悪気は無かった。今日ここ、学園都市“六花”こと“アスタリスク”に来たばかり。当然、星導館学園にも初めて入った………などと言い訳する天霧綾斗を口八丁で丸め込み、決闘を強引に承認させた。チョロい。少し彼の今後が心配になる。
「では、始めるか」
武器の一つもないという彼は野次馬の一人ーーー確か、ネームドキャラーーーから
「この辺りか」
「………何のつもりだい?」
私が立ち止まったのは、天霧綾斗の間合いと見立てた範囲の一歩内側。立ち止まったまま攻撃を仕掛けようとしない私に、彼は怪訝さを隠しもせずに問い掛ける。
「お前の間合いだろう?決闘を始める前に手加減していたとはいえ、二発も先に撃ち込んだのだ。先手を与えねば不公平が過ぎると思ってな………そら、二太刀は防ぐだけにしてやるから早くしろ」
数秒、彼は躊躇する。しかし直後、正眼に構えた剣形の煌武武装を素早く振るい、左胸にある校章を破壊しようとした。
「なっ」
「いい太刀筋だ………どうした?魔女に防がれたのが、そんなにショックか?」
「別にそういう訳じゃない、けどっ!」
続く二太刀目も鋭いが防げない程ではない。細剣形の煌武武装で一太刀目と同じように防ぎ、鍔迫り合いに持ち込む。
「まぁ、何でもいい。次は此方の番だ」
「この距離で魔女としての能力を使えば、君にもダメージがあると思うよ?」
「はっ、そんな馬鹿な真似はしないが………そうだな、折角だ。軽く体を動かすか」
「え?」
一歩、後ろへ移動する。僅かに体勢を崩した天霧綾斗に中段への三連突きを放つが、それは当たり前のように躱された。
続けて往復の切り払いを行い、斜めへの切り上げの後、上段二連突きで技を締める………しかし。
「こうも簡単に防がれ躱されると、自信を失くしそうになるな」
「いやいやいや、結構なお手前で………」
「余裕があるな?ならば少し追い込むとしようーーー咲き誇れ、
複数の槍状の炎を射出する。真っ直ぐに射出しただけでは、どうせ簡単に躱されるだろうからタイミングや速度をズラしたり、軌道を変えたりと工夫する。
それらを全て、彼は剣を盾にして受け流す。その動きに余裕がないことは見て取れるが、決定打に至らない………何も知らなければ、この違和感に気味の悪ささえ覚えそうだ。
「ええっと、ユリス………さん?そろそろ許して貰えないかな?」
「呼び捨てで構わん。それは降伏の意思表示か、天霧綾斗?別に止めはしないが、自警団に突き出した後の無事は保証できんぞ?少し前に下着泥棒を片付けてな………そいつは最終的にカタコトしか喋れなくなり、部屋から一歩も出れない精神状態となったそうだ」
「………もう少し頑張ってみようかな」
それでいい。これだけ騒いで時間も掛けたのだから、そろそろ彼女もこの場にいる頃合いだろう。私から仕掛けておいてなんだが、この茶番にも若干飽きてきた。
「咲き誇れーーー
部屋で使ったものと同じ技だが、規模は段違い。どの程度に違うかと言えば、集まった野次馬らが思わず逃げ出す程と言えばいいだろうか。
当然、天霧綾斗も素直に当たりたくはない。腰を屈めて身構え、直撃の寸前で躱すつもりなのだろう。
「ーーー爆ぜろ」
そうはさせまいと、彼が動く直前に起爆した。