えてアンタ達まで着いてくるなんて」
最初に会ったのはヒンメルが30を少し過ぎてからだった。
一向に手紙以外寄越さないからと2人が村を訪れたところから話は始まった。
遭遇した時はお互い面食らった様に固まっていたけれど、ヒンメルが出てきたところで察したのかヒンメルだけ連行して何かを話し合っていたのを覚えている。
そして話が終わったと思えばこちらとヒンメルとを見比べるようにして見つめ2人して溜め息を零して、それからは敵意を向けられる事は無くなった。
かつてどちらも殺すつもりで敵対していたというのに、何だかんだとこちらから出向いて話に付き合ったり、酒を飲んだり、3人でヒンメルの話を聞いてフリーレンに呆れたりしていたものだ。
そして気が付けば私はまるで最初から仲間だったかのように溶け込んでいて……でもそこにフリーレンは必ずいなかった。
アイツだけはやはりこの事を話せば理解されないだろうとずっと、今の今までずっと隠してきた。
今だってハイターに幻術を掛けてもらって王都にいるくらいだ。
「しかしヒンメルは本当に有言実行してしまいましたね」
「なにがよ?」
「昔々に言っていたのですよ、まだ旅に出て数年くらいの頃に。魔族とも和解出来たら、と。あの時は逆に現実に打ちのめされてしまいましたが……改めて今、貴方を見ていると思うのです。ヒンメルはやはり不可能を可能にしていたのだと」
「あっそ。まああの歳で女神の石碑までの道のりで敵無しだったしそれくらい出来るでしょ。ほんと、もうすぐ寿命だなんて言っていたけどまるで嘘みたいよ……」
「だな」
「そうだと良いんですけどね。ヒンメルは良くも悪くも勘が当たる人間ですから」
3人でしみじみしてしまう。
思えばアイツとはいつも隣で過ごしていた、20mなら離れられたのに初日からずっと10mも離れた事さえ殆ど無かった。
それなのに今はどこにいるのかさえ分からない、本当にもう居なくなってしまうそんな気がして気が気でならなかった。
……だと言うのに。
「……フリーレンは薄情ね」
ついついそんな言葉が意識せずに口から出てくる。
「仕方ありませんよ。彼女は貴方より人間との触れ合いが少なかったのですから」
「強さを求めるのは戦士として尊敬に値するがな」
アイツは、フリーレンはまるでヒンメルが死ぬとは思ってないような素振りで話し掛けていて。
今すぐにでも出ていって一発殴ってやりたかった、人間とお前とは違うんだと、どうして会ってやらなかったのか、どうして50年の重みを何も感じないのかと。
……本当は分かっていた。
フリーレンが魔族に村を滅ぼされた話も聞いた、そのせいで人間と関わる環境もほぼ無かった事も。
だが、だからこそ。
どうしても無力感が悔しくて。
「良いわ。……死んでからでしか気付く事が出来ないというならそれで。私はもう行くわ……わざわざヒンメルの死に顔なんて拝みたくないもの」
「ああ、待ってくださいアウラ」
「何よ、まだ何かあるの?」
「これを。ヒンメルから渡してほしいと頼まれていたので」
色んな想いが巡ってぐちゃぐちゃになるくらいならともうここを去る予定だった、私は思っていた以上に臆病だったから。
村人が死ぬ度、表情には出さずとも深い喪失感に襲われていた。
あまり関わりの無かった村人にさえ多少そんな想いを抱えた。
それがヒンメルになったらと思うと、考えたくなかった。
――しかし、渡されたのは。
『今日の深夜、僕の部屋まで来てほしい。アウラ、君と話がしたいんだ』
ああ、そんな事を言われたら。
行くしかないじゃない、このおバカは。
「……来たわよ、ヒンメル」
「来てくれたんだね」
「アンタから来いと言われて行かなかったら三日三晩泣きそうだもの、流石におじいちゃんになったアンタの泣き顔なんてそんなに見せられても楽しくないじゃない」
「はは、違いないね」
夜更け、これみよがしに全開にされていた窓からヒンメルの部屋に入るや否やでこれだ。
でもそんなだから気軽に軽口も叩き合える、これが私達のいつもの、そして安心出来る距離感だ。
「で、何なのよ私をわざわざ呼んだ理由は。アゼリューゼ解除しといて呼び出すなんて面倒な事してんだから結構な理由があるんじゃないの?」
「そうだね……いや、本当は大した理由なんて無かったんだ」
「あら、そうなの?」
ヒンメルは開けっ放しの窓から月を見る。
今日は満月だ、月明かりだけで充分な光になる。
若い頃のコイツならもう少し格好付けて見ていただろうに、今はもうのんびりと見上げる事しかしない。
私もゆっくりと空を見上げる。
こんな時間はやはり嫌いでは無い。
「僕はね、アウラ。君とただ話をしたかっただけなのかも知れない」
「……そう。まあ良いけど」
その横顔は若い頃の面影もあるけれど。
もうすっかり何かを達観してるような、そんな表情にも見えて。
「ねえ、アイツのとこに行かなくて良いの?」
「フリーレンの事かい?」
「それしか無いに決まってるじゃない。で、どうなの?折角の人生晩節に再会出来てもっと一緒にいたいとか思わない訳?」
「確かにもっと沢山いたいとは思ったさ。でも、そう思うからこそ名残惜しくならないようにこれで良いと割り切ったんだ」
「……難儀なものね、人間の感情って」
「かもね。だからこそ一つ一つ大切に積み重ねていかないと行けないって思うんだけどね。君との事もそうだった」
「そう思ってもらえているなら光栄ね」
会いたいのに会わない、という複雑怪奇な人間の気持ちはコイツと何十年いても最後まで理解出来ないままだった。
それでも、そんなもの気にならないくらい今の時間は穏やかだった。
だと言うのに私の不安は収まらないままで。
「君も……すっかり、もうちゃんと人間だ」
「バカね、さっきも言ったように複雑な心理なんてサッパリよ」
「そこまで行ってる時点でずっと人間さ……もう、僕がいなくても大丈夫、生きていける。君なら」
「…………」
言葉が出なかった。
それは、そんなのは、まるで。
別れの挨拶にしか聞こえなくて。
「フリーレンはまだ、人間の寿命についてしっかり理解出来てないから話せなかったけどね。アウラには話しておきたかったんだ……多分だけど、僕の寿命は今日の夜が最後なんだ」
「人間って……本当に短命ね」
絞り出した言葉はその一言だった。
それしか、出なかった。
「……楽しかった?この50年」
「じゃなきゃ最後までアンタの近くにいてやんないわよ」
「そっか」
でも、それは事実だった。
それに嘘はつきたくなかった。
ヒンメルはそれを聞いて穏やかに笑うと、こちらに向き直った。
それはまるで、最後の言葉を伝えるかのように。
「……僕のワガママだけどさ、君はどうか、ありったけ、沢山、生きてくれ。したいと思う生き方をどうかしてくれ。……大丈夫、今の君なら間違えないって僕が断言出来るから」
「ほんと、勝手に私を従わせといて、楽しませといて、先に逝くなんてワガママな奴よ。……ヒンメルこそ、この人生楽しめた?聞くまでも無いと思うけど」
「うん。そうだね……この人生楽しかったよ」
消え入りそうな声、この後の声を聞けばもう、それが最後の言葉なのだと直感的に察する。
自然と涙が出てくる。
魔族では到底有り得ない、大切な人を弔う哀悼の意を込めた涙だった。
生まれて初めてのその涙は、敢えて私は隠さなかった。
だってそれは、ヒンメルへ捧ぐ涙だったから。
ヒンメルもそれをちゃんと見て、抱き締めて、最後の一言を発した。
「ありがとう……僕の大切な大切な親友……」
次の日、ヒンメルは静かに息を引き取った。
私とアイツとの50年の旅路が、終わった日だった。
今年最後の投稿
ここから先は遂にフリーレンとアウラの邂逅になるのでお見逃し無く!
良いお年を〜