リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結) 作:リーニエたんhshs
「――ヒンメル様の墓をこの村に?」
「……この村には僕の人生の大半お世話になったからね。それに、きっと僕は一月後フリーレンとの約束を果たしに行ったらここには帰って来れない、そう感じるんだ。だから出立までにみんなに挨拶して、お墓参りして、僕の墓を建ててもらいたい。僕がここにいたんだという証明として」
「そうですか……寂しくなりますが分かりました、このランスが責任を持って全員に話を通しましょう」
女神の石碑への冒険から帰ってきて暫く。
ヒンメルは私とランスに『自分の墓をこの村に建ててもらいたい』という意志を話した。
それは自分がここに生きた証明、70数年の内50年を過ごした『第二の故郷』として、大好きなこの地に眠りたいという言葉だった。
「で?その墓には何を埋めるつもり?アンタの身体の一部引きちぎって持って帰ってくるなんて私はしないわよ」
「はは、流石にそんな事アウラにやらせる訳にはいかないよ。だから……ほら、僕の50年を記した自伝とこの僕の魔力を込めたキキョウのブレスレットを魔力を封じておける箱に入れて埋めてもらうのさ。これでもしもフリーレンがここに来ても僕が生きていた証拠として傍にいる代わりに感じ取ってもらえる……まあ、各地に散らばってる銅像の代わりさ。あ、フリーレンが来たら掘り起こして見てもらって良いからね。何せフリーレンに見られて恥ずかしいものなんて何も埋めないから」
「おお、それは良いですな!未来にヒンメル様の魔力を僅かでも感じられる方がいればここに生きた証明としてこれ以上無い!」
「……ま、好きにしなさい。――墓は私が面倒見てあげるわ」
「ありがとう、アウラ。それじゃお言葉に甘えちゃおうかな」
自分がもう長くないと分かっているにも関わらず、アイツの目はどこまでも輝いていた。
まるで、いつかフリーレンがここを訪れる事を予期しているかのように、そしてそれがヒンメルの考え求めている未来に繋がると信じて疑わないように。
――だったら、信じてもらえたんだから壊す訳にはいかないじゃない。
「…………私、タチの悪い冗談は嫌いだって知ってる?」
「お生憎、ランスは嘘が下手くそも下手くそなのよ。これは真実、正真正銘ヒンメルの墓よ」
静かなる威圧感、今のフリーレンを表すのに最も適した言葉だ。
当たり前だ、同じ勇者パーティとして苦楽を歩んだヒンメルの墓なんて言われて信じられるはずが無い。私自身もフリーレンの立場であるなら信じられないと言うはずだ。
「……ざけるな」
「何か言ったかしら」
「ふざけるな、と言っているんだ。魔族が気安くヒンメルの名前を口にする事がどういう意味か」
「分かってるわよ」
「……は?」
だからこそ、真っ向から断じる。
『少なくとも今は、魔族ではなくヒトとして』何一つ誤魔化さず、嘘を言わず、正面からの言葉で理解させる。
自分はヒトだと思った事はただの一度も無い、長年魔族として過ごしてきた己は変えられない。これはただ、理解し適応したに過ぎないと今でも思っている。
それでも、今だけは……ヒンメルの瞳の先に見た未来を信じるのであれば、自分をヒトだと信じたい。
「アンタにとっては冒涜に他ならない、そうでしょう?」
「分かっていながら言ったって事は、死んだとしても文句は言えない。理解してる?」
「あら、アンタこそ理解してる訳?ここで戦うって事はヒンメルが愛した土地が戦場に変わるって事になるのよ」
「じゃあ大人しく死んでほしいんだけど」
「嫌よ。それにヒンメルはそれを望まないわ」
「お前如きがヒンメルの何を理解している?私は10年間ヒンメルの隣で冒険し、理解してきた。何年過ごしたか知らないけど、ヒンメルを一番に理解しているのは私だよ。お前がヒンメルを理解出来るはずがない」
……全く、コイツは自分の気持ちさえ理解出来てない。
他の4人やランスも同じ事を思っているだろうけれど、今鏡があれば見せてやりたいものね。
今のアンタの顔、惚れた男の為に必死になってる女の顔だってね。
嫌ね、両想いなのにフリーレンはヒンメルの気持ちも自分の気持ちも理解出来てないなんて。
50年惚気を聞かされた身にもなってもらいたいわよ。
「……ランス」
「ええ、ヒンメル様からの言伝でもありましたから。フリーレン様にお見せしましょう」
「何をするつもり?」
「ヒンメルがこの墓に埋めたものを見せてあげるわ。ヒンメルからも『フリーレンがここを訪れたら是非とも見せてあげてほしい』なんて言われているもの。ランス、あとソール達も。少しどいてなさい」
一旦全て飲み込んでストレートに理解させる為に、魔法で土を浮かせ箱を取り出す――この箱を見るのはアイツの墓を建てた時以来か。
少しだけ懐かしく思いながら箱を抱える。
「……それは?」
「ヒンメルの日記と、魔力が封じ込められた箱よ。尤も、私達としてもこれに物を入れるところは見ていたけど開けるのは初めてなのだけど」
ヒンメルらしい、少し見栄っ張りのようにも見える豪華な箱。
じっくりと眺めるのも良いけれど、今はそんな時間は無い。
手早く開ける。
「……ん?」
確かにそこには、ヒンメルの日記とキキョウのブレスレットはあった……当時のままの状態で。
それは良い……が、少しだけ中身が増えていた。
……まあ、今はそれは一旦さておいて。
「アウラちゃん?どうかしたの?」
「いえ、聞かされていた中身より少しだけ多く物が入っていたから。ま、これくらい誤差だから良いわ。それより……どうなのよ、フリーレン。そのブレスレットに日記、アンタなら分かるんじゃないの?……ヒンメルの物だって」
「……ありえない。ヒンメルの文字、ヒンメルの魔力……間違いない。私が間違えるはずがない。でもそれを信じられる訳がないよ、一体どんなカラクリを……」
ぶつぶつと1人で呟きながらブレスレットと日記を隈無く調べていくフリーレン、でもそれには何の意味も無い。何せカラクリも誤魔化しもそこには無いのだから。
そしてそれはフリーレン自身、既に気付いてるはずだから。
「言ったでしょ、アンタなら分かるって。カラクリも誤魔化しも無い事くらい、とっくの昔に気が付いてる……違う?」
「……」
「まあ、私だって最初はヒンメルに会いたくて会った訳じゃないわよ。何ならこの村を襲おうとした」
事実を未だに受け入れられそうにないコイツに、私は語る。
それは昔話、ここで暮らす事になった理由。
少しでも納得の行く背景を増やす為に、敢えて追い討ちを掛けた。
「この村の近くでヒンメルにばったり会ってね。アゼリューゼで服従させようと思ったら逆に服従させられたのよ、驚いたし意味が分からなかったけれど今ならまあ……何かしらの、天秤すら歪めるハッタリで逆転したんだと思ってるわ」
今でこそ、あの日何故私が負けたかは何となく分かる。
物理的に人間が数百年を生きた私の魔力を超えるなんて不可能な訳だし、ヒンメルならやりかねないという謎の説得力があった。
思い返すだけで呆れるくらい笑えてくる。
「それでアイツ、なんて言ったと思う?」
「『今日から君は僕の友達だ』って。呆れたわよ、そのせいで私はすっかり……人間に馴染んでしまったんだもの」
「あーあ、ありゃ完敗だろどう見ても」
「お、オイオイ流石に言い過ぎなんじゃ……」
「確かに信じたくないのは分かる、フリーレンの過去を嫌という程聞かされてきたからな。だからと言って目の前に本物お出しされたのなら勝ち目無いじゃん……」
何も言えなくなっているフリーレンを横目に、ソールがため息混じりにそう言っているのが聞こえてきた。
まあ、こういうものは勝ち負けでは無いとは思うけど。
ただ――
「……ヒンメルとは何年過ごしたの?」
「この横にいるしわくちゃのエロガキが10歳くらいの頃からヒンメルが死ぬ直前までよ。ザッと50年かしら」
「オッ」
「あ、フリーレンが思考停止した」
聞かれた以上は答えるけど。
自爆したのはあっちなんだから私は悪くない。
「懐かしいですな、この村に来て1年が経つ頃には既にお似合いでしたからな」
「お、おにあっ……!?」
「バカ言うんじゃないわよ、アイツは来る日も来る日もフリーレンの話ばっかだったじゃない。50年間聞かされ続けた身にもなりなさい」
「熟年夫婦かよ」
「アウラの方がフリーレン様より人間の感情理解してるなんて思いませんでした……」
遂にソールじゃない他2人の人間からもそんな声が聞こえてくる。
……フリーレン、アンタ一体どれだけ鈍感だったのよ。
「アウラ」
そして恐らく魔族の子、まだ私よりずっと年下だろうその子が私をジッと見つめてくる。
その目は、どこか探究心に溢れているようで。
「何かしら」
「嫉妬?」
「……さてね」
「おおーん!おおーん!」
最早泣き出して収拾の付かなくなった1000歳児を後目に、目を逸らすのだった。
「そう言えば姉御、箱を戻す前にこれを」
「あら、何かしら」
「箱の中に入っていた、もう一つの物です」
「これは……キキョウのブレスレットと……括り付けられた手紙?」
『こっちは君の分だよ、アウラ』
「………………全く、とんだキザ野郎なんだから」
※但しフリーレンのダメージは考慮しないものとする