超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡   作:山田センチュリー

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高峰南波/一方その頃

 俺は慌てて頭を下げた。

 

「お兄さんにはお世話になっています! いつもよくしていただいて!」

 

「……」

 

「あ、あの……」

 

 じっと俺を凝視する高峰さん――だとややこしいな。南波さん。

 南波さんはこんなことを尋ねてきた。

 

「武器を作るの? <魔樹の枯れ枝>は杖の材料になるものね」

 

「あ、は、はい」

 

「ガーディアンボスとの戦いのため?」

 

「そ、そうです」

 

 配信を見てくれているのか? いや、でも最近は俺についてまとめたネットニュースなんかも(俺に無断で)出回っているので判断がつかないな。

 

「そう……」

 

 何か考え込んでいるような雰囲気の南波さん。何だ? 俺は何かやったのか?

 あ、もしかして……そういうことか?

 

「あの、私、頑張ります!」

 

「え?」

 

「頼りないとは思いますけど……私たちなりに全力でやります。白竜の牙の看板に泥は塗らないので安心してください!」

 

 俺もヒバナも白竜の牙の準構成員。

 

 そして白竜の牙は、その強さと規律正しい振る舞いで探索者たちのモラルを保つ存在。そのため舐められるわけにはいかない。

 白竜の牙が侮られれば、ダンジョン内の治安は一気に悪くなる。

 

 俺とヒバナは見た目的には子どものコンビ。加えて俺はダンジョン初心者だ。

 準構成員とはいえ、白竜の牙所属の俺とヒバナが衆目の前で情けない姿を見せないか――南波さんはそれが心配なんじゃないだろうか。

 

「…………はぁ~」

 

 溜め息を吐かれた!?

 

「や、やっぱり不安ですよね……」

 

「違うわよ。悪かったわね、目の前で黙り込んだりして。個人的なことを考えていただけ」

 

「個人的なこと?」

 

「それはあなたたちが兄さんの――」

 

「? 高峰さんがどうかしたんですか?」

 

「……何でもない」

 

 どこか不機嫌そうに視線を逸らす南波さん。そう言われると気になるんだが……

 南波さんは俺が手に持っている素材アイテムを見ると、こんなことを言った。

 

「作ろうとしているのは<専心の杖>?」

 

「そうです。すごいですね、素材アイテムを見ただけでわかるなんて」

 

「……まあ、ギルドの後輩から武器作りの相談されることも多いから。いいと思うわ。あの武器かなりいい性能だものね。ただ……<専心の杖>の次は考えてる?」

 

「いえ、まだそこまでは」

 

 南波さんは自分のスマホを操作し、協会の錬金リストを表示させた。

 

「<専心の杖>をさらに素材にすることで、もう一段階上の杖が作れるわ。アイテムがさらに必要になるけど、Dランクダンジョン以下の素材で全部揃うはず。DPに余裕があるなら試してみたら?」

 

 確かにこれならDランクダンジョン以下の素材でより上位の杖が作れる。

 

 DPも問題ない。

 何だかんだこれまでほとんどモンスターからドロップした素材を溜め込んでいるからな。DPに関してはわりと余裕があるのだ。

 

「ありがとうございます。……でも、どうしてこんなに優しくしてくれるんですか?」

 

「プレッシャーを与えちゃったみたいだから、そのお詫び。深い意味はないわ。それに私がこれを黙っていたせいであなたたちが負けたりしたら、寝覚めが悪いじゃない」

 

「……」

 

「何?」

 

「いえ、高峰さんと似てるなあと……南波さんってすごく優しいですよね」

 

 一見愛想が悪いようにも見えるが、世話焼きの気配を感じる。後輩から武器の相談をされると言っていたし、ギルドでは頼りにされているんじゃないだろうか。

 

「な、何言ってるのよ。似てなんかないわ。だいたい嬉しくないのよ、あんな人たらしの兄さんと似てるって言われても」

 

 否定しつつも少し嬉しそうな南波さん。

 この人さては高峰さんのこと大好きだな?

 俺が生温かい気持ちになっていると、「それじゃあね!」と早歩きで去っていった。

 

 予想外のことはあったが……せっかく教えてもらったことだし、作ってみるか。

 

 俺は必要な素材を買い、錬金室へと向かうのだった。

 

 

 

 

「例の件ですよね。お待たせしてしまってごめんなさい! もう少しで集まりそうなんですけど……」

 

 ダンジョン配信者のヒバナ――赤羽日花(にちか)は自室でスマホ越しにそんなことを言う。

 通話相手は日花にとって重要な“取引先”だ。

 

「え? いえいえ、大丈夫です! ほとんど目標数に届いてますし、あとは<白銀魔鉱>くらいですから!」

 

 日花は真摯な声で告げた。

 

「この件は絶対にあたしがやります。……そうでないと駄目なんです」

 

 通話が終わる。

 日花はスマホを机に置き、視線を壁に向けた。そこにはカレンダーがかけられている。

 

「絶対に間に合わせてみせるからね」

 

 ――夏が終わるまでに。

 

 日花は口の中だけでそう呟いた。

 

 

 

 

「お、いるじゃねぇか~。よし、ここ撃て!」

 

『わかった』

 

 ドシュッ!

 

『ギィイイイ!』

 

「よーしよし。ドロップアイテムもちゃんと落としたな」

 

 木の幹に擬態していたトカゲ型モンスター、“ジュエルレオン”が遠くから飛んできた銃弾によって倒れる。

 

 そのドロップアイテムを拾いつつ、探索者ギルド酒呑会のリーダーである吹場座虎也は満足そうな笑みを浮かべた。

 

 現在座虎也は浅草にあるAランクダンジョンで、探索者協会の出している常設依頼をこなしていた。

 

 ジュエルレオンからは有用な鉱石アイテムが採れるので需要があるが、擬態能力があるため見つけるのは至難。

 ダンジョンのランクの高さもあり、誰も受けない依頼と化している。

 

 父の飛宗から「協会の好感度稼ぎをしておけ」と指示された座虎也は、こうしてその指示をまっとうしているのだった。

 

「普段だったら絶対にやりたくねえような依頼だが、今日に限っては楽なもんだな。……あ、いたいた」

 

 座虎也は再度見つけたジュエルレオンに対して指輪型マジックアイテムを向ける。

 

 これは指を向けた先に特殊な光を発するものだ。

 この光は対となるコンタクト型マジックアイテムを着けた者にのみ見える。

 これで座虎也は遠距離にいるナイトバナードの青年に狙撃の的を教えているのだ。

 

 青年はライフル型マジックアイテムでの狙撃が戦闘スタイルらしく、先ほどから凄まじい命中率を見せている。座虎也は単に的を示すくらいしかしていない。

 

 ちなみに二人が離れて行動しているのは、座虎也とナイトバナードの青年にかかわりがあるとバレたらまずいからである。

 青年はナイトバナードの中で顔が割れていないらしいが、用心に越したことはない。

 

『ギャウ!』

 

 ジュエルレオンがまた倒れる。

 再度鉱石アイテムがドロップ。

 

「はははははははははははははは! いやぁ、本当に楽でたまんねぇな! おいおい、こんなに大量の“星屑”を持って戻ったら協会職員たちは腰を抜かすんじゃねぇか!?」

 

 思わず笑いが出てしまう座虎也。

 普段こちらを警戒している協会職員が自分にペコペコと頭を下げる姿を想像すると、最高の気分になる。

 

 インカムからナイトバナードの青年の声が聞こえてきた。

 

『吹場座虎也。一つ気になることがある』

 

「ん? 何だよ」

 

『実際にモンスターを倒しているのは俺であって、お前ではない。どうしてお前はそんなに誇らしげなんだ?』

 

 嫌味でも何でもなく、純粋に不思議そうな声だった。

 

 ピキッ、と座虎也のこめかみが鳴る。

 

「あのな、いい気分なんだから水を差すんじゃねえ」

 

 うっかり二人でいるところを見られた場合、青年は座虎也の部下という説明をすることになっている。

 そのため以前のピンク髪の少女の時とは違い、座虎也は青年とのやり取りに敬語を使っていない。

 

『しかし理解できない。虚しくないのか? ジュエルレオンは逃げ足こそ異常に速いが、戦闘力はほとんどない。近くに行って探すくらいのことはFランクの探索者でもできるぞ』

 

「……」

 

『実力以上の評価を受ければいつか恥をかくことになる。見栄は張らないほうがいい』

 

「……喧嘩売ってんのか?」

 

『? すまない、よくわからない。ただ気になったから尋ねただけだ』

 

「人には突っ込まれたくない事情があるんだよ」

 

『それもよくわからない。事情があったとしても身の丈に合わない成果を求めるのは長期的に見てメリットとデメリットの釣り合いが取れない』

 

 ブチッ。

 

 座虎也はインカムの先に伝わるように怒鳴った。

 

「デリカシーとオブラートってもんがこの世界にはあってなァ! 正論並べてればいいと思うなよこのノンデリAI野郎!」

 

(くそ、どうしてあの組織の連中はまともじゃねえやつばっかりなんだ!)

 

 腕は立つが、扱いにくい。

 

 座虎也はナイトバナードについてそんな印象を強固にするのだった。

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