超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡   作:山田センチュリー

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スカイフォックス

「喜んでもらえてよかったよ。日花もこの店がお気に入りでね、よく来るんだ」

 

 赤羽さんがそんなことを言う。

 

「そうなんですね」

 

「うん。それで、その日花のことなんだけど……」

 

 本題か。

 聞く姿勢を整える。

 

「雪姫さんは今日の日花を見て何か違和感を覚えなかったかい?」

 

「……日花さんはずっと周囲を気にしていて、配信に集中できていない様子でした。それが悪いとかではなく、なんというか……明るい日花さんらしくないように思えました」

 

 あれは周囲を警戒する仕草だったと思う。しかし何を警戒しているかがわからない。

 

「実は日花は三か月ほど前、トラブルに遭ったんだ。配信中にマナー違反を……ダンジョンの一部を独占している探索者のパーティを見つけて、注意した。相手は十代後半くらいの若者だった。彼らは逆上し、日花に襲いかかった」

 

 ダンジョン内とはいえ暴力沙汰は禁じられている。

 もちろん事故は仕方ないが、基本的に探索者同士で争うのはご法度だ。協会に知られれば仕掛けた方には罰則もある。

 

 ……っていうかこの話、月音から聞いたような。

 

「確か日花さんが相手をやっつけたんですよね?」

 

「よく知ってるね。そう、相手はこう言ってはなんだが、探索者としてはあまり強くはなかった。乱闘になったが、勝ったのは日花だった。勧善懲悪の様子が配信に乗り、Twisterのトレンドなんかにも乗った。いわゆる“バズった”というやつだね」

 

 ここまでは月音から聞いた話の通りだな。

 

 普通なら年上の男数人に対して十二歳かそこらの女の子が喧嘩で勝つなんてあり得ないが、魔力体なら話は別だ。

 レベルによほど差がなければ、あれだけ動けるヒバナを捕まえるのは簡単じゃないだろう。

 

「ただ、ここで話は終わらなかった。日花は学校からの下校中、この時に負かしたパーティの男たちに絡まれてしまったんだ」

 

「……え」

 

「一緒に帰っていた友達と一緒に、路地裏に連れ込まれそうになったらしい。その時はたまたま通りかかった人が助けてくれたからよかったが、そうでなければどうなっていたか……」

 

 当時のことを思い出してか声を震わせる赤羽さん。

 

 おそらく男たちは逆恨みし、ヒバナの後をつけたんだろう。そして自宅や学校を突き止め、待ち伏せた。人けのない場所に連れて行って何をするつもりだったのかは想像したくない。

 

「その男たちはどうなったんですか?」

 

「彼らは――“スカイフォックス”という名前のパーティらしいが――暴行未遂で捕まったよ。すでに釈放されているが、禁止命令も出ている」

 

 禁止命令……ストーカーとかに対する措置だったはずだ。話がどんどん物騒になってきた。

 

「一時期は日花を家から出すのも怖かったけれど、日花を助けてくれた人物がギルドに誘ってくれた。それが白竜の牙だ。高峰北斗さんという方が親身になってくれて、準構成員という制度を教えてくれた」

 

「白竜の牙……あ、それで日花さんは腕輪をしていたんですね」

 

「そう、雪姫さんと同じだ。これのおかげである程度は安心して外に出せるようになった。しばらく配信を休んでいたけれど、最近は僕が送り迎えをしながら再開したんだ」

 

「なるほど。そういうことでしたか」

 

 スカイフォックスがどの程度の規模なのかわからないが、白竜の牙の準構成員になったならリスクは相当下がったとみていいだろう。酒呑会のような例外はともかく、小規模ギルド程度なら白竜の牙の名前だけで向こうから避けていく。

 

 実際、俺も準構成員になってからは変な連中に絡まれたことはない。

 

 ……それにしても、ヒバナも路地裏で連れ込まれそうになったところを高峰さんに助けられたのか。こんなところで親近感を覚えるとは。

 

「なら今日日花さんが周囲を気にしていたのは、スカイフォックスに狙われたのがトラウマになったから……?」

 

「いや、実はそうではないみたいでね」

 

「え?」

 

 赤羽さんは苦笑しながら言った。

 

「日花いわく、『喧嘩したあたしが狙われるのは仕方ない、でも無関係の友達が巻き込まれるのは嫌だ』と。地上で絡まれた時、友達が怖い目に遭いそうになったことが耐えがたかったらしい」

 

「何と言うか……潔いですね」

 

「うちの父に――日花からすると祖父だけど、その人によく懐いていたからね。職人気質の頑固おやじだったから、そのあたりに影響されているんだと思う」

 

 そういえばおじいさんのことを尊敬している、みたいな話はしていた気がする。

 

 色んなことが腑に落ちた。

 最初に日花がコラボ配信に躊躇っていたこと。

 今日の配信で周囲を警戒していたこと。

 

 あれは万が一スカイフォックスの連中が再び現れた時、一緒にいる俺を怖い目に遭わせたくなかったからなのだ。

 

 自分ではなく無関係の友達を巻き込んでしまうことをヒバナは恐れていた。

 

「日花は地上で絡まれてから、学校の友達とは話さなくなってしまったようでね……友達のほうは気にかけてくれているけれど、日花がそれを受け入れようとしない。そんな中、雪姫さんは日花をコラボに誘ってくれた。日花は似た境遇の友達ができた、と喜んでいたよ。日花からそんな言葉を聞いたのは久しぶりだったな……」

 

「……私も日花さんと友達になれて嬉しいと思っています」

 

「その言葉が聞けて本当に嬉しいよ。ありがとう、雪姫さん」

 

 お世辞ではない。ヒバナと一緒にやるダンジョン配信は楽しかった。

 赤羽さんは深く頭を下げた。

 

「日花も本当は寂しいんだと思う。けれど自分でもどうしていいかわからなくなってしまっている。よければこれからも日花と仲良くしてくれると嬉しい。スカイフォックスの件があるから、無理にとは言えないけど……」

 

 俺は姿勢を正し、まっすぐに赤羽さんを見て言った。

 

「そのつもりです。日花さんはすごくいい子だと思いますし、仲良くしてもらえたら私も嬉しいです」

 

 俺が言うと、赤羽さんは嬉しそうに「ありがとう、雪姫さん」と言うのだった。

 

 それにしてもスカイフォックスか。

 話を聞く限り、水鏡さんの護衛を突破できるような相手ではなさそうだ。

 

 ……一応名前だけは覚えておこう。

 

 

 

 

「これっぽっちかよ、使えねぇカスどもが!」

 

 ゴン、ガンッ、バキッ!

 

「あぐ!?」

 

「ごふぇ……ッ!」

 

 路地裏に生々しい暴力の音と悲鳴が響く。

 転がっているのは十代後半の若い男たち数人――スカイフォックスという小規模パーティの構成員だ。

 彼らのリーダーを足蹴にし、その場の支配者である男は怒鳴る。

 

「お前らわかってんだろうな。うちへの上納金を支払えなかったらどうなるか。酒呑会を敵に回すってことだぞ、おい!」

 

「す、すみません……勘弁してください……」

 

「払いますから……! すぐに金は用意しますからぁ……!」

 

「明日までに持ってこいよ!」

 

 そう言って男は去っていった。

 残されたスカイフォックスのメンバーはどうにか体を起こすと、途切れ途切れの声で話し合いを始める。

 

「これから……どうする……もう金なんて……」

 

「……あのくらいなら、何とかなる。他のパーティが狙ってる獲物を横取りすればいい」

 

「でもよぉ、もう協会の連中に睨まれてるぜ。また謹慎食らったりしたら」

 

「うるせぇな! じゃあ他に手があんのかよ!」

 

「それは……ねえけど……」

 

 スカイフォックスは酒呑会――関東一円を支配するヤクザ、吹場組とつながりのあるギルドの下部パーティである。

 

 数年前までただのチンピラだった彼らは、酒呑会の構成員に誘われて探索者になった。

 装備も貸してもらい、探索者として金を稼げるようになった。

 

 しかし少し時間が経つと、酒呑会の構成員は態度を豹変させた。

 

 スカイフォックスの青年たちが借りていた装備や資金は、利子も込みで酒呑会に対する多額の負債を作り上げていたのだ。

 

 それ以来スカイフォックスはあの手この手で必死に金を稼いでは、酒呑会に上納するだけの存在と化している。

 

「この前のダッシュイーターさえ倒せてりゃあな……」

 

 一人がぽつりと呟く。

 以前雪姫と日花が倒したダッシュイーター。あれを育てたのは彼らだった。しかし狩り時を見誤り、自分たちがやられてしまった。

 

「知ってるか? あのダッシュイーター、例のガキ……ヒバナが倒したらしい」

 

「何だと!?」

 

「他の有名なダンジョン配信者と一緒にな。すっかり有名人だ。それに引き換え俺たちは……」

 

「……くそ、どうしてこんなことに……」

 

 ヤクザに借金を取り立てられ、路地裏でボコボコにされて転がる自分たち。

 対照的に光輝く道を歩むダンジョン配信者の少女。

 

 その格差にスカイフォックスの面々は絶望し……やがて、憎しみの炎を燃やし始める。

 

「許せねえ」

 

「ああ。最初にやり合った時もそうだ。俺たちを踏み台にしやがって、あのクソガキぃ……!」

 

「やり返してやる」

 

「でもよぉ、どうすればいいんだ? あいつ、もう白竜の牙に入っちまったんだろ? 準構成員だけど、手なんか出せねえよ」

 

「それは……」

 

 しかし悲しいことに、彼らの頭では復讐の手立ても思いつかない。

 

 警察には一度捕まったし、日花はあの酒呑会すらかなわない白竜の牙の準構成員。とてもじゃないが手出しはできない。

 

「何かあのガキに仕返しできるような手はねぇかなあ……」

 

 彼らの呟きは他の誰に聞かれることもなく、路地裏に消えていった。

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