この宇宙は広い。
地上から沢山の星々が見えるのに、手を伸ばしても届かない。宇宙船を飛ばしても、光を照らしても、何年もかかる。それこそ、人の寿命を超える年数が経過しても。
何があるのか、それは誰にも分からない。
もしかしたら宇宙人や宇宙生物がいるのでは、と言われる事もある。
もしも、その生物が地球に来たら……?
此処は大きなビルが立ち並ぶ大都市。
コンクリートや金属の木々が立ち並ぶコンクリートジャングル、道路では沢山の人が行き交い、車と電車が絶える事無く動き続ける。空では飛行機が多く飛んでおり、町の賑わいが分かる。現在平日の昼間であるが、それでも様々な人が歩いている。正に人々が想像する一般的な「都市」の様相を呈している。
だが、その都市ではある異常が起きている。
都市のビルが幾つも崩れており、煙と火を上げて空を赤い火と煙で染めていく。
自動車や電車があちらこちらに転がっており、原型を留める事無く破壊されている。中には建物に突っ込んでいるものまである。
航空機が墜落しており、大きな翼もコックピットも粉々に破壊されている。
あまりにも異常な状況。
一体何が起きているのか。
その答えは、直ぐ近くに“歩いていた”。
グオオオオオオオォォォォォォォォ!!
“歩く”という表現から分かるかもしれないが、この異常を引き起こした原因は“生物”だ。だが、これ程巨大な生物は地球に存在しない。その姿は地球に存在する生物に当てはまる種はいない。
その理由は簡単だ。
その生物は宇宙から来た生物だからだ。
二本の銀色の角。
腕から生える刃。
赤い鎧のような甲殻。
背中から生えている多数の棘。
槍のような尾。
顔つきは、凶暴そうな犬を彷彿とさせる。
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
その生物の名は、「ヘルベロス」。
宇宙に名を馳せる、非常に凶悪な巨大生物。
いや、これ程の巨大生物はむしろ、
“怪獣”と呼ぶべき存在だろう。
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!
ヘルベロスは60メートルもの身長であるが故に5万トンという体重を誇る。それだけの重さ故に少し歩くだけで周辺の地面は大きく揺れ、自動車は一瞬だけ宙に浮き、自転車は横に倒れる。建物の窓ガラスはヒビが入って割れてしまい細かい破片と化してしまう。最早ヘルベロスが歩くだけで町を破壊してしまうのだ。
大重量の生物が歩くだけでも厄介なのだが、更に厄介な点がある。
その巨体故に腕を振り回せば建物に当たってしまい、コンクリートのビルがガラガラと音を立てて壊れてしまう。長い尻尾を地面に叩きつければ地面は割れてしまい、その尻尾を建物にぶつければいとも簡単に破壊してしまう。
キュオオオオオオオオォォォォォォォォォ!
そして最も厄介な点は“光線”の類とする技を次々と放っている事だ。
口から炎を吐き、頭の角からは電撃を撃ち、肘の刃から光輪を放ち、背中の棘からは棘状の光弾を放つ…… 多彩な光線関連の技を撃っているのだ。それらを何発も放っているため、ヘルベロスから離れた場所にある建築物も次々と破壊されていく。仮にヘルベロスから逃げきれても、光線などに当たる可能性があるため安全ではないのだ。
グオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
ヘルベロスは今なお暴れている。このままでは煌びやかな大都市は破壊され尽くしてしまう。そうなれば経済的損失は計り知れないだろう。勿論、この被害に巻き込まれた人たちの命も…………
「うわああああぁぁぁぁ!」
「助けてー!」
「逃げろおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
「わあああぁぁぁぁ!」
都市の人々はこの怪獣から逃げ惑う事しか出来ない。早く自分が逃げなければ命が危ない。災害時に人々が助け合う事が多いが、未知なる巨大な脅威が迫っている状況でそこまで思考が回らない。寧ろ誰かを助けていたらその間にあの怪獣に踏み潰されたり光線を喰らって自身の命を散らしかねない。それ故に他者を助ける余裕が無いのだ。
このような事態では多くの場合、いや、殆どの場合市民を助ける組織が出てくる。
「あっ! あの音は……」
「間違い無い!」
グオオォォォ……?
逃げ惑う市民が奇妙な音を聞き、音の出所に顔を向ける。それと同時にその音の出所は何なのか見ようと一瞬市民は足を止めた。ヘルベロスも何事かと思い、破壊活動を止めて足を止めた。
青い空に浮かぶ白い雲から“黒い点”が近づいているのが見えた。最初は何なのか分かりづらかったが、徐々にその輪郭が明らかになって行く。それは翼を広げて空を飛ぶ鳥のような姿をしている。多くの人は分かった。その飛行物体の正体を。
「自衛隊だ!」
自衛隊の戦闘機だ。
人口が密集している都市部であれ程の被害が出ているのだ。自衛隊が無視して良い筈が無い。自衛隊に巨大生物と戦う決まりは無いが、非常事態という事もあるだろう。特例で出動したのだ。
よく見ると、都市の郊外にあるなだらかな丘陵地帯では自衛隊の戦車が何台も並んで待機している。全ての戦車の砲塔がヘルベロスに向いている。攻撃準備は万端という事だ。それだけでは無い。戦車隊の後方には誘導弾や機関砲が多数配置されており、それらもヘルベロスの方を向いている。何時でもヘルベロスを攻撃出来るという事だろう。
「あれだけの数の武器なら……!」
「あの怪物を倒せる……!」
「頑張れー! 自衛隊!」
「此処にいたら攻撃に巻き込まれる! 出来るだけ離れよう!」
市民達は自身達を助けに来た自衛隊を応援し始める。自衛隊の戦力は世界的に見ても低くは無い。アメリカには劣るだろうが、それでも装備は充実している。あの怪物を倒してくれるはずだ。それに、あれ程の巨体であれば攻撃も当たりやすい筈……
そして、轟音が鳴り響いた。
自衛隊の攻撃が始まったのだ。
砲塔から弾が次々と発射されていき、発生した煙を置いてくようにヘルベロスに向かっていく。戦闘機や戦闘ヘリからはミサイルが発射されていき、それらもヘルベロスに向かっていく。自身に向かっていく弾やミサイルを見てヘルベロスはそれらを見つめる。
そして、
着弾。
爆炎と煙がヘルベロスを包み込む。
「当たった!」
「良いぞ!」
攻撃がヘルベロスに当たった様子を見て、市民達は歓声を上げた。それと同時に爆音も広がる。ドゴオォッ、という音が周辺に広がりまだ無傷の建物を揺らし、電線を揺らす。地面の砂や埃も舞い上がり、空を漂う。衝撃の強さがひしひしと伝わってくる。
「凄い威力だ……!」
「これならあの怪物も……!」
攻撃の様子を見ている市民は心の中で希望を持ち始める。自身達は先程まで巨大な脅威を前に逃げ惑うしかなかった。自身達の住む町が蹂躙され、生活の場を失って、大切な人を失うかもしれない状況に恐怖していた。
だが、それも過去の話だ。
自衛隊の総攻撃によってあの怪獣は倒される。あれ程の爆発だ。只では済まないだろう。生物の表皮や甲殻がどれだけ硬くても、人類が造り出した武器であれば必ずや打ち勝てる。それらの武器の威力は相当なものなのだから当然だろう。
煙が晴れれば怪我した怪獣が姿を現すだろう。仮に生きていたとしてもあれだけの攻撃なら手傷を追っている筈。
多くの市民がそれを確信して爆心地を見つめていた。彼らの表情は皆希望に満ちたような表情を浮かべている。
そして、煙が晴れていき……
グルルルル……
“無傷”のヘルベロスが現れた。
「「「「え…………?」」」」
煙が晴れてヘルベロスの姿を現すと同時に、市民達から希望は霧のように消えていく。応援する気力も、笑顔も。
見る限りではヘルベロスの皮膚や甲殻には傷一つ付いていない。多少煙が上がっているだけで、殆ど無傷だ。ヘルベロスの表情も攻撃を受けて苦しんでいるようには見えない。その表情は「さっき何をしたんだ?」と言いたげのようだ。
自衛隊の攻撃を物ともしないヘルベロスを前にして市民達は……
「に、逃げろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
恐怖を感じて再び逃走を始めた。
自衛隊の攻撃が全く効いていない脅威を前にして市民達は更に混乱状態となった。常識的に考えて戦車の砲弾やミサイルが直撃して死なない生物が有り得るだろうか? その「有り得ない」存在が直ぐ近くにいて、街を次々と破壊しているのだ。これでパニックが起きない方が珍しいだろう。町を破壊する脅威と恐怖が、自衛隊でも退治出来ないのだから。
グオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
ヘルベロスは自衛隊の攻撃を鬱陶しいと思ったのか、ヘルベロスは空を飛ぶ戦闘機に向かってヘルホーンサンダーを放つ。雷の射程距離と速度が速いため、戦闘機は避ける事が出来ず、全て直撃してしまった
次に標的を定めたのは戦車達だ。
背中からヘルエッジサンダーを大量に放った。余りにも数が多い事、戦車の砲塔の角度を上げるにも限界がある事もあり、全て撃ち落とす事は出来ない。戦車に乗る自衛隊員が外に出て銃撃をするがその程度の攻撃でエネルギー状の矢は消えない。攻撃力が足りないのだろう。
エネルギー状の矢は次々と戦車を破壊していく。頑丈な戦車の装甲を粉々に破壊し、自衛隊の主戦力とも言える戦車を使用不能に変えていく。戦車内の弾に誘爆した事もあり、爆発は大きい。自衛隊員は次々と吹き飛ばされていく。
この国の主戦力が赤子の手をひねるかの如く蹂躙されていく。その様子は、市民達の心に絶望を与えるには、十分過ぎた。
「じ、自衛隊でも駄目だなんて……」
「もう駄目だ……! 逃げるしかない!」
「勝てねぇ……! あんな化け物に…………!」
オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!
邪魔してくるものがいなくなった事により、ヘルベロスは再び暴れ始める。次々と光線や光弾・火球を放ち、街を瓦礫に変えていく。少し前まで賑わいを見せていた都市は壊滅しつつある。このままでは1時間もしない内に活気ある都市は地図から消える事になるだろう。これだけの破壊から復興というのは非常に難しいのだから。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「きゃあああぁぁぁぁぁ!! 逃げないと……!」
人々は我先に逃げようとして道路はごったがいしている。人が人を押し、体に高い圧力がかかってしまう。これでは思うように動けないだろう。逃げる方向は皆同じなので、その方向に向けて圧力がかかる。
「ん……?」
だからこそ、
「……! 息子が……!」
逃げる方向とは反対の方向に行く事は、
「パパぁ…… どこー……?」
非常に難しくなる。
「くっ! どいてくれ……!」
父親が逃げる人々をかき分けようとするが人が多過ぎるため殆ど進めない。普通なら走って十数秒で着く距離なのに、人混み故に全く進まない。息子は電柱の所で引っかかっている為逃げる人々に押されてもある程度動けない状態となっている。それにより息子はその場に留まる事が出来ている。しかし、父親は雑踏のせいで息子のもとに辿り着けないし、ヘルベロスが迫っている。時間の問題だった。
「おーい! ここだー!」
「パパ……? パパ……!」
父親は大声を上げて息子に位置を知らせる。これ程の大声のおかげで息子は父親の位置を知る事が出来た。雑踏もやや収まって来たので、なんとか行けそうになった。
だが、
グルルル……
「……っ!」
ヘルベロスが直ぐ近くまで迫っていた。
「ま、まずい……!」
人々は殆ど逃げた事から直ぐに息子の元まで行く事が出来た。しかし、ヘルベロスはもう近くまで来ている。距離はおよそ300メートル程だ。体格が大きい怪獣のヘルベロスなら数歩で到達出来る距離だ。
「パパぁ……!」
「しっかり掴まってろ! 直ぐに……!」
オオオオオオオオオオォォォォォォォォ!
親子はヘルベロスから離れようとするが、ヘルベロスの口から赤い光が溢れ始めている。それを見た瞬間、父親はこれからヘルベロスが何をしようとするのかを察した。これから火球を発射しようとしている事を。
「急がないと……!」
口ではそう言ったものの、火球の速度を考えると今から逃げようとしても間に合わない。建物に隠れても恐らく火球により粉々に破壊されるから中に逃げても無意味。建物の陰に隠れても爆発の瓦礫に埋まってしまう危険がある。
どちらにしても、火球から身を守る事が……
それでも、子を守るために足を速く動かす。少しでも離れるために。
グオオオオオオオォォォォ!
そして、ヘルベロスから火球が発射された。
「くっ…………!」
軽く数百度を超えるであろう火球が親子に迫っている。もう駄目だ。
誰もがそう思った、
その時だった。
火球とは別の、赤い光が周囲を照らした。
「「っ!?」」
グオォ!?
赤く光る球大は上空から飛来し、ヘルベロスの火球を消すと同時に都市に着陸した。親子とヘルベロスの間に降り立つように飛来した赤い火球は、焔の如き揺らめきを纏っている。その様子は正に火球のようだ。
(何だあれは……? 火球…… にしては熱くないぞ?)
自衛隊の兵器なのか……? いや、あのような兵器があるって聞いた事無いし、極秘の兵器だとしても、人がいる中向けるのだろうか? それに、あの球体が何処となく兵器に見えない事もあり、正体を掴めずにいる。
父親と息子が赤い球体を眺めているが、ヘルベロスも警戒しながら赤い球体を見ている。ヘルベロスから見ても赤い球体がどの様な物なのか分かっていない…… というより本能的に警戒しているような様子だ。
「あっ! 何か見えてくる!」
息子の声と同時に、赤い球体が消えていく。赤い炎のような揺らめきが消えていき、球体の内部が見えてきた。
その中から、人影が見えてきた。
「何だ……? あれは……!?」
赤い球体が消えていった事でその輪郭が少しずつ見えてきたが、その姿は明確に巨人とも言うべき形だった。
見た所表面は鋼鉄や鋼といった金属類には見えない。どちらかというとブーツや衣服のようにも見える。もしや服だというのか。だが、服というより皮膚のくびれのように見える個所が幾つかある。
そして、球体が完全に消えて輪郭が見えた。
全体的に赤い体色、
白、もしくは銀のブーツ。
腰に大きなベルト。
耳の部分のアンテナのような突起。
黄色い大きな目。
アルカイックスマイルのような表情。
明らかに人ではない。
言うなれば、
赤い巨人だ。
「あれは…… 何なんだ……?」
父親は赤い巨人を見る。敵か味方か分からない。もしかしたらあの怪獣の飼い主か? 警戒して息子を強く抱きしめる。一体何者なのだろうか……? 息子の方は、不思議と警戒をしていない。あまりの事態に呆然としている…… というより、何となく敵意を感じていないようだ。
赤い巨人が立ち上がった。
足元の近くにいる親子を黙って見ている。
父親は警戒しているが、彼も不思議とこの巨人が敵意を持っていない事を薄っすら感じているようだ。息子を抱く力が少し弱くなった。
息子は心の中で思った事を呟いた。
心の中で自然と浮かんだ、赤い巨人の名前を。
「レッドマン…………」
ヒーローっぽい現れ方…… だよね?(不安)。
「ゴジラ -1.0」公開日に怪獣小説を投稿するとは……
次回は2023年11月10日21時00分に投稿予定です。