超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡 作:山田センチュリー
電車に揺られながらダンジョンに向かう。
銀髪は目立つので今日は避暑に来たお嬢様のごとくつば広の帽子をかぶったいで立ちだ。大げさだとは思うが、バズッたからにはこういう措置も必要というのは月音の弁。
まあこれなら人目につくことはないと――
「おい、あの子……」
「ああ。とんでもなく可愛いな。外国の子か?」
「えげつない注目のされ方だぞ。車内のほとんど全員が可愛すぎて目を奪われてる」
何だ……? 視線を感じるぞ……?
いや気のせいだ。きっと気のせいだ。……だが怖くて視線を動かせない。こういう時はスマホで質問ボックスに集められた情報の確認でもするとしよう。
質問ボックスに集められた情報は、生身を元に戻すアイテムについての噂話が三割、配信についてのコメントが三割、残りは変態からの怪文書かアンチコメントという感じだ。俺のリスナー、変態多くないか? どうして幼女にしか見えない今の俺に結婚の申し込みが何十件も届くんだ。
「……ん?」
TwisterのDМ欄に新たなメッセージが届く。ふと確認してみると、そこには。
あかね『私は君の友人とやらの体を戻す方法を知っている』
おおっ、情報提供のDМだ。
何か有力な情報を持ってる人が連絡をくれたのか?
あかね『だが、その前に一つ重要な話がある』
あかね『可能なら二人きりで直接会って話がしたい』
あかね『メッセージの既読表示は確認した。今日の正午までに返事をもらいたい』
あかね『賢明な判断を期待する』
……えっと。
アカウントを確認すると、呟きが一つもない明らかな捨てアカウントだった。
登録日は今日。
おそらく俺にDМするためだけに用意したものだろう。
俺はそっとTwisterを閉じた。
先日の配信以降、情報をエサに俺と直接会おうとする連絡が多いんだよなあ……
名前からして女性っぽいが、Twisterの登録名なんて何の参考にもならない。さすがに正体不明の相手と二人きりで会うのは怖い。
そもそも情報持ってるって話も証拠がないしな。
悪いが無視させてもらおう。
そうこうしているうちに、目的地の新宿に着いた。
▽
薄氷シリーズの所有者指定加工が終わったのは、俺が道化インプを倒した二日後、つまり今日の午前中だった。俺は神保町の協会支部でユニーク装備を受け取り、その後別のダンジョンがある新宿へとやってきた。
目的はユニーク装備の試運転だ。
さすがにぶっつけ配信で使う度胸はなかったからな。
また、神保町ダンジョンの魔物相手ではあまり戦闘も盛り上がらないだろうからということで、次からの配信は一つ上のEランク――新宿ダンジョンで行う予定だ。どうせ試運転するなら下見も兼ねて、というわけである。
新宿駅を出てダンジョンのある探索者協会の支部に向かう。
外観は神保町支部と変わらないな。
地下一階に降り、数分の順番待ちを経てダンジョンゲートに触れる。
ぐにゃりと視界が歪み、視界が戻ると――そこには一面の緑が待っていた。
「おお……神保町ダンジョンと全然違う」
俺は思わず呟いた。
攻略難易度Eランク、新宿ダンジョン。
その特徴を一言で表すなら“森”だ。初期位置には草原が広がっているが、前方には鬱蒼とした森が見える。
「今までずっと洞窟にこもってたから新鮮だなー」
月音いわく、ダンジョンというのはいくつも種類があるらしい。
代表的なのは神保町のような地下迷宮タイプだが、平地や山のようなものもある。地下迷宮タイプ以外は“階層”がない代わり、進むと透明な“壁”があり、それを超えると出現モンスターの強さや地形の特徴が変化したりするそうだ。ちなみに言い方は○○層、ではなく○○エリア、という感じらしい。
今俺がいるのは“草原エリア”、前方に見えている森は“森林エリア”といったところだろうか。
まあ、地形がどうであれ俺のやることは変わらない。
俺は自分の魔力体を見下ろした。
身に着けているのは薄氷シリーズの三点セット。神保町支部の更衣室で着替えを済ませてから新宿に来たため、ダンジョンに入った瞬間にはもうこの格好だった。布地は多いわりに露出がそれなりにあるため、いろいろと頼りない。
あと、周囲の視線が集まっているのがわかる……目立つよなあ、これ……
俺は首をぶんぶんと横に振った。人の視線なんて気にしている場合か。俺にはダンジョン配信を頑張って視聴者を増やし、TS解除のアイテムを手に入れるだけの資金確保をするという目標があるのだ。
立ち止まっている暇なんてない!
とりあえず隅っこのほうで色々試そう。幸い草原エリアはけっこうな広さがあることだし、端にいればそうそう目立たないはず。
『ピキュー!』
うお、茂みからなんか出てきた!
一抱えくらいの、ぶよぶよした塊みたいなモンスターだ。頭頂部には葉っぱを生やしている。
「“リーフスライム”か!」
新宿ダンジョンに出現するモンスターは事前調査済みだ。このリーフスライムは、新宿ダンジョンにおいて最弱。神保町ダンジョンで言うゴブリン的な立ち位置のモンスターらしい。試運転の相手には丁度いい!
「――光の空、闇の湖底。隔つるはただ一枚の薄氷(うすらい)のみ。しかしてただ前だけを見て!」
<薄氷のドレス>の効果を発動させる呪文を唱える。すると俺の全身が薄青い光に包まれた。今の俺は耐久が1になるという絶大なデメリットを受ける代わりに、魔力が十倍となっている。
「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むはひとかけらの氷のつぶて」
一番慣れた呪文を唱える。今までとは比較にならない魔力が俺の手に集まり、ゴゴゴゴゴ……と地響きが聞こえるほどだ。
『ピ……ピキュ……?』
あまりに膨大な魔力にリーフスライムが固まっている。その姿は「え? 撃たないよね? それ、俺みたいな下っ端に対して撃ったりしないよね……?」と言っているかのようだ。申し訳ない気持ちがなくもないが、運が悪かったと思ってあきらめてほしい。
「【アイスショット】――――!」
『ビギュァアアアアアアアアアアアア!?!?』
巨大な氷の塊が射出された。大きすぎてもはや俺の視界がそれで埋まったほどだ。隕石かと思うほどの勢いですっ飛んでいった氷の弾丸はリーフスライムを当然のようにすり潰し、ズガゴゴゴゴゴゴゴォッッ!! と地面に広い溝を掘りながら数十メートル先で止まった。
<新しいスキルを獲得しました>
脳内に声が響く。どうやら今の戦闘で新しいスキルを手に入れたらしい。
それは嬉しいんだが……うん……
「…………ぜ、絶対にここまでの火力はいらない……!」
強すぎて使いづれーよ。これ仮に味方がいたら百パーセント巻き込んで魔物もろとも吹っ飛ぶぞ。
▽
――――――
白川雪姫
▶レベル:26
▶クラス:魔術師(氷)
▶ステータス
力:11
耐久:28
敏捷:28
魔力:308
▶魔術
【アイスショット】:氷属性。氷の弾丸を飛ばす。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むはひとかけらの氷のつぶて」
【フロスト】:氷属性。冷気によって範囲内の相手の敏捷を下げる。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは冷ややかなる霜の吐息」
【アイスヴェール】:氷属性。冷気の衣で対象の氷耐性を上昇させる。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。彼の者から凍てつく夜気を遠ざけよ」
【アイスアロー】:氷属性。氷の矢を高速で飛ばす。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは疾く駆ける氷の矢」
【アイスゴーレム・ヘッド】:氷属性。氷でできたゴーレムの頭部を召喚する。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは氷の巨兵、しかしいまだ未熟の身なれば、その首のみを我がしもべとす」
▶スキル
【オーバーブースト】:三十秒間全能力値を倍にする。一日一回のみ。
【クラス補正倍化】:レベルアップ時のクラス補正を倍にする。
【一撃必殺】:耐久が自分の十倍以上の相手と戦う時、まれに魔力が十倍になる。
【氷の視線】:目を合わせた相手を確率で“拘束”状態にし、氷耐性を弱める。
【氷結好き】:氷属性の魔術を少し強める。氷属性以外の魔術を使うとスキル消失。
【魔術好き】:魔力を少し強める。魔術以外で敵にダメージを与えるとスキル消失。
【冷酷非道】:拘束状態にある敵へのダメージを増加させる。
【孤軍奮闘】:群れと戦闘を行う際に範囲攻撃の威力上昇。
【インプスレイヤー】:インプ系の敵と戦う時に能力値高上昇、さらに敵の能力値減少。
【戦闘狂】:ダンジョンにいる間、精神力が少しずつ回復する。
New!【加虐趣味】:一撃で倒したことのあるモンスターと戦う際に攻撃力上昇。
――――――
「……いや、【加虐趣味】て」
リーフスライムとの戦闘後、自分のステータスを確認して俺は呟いた。
【冷酷非道】といい、ちょくちょく不穏なスキルが増えているのが気になる。とりあえず俺に変な性癖はないということは言っておきたい。
道化インプ戦によって俺のレベルは一気に上がった。
伴って、いくつかスキルや魔術も増えている。協会に報告するために一度確認してしまったので“New!”表記は消えているが、魔術は【アイスゴーレム・ヘッド】、スキルは【インプスレイヤー】と【戦闘狂】がそれだ。逆に【インプキラー】はなくなった。協会の職員いわく、【インプスレイヤー】に進化した、ということらしい。
……どうでもいいが、スキルも魔術も短期間に増え過ぎじゃないか?
スキルはともかく、詠唱も覚えなきゃいけない魔術はそうポンポン増えても困る。贅沢な悩みかもしれないが、わりと切実である。咄嗟に出てくるかはかなり怪しいぞ。
「まあ、慣れるしかないんだろうけど」
とりあえずは薄氷シリーズのほうが優先度高いだろうな。
切り札になり得るものだし、配信的にもユニーク装備を使っての戦闘は必須だ。配信でグダらないためにも使いこなせるようになっておかないと。
『ピキュ!』
『ピキュ!』
『ピキュ!』
おお、新たな生贄がやってきた。
さっき仲間がやられたのは見ていなかったのか、それとも人間を見かけたら襲う習性があるのか。まあどっちでもいい。
<薄氷のドレス>の効果は魔力体再構築――要するにダンジョン内で死ぬかダンジョンから出るまでは持続する。今も絶賛発動中だ。とりあえずこのまま魔術は全部試しておこうかな。
リーフスライムを片っ端から狩っていく。
「お、ドロップアイテムだ」
リーフスライムが力尽きた場所に、一枚の葉っぱが落ちていた。装備品ではないので素材アイテムだろう。新宿ダンジョンのモンスターは素材アイテムを落としやすいという特徴があると聞いてたが、本当みたいだ。
素材アイテムはこのまま売ってもいいが、別の使い道もある。
せっかくだからダンジョンを出たらそっちも試してみよう。
『キュゥウウー!』
「ウサギ型モンスター……“アルミラージ”か!」
そんなことを考えていたら、新たなモンスターがこっちに向かってきた。猪ほどもある角の生えたウサギ型モンスター、アルミラージだ。
『キュウ!』
「うわっと!」
勢いよく突進してきたアルミラージの角を、横っ飛びしてなんとかかわす。
動きが速いな。俺が苦手なタイプの相手だ。普段なら【氷の視線】の出番だが、せっかくだから<薄氷のドレス>以外のユニーク装備も試すとしよう。
「【滑走】!」
<薄氷のピンヒールドレス>の効果発動。再度突っ込んできたアルミラージを、氷の上を滑るような動きでかわす。
おお……本当にスケートしているみたいだ。普通に走るより明らかに速い!
『キュウ!?』
独特な動きに翻弄されるアルミラージ。チャンスだ。俺は<初心の杖>を構えた。
「【アイスショッ――」
あ。
魔術に意識を向けた結果、足元がおろそかになった俺は一瞬でバランスを崩した。地面がすごい勢いで近付いてきて、思いっきり俺は転び、
ぐにゃり。
「あれ?」
気付けば俺はダンジョンの外にいた。ダンジョンゲートを挟んで、順番待ちの列の反対側。つまりダンジョンから出てくる時の位置である。
「し、死んだのか……? 今ので……!?」
どうやら俺は【滑走】の制御に失敗して転んだ結果、その衝撃で魔力体を崩壊させたらしい。普段ならそうはならなかっただろうが、<薄氷のドレス>使用中は魔力体の耐久が1になる。そのせいだろう。
ダンジョン探索者になってから初の死亡。
死因、滑って転倒。
か、かっこ悪っ! 絶対月音に馬鹿にされる! とりあえず配信で【滑走】を使うのはやめておこう……!
……ネタになりそう、なんて一瞬考えてしまった俺は、もしかしてかなり配信者に染まっているのかもしれない。
高速スケート+敵の動きを確認+杖を構える+発声は普通に難易度高そう。
なお森に行くとここに加えて障害物を避ける、というタスクまで発生する模様。