「確かにワイは女の敵や……けど、女の敵は女っていうやん? ワイは女の敵の敵……ある意味味方やん!」
どうも。ワイやで。
禪院家「炳」筆頭、禪院直哉くんや。
ワイは今、任務終わりに安いスナックでチーママ相手に管を巻いとる。高級な料亭とかもええけど、こういうせせこましくて狭い店もたまに寄りたくなるんやよね。安い酒の方が気持ちよく酔える傾向にあるんや。人生やね。
「運命の相手とまでは贅沢言わん……しかしワイの人生、行きずりの女一人おらんとはどういう事や?」
こういうどうでもええ酒場で話す事と言えば、いつも童貞と性の話ばかりや。主にワイの頭にあるのがそれだけだから、どうしてもこういう話になってしまうんやね。常に童貞が背負っているカルマについて悩んでるんや。この原罪から救ってくれる
「直哉くん、男は顔じゃないわよ」
「……つまり、ワイの顔に問題があるっていうわけやね?」
「…………」
今の話の流れでその言葉が出て来る事が何よりの答えやんけ。
「こんなんフェアじゃないで……! これはワイの問題ではない、社会全体の問題や! 経済格差だけではない、性的格差が問題となってるんや!」
「主語がデカすぎると議論を呼ぶわよ!」
サッと出てきたハイボールを飲み干す。薄くしすぎて味も分からんくなっとるのが場末感あってええね。
「ワイが思うに……もう、セックスは法律で禁じた方がええんとちゃうか?」
「社会全体にトドメを刺す気?」
「違反者は死刑でええか?」
「小学生が考えたような法律だわ」
しかし、これはワイ考えながら名案かもしれんな。いわば、富の再分配ならぬ性の再分配……。性的共産主義を掲げて、(経験人数)レーニンになってもええかもしれんね。
「だいたい、そうしたら直哉だってできなくなるじゃないの」
「最初から禁止されてるようなもんやで!」
「先んじて施行されてる?」
「いや、となるとワイのパッパとマッマも死刑って事になるんか?」
「不遡及の原則が破られてるわ!」
ワイたち以上の世代は全滅するかもしれんね。性を貪る者が消え、ワイたちの静かな世界が出来上がるんや。クワイエット・ゼロやね。
「そんな法律通るわけないんだから、まずはモテるための努力をしなさいよ……」
「せやろか? ワイにとってセックスするより立法する方が簡単やない?」
「どういう自己評価よ!」
こういう自己評価や。
「そもそも、セックスを禁止したって誰が得するのよ。直哉もセックスできないままじゃない」
「なんや? 復讐は何も生まない論者か?」
「逆恨みによる犯行を防止しようとしてるのよ!」
「ワイら童貞は社会につま弾きにされてきた……今、地球の傲慢さが裁かれる時が来てるんやで!」
「出来損ないの富野節は止めなさい!」
ワイはもはや卒業できるならばアナルでもええで。アナルズブ・シャアとしてこの社会にコロニーを堕とすんや。
「だいたい、法で禁じたって何の意味も無いわよ……アメリカの禁酒法時代ってあるでしょ? 表で禁じられても結局、闇で横行するのよ」
「ちゃうわ! 禁じられてない今かて闇のセックスが横行しとるやろ!」
「闇のセックス……?」
「不良少年、不倫中年、パパ活、立ちんぼ……結局、今のセックスのメインストリームはモラルの低い闇やないかい!」
一般人であるチーママには言わんけど、呪術界の大家とか物凄いんやで。禁止されてない闇のセックスで産まれた子供が何人いると思ってるねん。これもセックスを禁止していたら生まれてこなかった闇ちゃうんか?
「今はモラルが問われる時代や……いいかげん正すべき時が来たんや!」
「ここだけ切り取られてSNS上で便利に使われそうなセリフ…!」
誰か切り抜いてくれてもええで。ワイのイメージ向上に一役買ってくれや。
「まあでも、皆が皆闇でしかやってない訳ではないじゃないの……」
「表でやってるの見た事無いで!?」
「見られてたら闇よりモラル低すぎなのよ。そうじゃなくて、きちんとした交際をしたうえでって事よ」
「NTRものの前振りみたいな感じか……?」
「モラルどこいった?」
最近、やっとNTRで抜けるようになってきたんよな……。愛する女性を取られる苦しみを、そのままシコ欲に変換できるようになったんや。好き嫌いしてきた子供のころから、苦味を美味しく味わえる一段上の男に上がったんちゃう?
「下よ」
「モノローグへのツッコミは無法すぎるからナシにせんか?」
ワイの隙を見逃さんチーママも見事やね。
「とにかく……禁止は行き過ぎとしても、もっとガチガチに法で縛るべきやで。そうする事で、モラルを破る背徳感より、モラルを守る事の方が気持ちよさを上回るはずや!」
「……全然ピンとこないんだけど?」
「ふう…みんなルールを守る事の気持ちよさを知らんのやね……」
やれやれや。
「例えば……コース料理を食べる時、マナーを守ってお上品に食べるのは気持ちのええことやん? お茶会の時も、作法を守る方が美味しいやん? そういう事やで」
「両方とも経験に乏しいからピンとこないわね……」
えっ。
「そうか……でもワイは笑わへんで。経験の無さを嘲笑される辛さは誰よりも分かっとるからな……」
「育ちの良さが出てるわ。直哉って意外といいとこの子よね?」
クッソ大家やで。ワイの顎で使える使用人が数十人はおるわ。
「でも、マナーとかルールって結局煩わしくなって使わなくなるのよね……」
「それがアカンのや! 当り前の事をみんながちょっとずつ守らなくなると明確に法で縛らざるを得なくなる……! セックスが違法になるかどうかは一人一人の意識にかかっとるんやで!」
「セックスが禁止された未来人からの警告みたいね」
ディストピアの入り口はすぐそこまで来てるんやで。今こそ未来を考える時や。
ワイには一生セワシくんが来てくれんかと思うと、中々に切ないものがあるな。野比のび太ですら子孫を残してるというのに、ワイは何をしとるんや……?
「性を過剰に忌避し、具体的な問題から目を背ける現代の教育にも問題があるんやないか?」
「教育の話は無限に敵を作るわよ……!」
「それを言うたらゾーニング問題も」
「もっとヤバいわ! 見えている火事に突っ込んでいくのは止めなさい!」
「性の問題を実技教育で教えるとして、ペアを作るのは出席順とクジ引きどっちがええと思う? 素直になれない幼馴染同士はペアを組ませるとして、女と女が余った時がニチャニチャしてまうと思うんやけど……」
「これ以上の発言は強制退店の刑に処すわよ!」
口にするのは簡単や。しかしお口でしてもらうのは難しい……。今回の話ではこれだけ覚えて帰ってくれたらええで。
「ふう……ほな、ワイはそろそろお暇させてもらうやで」
「ありあしたー」
「この数時間で
変顔で頭を下げてくるチーママへ手を振りながら、店を後にする。いい感じにアルコールが回って気持ちええね。頭がフワフワするわ。
……今のワイの「頭がフワフワするわ」ってセリフ、字面だけ抜きだしたら世間知らずのお嬢様ヒロインみたいやね。お嬢様は女の子だけの特権やないで。
さて、これからどうするか。家に帰ってもええけど、もうちょい遊びたい気分やね。
「うーん……せやな、ここは屋台でもう一杯ひっかけて……あっ」
あ、アカンわ。明日は本家の方に顔出さんといけんかった。
まったくめんどくさいわ。家の結束やなんや言うて定期的に集まってるけども、結局ようわからん派閥政治とようわからん闇のあれこれだけを適当に話すだけの会や。ワイのパッパがそこそこ纏められてる今こそまだマシやけど、ちょっと前とか謀略と謀略が折り重なってカスのミルフィーユって感じやったんやで。ワイが当主になったらあれ全部纏めなあかんと思うと頭痛してくるわ。
「さっさとホテルに戻るやね」
繁華街に向かおうとしていた足を反対に向け、明日に備えて早めに寝ることとしたのやった。
ちなみに、ワイが泊ってるところは結構いいホテルやで。独身童貞はこういう所に金使えるから気楽で良いんよね (精一杯の強がり)。
どうも、ワイやで。
禪院家「炳」筆頭、特別一級術師の禪院直哉くんや。
今更ながら、ワイの職業について説明しておこうと思う。童貞の自分語りと思う者は今すぐここを去って欲しいで。わりと短く話すから許して欲しいんや。
この世には呪霊という存在がおる。人間の負の感情、「呪力」が集まって生まれる怪物で、ジャンジャンバリバリ人とか殺す危険な奴やで。
で、そういう怪物を倒す役割を持った奴が呪術師。これは生まれつき呪力を操る才能を持ってるんや。これを上手い事扱って化け物をブチ殺すんやで。毒を以て毒を制すというわけやね。
呪術師は日本のはるか昔からおるんやけど、歴史が長くなると権力がどっかしらに集まるもんなんやな。今は「御三家」っていう奴らが主に呪術界を牛耳っとって、ワイの禪院家も御三家の一つやで。
説明終わりや。つまりワイらは負の感情の専門処理業者で、ワイの家はその中でもかなりの大企業ってことや。金回りもなかなかええで。
で、今日は禪院家の定例会議の日や。両親に久しぶりに会える、家族団らんの日やね。
「呪霊は一体……術式はそれなりやが、ワイが相手では分が悪いわな……」
「初めは大人しく成り行きを伺っていたんやが…『あまりにも隙だらけや…』そう思ってからは早かった」
「瞬 殺 や」
「一瞬で背後にまわり、『消えた!?』と驚く呪霊の首筋へ手刀を一発……あっけない勝利や」
「ほんで助けた中にワイが中学校の頃好きだった女の子がおってやね‥…『禪院くん、貴方って何者なの……!?』と……」
「もういい」
「え、こっからまだワイが傭兵時代の暗い過去話が」
「もういいもういい。帰れ」
禪院家の当主であるワイのパッパに向けて任務の内容を語っとると、頭に手を当てながら話を遮られた。ワイは中二の頃ようこんな妄想しとったんやで。今ではネタにできるレベルの黒歴史や。
「そない心配せんでも、報告書には真面目に書いとるわ。親子の触れ合いタイムやん、そう怒らんといてや」
「フハハ、分かっとる分かっとる。ほんの冗談だ」
高そうな着物を着崩した男がそう言って笑う。豪放磊落なこの姿こそ、禪院家当主、禪院直毘人や。
「しかし、お前のその軽薄な態度は何とかならんものかな。禪院家も心配してるぞ」
「何が心配やねん。そもそも、ワイがこういう態度取ってるのは身内だけや。仕事ではめっちゃ真面目にしとる」
これはマジ話や。仕事の時のワイは、常にマジメで堅物なフリをしとる。個を殺して歯車に徹しとるんやからね……。むしろそのせいで付き合いにくいと思われてへんか心配なくらいや。真面目なだけの人間っていうのは人物像がつかめんもんやからね。
「同僚たちはワイがオタクという事すら気付いてへんやろね……!」
「気づかれとるぞ」
「えっ」
「気づかれとる」
え。
え?
「……アニメの話振られてもとぼけて知らんふりしとるのに?」
「振られてる時点でそう思われてるわ。そもそもこの話自体、お前の班員からの相談だぞ」
…………。
「……もう試験は始まっとるんか?」
「は?」
「そうやってワイに精神的な揺さぶりをかけて、次期当主にふさわしいかテストしてるんやね……?」
「そうだとしたらお前はとっくに落ちとるぞ」
なかなかいいパンチもっとるやん……。引き分けでええか?
「ちょっと横になってくるわな……報告は以上や……」
「家族の団欒はどうした?」
「すまんな! 夕ご飯は一緒に食べよ!」
「女性声優に恋愛のお便り送るのやめて欲しいんよな」
「帰れ」
「女性声優は恋愛には疎くてワイたちに近いっていう設定(要出典)があるやん? そこに恋愛の話持ち込むのって無粋やない?」
「帰れ」
「かつてペリーに来航された時もこんな気持ちやったんやろな……ワイらは慎ましく暮らしていただけやのに、いつも爆弾を持ち込んでくるのは外の異物や……!!」
「帰れって」
「アメリカ人の黒光りした大砲外交に
「よし、分かった。お前が帰らないなら私が帰る」
「待って待って待ってえな」
深刻なダメージを負ったワイは、そこら辺におった真希ちゃんとお話してメンタルを回復させることにした。
「ふう……そう邪険にせんといてや。ワイが気楽に話せるのってここやと真希ちゃんくらいなんやから……」
「……ハァ。クソ童貞が」
「真希ちゃんが童貞じゃ無くしてくれてもかまへんで!!」
ワイ(童貞)は女性への免疫が無さ過ぎて、金銭やらなんやらを介して「話してもいい理由」が無いとマトモに話せへん生き物なんやね。ちゃんとこっちが強気に振舞っていい理由が無いと無限にキョドって震え続ける不気味な置物と化してしまうんや。その点真希ちゃんは時々格闘の訓練を付けてあげてるから、こうやって安心してお喋り出来る訳やね。意外とおるで、同じ考えのやつ。
「だいたいお前、そこらの女に言えば股開かせてやれるだろ。何を一々……」
「え、今、童貞と素人童貞の話をしとる?」
「あ?」
「童貞と素人童貞は同じ童貞族やけど、実際はお互いにいがみ合い蔑みあう
困るんよな……ワイのフィールドに、半端な気持ちで入ってこられると。
そんな浅い踏み込みで間合いに入ってきたら、斬り返されても文句は言えへんで―――?
「…………」
「ふう……まあええわ。負けを認めるんやったらタオルくらいは投げてやってもかまへんで」
「……普段から考えてないと出ない量でめっちゃキモかった」
「引き分けでええか?」