超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡 作:山田センチュリー
あれほど暴れ回っていた翼竜の姿は完全に消滅している。
「雪姫ちゃーん!」
「わわっ」
「やったよ、勝ったー! やったやったやったぁあああああー!!」
「わぁあああ」
こっちに走ってきて、俺を抱き上げてくるくる回るヒバナ。今までで一番というくらいの大喜びだ。
〔うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!〕
〔すげえええええええええええええ!?〕
〔え? 倒した!? マジ!?〕
〔あれで勝てるのかよ!〕
〔うっそだろ……!?〕
〔なんであの相性最悪のガーディアンボス相手に勝てるんだよwwwwwwww〕
〔神すぎ!〕
〔最高のものを見てしまった……〕
〔これだからこの二人の配信はやめられねぇんだ〕
〔888888888888888888888〕
〔ばなちゃん最強! 雪姫ちゃん最強! ばなちゃん最強! 雪姫ちゃん最強!!〕
〔またも神回〕
〔約束された勝利〕
〔魔法少女コンビ最高!!〕
〔見どころしかなかった〕
〔同接五十万人とかとんでもない人数が見に来てて草ァ!〕
〔コメントが速すぎて読めねー!〕
〔ゴルチャ祭りだああああああああああ!〕
とんでもない勢いで流れていくコメント欄。あれだけ不利な状況からのまさかの逆転勝利なんだからそれも無理はないだろう。
「というかヒバナさん、最後のあれは一体何だったんですか?」
「【バーンエンブレム】のこと? えっとね、敵にこう、べちっと魔力のシールみたいなものを貼って、それを好きなタイミングで爆発させられるってやつ」
「遠隔操作の爆弾みたいなものですか。……あ、もしかして最初にボスに張り付いていた時にそれを?」
「そう! あれがあったから、目を閉じて【バーンエンブレム】の位置を探ったんだ~。自分の魔力だったら何となく位置はわかるからね!」
なるほど。
……多分だけど普通はできないなこれ。魔力の位置が知覚できたとしても、蹴りのタイミングを合わせるのは結局自分なわけで。
ヒバナの驚異的な身体能力があってこその離れ業だろう。
「雪姫ちゃんこそすごかったよ! ものすっごい吹雪で火山を冷やしたんでしょ!? あれでボスの炎のバリアがなくなったもん!」
「そうですね。本気の本気で思いっきり【フロスト】を撃ちました。ただ奥の手も全部使っちゃったので、あれで駄目だったら大変なことになってましたね……」
「あはは、何とかなってよかったね。でもやっぱり雪姫ちゃんはすごいなー。あたしだけだったらどうしようもなかったよ」
〔聞いてる限りどっちもやってることヤバいんだよなぁ……〕
〔ふむふむ。つまり魔力と身体能力の暴力で叩き潰したってことだな!〕
〔普段の可愛さとのギャップ大きすぎない?〕
〔Eランクにいていい強さじゃないんだよなあ〕
〔一芸が強すぎてたまんねぇんだ〕
「それにしても強かった~。最後のあれ、速すぎじゃない!?」
「私、もう目で追えませんでしたよ。最初にヒバナさんが抱えて飛んでくれなかったらやられてたと思います」
「えへへー。雪姫ちゃん、ってことは? ってことは?」
期待のこもった眼差しでじっと俺を見てくるヒバナ。
まったく……仕方ないな。
「……すごかったですよ。よしよし」
「わーい! 雪姫ちゃんに撫でられちゃった~!」
「何でそんなに撫でられるのが好きなんですか、もう」
〔ぎゃああああかわいいいいいいいいいい〕
〔雪姫ちゃんに撫でられたいばなちゃん、あまりにも小型犬でかわいい〕
〔それで仕方ないなあもう、みたいになってる雪姫ちゃんも可愛いんだよなこれが〕
〔どっち見てもかわいい〕
〔っていうかバトルとの落差すごすぎるだろwwww〕
〔温度差で風邪ひくって!〕
〔シームレスにいちゃいちゃにつながるのがほんま最高〕
〔今日もキマシタワー建築業者は大忙し〕
「それじゃあさっそく戦利品の確認をしますか?」
「いいねいいねっ! どんなアイテムが――」
ヒバナが言いかけた時だった。
ヒバナの目の前に、光る球体が浮かび上がった。
あ、これもしかして!
「何これ? 何かが光ってる……?」
「ヒバナさん、それに触れてみてください」
「ええー?」
「いいですからっ」
「う、うん。雪姫ちゃんが慌てた顔するの珍しいね。それじゃ――」
ヒバナが触れた途端、光の球が弾けた。
光が収まった時、そこにいたのはこれまでとは違った装備品に身を包んだヒバナ。
やっぱりそうだ。あの光る球体に見覚えがあると思ったんだよな。
「あれ、服が変わってる?」
「ヒバナさん、おめでとうございます。それ、ユニーク装備ですよ!」
「えっ!?」
ヒバナは目を見開いて固まった。
〔ユニーク装備キタァアアアアアアアアアアアアアアアア!〕
〔これこれこれこれこれ! これが見たくて来たまである!〕
〔ばなちゃんおめでとう!〕
〔やったあああああああああ!〕
〔うおおおおおおおおおおお!〕
〔マジか!〕
〔最高じゃねーか!〕
〔盛り上がってきたァアアアアアアア!!〕
〔どんな効果!?〕
〔いやまずは全身じっくり見るのが先だろ!〕
〔めっちゃ似合ってるー!〕
すでに爆速で流れていたコメント欄がさらなる加速を見せた。ゴールドチャットが飛びまくる様子は目が痛くなってくるほどだ。
ヒバナが纏っている装備品は三つ。
右手のみの
「ユニーク装備……ぬ、脱ぐ!」
「ヒバナさん!?」
「だって悪いよー! 雪姫ちゃんと一緒に倒したのにあたしが勝手に取るなんて、ズルくない!? あたしそういうの駄目だと思う!」
本気で困っている様子のヒバナ。義理堅すぎないか?
「ユニーク装備はそういうものですから、これでいいんです! 倒したパーティの誰かにランダムドロップ、恨みっこなしです。それに私はこの薄氷シリーズがありますから」
「うー……本当にいいの?」
「いいんです。それが普通です」
「…………わかった。でも、他のドロップアイテムは全部雪姫ちゃんが持っていってね」
「わかりました、それでヒバナさんの気が済むなら」
〔ばなちゃん頑固だなーww〕
〔これも可愛いとこ〕
〔自分のところにドロップしたら喜んでいいんだけどなぁ〕
〔ユニーク装備着て動いてるところ見せてほしい!〕
「ユニーク装備を着て動いているところ……こんな感じかな?」
ヒバナはその場でパンチ一発、後ろ回し蹴り、さらにはバック宙からのハイキックを決める。
しれっとやってるけど動きのキレすごいな。
「動きやすーい! っていうか軽い! あたしの普段の装備より全然軽いよ!」
〔ばなちゃんかっけぇえええええええええええ〕
〔パンチと蹴りのキレがもう戦隊ヒーローのそれなのよ〕
〔子供の頃のワクワク感〕
〔ってか軽いのか。ガントレット結構しっかりしてるけどな〕
〔重さに関してはばなちゃんの普段の装備が重すぎとかいう説がある〕
〔爆発の自傷ダメージを抑えるためにグローブとブーツがめっちゃ分厚いんだっけ〕
何だか気になるコメントがあるな。
「ヒバナさんの普段の装備って結構重いんですか?」
「重いねー……爆発魔術って自分にもダメージがきちゃうから、それを防ぐために靴とか手袋とかすっごい頑丈で重いの。おかげでジャンプとかしにくくって」
「…………え……?」
ジャンプしにくいって……だってヒバナ、崖を上った時に俺を背負って多段ジャンプを……え? 俺がおかしいのか?
〔雪姫ちゃんが絶句しておられる〕
〔普段の我々の気持ちが少しはおわかりいただけたかな?〕
〔普段のばなちゃんは重りを着けた状態のロック・〇ーだったのさ!〕
〔もしくはターバンとマントをつけている時のピッ〇ロさん〕
〔平成アニメのたとえはこの子たちにはわからんぞ〕
〔三十代オタクを〇すコメントしてるやついて草〕
この件は深く考えないことにしよう。身体能力面で自分との差を感じて悲しくなりそうだし。
その後はドロップアイテムの確認。
落ちているのは大量の素材アイテムとレアっぽい鉱石、さらには瓶詰めの灰のようなもの。効果を視聴者に聞いてみると、なかなか便利そうだった。
「雪姫ちゃん持ちきれる?」
「無理そうですね……マジックポーチに入りきりません。ヒバナさん、やっぱり少しもらってくれませんか?」
「駄目だよ、これは雪姫ちゃんのぶん。これでもユニーク装備とは釣り合わないくらいなんだから。雪姫ちゃんが持てないぶんはあたしが運んで、協会に着いたら返すね」
「わかりました」
探索者協会には素材アイテムを預かるサービスがある。地下が倉庫になっているのだ。探索者のランクによって貸し出されるスペースは変わってくるが、少し前に<スノータイトの封唱杖>を作るため溜まっていた素材を処分したばかりなので場所は空いている。
ユニーク装備を見せて、ドロップアイテムのチェックも済んだ。
「さて、今日はこんなところでしょうか?」
「だね! いやー、すっごい楽しかったな~!」
「ふふ、私もです」
……あ、思い出した。
「そういえばヒバナさん、何か告知することがあると言っていませんでしたか?」
レア採掘スポットの件でそんな流れがあったような。
ヒバナは何かしらの目的で鉱石を集めていて、それが今日の<白銀魔鉱>で完了したとか何とか。
「あ、そうだった! 今日は配信枠立ててるのお父さんだし、できる……けど、いいのかなあ?」
「いいと思いますよ。視聴者さんも多いですから、むしろチャンスじゃないですか」
「わかった。それじゃ、今やっちゃおっかな」
〔マジ?〕
〔おおおおおおおおお〕
〔ようやくか!〕
〔同接五十万だからなあ。これ以上の告知タイミングもないよな〕
〔めちゃめちゃ気になってたー!〕
ヒバナの視聴者は相当知りたかったようで、告知の内容を待ち望むコメントが滝のように流れる。
「えーっと、ごほん。知らない人も多いと思うんですけど、あたしはここ最近、ずっと鉱石なんかを集めていました。夏休みに入って配信でもやるようになりましたけど……本当はもっとずっと前からやってたんです。この横浜中華街ダンジョンに通っているのもこれが理由です。ここは炎の力を持った素材アイテムが手に入りやすいから。それらを使ってあたしはあるものをたくさん、たくさん作りました。それが“これ”です」
今日の配信枠の操作をしているヒバナのお父さんが画像を出す。
中心には人生のどこかで誰もが見たことのある、夏の風物詩が描かれている。
夜空を彩る大輪の炎。
花火。
……え? 花火?
ヒバナは拳を突き上げて宣言した。
「――というわけで、今まであたしが集めていたのは全部打ち上げ花火の材料です! これを使ってダンジョンの中で“花火大会”をしまーす!」
〔花火!?!?〕
〔え、そんなもん作れんの?〕
〔ダンジョン内での花火大会ってこと!?〕
〔前代未聞すぎるwwww〕
〔世界初じゃないかそれ!?〕
「ひ、ヒバナさん。世界初ってコメントがありますけどそれは」
「うん、なんかそうみたい。色々ダンジョン用のアイテムを作ってる会社の人にお願いして、作り方を考えてもらったんだ~。“エルテック”っていう会社なんだけど」
「げっほげほげほっ!」
めっちゃ有名な企業の名前が飛び出してきた! 俺でも知ってる!
「今回のイベントがうまくいったら世界中にも輸出するとかで、なんかすっごい期待してくれてるんだよね。だから準備頑張っちゃった! 素材アイテムも向こうが用意するって言ってくれてたんだけど、今回はどうしても自分で頑張りたくて」
〔エルテックぅ!?〕
〔日本一のダンジョン関連企業じゃねーか!!!!〕
〔国産ダンジョン用スマホの最大手だぞ……!? ドローンもシェアとんでもなかったはず〕
〔待ってくれよ! 頭がついていかねーよ! ガーディアンボスの戦いがかすんでくるって!〕
〔告知内容が思ってた数倍とんでもなかった件〕
〔よくこれ今まで隠し続けたな!?〕
「ヒバナさんの行動力、すごいですね……」
「そう? 普通に電話かけただけだけどね。そしたら向こうがあたしの配信を見たことがあったみたいで、お父さんと一緒にエルテックの本社に行って、色々相談して、あとはなんかあっさり。ダンジョン配信やっててよかったなー」
十二歳……だよな……?
ダンジョン業界で日本一の企業に根回しもなく電話かけて企画通すって……ええ……?
一方でヒバナは安心したような顔で、「みんな興味持ってくれてよかった~!」と呑気なことを言っている。
「あ、探索者協会には許可もらってるから安心してね。場所はこの横浜中華街ダンジョン、一番大きい湖のほとり! 実際に来てもらってもいいし、配信はするからそれを見てもらってもおっけー! 詳しい日程なんかはまた後でTwisterに上げます! みんなで最高の夏の思い出を作ろーっ!」
屈託のない顔でそんなことを言うヒバナ。
多分俺と視聴者は全員同じことを思っていたと思う。
……この子、将来は絶対大物になるわ。