その日は実に良い天気だった。晴れ渡る青い空に、窓から入ってくる心地よい穏やかな風。窓を閉め切るのが勿体なくて、何となく窓を開いたままにしていたのが悪かったのだろうか。
「あっ」
ハンカチが外に流されていった。適当に買っただけの量産品なら放置しても良かったけど、あれは駄目だ。あれは私にとって大事な思い出の品だ。
とはいえ、寝巻き姿のまま外に飛び出すのは………少し、よろしくない。手早く制服に着替えてしまおう。
寝巻きを脱ぎ捨て上着を軽く羽織り、丈の短い黒いワンピースのような制服に足を通そうとした瞬間だった。
「えっと、こんな所からすみません。ひょっとして、さっきハンカチを………………………」
見知らぬ………否。一方的によく知っている男子生徒が、外から窓枠に飛び乗ってきた。そこそこ上層にある私の部屋に窓から侵入してきたというだけで、彼がそれなり以上の身体能力を持っていることが分かる。
「………あれ?」
(そうか。今日だったのか)
男子生徒の言葉が止まり、彼の頬は赤く染まる。吃りながら両手で目を隠し謝罪の言葉を吐く様子は、絵に描いたように初心そのもの。
「おい。落ちるぞ」
一息に近寄り、彼の首根っこを掴む。そして強引に部屋の中に引きずり込んだ。まぁ、窓枠という多少不安定な足場に座り込んでいる程度で、彼が外に落っこちるとは思わないけど念の為。
………万が一にも、こんな場所で怪我をされては困る。
「ちょ、ちょっと!?」
「黙れ。ハンカチがどうとか言っていたな………すぐに着替える。後ろを向いていろ」
きっちり制服に袖を通し手櫛で少し跳ねていた寝癖を直す。肩越しに様子を伺ってみれば、律儀に私の言う通りにして窓の向こうに身体を向けていた………本当に思春期の男子か?多少の性欲があれば、こっちを覗き見るくらいはしそうなものだが。
「もういいぞ。で?何の用だ?」
「えっと………あっ、そうそう。さっき、風に飛ばされていたのを拾ったんだ」
差し出されたのは綺麗に畳まれた私のハンカチ。それを見て思わず安堵の息を吐いた。そうだろうと分かっていても、実際に見るまでは少し心臓に悪い。
「ありがとう。これは大事な物でな………本当に助かった」
深く頭を下げる。それに対し彼は照れ臭そうな様子で言葉を並べた。全く、呆れる程に根っからのお人好しらしい。
ーーーさて、と。
「では、くたばれ」
脈絡なく、我ながら爽やかな笑顔でそう告げた。
「咲き誇れーーー
一瞬で巨大な蕾の形をした火の玉を形成し、即座に花開くように起爆させる。部屋の中だが無闇矢鱈と物を壊す程、甘い制御はしていない。
「………避けたか」
口角が上がる。これまでは所詮、想像の中だけでの存在でしかなかったが………実物も中々に悪くない。
「いいぞ。これくらいは容易くやって貰わねば」
さぁ、疾くお前の実力を見せろ。