個人に向けるには過ぎた火力。私の視界をも埋め尽くすのは巨大な爆炎………普通なら、校章はこれで壊れるし、本人も無事では済まない。
「天霧振明流剣術初伝ーーー“
しかし、天霧綾斗はそれを真正面から十文字に斬り裂いた。
(まぁ、その程度は出来るか)
天霧綾斗が一息に距離を詰めてくる。その動きは先程までよりずっと速い。近づいてくる彼の瞳に宿る輝きは、真剣に勝利を目指しているものではなく………ただ私の身を案じているそれだ。
「伏せてっ!」
そう言いながら、彼は私に手を伸ばしながら宙に飛び出した。どうしよう………死角から迫ってくる矢を避けるのは造作もないが、このコースだと彼に当たりそうだ。
(まぁ、いいか)
嘆息。矢の一本くらいは何とでもなるが、この場は助けられてやろう。
勢いのままぶつかってくる天霧綾斗に逆らわず地面に転がる。そして彼の視線を追えば、地面に鋭く刺さっている矢が宙に消えていった。
「………………………おい」
安堵する天霧綾斗に声を掛ける。それで意識が私の方に向いたのか、ようやく気づいたようだ。
「あ」
己の手が私の胸を鷲掴みにしていることに。無意識の内にだろうが彼の指先が動き、その状態で二度も揉まれた。
「んっ」
「ち、違っ!これはっ!!」
慌てて私の上から飛び退こうとする天霧綾斗の肩を握る。流石にここまでされて無事で返して足まるものか。
「問答無用!吹き飛べーーー赫灼熱拳、ジェットバーン!!」
拳を天霧綾斗の腹に押し当てる。炎を当てた拳に凝縮して一気に放出し、彼を空高く弾き飛ばした。
かなり高く飛ばしてしまったが………何、死にはしないだろう。着地も派手に土煙こそ上がったが、実に綺麗に決めている。
………それにしても。
「無粋な」
〈side天霧綾斗〉
俺がユリスに空高く吹き飛ばされてから、決闘は生徒会長のクローディア・エンフィールドさんの仲介によって不成立となった。
「ほっ」
ようやく身体から力を抜くことができた。このまま決闘が継続させられていたら、きっと全身火傷じゃ済まなかっただろうと思う。
集まっていた野次馬の学生たちも、クローディアさんの声掛けで散り散りとなっていく。
「あ!」
さっきの矢は明らかにユリスを狙っていた。もしかしたら、この野次馬の中に犯人がいるかもしれない。このままだと犯人は、これ幸いと逃げおおせるだろう。
「ちょ、ちょっと待っ」
「捨て置け。追撃もしなかった所から察するに、とんだ臆病者が相手だ。一撃で決められなかった時点で、とっくに逃げ出しただろう………《
「えぇ、残念ながらそういうケースは珍しくありません。ですが、今回のは流石にやり過ぎです。決闘中に第三者が不意打ちで攻撃を仕掛けるなど、言語道断。風紀委員に調査を命じましょう。犯人が見つかり次第、厳重に対処します」
「そうか。風紀委員の働きが無駄とならなければいいな………さて」
ふと、ユリスが此方を見る。その表情はばつの悪そうなというか、納得できていないという風に見える。
「先程は助かった、ありがとう………と。一応は言っておく」
「あ、うん。それはいいんだけど………もう、怒ってない?」
故意ではないにしろ初対面の女子を押し倒し、その………少し不埒な行動をしてしまった事も事実だ。
随分と柔らかかった感触とユリスの半裸を思い出してしまって、思わず顔に熱が溜まる。それらを左右に首を振って、強引に頭の中から消した。
「まぁ、一撃は入れたからな。一先ずは溜飲を下げるとしよう………お前には余裕もなかっただろうしな、不幸な事故で済ませてやる」
その言葉に疑問を覚える。その言い方だと余裕がなかったのは、まるで俺だけだったかのように聞こえる。
いくら星辰力が防御力を高めてくれていても、不意打ちだとそれも期待できない。俺からすれば相当にギリギリのタイミングだったんだけど………。
「こら、ユリス。あまり恩人を苛めては駄目ですよ?」
「喧しい。余計なお節介というのだ、あれは」
軽く言葉を交わす二人は仲の良い気心の知れた友人に見える………口に出すとまた何か厄介そうだから、今は言葉を飲み込むことにする。
「そうだ、天霧綾斗。先程は結果的には助けられたからな、一つ貸しにしておけ」
貸し借りの関係というのは、なるほど分かりやすい。分かりやすいが、それはそれでドライ過ぎるような気がす?。
「全く、ユリスは相変わらず素直じゃないですね。そんな調子では本当にパートナー探しが順調か心配です」
「鳳凰星武祭まで残り二週間、だったか。期日までに間に合えばいいのだろう?」
分かりやすく顔を背けた彼女の口元が、一瞬だけ笑っていたように見えたのは気のせいだろうか?