超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡   作:山田センチュリー

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撮影会?

 花火大会当日。

 水鏡さんが運転する車によって、俺たちは横浜中華街ダンジョンへとやってきた。

 おお……

 

「人が多いですね」

 

「それだけ日花様の主催する花火大会に期待が集まっているということでしょうね」

 

 ダンジョンゲートの列が普段の何倍も長い。某テーマパークのアトラクションみたいになってるぞ。

 これだけ盛り上がってるとなると、今日ヒバナと話をする時間はないかもしれないな。

 

 ちなみにヒバナとの固定パーティの件は須々木崎邸の面々、リーテルシア様で話し合った結果、満場一致でOKということになった。

 ヒバナの抱えている事情がわかったからな。

 茜も反対はしなかった。

 

 列に並んでいる間、隣の水鏡さんに話しかける。

 

「今日は水鏡さんもダンジョンの中に一緒に来てくれるんですよね」

 

「そうですね。ここまで人が多いと、一度雪姫様と離れた後に合流するのが大変ですから。その間に何かトラブルがないとも限りませんし。窮屈かもしれませんが、ご容赦を」

 

「? 窮屈なんて思いませんよ。水鏡さんと一緒にいられて嬉しいです」

 

 なんせSランク探索者の護衛である。横浜中華街ダンジョンでの安全は完璧に確保されたと言っていいだろう。

 

「(……この方は素でこのように可愛らしいことを? なんという無防備で愛らしい笑顔……本当に元は男性だったのでしょうか……?)」

 

「水鏡さん?」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 たびたび水鏡さんの中で何かが揺らいでいる気配を感じる。俺にとって不本意なことでないといいんだが……

 

 なんて話している間に順番が来たのでゲートに触れてダンジョンに入る。

 

「あ、今回は水鏡さんの服がくのいちじゃないですね」

 

「普段着のメイド服も用意しております。前回は特別な状況でしたので」

 

「う、うーん……まあ普段着ですよね、水鏡さんの」

 

 今回の服装は俺が道中用装備、水鏡さんが地上とほぼ同じデザインのメイド服となっている。

 普通なら気になるところかもしれないが、ぶっちゃけ俺はもう隣にメイドさんがいる状況に慣れているので問題ない。

 

 しばらく歩いて花火大会の開催地である湖にたどり着く。

 

 人、多いな!

 ここまでの道中も大勢の探索者を見かけたが、ここほどじゃなかったぞ。

 

「本当の花火大会みたいですね……」

 

「そうですね。千人以上はいるでしょうか……私もここまで探索者が一か所に集まっているのを見るのは初めてです」

 

 水鏡さんも驚いている。

 

 普通探索者というのは、同業者が多いダンジョンは避ける。獲物の取り合いになるからだ。日本は世界的に見てもダンジョンの数が多いらしいので、ダンジョン一つあたりの探索者の数は少なくなりやすい。

 

 そんな中これだけの人が集まるということは、それだけ今回のイベントが期待されている証拠だろう。

 

 さて、ヒバナに挨拶くらいはしたいところだがどこにいるんだろう。

 

「あの、ダンジョン配信者の雪姫さんですか!?」

 

「え?」

 

「僕、雪姫さんの大ファンで……一緒に写真撮っていただけませんか!?」

 

 若い男性が緊張した様子で話しかけてきた。

 ファン? 写真? そんな芸能人じゃあるまいし。

 

 

『アイツ行きやがった!』

 

『くそ、先を越された……! 俺も行くぞ!』

 

『ああ! 近くに行けば雪姫ちゃんの匂いだって嗅げるかもしれねぇ!』

 

『雪姫ちゃんの生声! 雪姫ちゃんの生声!』

 

『小さいおててと握手がしてぇよ!』

 

『野郎ども、仮面を被れ! 忘れるな、変態コメントはPCの中だけ! 実際の俺らは紳士! 雪姫ちゃんに髪の毛一筋ほどでも嫌な思いをさせたやつは――』

 

『『『死刑! 死刑! 死刑!』』』

 

『よし行くぞぉおおおおおお!』

 

『『『よっしゃあああああああああああああ!!』』』

 

 

 うおお、俺のところに人が集まり始めた!

 

「ええと、本当に私の……ファンなんですか?」

 

「はい! 毎回配信を楽しみにしてて、いつも元気をもらってます!」

 

「……あ、あはは、そうですか」

 

 ……どうしよう。ちょっと嬉しくて困る。

 

 いや、登録者が多いのは自覚してるし、こういう人もいるんだとは思ってたが……実際に目の前に来られると実感できるというか。

 

 

『『『ぐぁあああああああ照れ笑いが天使すぎる――――ッッ!』』』

 

『これが……生の雪姫ちゃん……!?』

 

『もうこれで終わってもいい』

 

『幸せのオーバードーズだ……』

 

『う、うろたえるなお前たち! 落ち着いて雪姫ちゃんが喜びそうなお盆休みの旅行計画を立てるんだ! 海外でも構わない!』

 

『お前も落ち着け! 家族サービスに全力なお父さんみたいになってるぞ!』

 

 

 なんかさっきからうるさい連中がいるな。

 まあ、写真くらいいいか。どうせ顔出しで配信してるんだし今さらだ。

 

 水鏡さんにカメラマンをお願いして写真を撮る。

 すると次の人が来て、また撮る。撮る、撮る、撮る……

 どうしよう。

 全然終わらないんだけど。

 

「あ、あの……そろそろ私、あの……」

 

「わあ、本物の雪姫さんに会えるなんて……! 私北海道から来てて、もしかしたら雪姫さんに会えるかもって期待してて……! 本当に可愛いですね!」

 

「……可愛いって言わないでください」

 

「きゃーっ! 実際に『可愛いって言わないで』が聞けるなんて! 本当にありがとうございますっ! あ、写真お願いします!」

 

 くそ、遠くから来たなんて言われたら断れない!

 これが変態発言を連発する視聴者ならともかく、健全な視聴者っぽいからなあ……適当にあしらうのも申し訳ないし……

 

 なんて思っていると次の人が目の前に来る。

 

「次はあたしと写真お願いしまーす!」

 

「うう……わ、わかりました――ってヒバナさん!?」

 

「あはは、すっごい人だかりができてたから気になって見に来たんだ~。こんにちは、雪姫ちゃん! 来てくれて嬉しい!」

 

 やってきたのはヒバナだった。

 どうやら花火大会の準備中に俺を見つけ、こっそり撮影会の列に紛れ込んでいたらしい。

 

「ほらほら雪姫ちゃん、はいチーズっ。いぇーい!」

 

「い、いぇーい……」

 

 ヒバナは俺の腕に抱き着くと、自撮りで俺とのツーショットを自分のダンジョン用スマホで撮る。

 

 距離が近いなー。

 懐いてもらって嬉しいけど、あんまりくっつかれると風呂のことを思い出してしまいそうになるのが困る……

 

 

『サプライズ魔法少女コンビのいちゃいちゃツーショ……だと……!?』

 

『俺たちが行っていいのか? あの花園に』

 

『無理だッッ……近づけねえ! 尊さのバリアが突破できねえよ!』

 

 

 さっきから騒いでいる連中、遠くで一体何をしているんだろう。何を話しているかは聞こえないが、おそらく聞こえなくていいような気がする。

 

 何にしてもチャンスだ。ヒバナのことを利用させてもらおう。

 

「皆さんすみません! 実は私、ヒバナさんと約束してて! なので撮影会はこれで終わりにさせてください!」

 

「約束……? あ、そっか。……そうでーす! なので雪姫ちゃんはもらっていきます! ごめんなさい!」

 

 ヒバナは話を合わせてくれた。察しがいい。

 ファンだという人たちも快く俺たちを見送ってくれた。やれやれ。

 

 

『ばなちゃんが雪姫ちゃんを……もらっていく……?』

 

『閃きました』

 

『雪姫ちゃんとばなちゃんの結婚式SS書いていいかな。っていうか書くね』

 

 

 かすかに聞こえてきたこれらのコメントは忘れておこう。純粋な気持ちで花火大会を楽しむうえで支障が出るかもしれない。

 

 

 

 

 一台のバイクが夕暮れの道路を走っている。

 運転しているのは高峰北斗。

 その後ろには妹の南波が乗っている。

 

「……兄さんが私を遊びに誘うなんて珍しいと思ったら、結局いつものロリコンの発露だったのね」

 

「え? 何? ごめん南波、運転中は話しかけられても聞き取りにくくて」

 

「何でもないわよ」

 

 南波は不服そうに言ったが、ヘルメット越しのせいで北斗には伝わらなかった。

 

 二人が向かっているのは横浜中華街ダンジョンだ。

 ヒバナが企画したという花火大会に参加する予定である。

 

 北斗は白竜の牙の仕事で忙しく、ここのところ南波から外出に誘われてもなかなか付き合えなかった。だからこそ埋め合わせのつもりで北斗から提案した。

 

 南波は最初喜んだが、目的地を聞くとなぜか拗ねたような顔をしたのだ。

 

 結局一緒に向かっているのだから、本当に嫌というわけではないはずだが……

 

 聞こえやすいように大声で北斗は後ろの南波に声をかける。

 

「花火大会楽しみだね、南波!」

 

「そうね! 兄さんは小さい女の子を見るのが大好きだものね!」

 

「その言い方だと語弊がないかな!? 僕は単純に南波と楽しい時間を過ごしたいと――」

 

「ふん」

 

(む、難しい……!)

 

 北斗はがっくりと肩を落としながら、それでも花火が始まればきっと南波も機嫌を直してくれるだろうと信じることにして、今は運転に集中するのだった。

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