超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡   作:山田センチュリー

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新宿ダンジョン攻略配信

 収益化記念配信の翌日、俺は自室でのんびり過ごしていた。

 

 例のストーカー……“あかね”からは昨日の正午に俺から返信するよう要求されていた。当然俺は無視したわけだが、するとこんなDМが来た。

 

 

あかね『ふむ』

 

あかね『どうやらこのやり方では君と接触することは不可能のようだ』

 

あかね『状況を考えれば仕方のないことだろうが……こちらもあまり時間がない。最終手段を取らせてもらう』

 

あかね『悪く思わないでくれ』

 

 

 ……怖すぎるって。最終手段って一体何をするつもりなんだよ。DМが届いてすぐ警察に連絡したところ、数日の間私服警察が俺の家の周辺を見回ってくれることになった。とはいえ念には念を入れてと、今日一日俺は自宅で待機することにしているのだ。

 

 やるべきことは色々あるが、身の安全が一番大事だ。とりあえずろくにやってない夏休みの宿題でも進めておこう。

 

 そんなわけでしばらく数学の問題集に立ち向かっていると――スマホが振動した。

 リーテルシア様からのメッセージだ。

 

 

リーテルシア『ユキヒメ。いくつか聞きたいことがあるのですが、少し時間をいただけますか?』

 

白川雪人『いいですよ。通話かけますね』

 

 

 リーテルシア様からOKのスタンプが飛んできたので同じアプリの通話開始アイコンをタップする。さて、話とは何だろうか。数秒で通話がつながる。

 

「もしもし、聞こえますか?」

 

『ええ、聞こえます。わざわざすみません』

 

 リーテルシア様の鈴を転がすような声が聞こえてくる。

 

「いえいえ。それで、聞きたいことって?」

 

『そうですね……まず、ユキヒメの通話アプリの登録名がおかしい気がします。これはユキヒメたちの言葉で“ユキト”や“ユキヒト”と読むのではありませんか?』

 

「本当に日本語をマスターしてますねリーテルシア様……」

 

 知能が高いとかいうレベルじゃない。

 リーテルシア様の疑問はもっともだ。普段使いのメッセージアプリの俺の登録名は本名のままにしている。高校の友人ともつながっているアカウントの名前をいきなり“雪姫”に変えるわけにもいかないからな。通話機能もあって一番スタンダードなアプリがこれだから、リーテルシア様ともこれで連絡を取っていたわけだが……どうするかな。

 

 質問に答えるのは簡単だ。俺がTSしていることを明かせばいい。だが、明かしていいのか? この点だが、リーテルシア様相手なら別に構わないような気がする。

 

 むしろ今後協力関係を続ける上で隠し事をしているほうがマイナスかもしれない。後でバレるよりは、さっさと伝えてしまった方がいいのでは?

 

 そのままメッセージアプリで月音に相談したところ、俺とほとんど同じ考えであることがわかった。人間相手ならともかく、妖精であるリーテルシア様なら問題ないのでは、と。

 

 ……よし。

 言ってしまおう。

 月音以外では初めてのカミングアウトだ。

 

「リーテルシア様。実は私……いえ、俺は男なんです。マジックアイテムのせいで性別が変わってしまったんです」

 

『……男?』

 

「はい。実は――」

 

 リーテルシア様に事情を説明する。

 

『なるほど。そういうことですか。実はフェアリーガーデンで見た時、魂の状態に少し違和感を覚えたのです。他の人間と違って少しぼやけて見えるような……あれは性別の変化が影響していたということなんでしょうね』

 

 話を聞き終えたリーテルシア様は、あっさりとそう言った。

 

「驚かないんですか?」

 

『世界にはさまざまな種族がいます。そういうこともあるでしょう』

 

「性別が変わる生き物なんて、俺はあまり聞いたことありませんが……」

 

 なんか海に暮らす生き物の一部がそんな特性を持っていると聞いたことがあるようなないような。

 

『ユキヒメの振る舞いがああまで可愛らしくなければ、その場で気付けたと思うのですが』

 

「あはは、冗談きついですよリーテルシア様。俺は外見はともかく仕草まで女の子らしくはないはずです。きっと俺の外見に惑わされてそう思っただけで」

 

『まあ、ユキヒメがそう言うならそういうことにしておきましょう』

 

 心なしか大人な対応で流された気がしなくもない。

 この話題を深掘りするのは俺の精神衛生上よくない。話を戻そう。

 

「明かすのが遅くなってすみません。TS――性別が変わっていることを他の人間に知られたくないので、隠していたんです」

 

『知られるとまずいのですか?』

 

「目立ちたくないんです。ダンジョン関連のことはかなり注目度が高いので……稀少な情報を握っているというだけで、大きな騒ぎになってしまいます」

 

 TSが自在にできるようになったらどうなるか。悪用の方法なんていくつもある。男だけど合法的に女湯に入りたい! なんて次元なら可愛い方で、外見を完璧に変えられるということはそれまでの人生をリセットすることも可能だ。

 

 具体的には重犯罪者が過去を清算するとか。その場合、俺は裏社会の人間から狙われることもあり得る。

 

『人間は大変なのですね』

 

「はい……」

 

『わかりました。少なくとも私から人間にユキヒメの事情を明かすことはありません。安心してください。どのみち、ユキヒメ以外の人間と関わるつもりはありませんし』

 

「ありがとうございます」

 

 お礼を告げる俺。とりあえず、不毛な隠し事をしてリーテルシア様の信頼を損ねる事態は回避できたと思っていいだろう。

 

「聞きたいこと、というのはそれだけですか?」

 

『いえ、こちらが本題です。――ユキヒメ、あなたには仲間はいないのですか?』

 

「仲間というのは……パーティのことですか?」

 

『人間はそう呼んでいるようですね。迷宮を探索する際に人間が作る小さな群れのことです。あれは迷宮の中で活動するには合理的だと思います』

 

「俺にはパーティはいません。TS――性転換のことを知られたくないので、よっぽど信用できる相手じゃないととても組めないんです」

 

『ツキネは駄目なのですか?』

 

「無理です。月音は魔力体が作れない……ええと、ダンジョンに入れない体質ですから」

 

『他に仲間のあてはありませんか?』

 

「思いつかないですね……」

 

 そもそも魔力体を作れる人間はクラスに一人か二人いる程度。男子ならともかく女子はダンジョン探索を怖がる人も多い。信用できる適性持ちを見つけるのは至難の業だ。

 

 え? 山倉? あいつはモンスター以上に危険だから却下。

 

『私は子どもたちの目を通して、迷宮探索を行う人間を何人も見てきました。そのうえで言いますが、ユキヒメは本来、一人で戦うべき人間ではないはずです。誰かに魔物から守ってもらい、魔術を唱えることに集中する。それが正しいのではありませんか?』

 

「……それは、その通りです」

 

 ソロ魔術師、という肩書は注目度を集めるうえではプラスだ。だが、これがいつまで通用するかは怪しい。何しろ魔術師は攻撃するまでに詠唱というタイムラグがある。<初心の杖>や【氷の視線】で誤魔化しているが、いつかダンジョン攻略に行き詰まる時が来るだろう。

 

 俺がただ趣味で探索をしているならそれでもいい。縛りプレイも楽しみ方の一つだ。

 

 しかし今の俺はそうじゃない。

 

「俺一人ではフィリア様には勝てませんか?」

 

『そう思います。少なくとも、フィリアの魂が無事に回収できる期限までには』

 

 フィリア様の強さは知らないが、リーテルシア様の妹というだけで普通の相手じゃないと確信できる。Sランクダンジョンのガーディアンボス並と言われても驚かない。

 

 リーテルシア様と協力関係を結んだ以上、フィリア様の件もきっちりこなしたい。それには仲間が必要だ。少なくとも前衛――俺が魔術の詠唱を行う時間稼ぎを担ってくれる存在が。

 

『すみません、ユキヒメを責めたいわけではないのです。ただ……』

 

「わかってます。フィリア様が心配なんですよね」

 

『……はい』

 

 ダンジョン配信者の中には、視聴者参加型配信と銘打って、探索者をやっている視聴者と一緒にダンジョン攻略をする人もいるらしい。ダンジョン配信者の視聴者にはちょくちょく猛者が隠れているらしく、彼らに頼ってキーボスやガーディアンボスを倒す(“キャリー”というらしい)ちゃっかり者の配信者もいるとかいないとか。

 

 けどこれ、俺にとっては“見ず知らずの他人とパーティを組む”ってことなんだよなぁ……それができたら苦労しないという話だ。

 

『ユキヒメ。一つ案が――』

 

 リーテルシア様が遠慮がちに口を開く。

 

「案、ですか?」

 

『……』

 

「リーテルシア様?」

 

『……いえ、何でもありません。それよりユキヒメが欲しい薬草について教えてもらえますか? 子どもたちに採取をさせておきます』

 

「え、あ、はい。ありがとうございます」

 

 何だ? 今何か話題を逸らされたような。気にはなるが、薬草――ポーション作りに必要な素材アイテムも重要だ。俺は事前に作っておいた画像付きの素材アイテムリストをリーテルシア様とのトークルームに送信した。

 

『では、集まり次第連絡しますから、取りに来てください』

 

「わかりました」

 

『それでは、これで』

 

 通話終了。

 

「……リーテルシア様の言いかけた案って何だったんだろうな」

 

 仲間が足りないなら私が行きます、とか? いや、リーテルシア様はフェアリーガーデンから出られないって話だったはず。

 

 仲間を増やす、か。

 それも俺の正体を知っても問題なくて、前衛を努められて、できれば配信で炎上しないように女性……

 

 そんな都合のいい人、本当にいるんだろうか。

 

 

 

 

『……これでよかったのでしょう』

 

 フェアリーガーデンに小さな呟きが落ちる。

 

 四阿(あずまや)で椅子に腰かけるリーテルシアは、スリープ状態にしたスマホをテーブルに置いた。ちなみにスマホを覆うカバーは雪人のものからアレンジされており、リーテルシアの好みに合わせて花柄のものになっている。魔力でイメージ通りに物質を作り出せるリーテルシアにとってはスマホのカバーを変えることなど簡単である。

 

『今のユキヒメではフィリアに勝つことができない……彼女を守るために“あの子”を遣わせようと考えていましたが、やはりやめておいてよかった。人間の中で目立ちたくないというユキヒメの気持ちをないがしろにせずに済みました』

 

 リーテルシアは平静を保てるよう努めつつ、それでも膝のうえに置いた拳をぎゅっと握った。何かをこらえるように。

 

『……焦ってはなりません。ユキヒメという協力者を得られただけでも、今はよしとしなくては……』

 

 ――その呟きを、ある妖精が聞いていた。

 

 長い金髪を頭の左右でくくった妖精だ。サイズは十五センチほど。大きな瞳はどこか勝気な印象を抱かせる。そんな金髪の妖精は四阿の柱の裏でこっそりリーテルシアの様子をうかがっていた。

 

「お母様……やっぱりフィリア様のことが心配なのね」

 

 金髪の妖精はそう呟いた。

 

 そう、リーテルシアは妹であるフィリアのことが心配なのだ。だからリスク承知で人間を引き入れた。しかしその人間はまだまだ実力不足で、特に仲間がいないのは致命的だと。

 

 金髪の妖精はごく自然に思った。

 

 

 なら、自分が何とかすればよくね? と。

 

 

(人間なんて嫌いだし、お母様があの小娘をフェアリーガーデンに連れてきた時にはボッコボコにして追い返そうかと思ったくらいだけど……仕方ないわね。お母様のためだもの。頼りない小娘の世話を焼いてあげようじゃない!)

 

 金髪の妖精はリーテルシアに悟られないよう、静かにその場を後にした。

 

 

 

 

「こんにちは、ダンジョン配信者の雪姫です。今日は中断していた新宿ダンジョンの攻略を再開していきたいと思います!」

 

〔始まった!〕

〔今日も可愛い〕

〔エプロンもいいけどドレス姿も可愛いよ〕

〔よだれが出そう〕

〔久々のダンジョン配信だー!〕

 

 コメント欄にはいつものように普通の視聴者からの温かいコメントと、犯罪者予備軍たちからの生臭いコメントが乱舞している。ゴールドチャット解禁によってコメント欄がカラフルになっているので、いっそう賑やかに感じる。

 

 例のストーカー“あかね”が不穏なコメントをDМに送ってきていたので、昨日一日は家で大人しくしていた。しかし特に何も起こらなかったので、今日からダンジョン配信を再開することにした。警察は見回りを続けてくれているし、移動にはタクシーを使っているので、大丈夫だと思う。

 

 まあ、あんまりダンジョン配信をせずにいると視聴者が離れてしまうしな。

 

「前回の収益化記念配信でも説明したことですが、そちらを見てない方もいるでしょうから改めて……先日のダンジョン配信では、急に配信を中断してしまってすみませんでした。配信用ドローンが不調だったようです。すでに修理も終わっているので、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」

 

〔あれはビビッたww〕

〔配信用ドローンの故障か。珍しいな〕

〔雪姫ちゃんが可愛いからドローンが照れているんだね。仕方ないね〕

 

「可愛くてドローンが壊れるは意味がわかりませんし、私が可愛いと言われることにも納得していませんからね。絶対認めませんからね」

 

〔頑なで草〕

〔何がそんなに雪姫ちゃんを駆り立てるんだww〕

〔ホットケーキ配信のあとTwisterにあんな可愛い写真上げてたのに……?〕

 

「あれはつき――お姉ちゃんが勝手に写真を載せたんですよ! 私は消そうとしたのに、一時間もしないうちに何万件もハートがつくから消すに消せなくなったんです!」

 

 収益化記念配信の後、俺が片付けしている間に月音が配信の一部を切り取って画像化し、雪姫名義のTwisterアカウントで投稿したのだ。俺がフォークに刺したホットケーキの断面を見せている、というだけの画像がわずか数十分で数万ハート(後で見返せるようになる簡易保存機能みたいなもの)を獲得。俺はあれの何がそんなにいいのかさっぱりわからない。

 

「と、とにかく。そろそろ配信を始めていきますよ。今回こそは第一森林エリアにいるキーボスを倒そうと思います。そこではユニーク装備もお披露目しようと思いますので、お付き合いいただければ嬉しいです」

 

〔楽しみ!〕

〔うおおおおおおおお〕

〔ユニーク装備めっちゃ気になってるんだよな〕

 

「それでは新宿ダンジョン攻略配信を進めていきます!」

 

 ドローンを操作しいつものように『現在地:平原エリア』と月音が用意した素材を表示。俺は三度目となる新宿ダンジョンの探索を開始した。

 

 

 

 

「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは冷ややかなる霜の吐息――【フロスト】!」

 

『キュウ!?』

 

「【アイスショット】!」

 

『ギャフ!』

 

 【フロスト】によって動きが遅くなったアルミラージを氷の弾丸が吹き飛ばす。ウサギ型モンスターは一撃で魔力ガスとなり霧散していった。

 

〔おおー〕

〔相性悪いスピード系のアルミラージをあっさり〕

〔なんか安定してる?〕

 

「アルミラージとの戦いはシミュレーションしてきましたから。あのモンスターは危険です……」

 

〔おっ、そうだな(困惑)〕

〔雪姫ちゃんが転んで死んだのはアルミラージのせいでは……〕

〔それ以上いけない〕

 

 平原エリアを探索しているわけだが、三回目ということもあって特に苦戦しない。障害物がほとんどないから、モンスターが近づいてくる前に気付けるのも大きいな。

 

 逆に言うと、苦戦しないせいで配信にスリルがなくなってしまうのが困りどころだ。月音いわくダンジョン配信は“非日常感”が大事らしいので、あっさりクリアできるところは時間をかけないのがセオリーなんだとか。

 

「第一森林エリアに入ります」

 

 平原エリアから次のエリアへ。配信用ドローンの現在地表示も忘れずに変更しておく。

 ……と。

 

『シャアアアアッ!』

 

 蛇型モンスターが俺の行く手を塞ぐように現れた。

 

「前にも見ましたね。妖精を襲っていた……確か“ツリースネーク”でしたか」

 

 ツリースネークは緑色の鱗を持つ蛇型モンスターだ。牙に毒がある他、樹上にいる間姿が樹皮に紛れて見えなくなるという能力がある。

 

 ……まあ、今は地面にいるせいで丸見えなんだが。

 

『シャアッ!』

 

 体をくねらせ飛び掛かってくるツリースネークと俺は視線を合わせ、小声で呟く。

 

「【氷の視線】」

 

『ッ!?』

 

「【アイスショット】!」

 

『シュウウウウウウウウウ!?』

 

 【氷の視線】で相手を拘束、間髪を容れずに【アイスショット】で討伐。やっぱり一対一ならこれが一番強いな。前回の配信で倒していることもあり、【冷酷非道】と【加虐趣味】の威力上昇が乗ったせいでオーバーキルとしか言えない感じになったが。

 

 

<レベルが上昇しました>

 

 

 おお、レベル上昇。

 そういえば配信を始める前にステータスを確認したんだが、新しいスキルが増えていた。その名も【妖精女王の祝福】。スキルの説明は『異界“フェアリーガーデン”へ出入りできる』というものだった。

 

 おそらくリーテルシア様からフェアリーガーデンへの通行権をもらったことが影響しているんだろう。当然こんなもの人に知られるわけにはいかないので、探索者協会への報告義務は破るしかない。問題の種は極力排除したいが、こればっかりはなあ……

 

 などと考えていると――妙な音が聞こえた。

 

「……笛の音?」

 

 ぴょろろろ、というかすかな音が聞こえる。イメージとしては尺八とかそういう感じの音色だ。




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