超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡   作:山田センチュリー

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一方その頃

『それでは、本日の配信はここまでです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました! また次回お会いしましょう~』

 

 

 PC画面では銀髪碧眼の美少女“雪姫”がそう言って今日の配信を締めていた。

 

「んぁ~~~~つっかれた~~~~」

 

 白川月音はヘッドホンを外し、思いっきり伸びをする。

 

 配信画面の操作は基本的に月音の担当なので、実は月音の作業量はかなり多い。たとえば雪人の配信終了時に蓋絵をするのも月音の役目だ。

 

「さーて、さっそくTwisterで今日の配信の感想でも探そっかなー」

 

 スマホを操り情報収集。こういった細かいリサーチが重要……というのは建前で、八割は雪人に対する誉め言葉を眺めてニヤニヤしたいだけである。

 

「『雪姫ちゃん可愛い天使』『結婚してほしい』『高い高いをしてあげたい』って、はぁ~? お兄ちゃんは渡しませんけど。結婚するのも高い高いをするのも私ですけど?」

 

 独り言をつぶやきながら雪姫のアカウントで感想に♡を押していく。

 このあたりのまめな反応が意外と大事な気がしている月音だった。

 

「それにしても配信終わったばっかりなのに感想多いなあ。やっぱりお兄ちゃん、配信者として才能あるんじゃない? TS解除しちゃうの惜しいな~」

 

 ダンジョンのことをあまり知らないから、というのもあるだろうが、雪人の配信はテンプレートから外れた展開になることが極めて多いのだ。

 

 というか予想通りに進むことがまずない。

 加えて無防備な可愛らしい仕草は、妹の月音であっても悶えてしまうほど可愛い。

 

「いっそこのまま妹になってくれれば……いやでも私、お兄ちゃんのほうの見た目も好きなんだよな~っ。うまいこと、こう、どっちの姿にもなれるーみたいな状態に落ち着かないかなあ……。雪姫ちゃんを抱っこしながらお兄ちゃんに抱っこされたいな~」

 

 雪人の前では絶対言えないようなブラコン発言を連発する月音だが、一人の時はこんなもんである。

 

 そんな感じでエゴサーチを続けていると。

 

 

 リリリリリリリリンッ!!!! と激しい音がスマホから鳴った。

 

 

「うわわわなになになに」

 

 スマホを放り出しそうになり、お手玉しつつも何とかキャッチして画面を見る。

 

「……え?」

 

 そして、血の気が引いた。

 

 

『何者かが侵入した可能性があります。注意してください』

 

 

 画面にはそうメッセージが出ていた。

 

(何者かが侵入って……この前つけた警報装置の通知だよね)

 

 白川家の玄関の扉には後付けの振動感知装置が取り付けられている。一定以上の振動を感じ取ると、登録しているスマホでアラートが鳴るようになっているのだ。

 

 アラートが鳴る振動の基準は、“扉の破壊が想定される強さ”。

 

 雪人が配信者として有名になったからと用心のために設置したのだ。例のストーカーのこともあるし、警戒は必要だと雪人と相談して。

 これが作動したということは――

 

 部屋の扉を見る。

 どくん、どくん、と月音の心臓が鳴る。

 何もない。廊下から得体のしれない足音が聞こえてくるようなこともない。

 気のせいであってほしい。

 何事もないまま済ませてほしい。

 けれど、そんな月音の心を嘲笑うように。

 

 月音の部屋のドアノブがゆっくりと回転した。

 

「――――っっ」

 

 月音の喉で変な音が鳴った。

 今この家にいるのは月音だけ。なのに外に人の気配がある。

 

(何で……? 玄関を壊すような音は聞こえなかった。ヘッドホンをしてたせい? それとも何か細工をされた?)

 

 月音の頭に、いつかニュースで見た静音効果のある違法マジックアイテムが浮かぶ。ドアに貼りつければ、破壊音をほぼ無くせるというもの。一部の空き巣や強盗がそういうものを使うらしい。

 

 がちり、とドアノブの回転は途中で止まる。

 月音は癖で部屋にいる時は鍵をかけるようにしているのだ。

 しかし安心する間もなく。

 

 

 ガチャガチャガチャガチャガチャッ!! と狂ったような勢いでドアノブが回され始めた。

 取っ手が軋み聞いたことがないような音が鳴る。

 

 

(誰かいる……誰かいる!? お兄ちゃんじゃない!)

 

 頭が真っ白になり月音はどうしていいかわからなくなる。呼吸が乱れ、体がこわばる。

 

 扉の外の何者かはしびれを切らしたのか、扉を殴り始めた。

 拳や蹴りじゃない。明らかに金属製の何かで。

 何度も何度も音と振動が響く。

 

 やがて扉の隙間から何かが伸びてくる。それはバールのように見えた。差し込まれたバールが斜め横に動き、梃子の要領で扉に力がかけられる。

 

(やだ、待って、やめて)

 

 バキバキ! という木の扉が割れる音。バールの差し込まれた隙間がみるみる広げられていく。

 壊し慣れている、と月音は感じた。

 

 そして広げられた扉の隙間から、ぬうっと手が伸びてくる。黒い軍手に包まれた手だ。それは気持ち悪い虫のようにうごめき、ドアノブの内側にある鍵を探し始める。

 

「やだ……やだ、やだ!」

 

 この段階で月音はパニックを起こした。

 悪意と暴力の気配が生々しく感じ取れる。扉の向こうにいる何者かはおそろしい敵だ。自分にどんなことをするのか、悪夢のような想像が次々と浮かぶ。

 

 月音のスマホが振動する。

 表示されているのは『白川雪人』という文字。

 雪人のスマホにも衝撃感知装置のアラートが送られている。それを見て雪人は月音を心配して連絡してきたのだろう。

 

(お兄ちゃん……!)

 

 縋りつくように通話に応じようとする月音。

 しかしガタガタと指が震えて、ただアイコンをスライドするだけの簡単な操作ができない。焦りが募っていく。

 

 そうしているうちに、扉が壊された。

 

「ああ、いたな。こいつか?」

 

「写真を確認したばっかだろ。こいつで間違いない」

 

 入ってきたのは大柄な二人組だった。声からして男だろう。全身黒づくめで、目出し帽をかぶっている。片方はバールを、もう片方はガムテープのようなものを持っている。

 

(何、この人たち……)

 

 身動きも取れずに固まる月音を見ると、男たちは淡々と、

 

「なら、とっとと攫うぞ。若頭の指示だ」

 

「わかってる。二、三発殴れば大人しくするだろ」

 

「――っ!」

 

 月音はさらに身を固くする。

 

(若頭って何? ヤクザ? もうやだ、何もわからない)

 

「お兄ちゃん……っ」

 

 助けを求めてほとんど無意識に呟いた月音に、目出し帽の男の一人が噴き出した。

 

「何わけのわかんないこと言ってんだよ。おら、スマホの電源切れ」

 

「……」

 

「早くしろよガキィ! 顔面グチャグチャにされてえのか!」

 

「やぁ……っ!」

 

 目出し帽の男がバールをベッドのへりに叩きつけた。木製の枠が陥没し、木の破片が飛ぶ。

 スマホの電源を切る切らないではない。もはや月音は恐怖のあまり指一本動かせなくなってしまった。

 

「さっさとしろよ! 言う通りにしないなら先に一発――」

 

 バゴッッ!

 

「…………あひぇ」

 

 間抜けな声が上がった。

 月音ではなく、目出し帽の男からだ。それも月音に近付いていたほうではなく、入口の近くにいたほう。

 

「な、何だてめぇ!」

 

 残った男が喚く。

 月音は思わずぽかんと口を開けた。

 目の前の光景が信じられない。

 

 

(見知らぬメイドさんが……強盗をワンパンした……??)

 

 

 目出し帽の男の一人を殴りつけて気絶させたのは、裾の長いメイド服を着た一人の女性だった。顔立ちは人形のように整っている。

 

 当然月音の知り合いではない。

 なぜこんなところにメイドさんがいるのか。そしてなぜメイドさんが強盗を一撃で気絶させられるのか。

 もはや月音の思考は宇宙のあたりに飛んでいって戻ってこない。

 

 メイド服の女性は冷たい声で言う。

 

「家族を人質に取り、雪姫様からフェアリーガーデンの情報を聞き出す……狙いはそんなところでしょうか。無防備な相手を二人がかりで狙うなど、卑劣極まりない」

 

「何だとてめぇええええええ!」

 

 目出し帽の男は勢いよくメイド服の女性に殴りかかった。

 しかしメイド服の女性はもはや男など視界に入っていないかのように前に歩き、ヒュガッ! とすれ違いざま目出し帽の男に何かしらの攻撃を加えた。

 

「がぁ……ッ!?」

 

 月音の目には何があったのかすら見えない。目出し帽の男は意識を失ったのか、突撃の勢いそのままに部屋の壁に激突した。

 

 どう見ても気絶している。

 

(うっそー……)

 

 無法なまでの強さを持つメイドに唖然とする月音。

 メイド服の女性は気遣わしげに月音に声をかけてきた。

 

「白川月音様ですね。怪我はありませんか?」

 

「あ、はい」

 

「本当ですか? 強く掴まれてあざになっていたりなど」

 

「だ、大丈夫です」

 

「それはよかった。勝手にお邪魔してすみません。きな臭い気配を感じたので、つい」

 

「い、いえいえ! 本当に助かりました! ありがとうございます!」

 

 もしかして通りがかりのメイドさんだろうか、と月音は考える。

 

(っていうかこの人、どっかで見たことあるような……)

 

「警察を呼んでも構いませんか?」

 

「あ、そ、そうですね。お願いします。ええと……メイドのお姉さん」

 

(さかき)水鏡(みかがみ)といいます。呼び方はできれば水鏡と。……自分の苗字があまり好きではないので」

 

「わかりました。水鏡さ――え? 榊水鏡?」

 

「?」

 

 月音はその名前を聞き、なぜこのメイドの女性の顔に見覚えがあったのか悟った。

 

 服装は違うが、この人物を一度だけダンジョン配信で見たことがある。

 “To-ko channel”――Sランク探索者にして日本一の登録者数を誇るダンジョン配信者、四ノ宮刀子。彼女の枠でゲストとして参加していた、四ノ宮刀子の元パーティメンバーだという人物の名が榊水鏡だったはず。

 

 つまり。

 

(……このメイドさん、Sランク探索者では?)

 

 月音がそんなことを考える中、榊水鏡と名乗ったメイド服の女性はスムーズに警察への通報を済ませると、こんなことを言った。

 

「実は雪姫様にお話があってやってきたのです。まさか強盗とかち合うとは思いませんでしたが……警察に説明した後、雪姫様の帰りを待ってもよいでしょうか」

 

「それはいいですけど……話ですか? お兄――雪姫ちゃんに、水鏡さんが?」

 

「正確には、話があるのは私の主なのです」

 

 水鏡はスマホを操作し、月音に見せてくる。月音は目を見開いた。

 

「これに見覚えはありませんか?」

 

「――!」

 

 そこに映っていたのは、月音の知るものによく似た石像型のマジックアイテムだった。

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