超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡   作:山田センチュリー

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虚霊少女3

 砕けた巨大な氷の破片がいくつも地面に突き立っている。

 ピンク髪の少女が浮いていた場所には何も残っていない。

 うまくいったようだ。

 

「上出来です、ユキヒメ」

 

「リーテルシア様……無事だったんですね」

 

「あの程度でやられることはありませんよ」

 

 リーテルシア様が俺のもとにやってくる。言葉通り怪我一つ負った様子はない。

 

「勝った……んでしょうか」

 

「そうでしょう。ユキヒメのあの魔術を受けて無事でいられるとは思いません。ふふ、さすがは私が見初めた協力者です」

 

「俺の力じゃないですよ」

 

 リーテルシア様がいなかったら【アイシクル】を当てる以前の問題だっただろう。あのピンク髪の少女は相当強かった。俺だけじゃ絶対杖を取り戻すなんて不可能だったな……

 

 配信では初心者離れしているなんて言われるけど、俺はまだまだ弱い。

 それを再認識させられた。

 

「では、<妖精の鎮魂杖>を探しましょう。あれがなくてはガーベラを蘇生させられませんから」

 

「わかりました」

 

『ユキヒメ君、そちらは終わったかい?』

 

「茜か。ああ、何とかなった。リーテルシア様のおかげだ」

 

 リーテルシア様と一緒に<妖精の鎮魂杖>を探しながら、インカムを通じて茜と話す。

 

 さて、杖はどこに……って、待てよ。

 杖、まさかあの女に持っていかれてるんじゃあ……

 

 ダンジョンで死んだ場合、その日最初のデスペナルティは魔力体の能力値ダウン。あの少女が今日まだ一度もダンジョンで死亡していなかったとしたら、<妖精の鎮魂杖>ごとダンジョンの外にはじき出されていることになる。

 

「茜、まずいことになった! 杖が――」

 

『心配しなくても、ナイトバナードの少女が<妖精の鎮魂杖>を地上に持ち帰った場合すぐに確保できるよう手はずは整えてある。杖も回収できるよう話はつけよう』

 

 即座にそんなことを言う茜。

 

「で、できるのか?」

 

『私は探索者協会から依頼されてダンジョンの地形予測、出現モンスター予測などを提供することがある。これでも顔が利くんだよ。……まあ、君が戦おうとした時点でこうなることは予想していたしね』

 

「……悪い。手間かけさせて」

 

『いいさ。君がダンジョン初心者だというのは理解しているし、冷静さを失うほどガーベラ君が大切だったということだろう? 君のその優しさは協力者として歓迎すべきものだ。それより、ナイトバナードの少女がやられる寸前に杖を放り出した可能性もある。撤退前に周囲は念入りに探すことだ』

 

「ああ、わかった。ありがとう」

 

 茜に礼を告げ、再度<妖精の鎮魂杖>探しに集中する。

 とりあえずピンク髪の少女が浮いていた場所の真下あたりを重点的に探そう。

 

 どのあたりだったかな……

 視線を上げて記憶と照らし合わせる。

 そういうことをしていたから気付くのが一瞬遅れた。

 

 俺の足元で、影がぐにゃりと形を変えた。

 

「ユキヒメ!」

 

「え? ――うわっ!」

 

 リーテルシア様の鋭い声でようやく異常に気付く。だが遅かった。俺の影が蛇のようにうごめき、俺に襲い掛かってくる。

 

 パシュッ!

 

「……!」

 

 聞き覚えのある音とともに影は俺に当たる寸前で弾かれた。

 

 これ――【攻撃無効化】か!?

 

 ここに来る前、須々木崎邸の錬金炉で<薄氷のドレス>を加工した。

 <拡張結晶>を使い、新宿ダンジョンのキーボス、ハードホイールバグからドロップした<確率防御の付与結晶>の効果を付与したのだ。

 これにより俺は一日一度のみ、一定確率で敵の攻撃を無効化できるようになった。

 

「ユキヒメ、大丈夫ですか!?」

 

「は、はい」

 

 転びそうになった俺をリーテルシア様が支えてくれる。

 驚きはしたがダメージはない。

 来る前にドレスを強化してきてよかった……!

 あれがなかったら完全にやられてたぞ。

 胸を撫でおろしていると、聞きたくなかった声が響いた。

 

「ちぇー、せっかく不意打ちしたのに防がれるとかつまんなーい」

 

 ……そうだよな。

 影を操る魔術ってことは、そういうことだ。

 

 キー部屋に散らばる【アイシクル】の破片。ものによっては高さ二メートル近くある氷塊から伸びる影の中から、浮き上がるようにしてピンク髪の少女が現れた。

 

「……あの【アイシクル】を避けたのか?」

 

「避けた? あははー、そんなこと必要ないよ」

 

「何だって?」

 

 ピンク髪の少女は自分の身に着けているローブを軽く持ち上げてみせる。

 

「アタシのユニーク装備、<虚霊のフーデッドローブ>。これを身に着けている限り、アタシに物理攻撃はまったく効かない」

 

 物理攻撃無効のユニーク装備……とんでもない代物だ。あの水鏡さんがどうやって負けたのか疑問だったが、そんなものを持っていたなら納得がいく。

 

「けど、それだけじゃない。ここのローブを着ている間、ある属性を除き、すべての魔術攻撃のダメージも九十九パーセント減衰されるの」

 

「…………は?」

 

 言っている内容が理解できず固まる。

 物理攻撃無効に加えて、魔術もわずか一パーセントしかダメージが通らない?

 めちゃくちゃだ。

 

「【ウッドランス】」

 

 ドガッ!

 

 リーテルシア様が放った極太の木の槍がピンク髪の少女に命中する。

 岩だろうと砕くであろう威力の槍。

 だが、何の防御もしていないにかかわらず、ピンク髪の少女はわずかにのけぞっただけだった。まともなダメージを負っているようには見えない。

 

「魔術攻撃をほぼ完全に無効化する……嘘ではないようですね」

 

「そゆこと。あはは、びっくりした? ねえ、びっくりしたでしょ? アンタたちの攻撃なんて最初っからまともに効いてね~~~~んだよ!」

 

「じゃあ、さっきリーテルシア様の魔術に捕まって焦ってたのも……」

 

「演技に決まってんじゃん! ぬか喜びさせてから絶望に突き落とすための演出♡ アタシに勝てて嬉しかった? 大事な杖を取り戻せたと思った? 残あああああん念、それ勘違いなんだよねぇ! あはははははははははははは!」

 

 げらげらと笑うピンク髪の少女。

 その手には<妖精の鎮魂杖>が握られている。

 もう一度あの少女と戦わないといけない。

 戦って、倒して、杖を取り戻すのだ。

 

 ……そんなことができるのか?

 俺の渾身の【アイシクル】を受けて平然としているやつに?

 

 いや、弱気になるな。まだ時間はある。切っていない手札だって残っている。

 できる限りのことをするんだ。

 

「あれ、何その目。もしかしてまだアタシに勝てるとか思ってる? わかってないなー、アタシ今まで全然本気じゃなかったんだよ? ぬか喜びタイムも終わったし、ここからはアタシのお楽しみタイムだから」

 

 ピンク髪の少女がさっきと同じように宙に浮かぶ。

 

「……ユキヒメ、作戦を変えます」

 

「あいつを倒すんじゃなく、杖を奪う……ですよね」

 

「ええ。ローブをはぎ取ることも有用でしょうが、杖に狙いを絞った方がいいでしょう。回収でき次第この場は退きます」

 

 リーテルシア様は俺以上にあの少女に憤っているはずだ。

 蘇生可能とはいえ、自らの子どもを殺されたんだから。

 それでも今は冷静に動こうとしている。

 なら、俺も従うだけだ。

 

「なんかいろいろ相談してるとこ悪いけど、無駄だと思うな~」

 

 ピンク髪の少女がニヤリと笑い、<妖精の鎮魂杖>とは逆の手にある杖――自らの主武装をくるりと回す。

 

 

「――冥神エルシュよ、我に力を貸し与えたまえ」

 

 

「!」

 

 詠唱が違う!

 

 詠唱の冒頭は魔術の属性を表す。さっきまであいつは「黒神ザレよ、我に力を貸し与えたまえ」と唱えて影を操る魔術を使っていた。それが変わったということは――

 

「我が望むは忌まわしき闇の光粒、嘆きの輝き。赤き月の光を落とし、彼の者から力を奪え。【ナイトブラッド】」

 

 キー部屋の天井付近が黒く染まり、ピンク髪の少女の頭上に赤く輝く球体が現れた。

 不気味なそれは色を変えた月のように見える。

 赤い月は強く輝き、雪のように光を振り注がせた。

 キー部屋全体に落ちる光を避けることはできず、俺とリーテルシア様はそれを浴びることになる。

 

 直後、体が一気に重くなった。

 リーテルシア様がわずかに眉を寄せ、不快感をあらわにする。

 

「闇の魔術、ですか……!」

 

「そゆこと~。アタシが影を操るだけの単細胞だと思ったら大間違い。こっからは阻害(デバフ)ごりごり使ってくからよろしくね♡」

 

 二つ目の属性。

 詠唱が変わってるからまさかと思ったが、やっぱりそうか……!

 

 初期クラスの魔術師は一つの属性の魔術しか使えない。だが、レベルを上げて行けば上位のクラスに変化する。その中には二つ目の属性を習得できるものもあるらしい。

 ピンク髪の少女はその恩恵を受けているのだ。

 

「【スタブルート】!」

 

「はいはい、【シャドーエッジ】」

 

 リーテルシア様の木の根を操る魔術が影の刃と正面からぶつかる。

 だが、拮抗しない。

 

「――ッ、【ウッドシールド】」

 

 木の根を切り刻み突破してきた影の刃を、木の幹で編まれた巨大な盾が阻む。

 木の盾を半壊させ、ようやく影の刃を凌ぐことができた。

 

「あはは、さっきまでより全然よわ~~~~い! まあ【ナイトブラッド】食らってちゃ仕方ないよねぇ!」

 

 さっきまで互角だったリーテルシア様とピンク髪の少女の魔術に差が出始めている。理由は間違いなくさっきの赤い月の光だ。俺もリーテルシア様も、おそらく魔力の数値が大きく下がっている。

 

「……【スタブルート】」

 

「学習能力ないのかな~~~~? それとも破れかぶれとか?」

 

 再度リーテルシア様が木の根を操りピンク髪の少女を襲わせる。それは影の刃にあっさり蹴散らされるが、その目的は目くらましだ。

 俺は<初心の杖>を宙に向けた。

 

「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは疾く駆ける氷の矢、【アイスアロー】!」

 

「っと、危ない危ない」

 

 バシッ!

 

 <妖精の鎮魂杖>を弾き飛ばそうと放った氷の矢は、ピンク髪の少女にもう片方の手の甲で阻まれた。生身がかすり傷を負った時のように、ピンク髪の少女の手から少しの魔力ガスが漏れる。

 

 魔術九十九パーセント減衰のせいでろくなダメージにはなっていないだろう。

 だが、無駄じゃない。

 ピンク髪の少女はリーテルシア様に注意を払っているため、俺の攻撃をわざわざ迎撃したりしない。わずかなダメージでもそれが重なればいつかは倒せる。

 

 もちろんピンク髪の少女を倒すことが目的じゃないが、あいつが焦れば杖を奪う隙もできるはずだ。

 

「……あー、そういうこと? ちょっとずつ削ってなんとかしようー、みたいな? あはは、浅知恵すぎだよ」

 

 ピンク髪の少女は新たな魔術を使う。

 

「冥神エルシュよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは欠落を埋める血肉、心優しき隣人の栄華。暗がりより根を伸ばし魂の雫をすすれ――【ダークドレイン】」

 

 ピンク髪の少女の周囲に黒い光の粒が発生する。それらはピンク髪の少女に吸い込まれていき、さっき俺が傷つけたはずの手が完璧に復元された。

 

「なっ……何だよ、それ」

 

「回復魔術――ってのとはちょっと違うかな。周囲の魔力を吸って魔力体の生命力に変換してるんだよ。近くに人がいるとそいつから魔力を吸えるんだけど、まあアタシなら空気中の微量な魔力で十分足りるし」

 

「……ッ」

 

 周辺の魔力を吸って生命力に変換する魔術。

 つまり回復手段だ。

 どの程度の回復量があるのかはわからないが、明らかに俺の魔術で与えるダメージよりも回復速度が勝るだろう。

 

 あれじゃあ、ダメージを蓄積させることはできない。

 

 ……

 ちょっと待て。

 これ、どうしようもなくないか?

 

「冥神エルシュよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは強きを弱きに落とす悪魔の鱗粉。【ダークミスト】」

 

 黒い霧がキー部屋を埋め尽くし、体がさらに重くなる。

 また闇属性の阻害魔術……!

 

「ほら、どんどん逃げまどいなよ! 【シャドーエッジ】ぃ!」

 

「あ、【アイスショット】!」

 

「【ソーンウィップ】」

 

 影の刃が前後左右から襲い来る。俺は咄嗟に正面を氷の弾丸で防ごうとするが、普段とは比べ物にならないほど威力が低い。簡単に押し負けてしまう。

 リーテルシア様の出現させたイバラの鞭が迎撃するが、それも完全には防ぎきれない。

 

「リーテルシア様!」

 

「……じっとしていてください、ユキヒメ。あなたを傷つけさせはしません」

 

 打ち漏らした影の刃が俺を守ったリーテルシア様の体を切り裂く。

 あのリーテルシア様が傷を負う。

 信じられない事態に焦りが加速する。

 

「銀髪のアンタさー、“雪姫”でしょ?」

 

 ピンク髪の少女が告げた言葉にどきりとする。

 あいつ、俺を知ってるのか?

 

「有名人だもんねぇ、当然知ってるよ。アタシ、アンタのこと大っ嫌いなんだよね。弱っちいくせに顔がいいだけでちやほやされちゃってさ」

 

「……」

 

「アンタみたいなのがダンジョンに来てるのを見るとイライラする。ここはもっと薄暗い場所なの。他になんのとりえもない、地上でゴミみたいな扱いを受けてきたやつが最後の希望を求めてやってくるところなわけ」

 

「……何を言ってるのかわからない」

 

「わかんなくていいよ。アンタが二度とダンジョンに入りたくなくなるくらい、徹底的にすり潰してあげるっていうただの宣言だから」

 

 吐き捨てるように言い、ピンク髪の少女は杖を掲げた。

 

「黒神ザレよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは影より出でし光なき火薬、【シャドースフィア】」

 

 黒い球体が二十個ほども同時に出現する。

 空を覆うほどの黒い球体の群れは悪夢そのものだった。

 

「――」

 

 俺は立ち尽くす。

 いくら何でも、これは……

 

 ……あれを使うか? 他に手がない以上、賭けるのも一つの手だ。うまくいけばピンク髪の少女の防御を突破できるかもしれない。

 

「仕方ありませんね」

 

 そんなことを考えている俺の耳にリーテルシア様の呟きが聞こえた。

 

「【ウッドシールド】」

 

 木の盾が俺の前に幾重にも出現する。

 ただしそれは俺の前にだけ。

 リーテルシア様はそれに隠れる素振りを見せない。

 

「リーテルシア様!? 何を――」

 

「仕掛けるなら今しかありません。あの少女が攻撃する瞬間にしか。……重要なところはユキヒメに任せることになってしまいますが、許してください」

 

 どういう意味だ?

 俺が質問を返す前に爆風が来た。

 二十個同時に炸裂した黒い球体は想像を絶する威力だった。バキバキバキッ!! と木の盾が連続して砕け、俺を守る最後列のものに亀裂が走る。

 

「……【フラワーボム】」

 

 舞い上がる砂煙の向こうでリーテルシア様の声が聞こえた。

 砂煙を突き破って上空に留まるピンク髪の少女に複数の球体が飛んでいく。

 それらはピンク髪の少女の近くに届いた途端に()()()

 

「何これ、花……?」

 

 つぼみから花開くように花弁を広げたそれは、ドバッ! と大量の黄色い粉を撒き散らした。攻撃の直後で態勢の整わない少女は避けられない。

 

「――ッ、……」

 

 粉を浴びたピンク髪の少女は脱力したように一瞬だけ動きを止める。

 あれは……“麻痺”の状態異常か?

 

「あっ!」

 

 ガガガガガガガカッ!

 

 連続で撃ち込まれた木の槍がピンク髪の少女のローブを的確に射抜いた。ピンク髪の少女は槍の群れに押し流されるようにキー部屋の天井へと激突し、身動きを封じられる。その隙を逃さず植物のツルが伸び、ピンク髪の少女から<妖精の鎮魂杖>をもぎ取った。

 

 収縮するツルの先には当然リーテルシア様がいる。

 

「リーテルシア様!」

 

 駆け寄った先にいたリーテルシア様はぼろぼろだった。

 分身の耐久が限界のようで、消えかかっている。

 

「ユキヒメ、これを」

 

 奪い返した<妖精の鎮魂杖>を手渡してくる。

 リーテルシア様はかすれた声で言った。

 

「どうか逃げ切ってください。私の娘を……ガーベラを、救ってください――」

 

 リーテルシア様の体が崩れ、無数の花びらとなって散っていった。

 

「……ッ」

 

 光景としてはショッキングだが、ここにいたリーテルシア様は分身だと言っていた。本当に死んでしまったわけじゃないだろう。今俺がすべきことは一刻も早く離脱することだ。

 

 俺は<初心の杖>の先端を自分の胸の中心に当てた。

 今日一度目の魔力体の破壊なら、所持アイテムを持ったまま離脱できる。何としても<妖精の鎮魂杖>を持ち帰るのだ。




ピンク少女、ギミックボスなので弱点探さないと理不尽ゲーと化す模様。
やたら攻撃力の高いヌ○ニンみたいなもんです。
弱点がわかると(かつ用意できると)やりようもありますが、無策だとしんどい。
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