リーニエ「私が人間に絆される訳が無い……多分」(本編完結) 作:リーニエたんhshs
……俺は、俺という存在はこの世界を知っている。
いや、正確に言えば『この記憶に刻みついた映像で、少しだけ垣間見た』のが正解だ。
これは俺が5つか6つか、生まれつき親のいない捨て子だった俺がたまたま村に来たフリーレンを見た瞬間に何かにまるで鍵穴を開けられるように、それがトリガーであったかのようになだれ込んで来た。
俺が何故か持っている『知らない記憶』は『ニホン』という謎の島国の記憶だった。
魔法が発達していない代わりに他の良く分からない技術が発達していて、この世界なんかよりよっぽど平和で快適に暮らせていたらしい事がその記憶の中の映像から分かった。
そしてそこで見た記憶の1つに、この世界を何かしらで映像化していたのだろうか……それを見た記憶があった。
『葬送のフリーレン』あの世界でこの世界はそう呼ばれていた。
だがその記憶は断片的にしか無かった。
リーニエの記憶はそこには無かったから、この世界で今後リーニエがどうなるのかなんて言うものなんて分かりもしないが。
「結局、何処の誰の記憶か分からないままだが……唯一『コメ』と『魔族』を知れたのはラッキーだったな」
記憶を辿った結果知れたのは、『コメ』がこの世界の極東でしか主食として食されてない『ライス』と同一でありめちゃくちゃ美味い事と、魔族の性質の事だった。
魔族は、例外無く人間を欺き殺す残忍なイキモノ。
しかし果たしてそうなのか、断片的に語られていた事で決め付けて良いのか。
俺はその日、フリーレンと旅に出たいという決心をした。
「私と旅をしたい?まだガキンチョもガキンチョなのに?」
「世界を見てみたいんだ!そして探したいものがあるんだ!」
「ふーん。でも君親とかいるんじゃないの?」
「いないよ。俺は捨て子ってやつだったんだって。だからこの村でもあんまりみんな俺の事は好きじゃなくてさ。出ていっても誰もきっと気にしない。そういう人間みたいなんだ、俺」
「……はぁ、なんでこうなるのかな。仕方ないなぁ」
あの日のフリーレンはまるで何かを思い出すように俺の顔を見たかと思うと、言葉を聞いて諦めるように息を付いた。
それが、旅の始まりだった。
「君、名前は?」
「無いよ。あの村でも『人を見殺すのは世間体が良くないから』『魔族が来たら差し出せば見逃してもらえるかも』そういう理由で置かれてただけだったから」
「……つくづくそういう人間っているもんなんだね。ま、名前が無いのも主に私が面倒だし考えとくよ」
フリーレンと旅をしたのは7年くらいだっただろうか、俺が12歳くらいになるまでずっと旅をしていた。
その過程で名前を貰った、俺に名前をくれたのはフリーレンだった、遠い国の言葉で『運命』を意味する名前だと、教わった。
だから実質、俺の親みたいなもんだ。
料理や基本的な戦闘を教えてくれたのも彼女だったし、彼女はエルフらしく表情や感情に乏しかったとはいえ人恋しくなった夜には膝枕をしてくれたり、勇者ヒンメル達との旅の話をしてくれたり。
そんなある日に彼女は聞いてきた。
「ねえ、ソール」
「ん、どうしたのフリーレン」
「君さ、私に着いてくる時に『探したいものがある』そう言ってたじゃん?それってなに?」
「懐かしい、言ってたね。……それはね、人間と仲良くしてくれる魔族がいるかどうかって事なんだ」
「……」
彼女が魔族をとことん嫌いなのは知っていた。
記憶の中の映像だけでは無い、旅をしている時にも何度も何度も、彼女は魔族を斬り捨てて来た。
いつもは無感情そうな彼女が、瞳に僅かな憎悪を抱かせて。
それだから話そうかどうか迷ったが、俺の夢だったから。
だから、話した。
「勿論、フリーレンと旅をしてきて魔族がどんな存在なのかは改めて知ったつもりだ。でも、それでも俺は探したい。たとえいないんだとしても、俺の人生の命題にしたいと思った」
「そ。まあ、夢自体は否定しない。ソールは聡明な子だからね。でも……魔族は簡単に人間の足元を掬ってくる、簡単に騙されて殺される。……流れでとはいえ、ソールの名付け親に、親代わりになった私は許したくはないよね」
その日は珍しく彼女が感情を分かりやすく出してきた日だった。
彼女が俺を子どものように接してくれるのは非常に嬉しかったし、改めて実感出来たのも嬉しかった。
が、やっぱり価値観が相容れられないのだと分かるのは寂しかった。
きっとこのままフリーレンと旅をしても答えは見つからない、この日を境に俺はそう結論付けいつか1人で答えを探す旅に出ようと決心した。
あの廃村に着いたのはいつだっただろうか。
フリーレンと親子喧嘩を繰り返しながら何とか認めてもらい、始めた旅の途中手入れのされてない廃村を見つけた。
俺の得物である巨大なハンマーの鍛錬の場とするには最適だ、少しの間滞在して行こう……そう思ったのが今から5年前だった。
そう、本来俺はあの村には少しだけ滞在してまた別の場所へと向かう予定があった。
そうして世界中を巡り目的を探す、この俺の目で本当に魔族は人間とどうあっても相容れられないのかを確かめようとする旅を。
その過程で魔法も会得した、真偽を見抜く為の高度な魔法。
それは俺と相性が良かったのか今では驚くくらい精巧に扱えるまでになっていた。
閑話休題。
ある日、俺は山道で迷ってしまった。
麓にある村に住んでいるのだから仕方ないのだが、滞在して日が浅いのに知らない山に入ったのが間違いだった。
しかもそこでばったり出会したのは魔族の一団。
これまで何人もの魔族に会ってきたが全員ダメだった、その度に殺しては多少の罪悪感に苛まれる。
今回もそうなのかと思っていた。
――だが違っていた。
1人殿として取り残された女の子の魔族は、人間を食らった事も無く、人間を襲ったのもこれが初めてだったと話した。
そしてその言葉に嘘が無いのは、自慢の魔法が証明していた。
その子は廃村の近くにある街に住んでいるらしく、次の日も会いに来てくれた。
そして次の日も、次の日も、また次の日も……
そうして何年かが過ぎ去った。
「……俺は、リーニエに恋をしている?」
ふと、気付いた。
リーニエと過ごしている時間は、俺の夢の事もついつい忘れてしまう程に幸せだと言う事に。
小さな、可愛い、俺の友達の悩みを聞いて、それを助けられない事に深く落ち込んだり。
共に釣りをして、料理をしたり。
徐々に徐々に、彼女が人間を理解していく度にどうしようもなく嬉しい気持ちになったり。
なんでもないのに。胸が、高鳴ったり。
魔族かどうかなんて最早全くもって蚊帳の外だった。
「いつからだ……分からない」
最初は間違いなく友人として接していたはずだった。
そりゃあ、容姿は良いし小さくて可愛い女の子だからデレデレもしたが、恋心とまでは行かなかったはずだ。
「分からない……けれど、分かっている事もある」
俺はやはりどうしようもなく、彼女を、リーニエを、助けたい。
3年前のあの日打ち明けられた悩みを聞いてからずっとそう思っている。
本当の意味で彼女を自由にしてあげたいのだと、確信している。
「あと、あわよくばプロポーズしてそのまま幸せに生きてみたい……リーニエと幸せになりたい……あの子を俺の手で幸せにしたい……」
言ってて顔が熱くなるような、歯の浮くようなキザったい事もついでに考えていたが。
仕方がない、だって男の子だもの。
「……考え事?」
「うわぁリーニエ!?いつからそこに!?」
「さっき来た。話し掛けても返事が無いからてっきり調子でも悪いのかと……?」
突然リーニエが話しかけて来るもんだから危うくひっくり返りかけた、来てるなら言ってほしかったと言いたかったがどうやら聞こえてなかったのは俺だったらしい。
とはいえ不意打ちはおやめください。
「調子は悪くないよ。ちょっと考え事、かな?」
「そう。それなら良い。それより今日は、花のブーケを作ってくれるんだよね」
「おう、そうそう!んじゃ早速行くか!」
「ん」
まあ、そんな事吹き飛ぶくらいやっぱり俺はリーニエの事が大好きなんだろうなあと感じてしまっていたけれど。
あと花のブーケを被ったリーニエが可愛すぎて危うく勢いでプロポーズしかけた。
仕方ないじゃない、だって男の子だもの。