超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡 作:山田センチュリー
〔おめでとう!〕
〔888888888888888888〕
〔雪姫ちゃん最高! 雪姫ちゃん最高!〕
〔勝利の美酒を持てぇええええええ!〕
〔かっこよかったぞ雪姫ちゃん!〕
〔あと途中で女の子みたいな悲鳴上げてて可愛かったぞ雪姫ちゃん!〕
〔雪姫ちゃんは最高にかっこかわいい〕
〔いつの間にか同接三十万超えててビビるww最初こんなにいなかっただろ!〕
〔ガーベラちゃんがダンゴムシ女王を光らせてから一気に増えたな〕
〔Twisterでもバズってたし、妖精の情報欲しい連中がそれ見て大挙して押し寄せたんじゃね?〕
〔まあ他の配信じゃ絶対見られない光景だったし……w〕
〔毎回雪姫ちゃんの配信は驚かせてくれるww〕
俺の勝利宣言に合わせてコメントが流れていく。
リーテルシア〔お疲れさまでした、二人とも。立派に戦っていましたね〕
〔リーテルシアママ!〕
〔ママもよう見とる〕
「お母様! どうどう、私大活躍だったでしょ! まあユキヒメもそれなりに頑張ってたけど!」
リーテルシア様のコメントに即座に食いつくガーベラ。
リーテルシア〔ユキヒメは百点ですが、ガーベラは独断で鱗粉を使ったので差し引き二十点といったところですね〕
〔あちゃーww〕
〔バカ強化されたダンゴムシ女王を思えば残念ながら当然と言える〕
「そ、そんなぁ……お母様ぁ~……」
そう言ってガーベラはがっくりと肩を落とした。勝手なことをしたのは事実だが、こう悲しそうな反応をされると……
「ガーベラ、元気を出してください。リーテルシア様もああ言っていますが、きっとガーベラが活躍したのを見て嬉しく思っているはずです」
「そうよね! お母様ってば素直じゃないんだから、もう!」
立ち直るの早っ。やっぱりリーテルシア様にお説教されたほうがいいなこいつ。
「何にしても無事勝ててよかったです。当初立てた作戦が一切使えなくなった時にはどうしたものかと……」
〔それなw〕
〔ダンゴムシ女王がピンボールみたいに跳ね回るのは想像してなかったわ〕
〔攻撃できるタイミングなくなるし、実際かなり強くなってたよな〕
「本当にもう駄目かと思いました……ガーベラ、あの妖精の鱗粉はモンスターをどのくらい強化するアイテムなんですか?」
「お母様は確か魔物の強さをざっくり三倍にするって言ってたわね」
Eランクのガーディアンボスと戦う適性レベルは50。そこから三倍として、討伐適性レベル150……Cランクダンジョンのガーディアンボスに匹敵する強さだ。どうりで絶望的な強さになったはずである。
間違いなく俺一人では勝てなかっただろう。
……まあ、敵をそんな馬鹿みたいな強さにしたのはガーベラなので、それはそれで何とかなっていたとは思うが。
〔雪姫ちゃん、ドロップアイテムの確認しないの?〕
「あ、忘れてました! すぐに見に行きましょう」
「ユキヒメ、戦利品の獲得ってなんかワクワクするわね!」
「あはは、わかります。ただ手に入れたものより不思議と価値を感じますよね」
ガーベラと一緒にハードホイールバグクイーンの死骸があった場所に向かう。直立する【アイシクル】の根本にたどり着くと、そこには三つのアイテムがドロップしていた。
一つは結晶化した女王の甲殻。
一つは黒々とした鎧。
最後の一つは……
「これって……<拡張結晶>じゃないですか!?」
俺は紫色の石を拾って配信用ドローンに映す。するとコメント欄の有識者が肯定してくれる。装備品の付与枠を拡張してくれるレアアイテムがこんなところで手に入るとは。
「多分ガーベラのおかげですね」
「え? 何が?」
「この<拡張結晶>はCランク以上のダンジョンでしか入手できないんです。ここはEランクダンジョンですが、ガーディアンボスがCランク並の強さになったおかげでドロップアイテムが変化したんだと思います」
これで<薄氷のドレス>を加工し、<【確率防御】の付与結晶>で新たな能力を追加できるようになる!
「それよりユキヒメ、すてーたす? を確認しなさいよ。強化した魔物を倒したんだから、結構変わってるはずよ」
「そういえば、鱗分はもともと経験値を増やすアイテムなんでしたっけ。確認してみます」
俺は自分のステータスを確認する。
……
うっわ。
モンスターの強さが三倍になるって話だから、経験値も三倍なのかと勝手に思ってたが……これはもしかして違うんじゃ……だって、いや、ええ……?
リーテルシア〔ユキヒメ、よければレベルだけでも口頭で伝えてもらえますか? 妖精の鱗粉の価値がわかりやすく視聴者に伝わるでしょうから〕
あ、そういえばガーベラが妖精の鱗粉を持っていたのはデモンストレーションが目的なんだっけ。そういうことなら……
「このボス部屋に入る前、私のレベルは32でした。ですが今は――その、48です」
〔ファッ!?〕
〔ええええええええええええ〕
〔一戦でレベル15以上アップ!?〕
〔普通ガーディアンボス戦でもレベルなんて2~3上がったらいいほうだろ! ソロだから経験値独占できてるとはいえ……〕
〔っていうかガーベラちゃんはどういう扱いなんだ……?〕
〔仮に探索者のコンビだとしてもレベルがプラス16はおかしいんよ〕
〔やばすぎww〕
以前神保町ダンジョンでガーディアンボスを倒した時、レベルの上昇幅はレベル18~26の8だった。今回上がったのは幼体含めて16。
数字だけ見るとさほど違いはないように感じられるが、探索者のレベルは強くなるほど上がりにくくなる。そんな中、一体倒すだけでレベルが15近く上がるというのは相当やばい。
他にもボス部屋に入る前と比べて魔術とスキルが三つずつ増えている。こんな急に増えても覚えるのが大変なんだが……
リーテルシア〔ありがとうございます、ユキヒメ。妖精の鱗粉の価値を十分に披露できたようです〕
「い、いえ。どうせレベルは公開していますから」
おそらくこの結果を受けて、探索者協会は妖精との関係をより重要視するようになるだろう。そうなればリーテルシア様の発言力が高まり、俺や妖精の安全がより強く保証されるようになる。本当に抜け目ない人だ。
さて、ドロップアイテムの紹介やステータスの確認も終わったことだし……今日の配信はここまでかな。
「それでは、今日はこのあたりで配信を終えようと思います。ガーベラ、最後に何かコメントをどうぞ」
「あんたたち、人間のわりにはなかなか盛り上げ上手じゃない。次も見なさいよね!」
ビシッと配信用ドローンに向かって指を突き付けるガーベラ。
……もしかして、配信やるの結構楽しかったのか?
〔ガーベラちゃん嬉しそうだなww〕
〔ツンデレみたいな台詞で草〕
〔俺たちも楽しかったぞ!〕
「別に嬉しくないわよ無礼ね! この私の華々しい活躍を見逃したら哀れだから忠告してあげてるのよ!」
「大丈夫ですよガーベラ。ちゃんと配信が楽しかったのはみなさんには伝わっていますからね」
「ユキヒメあんたまで!」
「それでは、本日の配信はここまでです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました! また次回お会いしましょう~」
ガーベラの抗議は流して配信終了。
いやー……疲れた。
「何、これもう映ってないの?」
配信用ドローンをコツコツ叩くガーベラ。
「そうですね」
「ふうん……不思議なもんね」
「ガーベラはこれからも配信を手伝ってくれると思っていいんですか?」
「ええ。まだまだユキヒメは一人じゃ危なっかしいもの。何よ、不満でもあるの?」
「まさか」
じろりと睨んでくるガーベラに俺は笑みを向けた。
「私、ずっと一人でダンジョンに潜っていたんです。でも今回はガーベラがいてくれて、精神的にとても心強かったです」
「どうだか。配信を見てた人間たちにちやほやされて楽しかったんじゃないの?」
「確かに視聴者も基本的には味方ですけど……私を否定する意見なんてネットを探せばいくらでも出てきますよ」
視聴者は俺の配信を楽しんでくれる存在だが、確実性については怪しいものだ。俺が何か不祥事を起こせば即座に叩く側に回ってもおかしくない、と月音は言っていた。ファンとはそういうものだと。
慣れない地形に多種多様なモンスターと戦い、さらに配信者として失言をしないように気をつけながら配信を進めていく。それは孤独な戦いだ。ガーベラの【バリア】の耐久実験の時に自覚したが、どうも俺はそういった日々にストレスを感じていたらしい。
「……意外と大変なのね」
「そうですね。でも、今日はガーベラがいてくれましたから、なんだか気が楽でした」
「そ、そう」
「妖精の鱗粉のことも含めて色々予想外のことはありましたが、最後のガーディアンボスの倒し方は私一人では思いつかなかったでしょうし……とにかく、今日はありがとうございました」
「……」
「ガーベラ?」
ガーベラは明後日の方向を見ながら言った。
「……私も、今日はちょっとだけ楽しかったわ」
「それはよかったです」
「今まで人間は全員嫌いだったけど、今日配信を見に来たやつらはそんなに嫌いじゃなかったわね」
「……中には妖精を殺したことがある人もいたかもしれませんよ」
「そいつらは許さない。絶対に落とし前はつけさせてやる。……でも、予想と違ったわ。どいつもこいつも人間は妖精のことを獲物としか見てないのかと思ってた。だから妖精のすごさを思い知らせてやろうって考えてたんだけど」
あー、なるほど。
ガーベラはことあるごとに自分を大きく見せるような発言をしていた。あれには、妖精を舐められないようにしたいという意志があったようだ。
「人間にも色々いるのね。まあまだほぼ嫌いだけど、少しは好きになれるやつもいるのかもしれないわ、ほんの少しくらいは」
「そうですか」
妖精と人間の関係を考えると、無理に好きになってくれとは言えないよな。
「えーと、ユキヒメ」
「はい?」
「今まで人間だからって馬鹿にして……その、悪かったわね。あんたは何も悪いことをしてないのに」
「気にしないでください。仕方ないことだと思いますから」
「あんたのことは、今のところ一番嫌いじゃないわ。人間の中で」
自分のツインテールで表情を隠しつつ、もごもごと言うガーベラ。しかし髪の隙間からは赤くなった頬が見えている。照れているようだ。
「あはは、まだ好きとは言ってもらえないんですね」
「あ、当たり前じゃない! 調子に乗らないことね! じゃあ私もう帰るから!」
ガーベラはボス部屋の外へと勢いよく飛び出していった。
……行ってしまった。ダンジョンゲートと対をなす白い球体――ダンジョンの出口に触れていないが、問題ないんだろうか? これに触れるとダンジョンの外に飛ばされてしまうから、妖精的には触れたらまずいのかもしれない。いや、そもそもガーベラはダンジョンの外に出られるのか?
うーむ、このあたりはリーテルシア様に聞いておけばよかった。
まあ、もし必要ならまたここにガーベラを連れて来ればいいか。
何はともあれ、新宿ダンジョンをようやくクリアだ。