超火力TSダンジョン配信者【雪姫】の軌跡   作:山田センチュリー

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花火大会狂騒曲5

 暗い森の中を一つの影が駆けている。

 Sランク探索者、榊水鏡だ。

 

「――ッ!」

 

 ギィン!

 

 木々の合間を縫って飛んでくる弾丸を弾く。

 

 高峰兄妹に雪姫たちのことを任せ、水鏡は狙撃手を仕留めに向かっている。

 相手の居場所は弾丸の軌道からして中央火山の頂上付近。

 それはわかっている。

 

 だが、近づくにつれて弾丸の精度は上がっている。当然威力もだ。

 一度でも直撃を受ければ水鏡でも即死するだろう。

 

(武器はこちらにしておいて正解でしたか)

 

 水鏡が手に持っているのは<死蜂の小太刀>ではなく、汎用性の高い<魔祓いの短剣>。頑丈なうえ魔力でできたものに対し攻撃力が上がる性質がある。

 

 ダンッ! バンッ、ガンッ!

 

「……完全に狙いを私へと移しましたか」

 

 木陰に隠れて狙撃が止むのを待つ。

 

 夜の森の中だというのに狙撃手の攻撃は正確だ。おそらく視力に影響するスキルを持っているのだろう。とはいえ水鏡が撃たれている間は雪姫たちに狙撃が向くことはないので、それはそれで悪くない。

 

 水鏡の勝利条件は火山までたどり着くこと。

 接近戦では狙撃手に水鏡が負けることはまずない。

 

 だが――水鏡は楽観できない。

 

(相手はナイトバナード。テレシア・ヴァルデッドのこともありますが……そもそもSランク相当の探索者である以上、何らかの隠し玉はあるはず)

 

 Sランク探索者同士の戦いは“理不尽の押し付け合い”と言われる。

 

 あるいはダンジョン配信ファンの間では、“クソゲーじゃんけん”とも。

 

 これだけダンジョン探索が進む中、Sランク探索者は世界に七百人程度しかいないのだ。彼らは独自の戦闘スタイルを持ち、それを突き詰めている。

 

 Aランク探索者を一撃で葬るほどの、精密で高威力の狙撃。

 その程度が能力のすべてであるはずがない。

 

 ドウッ!

 

「――!?」

 

 水鏡の左手が弾け飛んだ。

 

 

 銃弾。

 ()()()()()()()

 

 

 水鏡が振り向くと、そこには鉛色の光があった。直径十センチ程度の円形だ。そこから銃弾が吐き出されてきたらしい。

 

(馬鹿な……!? 狙撃手は逆方向のはず!)

 

 咄嗟に隠れていた木の陰から出る。

 

 ドォンッ!

 

 銃声。弾丸が正面から飛んでくる。

 

 防がなくてはならない。水鏡が短剣を構えると、銃弾が途中で消失した。

 

「は……!? ッッ!」

 

 直後、今度は水鏡の左から背中を銃弾がかすめた。

 衝撃によって姿勢を崩す。

 

 また銃声。

 今度は二発連続して。

 

「――!」

 

 ガギンッ!

 

 片方は水鏡が短剣で防ぐが、もう一発は水鏡の足を貫いた。今度は斜め下からだ。もはや物理法則を完全に無視したような軌道。

 

 それだけではない。水鏡の行動を完璧に読んでいるかのように、動いた先に銃弾が追ってくるような感覚だった。

 

 視線を下に落とすと、そこには鉛色の小さな光が浮かんでいた。

 そこから銃弾が飛び出してきたのだ。

 

(この光……まさか、何らかの魔術? しかしこんな魔術は見たことがない!)

 

 気づけば水鏡は鉛色の光に取り囲まれていた。

 水鏡の足が止まったのを見計らったかのように。

 

 ドォン!

 

「……ッ、また!」

 

 正面から飛んできた銃弾が消失する。

 

 同時に水鏡を取り囲む鉛色の光の一つから銃弾が飛び出す。

 

 水鏡はそれをどうにかかわすが、その先には別の鉛色の光があった。銃弾はそこに吸い込まれ、さらに別の鉛色の光から飛び出してくる。それは水鏡に当たるまで止まることはない。

 

 発砲音が響き、さらに銃弾が六つ追加される。

 

 それらは鉛色の光から光へと行き交い、一秒で十数回も往復した。その軌道すべてが水鏡を貫通するものだった。

 

「~~~~~~~~~ッッ!」

 

 水鏡の魔力体は穴だらけになりもはや動くこともままならない。

 地面に倒れた水鏡の耳に、ゴトリ、という音が響く。

 鉛色の光が、銃弾ではなく缶のようなものを吐き出した。

 

 ――爆弾。

 

「くっ……!」

 

 水鏡はどうにかそれを弾き飛ばそうとしたが間に合わない。

 

 それはまばゆく輝くと――ドッガァアアアアアアン! と盛大な爆発を起こした。

 

 すでにボロボロだった水鏡は当然耐えられるはずもなく、その姿を霧散させる。

 

 後には静寂だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 それを見て。

 

(――なるほど。そういう能力ですか)

 

 やや離れた位置に潜んでいた水鏡の()()は、敵の持つ理不尽の正体を看破した。

 

 

 

 

 湖を囲む探索者たちが色とりどりの魔術、あるいは矢などの遠距離攻撃を行う。

 

『ガフッ――グォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

「渦槍、来るぞ!」

 

「全員タンクの陰に隠れろ! 後衛組は一発食らったら即リタイアもあり得るぞ!」

 

 ズガガガガガカガッ!!

 

 湖からいくつも伸びる渦槍が探索者たちを襲う。

 あまりの威力に全員無事とはいかないが、多くは生き延びている。

 

「ヒーラーいないか!?」

 

「ポーション足りねー! くそっ、こんなことになるなら装備品整えてくるんだった!」

 

「怪我人こっちこい、範囲回復かけるぞ! 暇してる壁役は詠唱中の俺を守ってくれ!」

 

「Bランク以上のやつどのくらいいる!? 特にリーダー経験のあるやつ、後衛の攻撃タイミング揃えるから声張ってくれ!」

 

 それにしても……

 

「みなさんすごいですね……何で急造チームであんなに上手に連携を取れるんでしょう……」

 

〔感心してる場合かwwww〕

〔雪姫ちゃん、ほとんどまともにパーティ組んだことないもんな……〕

〔実は強い野生モンスターと戦うために、そのへんの探索者と協力するのはよくあること〕

 

 配信用ドローンが俺の近くにいるらしく、俺の呟きへの反応がコメント欄に流れる。

 

 ――と。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

「わわわわわわっ」

 

 地響きが起こり、周囲の探索者がよろめく。渦亀が何かしたのではなく、震源地は後ろだ。つまり高峰さんたちのいる方向である。

 

 振り向くと、なんか神話の一ページみたいなことが起こっていた。

 

『『―――――――――!』』

 

 クジラのような巨大な泥の魚が二匹、地面や空中を縦横無尽に泳いでいる。

 魚見坂とかいう酒呑会のSランク探索者の魔術、あるいはスキルのようだ。

 

 それらが高峰さんに襲い掛かるが、高峰さんは剣を地面に突き刺し――ブンッッ! と勢いよく振るって、その風圧のみで泥の巨大魚を破壊。

 

 あえて抵抗を作ることで剣を振るう強さをブーストする。

 要はデコピンの威力を上げるやり方と同じだ。

 ……何でそんなちょっとした工夫でクジラ並みの大きさの怪物を消し飛ばせるんだろう。

 

〔ファ――――w〕

〔なんで剣の風圧でSランク探索者の魔術を叩き潰しているんですかねえ……〕

〔“最強”なのだった〕

〔まあ国内最上位ギルドのエースだしね? というか高峰北斗を多少抑えているだけ酒呑会の魚見坂が偉いっていうか……〕

 

「高峰えええええええええええ! てめぇ舐めてんのか!? 攻めもしねえでどういうつもりだ!?」

 

「さあ、どうだろうね。君も参加したらどうだい?」

 

「ふざけんな化け物が! 文太、何してやがる! ちゃんとやれ!」

 

 吹場座虎也はというと、遠くのほうでなんか喚いている。南波さんはスカイフォックスの攻撃を剣で叩き落としつつ、吹場座虎也のほうを警戒しているようだ。

 

 ……あっちは二人に任せておいて問題なさそうだな。

 

「高峰さんすごー……あたしたち、あんなに強くなれるのかな?」

 

 同じく後方の戦いを見ていたヒバナが言う。普通に無理では?

 俺たちは渦亀のほうに集中しよう。

 

「私たちも行きましょう、ヒバナさん!」

 

「うん!」

 

 ヒバナがダッシュで湖のほうに向かっていく。……ヒバナ、どうやって攻めるつもりなんだろう。

 

 とりあえず俺は【アイスアロー】でも撃っとくか。

 

 シュドッ!

 

「あんまりダメージが出ませんね……」

 

 <薄氷のドレス>の効果を使いたいところだが、渦亀の攻撃範囲と俺の射程はほぼ同じくらい。魔術が届くこの距離は、渦槍のカウンターが常にあり得る。

 そんな状況で<薄氷のドレス>を使ったら危険すぎる。

 

『ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

 やべ、渦槍が飛んでくる!

 

「うわわわわわわ」

 

 湖の水を使っているからか相当槍は伸びてくる。高峰さんがかけてくれた自動防御は今回“銃による狙撃”のみが対象とのことで、魔術は自力で避けないといけない。

 

 ガーベラがいてくれればもっと腰を据えて攻撃できるんだがなぁ……いや、今はそんなことを考えていても仕方ない。

 

 ――と。

 

「【ハードディフェンス】!」

 

「雪姫ちゃんには傷一つつけさせねえぞ!」

 

 ズガッ!

 

 駆け寄ってきた盾持ち探索者たちが俺を庇って立ちはだかった。渦の槍は盾に阻まれて俺まで届かない。

 

「大丈夫かい、雪姫ちゃん!」

 

「は、はい! 助けてくれてありがとうございます!」

 

「いいっていいって。っていうか俺、雪姫ちゃんの大ファンなんだ……! 一緒に戦えて超嬉しい!」

 

「さっきの演説かっこ――可愛かったぜ!」

 

「ああ! あれはかっこ――可愛かった!」

 

「言いかけてますよね? 『かっこいい』って言いかけてますよね!? 何で『可愛い』に言い直すんですか!」

 

「「本物だぁあああああああ!」」

 

 ハイタッチして喜ぶ盾持ち二人。何なんだこいつら! 頼もしいと思ったさっきの俺の感動を返してほしい!

 

〔羨ましいぃいいいいいいいいい!〕

〔現地行っとけば今頃雪姫ちゃんと一緒に戦えたのか!?〕

〔マジかよ一生の不覚ッ……!〕

〔あんな表情ころころ変わるド級の美少女を守って感謝されるとか、もう今世でこれ以上の幸せ訪れないレベル〕

 

 配信用ドローンが俺のそばに居座っているせいでコメント欄が完全に普段の俺の配信と化している。恥ずかしいからやめてくれないかな。

 

「いっくよー!」

 

 ドンッッ!

 

 ヒバナのブーツが輝き、靴底から爆発が起こる。その勢いで湖の上を飛び、渦亀へと向かう。

 

『ガァッ!』

 

 渦亀が長い首を振るってヒバナを叩き落そうとするが……

 

「ほいっ」

 

 ドパンッ! ドンッ、ドンッッ!

 

 ヒバナがさらに空中で靴から爆発を放ち方向転換。

 鋭い動きで避けてから三度目の爆発。

 勢いよく渦亀に近付くと器用に回し蹴りを放った。

 蹴りの時にも爆発が起き、渦亀の巨体がわずかに揺らぐ。

 

「かったぁー!? このモンスター、耐久すごっ!」

 

『ガアアアアアアアアアアア!』

 

「わわっ!?」

 

 渦亀が怒りに任せて首を振るう。ヒバナは慌てて靴底から連続で爆発を放ち、俺の近くまで戻ってくる。

 

〔なんだ今の!?〕

〔!?!?!?〕

〔動きが人間やめ過ぎだろwwww〕

〔ばなちゃんの【ボムグリーブ】って、片足につき一回じゃなかったか!?〕

〔っていうか詠唱してなかっただろ〕

 

「ヒバナさん、今のって……」

 

「ユニーク装備の効果! <星炎(せいえん)のブーツ>っていって、事前にチャージすると十二回まで【ボムグリーブ】が無詠唱で使えるんだ~。使い切ったら再チャージしないといけないけどね」

 

「ちょっ!」

 

 あっさり言ったな!? ユニーク装備の効果って普通言わないものだったはずだろ!

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