リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結) 作:リーニエたんhshs
「姉御、いますか?」
「ランス?珍しいわねわざわざ家に来るなんて」
「ええ、私のところに姉御宛の手紙が来ていたもので」
「私に手紙?珍しい事もあるもんね。それで?誰から?」
昼行灯、それは私がヒンメルを失ってからの二つ名だった。
正確には自分で名乗ってるものではあるけれど。
生きる理由がヒンメルとの約束以外に見つからず宙ぶらりんな私にはこれくらいの二つ名で丁度いい。
かつての七崩賢や魔族達が見たら見る影も無いと言われるくらい無気力かも知れない、プライドを捨てた私にはどうでも良いが。
しかし突然手紙とはまた不思議な事もあるものだと漠然と感じる。
今いる村以外での知り合いなんてアイゼンと、数年前村に数ヶ月滞在していた旅の少年ソールくらいでどちらも手紙は今の今まで一通も送られてきていなかった。
それなのに唐突に……なんて、どちらかがここに来るから送ったものとしか思えないが……なんだろう、嫌な予感がする、物凄く。
「ええ、それが昔ここに滞在していたソール君からでして。姉御とも仲が良かったので良く覚えていますよ」
「そうね。まああの時は人間として接していたから別段不思議ではなかったけれど……読ませてもらうわ」
「どうぞ」
ランスから手紙を受け取る。
『久しぶり、何年か前にこの村に滞在してたソールだけど覚えてるかな?覚えてなかったら多分泣く。
あ、そういうおちゃらけはさておき本題だけどこの手紙がアウラちゃんのいる村に届いてから1ヶ月後くらいに俺がまた村に遊びに行くからよろしくね!……で終われば良かったんだけどさ。
いやまあなんと言うか、不可抗力というか逃れられない事情でアウラちゃんが魔族って事知っちゃったんだよね。まあそこは別に問題無いんだけどついでにその事フリーレンも知っちゃったみたいで、うん俺には止められなかった。悪ぃ、何とかして暴力沙汰だけは止めるからそれ以外は何とかしてくれ。本当に申し訳ないとは思ってるから何かしらの大きなトラブルにはしない、だから取り敢えず先に謝っておく。本当に済まない』
「……は?」
あまりの情報量の多さに絶句するしか無かった。
まず何をどうしたら私が魔族だという事に辿り着くのか、村総出で完璧に隠していたからバレる要素は0のはずなのに。
次にそれは問題無いってアンタどんな神経してるの?
当時から『分かり合える魔族がいるかどうか気になるから世界中の魔族に会いにいく』なんて人間サイドから見ても魔族サイドから見ても狂人扱い受けそうな事言っていたけれど、本当にそうだとは思わないじゃない。
そして最後が1番問題だけれどなんでフリーレンがここに来る訳?
止められないのは分かるとしても前提としてアイツがソールとなんで一緒にいるのか分からない。
え?なに?私ここで死ぬ訳?止めるって言ってるけど大丈夫なの?
ヒンメルと初めて鉢合わせた時並みの冷や汗が湧き出てくる。
「どうしました、姉御?」
「……フリーレンが来るって書いてあったわ」
「本当ですか」
「はぁ……このまま惰性で生きていくだけだと思ったのにね。一応村の警備隊に、フリーレンが来たら村全体にそれを通達するようにしてちょうだい。私が合図するまでは家から極力出ないようにって」
「姉御……」
「言っておくけれど極力は戦わないわよ。ヒンメルとの約束をたかだか30年くらいで破るなんてしたくないに決まってるじゃない」
ソールがどう言ったとしてもフリーレンを止められる保証は無い。
ともあれば戦闘になるのはおかしくない。
万が一を考えるのならまず優先すべきは大切な村人達の安全を考えるべきだろう、紡いできた思い出を知らなかったのだとしても共に笑い合いヒンメルの生きてきた時代に生きていた村人達が大切にしてきた人間。
柄でも無いが、そうであるなら私からしても大切な人間だった。
傷付けたらヒンメルに合わせる顔が無い。
傷付くのなら私だけで良い。
尤も、ヒンメルとの約束があるから私だってたかが彼が死んで30年で死ぬなんて事したくはないのだけれど。
「それに、私が先に死んだらアンタが急にヨボヨボになってすぐ死んじゃいそうだもの」
「否定はしませんよ。私は姉御を本気で姉のように慕っているんですから。……本当に生きて帰ってきてくださいよ」
「はいはい。全くランスは心配性ねえ」
何より、あの日を唯一知っている弟分にそんな事を言われては。
別れが何よりも辛く悲しい事を知っている私としては、ますます死ねなくなったと内心苦笑いを浮かべるのだった。
「……フリーレンさ、アウラちゃんに会ったらどうするつもりなのさ」
村まではあと1日もあれば着くだろう。
もうフリーレンとアウラちゃんの遭遇は避けられないものとして、流石に戦闘なんて洒落にならない訳だし一応考えは聞いておきたいと話題を振る。
リーニエ、シュタルク、フェルンに関しては空気を読んでか話には割り込まずに聞く体勢になっている。
「分からない。でも会わないといけない。アイツはかつて殺戮を繰り返していたのだから、会って真実を確かめる。処遇はそれからにしたいと思ってる」
「……そうか。確かに人を殺した過去は変えられない。変えられないが……あの子が、『アウラちゃん』が『アウラ』だとしても。あの日見た笑顔も村人と過ごしてる風景も、墓の前で寂しそうに佇む姿も……ニセモノじゃない。それだけは事実だって確信出来る」
「うん。……ソールの事は信じてるからね」
「そりゃどうも」
アウラちゃんの表情はどこからどう見ても自然なものだった。
あの時点でも沢山の魔族を見てきたが、魔族とさえ疑いを持たなかったのだから相当なものだ。
あれがニセモノではない、本物だったと言うのは俺の魔法が証明している、だからニセモノだとは絶対に思わない。
フリーレンにもその熱意と根拠は伝わってくれたようで良かった。
後は対峙して暴れなきゃ良いが……
「ねえ、ソール」
「どうしたリーニエ?」
一応話は付いた……とは思う。
ふぅ、と息をついたところでリーニエが話しかけて来る。
その面持ちはどこか神妙そうだった。
「……そのアウラって魔族、いつも誰かのお墓参りしてたんだよね?」
「直接は聞いてないし、誰の墓かも知らないけどな。毎日通ってはどこか寂しそうな顔で何かその墓に語りかけてたからな、十中八九状況からしてそうだと思う」
「それって、アウラも私から見たソールみたいな人がいた……のかな」
「愛の形が同じとは限らないが、深さは同じくらいでもおかしくは無いな。ただそうだとしたらあんまり聞くのは良くないんだろうな……」
「そっか」
実のところ、聞こうとした事はあった。
勿論それとなくにはなるだろうが、アウラちゃんの表情を見てそれはしない方が良いのだと一瞬で察した。
誰かを深く想って、哀悼しているその顔は……第三者の、部外者の人間が軽々しく踏み入れちゃならない領域。
そう確信するのは必然だった。
だから、あっちに行ったとしても聞く事は無い。
それは全員に釘刺しをしておく、それこそシュタルクとフェルンは問題無いだろうけどまだ人間の感情には数年しか慣れてないリーニエには一応、そしてどう考えてもヒンメルに恋心を抱かれていたのに未だ気が付いてないフリーレンは何を仕出かすか分からないので厳重に言っておく。
それはそれとして、だ。
アウラちゃんが魔族最高峰の存在、七崩賢であるとすれば聞いておかないといけない事がある。
俺の、体験した事の無いはずの記憶……断片的に、ピースの一部のように覚えている、この世界の記憶と七崩賢全員と俺かも知れない誰かが対峙していたあの記憶。
前者はさておき、後者は状況から察すると『南の勇者』と言われた七崩賢を半壊させた超人がそいつら全員を相手取ったという神話みたいな話と合致する。
しかしそれは俺では無い、南の勇者だ。
だとすれば俺は何故その記憶があるのか。
望みは薄い、だが……あの場所にいた『当事者』その話を聞けるなら。
何かキッカケになるかも知れない。
「何にせよ、アウラちゃん相手にその話をこっちから聞くのはNGだからな。OK?」
「分かってるよソール」
「ほんとかなあ」
若干怪しいフリーレンを尻目に、俺は決意を固めるのだった。
次回、地獄確定!