直哉「疾風迅雷やね」   作:成間饅頭(旧なりまんじゅう)

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渋谷事変④

「ヒヒッ、どうした? そんなものか、五条悟!」

「ハッ、まさか! そっちこそ、封印されて鈍ってんじゃない!」

 

 無人の渋谷に、怪音が響き渡る。巨大な鉄塊同士が衝突するような、およそ人体から発せられるとは思えない異音。その発生源がただ二人によるものであると、誰が信じられるだろうか。二人が拳を交わし、呪術を振るうたびに生まれる衝撃波が、二人が人智を超えた怪物であることを雄弁に証明していた。

 

 現代最強の術師、五条悟。

 史上最強の術師、両面宿儺。

 

 どちらも共に、最強の名を冠する者同士。

 道理を踏み越えた、向こう側の怪物たちの決闘は―――――。

 

「ケヒッ―――そら、もっと魅せてみろ、五条悟!」

 

 ―――現在、両面宿儺優位に進んでいた。

 

 宿儺の拳が五条を捉え、その膂力のままに殴り飛ばす。鬼神のごとき膂力に、卓越した呪力操作。千年前の怪物は、永い時を超えてなお怪物のままだった。

 

 吹き飛ばされた五条の身体が、ビル数棟を突き抜けた所でようやく止まる。不敵な笑みを浮かべたままの五条がふと額に手を当てると、ヌルリとした感触が伝わる。血。自らが最強に至って以来、初めてと言える他者による出血であった。

 

「……ハッ、面白いね」

 

 ニヤリと笑いながら、頭は冷静に思考を回す。

 

「(面倒だな……悠仁の膂力(パワー)に宿儺の呪力強化が乗ると、ここまで厄介になるのか。展延で無下限を突破された上で殴られると、近接はこっちが不利だな。蒼と赫で遠距離から削るか? いや、二つの速度はそこまでじゃない。当たってくれるほど甘い相手でも無いか)」

 

 覚醒して以来、初めての苦戦。初めての試行錯誤。それに何処か楽しさを感じてしまうのは、最強の宿命故なのか。相手は史上最強、呪術全盛の時代に君臨した両面宿儺。自らの全てをぶつけるには、これ以上なく申し分ない相手と言えた。

 

「(近距離×、遠距離△……そんでもって、領域展開も×……良いね、楽しくなってきたじゃん)」

 

 戦闘直後、両者の領域がぶつかり合った時の事を回想する。

 五条悟の領域、無量空処。相手に膨大な情報を与えて飽和させる、五条悟の必殺はしかし、両面宿儺の"閉じない領域(伏魔御廚子)"の前に易々(やすやす)と破壊された。縛りによって底上げされた威力に加え、領域は外から内への攻撃に弱い。一般人が巻き込まれる恐れもある。領域展開の応酬は、こちらの不利にしかならない事を五条は早々に悟っていた。

 

 領域展開は控え、相手が行った際の返し札として使う。閉じない領域ならば無下限呪術で範囲外まで逃げ、閉じる領域ならばこちらも領域を展開して押し合う。二度目の領域展開をそうやって凌ぎきり、両者の戦闘はシンプルな肉弾戦へと推移していた。

 

 立ち上がり、無下限呪術を利用した高速移動で宿儺へ接近する。再びの近接戦闘。鬼神の膂力を持つ宿儺に有利なフィールド。

 

「ハッ、最初の威勢はどうした!?」

「うるせぇよ……お前こそ、悠仁の身体でいつまでも好き勝手やってんじゃねえ!」

 

 周囲のガラスが割れ、ビルが瓦礫となって砕け散る。

 加速していく、怪物同士の戦闘。両者のボルテージが上がる中、天秤を乱すのは――――。

 

 これより、41秒後。

 五条悟の虚式"茈"が、渋谷にその戦跡を刻む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、ワイやで。

 ボロ雑巾みたいになっとる特別一級術師、禪院直哉くんや。

 

「……状況は」

「ゲホッ……あそこにおる塩顔イケメンが主犯や。呪霊操術と重力に、閉じない領域展開も使う」

「むう……強敵だな。禪院一級術師、五条悟は何処にいる?」

「宿儺が復活した。駅の方でソイツとやり合っとる」

「ガハハ! 地獄のような有様だな!」

「笑いごとちゃうでほんま……」

 

 笑うしかないってのは認めるけどな。五条~~~~~~!! 絶対負けんなや!! お前の長所って"強い"一点突破なんやから、負けたらイケメンだけしか残らへんぞ……!!

 ……いや、十分やんけ。何やこの理不尽な感じ。夢か?

 

「ふむ……Mr.直哉、状況は極めて悪い。こちらの話だが、呪詛師の中に一人怪物が居た。異変を感じた伏黒が足止めに残ってくれたが、そいつの乱入も視野に入れておいてくれ」

「うへぇ……何やそれ」

「……………気にするな。ただの、亡霊よ」

「?」

 

 思わせぶりなことだけ言うのやめてくれへん? イジメか?

 しかし、この2人がそこまで言うとか、いくら何でも呪詛師の層が厚すぎとちゃう? 呪術師(ワイ達)を見てみいや、永遠に人手不足でヒイヒイ言っとるねんぞ。

 

「……何にせよ、マジで助かったわ。これで三対一、数でボコって圧勝! 戦いは数やで兄貴、と言いたい所やけど……」

 

 つまらなそうな顔した羂索が、掌から呪霊をポコポコ湧き出たせとるのを見る。

 ヒィ~~~~~~~。なんぼ呪霊持っとるねんコイツ。チート過ぎやろ。一人で万軍を用意できる呪霊操術、流石に単独で国家転覆が可能な特級認定されるだけあるわホンマ。

 

「け……羂索はん。なんでそんな難しい顔しとるん?」

「トドメ直前で邪魔されて鬱陶しいなって顔。私、仲間を呼ぶタイプの敵キャラ嫌いなんだよね」

呪霊操術(お前)が言うなや」

「アハッ、確かに!」

 

 怖いわ~~~コイツ。情緒どうなっとんねん。何でそんな殺意垂れ流しにしながらニコニコできるん?

 精神構造がもう人間のもんやない。笑いながら人を殺せる、楽しみながらどんな邪悪も成せる。たまたま肉体()が人の形しとるだけで、内側はもう人間のもんちゃう。破綻した精神構造。宿儺と同類や。何処まで行っても呪いを振りまく事しか出来んカス。

 

「上等じゃボケ……!」

 

 何も生み出さん。何も積み重ねん。ただ奪って壊す事しか出来ん悪意(怪物)。お前らみたいなもんから無辜(むこ)の人々を守るのがワイらの仕事じゃ。そう気合いを入れながら、震える膝に力を入れて立ち上がろうとするが――――。

 

「―――――っ!」

「無理しない方が良いよー。呪力は尽きかけ、体もボロボロ。もう君に出来ることなんて無いでしょ」

 

 ガクンと身体が崩れ落ちる。……自分でも分かっとる。燃費が良いとはいえ投射呪法を全開で使い続けて、反転術式も二回使った。そう呪力が多いわけでも効率が良いわけでも無いワイにとっちゃ、ガス欠になるんは十分な量や。

 

「Mr.直哉、今は退け」

「……またまた、今のはお茶目な直哉くんジョークやって分からへん? ちょい待ってな、今ちゃんと立つから……」

「違う。Mr.直哉の戦意を無下にするつもりはない。戦略的な意味でも、今は奴の視界から逃れていて欲しいのだ。貴方が見えないだけで、相手は常に意識外からの奇襲を警戒しなければならなくなる」

「……東堂くん」

「我々は、総体で呪術師という生き物だ。この場にいる我々、全員で戦っているのだ。……釘崎に真希、Mr.直哉を頼む」

「……おう」

 

 二人の後ろに控えとった真希ちゃんと釘崎ちゃんに支えられた瞬間、視界が切り替わる。不義遊戯(ブギウギ)。手を叩くことで呪力を持つ者同士を入れ替える、東堂くんの術式や。

 

「……ハァッ! ハァ、ハァ……」

「……動くなよ。今、包帯巻いてやる」

 

 距離が離れた瞬間、自分がとんでもなく消耗しとった事に気付く。呪霊操術、火山頭、領域展開。どれも綱渡りやった。一つ間違えれば、少しワイの運が悪ければ、それだけで死んでいた。生死を懸けた極限状態で、ここまで精神を擦り減らしとったんか。

 

「…………」

 

 真剣な顔で、座り込むワイに応急処置をしてくれる真希ちゃんを見る。釘崎ちゃんは、呪霊がこっち来おへんように索敵してくれてる。二人共、この上なく真剣な表情や。

 ……こんな時でも、応急処置という行為にちょっとエッチさを感じてまうのはどうしてやろね。時折触れる手の温かさにドキドキしてまうで。ワイ、男の子やもん。

 

「張り倒すぞ」

「ゴメンて。というか、何でワイのモノローグ(考えてる事)が読めるねん」

「うるせえ。……こんなに、傷だらけになりやがって」

「……ごめんな」

 

 背中にあたる真希ちゃんの掌を感じながら立ち上がる。パッパたちが羂索の相手してくれてる間、ワイは奇襲の機会をキッチリ伺っとかなアカン。領域展開後は、一時的に術式が焼き切れて使用不能になる。結界を閉じようが閉じまいが関係ない。ワイがおる分、羂索は領域展開も出来んはずや。

 

「―――――――」

 

 刀を収め、居合の体勢を取る。

 

 遠く、パッパと東堂くんが羂索相手に戦っとるのが見える。

 不義遊戯による位置替えと、投射呪法による高速機動。この二つのアドバンテージで、羂索が繰り出す呪霊を何とか(しの)いどる。特に、東堂くんの動きが上手い。合わせるのが難しい投射呪法に、完璧なタイミングでブギウギを差し込んどる。

 

 でも。

 

 少しずつ、二人の身体に傷が増えていくのが見える。羂索の操る呪霊の群れを捌ききれず、じわじわと不利へと追い込まれていく。東堂くんの戦闘IQ。パッパの読み勘。その両者を上回るほど、羂索の戦い方が上手い。慌てず、乱れず、相手の術式を冷静にひも解いて有利を突く。無数の手札を持つ呪霊操術が、それを後押ししとる。

 

「……まだ出るなよ。羂索は、お前が焦って出て来るのを誘ってる」

「…………ドブカスが……!!」

 

 羂索は常に周囲に呪霊を置いて、ワイが一撃で倒せへん位置を(たも)ち続けとる。あの二人を相手にしながら、そこまで余裕を持てる底知れん実力。何でこんなバケモンが今まで隠れとったんや。

 

 もどかしい。今すぐ出ていきたい脚を、無理矢理押しとどめる。

 

 ……遥か遠く、怪物たちが争い合う轟音が響く。クソ。五条の方はまだ決着がつかへんのか。もしあいつが負けた場合、ワイらが羂索に勝とうが負けようが全部パーになる。焦るな。(きょう)()、疑、惑。四念を捨てて、ただ冷静になれ。

 

「冷静に……冷静に……!!」

 

 今すぐ飛び込んで助けたい気持ちを抑える。今ワイが向こうに行ったら、奇襲の心配が無くなった羂索は領域展開を切ってくる。そうしたら全員仲良く重力に潰されてお終いや。早く、隙を見せろ。呪霊から離れろ。そう一心に願いながら、ただ戦局の推移を見守る。

 

 そして。

 

「クソ……!」

 

 先に限界が来たのは、二人の方やった。

 パッパが呪霊に叩きつけられるのが見える。ブン殴られた東堂くんがビルに突っ込むのが見える。

 

「―――行くわ」

「おい、待て!!」

「待たへん。状況は変わった。もう二人は限界や。今すぐ突っ込んで、二人を回収する」

 

 ……惜しい場面は、何度もあった。その度に、羂索の戦闘勘がギリギリを上回った。あと一歩、奴の命に届かへんかった。

 

「それじゃ、羂索は!」

「アイツを倒すのは諦める。……奴は嬉々として向こう(五条 vs 宿儺)に介入しに行くやろけどな」

 

 クソ……! 失敗した。失敗した失敗した失敗した……!!

 今から向こうへ行って、羂索から無事に逃げおおせられるかも分からん。全員纏めて死ぬかもしれん。

 

 情けない。全員限界まで戦って、最後の最後まで絞り出して、結局は五条悟(最強)一人に丸投げや。クソ。そんな事を繰り返しとるから、呪術はいつまで経っても進歩せんかったんとちゃうんか。畜生。

 

 自分への怒りに顔を歪めながら、ワイが両足に力を込めた時。

 

「――――――――――――」

 

 はるか遠く。ワイの姿なんて見えへんはずのパッパと、確かに目が合った。

 

「(来るな)」

 

「(向こうに行け)」

 

 血塗れの父の口が、そう動いた。

 

「~~~~~~~~~~~ッ!!」

 

 反射的な激昂。満身創痍のくせにワイを逃がそうとする父に、ブチギレそうになったところで―――――呪力で強化された視力が、パッパの表情を捉える。不敵な笑み。攻めっ気に満ちた、自信ありげな表情。

 

 違う。これは、せめて息子だけでも逃がそうとする顔やない。

 

 ()()()()()()

 ()()()

 

「―――――――――――――!!」

 

 気が付くと、ワイは釘崎ちゃんを抱えて走り出しとった。

 

「ハァ!? ちょっとアンタ、何してんのよ!」

 

 投射呪法。一秒を24分割する禪院家の相伝術式で加速する。呪力は枯渇寸前。次の瞬間にでもぶっ倒れてもおかしない。全て気にするな。背後で、パッパが呪力を振り絞る気配がする。構わない。禪院家の家訓は、攻め続ける事。その先にある勝利を、二人共信じとる。

 

「―――決まってるやろ。勝利条件③や!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず違和感に気付いたのは、両面宿儺だった。

 

 五条悟。現代最強の術師を名乗る、眼の前の凡夫。多少他より活きが良く、名前が付いていないだけの(うお)。何の術式も刻まれていない、つまらん小僧の身体を使って、その鱗を剥いでいた所だったのだが―――。

 

「(何だ? この気配。小僧の仲間か?)」

  

 愚物なら入る事すら躊躇われる、怪物二人がその威をぶつけ合う殺戮領域。そこに、ほんのわずかな呪力が侵入してきたのを感じた。

 

「……つまらん。現代の術師とはここまで阿呆なのか?」

 

 五条悟の不利を見て、助けに入ったのか? 自らの分をわきまえない蟲ケラは面倒だな、と嘲る宿儺。小僧が目を覚ました時の為に嫌がらせでもしておくか、と斬撃を飛ばそうとしたところで――――悍ましい、しかし自らにとっては慣れ親しんだ呪力に気付く。

 

「――――宿儺(オレ)の指?」

 

 

 ビルの屋上、一人の女が静かに金槌を構えている。

 

 釘崎野薔薇。彼女は今、極限までの集中状態(ゾーン)に入っていた。

 

 両面宿儺。虎杖悠仁に潜む悪鬼。

 助けられる人間には限りがある。私の人生の席に座っていない人間に、私の心をどうこうされたくない。そう、釘崎野薔薇は思っている。では、虎杖悠仁はどうか? 入学以来の付き合いは、僅か半年にも満たない。その人間を助けるために、今私は死の瀬戸際にいる。

 宿儺に気付かれた。次の瞬間にでも、私は死ぬ。果たして、その天秤は釣り合っているのか?

 

 ―――――下らない。

 

「な、め、ん、じゃ、ねぇええええええええ!!!!!」

 

 一閃。()()()()が散り、藁人形に置かれた宿儺の指へ呪力が走る。甦るのは、過去の任務の記憶。八十八橋で、三人力を合わせ特級呪霊を祓った任務。

 

『へー……これが宿儺の指。ちょっとキモいわね』

『どうする? 俺が食べようか?』

『残飯じゃねーんだぞ……まあ、もうすぐ直哉さんが来る。()()()()()()()()()()()

 

 禪院直哉から託された、宿儺の指(特級呪物)。忌々しいその物体へ、思い切り呪力を撃ち込む。

 

 芻霊呪法「共鳴り」は、対象との繋がりを辿る。天と地ほどにもある実力差、二十分の一でしかない希少価値(宿儺の指)。たとえ黒閃だとしても、宿儺に対して何の痛痒も与えないはずだった。

 

 だが。

 

 両面宿儺が受肉した、その器(虎杖悠仁)。宿儺の内に眠る、もう一つの魂との繋がりは。

 

「――――――――っ!!」

 

 刹那、宿儺の動きが停止する。

 二度、衝撃が来た。最初はほんの僅か。しかし、まるで内側で何者か(虎杖悠仁)に増幅されたかのような二度目の衝撃は、初めて受肉を経験した宿儺にとって未知の衝撃だった。

 

 ほんの一瞬、宿儺の動きが鈍る。 

 コンマ0.01秒にも満たない刹那。この硬直が終われば、宿儺は斬撃を飛ばし、釘崎野薔薇を細切れ一センチ角に解体するだろう。宿儺にとって何の問題にもならない、ほんのわずかな一瞬。

 

 しかし。

 現在、この渋谷には。

 

 その刹那を、()()にまで引き延ばせる術師が存在する――――――!!

 

「術式反転―――――『白虹如箭(はっこうじょぜん)』!!」

 

 バチンと音を立てて、宿儺の背が叩かれる。最速の術師、禪院直哉。彼の手に触れた者は一秒、定められた通りの動きしかできない。宿儺ならば、初見で順転によるスタンに対応してくるかもしれない。その警戒が、術式反転に必要な呪力を無理矢理絞り出させた。

 

「――――や゛れや、ごじょお゛ぉおおおおお!!」

 

 最強と最速が、空中ですれ違う。ソニックブームによる切り傷でズタズタになった身体で、禪院直哉(最速)が叫ぶ。

 

「……ほんっとうに……良い後輩だよ、お前(直哉)!」 

 

 時間にすれば、ほんの一秒。

 

「――――"九網" "偏光" "烏と声明" "表裏の間"」

 

 しかし、この五条悟(最強)を前に――――その無防備な一秒は致命的だった。

 

「―――虚式"茈"」

 

 完全詠唱、200%の虚式。

 現代最強の術師による最高火力が、両面宿儺を焼き尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上。

 倒れ伏す両面宿儺の身体から、スゥ……と紋様が消えていく。未だ警戒を解かないワイに、五条が手を横に振る。

 

「大丈夫……この眼(六眼)で分かる。もう、両面宿儺じゃない。虎杖悠仁だ」

「あっそ……ほな、良かったわ……」

 

 虚式"茈"を喰らいながらも、宿儺はその意識を保っとった。ワイの術式反転は呪力操作も阻害するはずやのに、ギリギリで呪力を防御に回したんや。怖すぎる。ホンマに底の知れへん怪物や。せやけど、負傷により領域展開がままならない宿儺に、今度こそ五条悟による"無量空処"が炸裂して……宿儺は領域展延で粘ろうとしたけど、遂に倒れてくれたって訳や。

 

 ……六眼が無かったら、普通に怖くて近づけへんかったけどな。油断して近づいたら食い千切られそうちゃう?

 

「しんど……もう二度とやりたない……帰る……帰って真希ちゃんのおっぱい吸う……」

「うわっ、疲れて理性が無くなってる分直球でキモイな」

「ええねん、周りに人おらんのやから……それに、男はみんな赤ちゃんになりたいんや……」

 

 呪力も血も絞り尽くしてすっからかんや。こっからは子供のパンチ一発で沈むで。

 さっさと渋谷を出て……と思ったところで、コイツにはまだ仕事がある事を思い出す。

 

「アカン、アホ言うてる場合やない。五条、悪いけど渋谷アベニューの方に――――」

「―――要らん。スマンが、奴には逃げられた」

「―――! パッパ、生きとったんかい!」

 

 完全に死亡フラグやったやんけ! ……そう思うも、パッパの右腕が無くなっている事に気付く。

 

「……その腕」

「うむ。俺も逃げる奴を押しとどめようとしたのだがな……惜しくもこの有様よ。なあに、気にするな! この程度、術師ならば珍しくも無い!」

「……さよか」

 

 何も言わへんで。あの時パッパを助ける方を選んでいたらとか、後悔はするけどな。

 本人が笑って済ませてるなら、こっちが何か言うのも野暮な話や。

 

「五条悟。まだ向こうには、最後に放たれた呪霊が山ほどいる。悪いが―――」

「―――いいよ、そう勿体ぶらなくても。さっさと全部祓ってきてやる」

 

 そう言って、五条悟の姿が掻き消える。宿儺と散々やり合っとったはずやのに、もう呪力が回復しとる。六眼がチート過ぎるわ。またあいつに丸投げしてもうた訳やけど……まあ、今回はええか。こっちかて散々助けたったもんな。気持ちようコキ使えるわ。

 

「あー……」

 

 視界がぐらぐらする感覚。全身がダルくて立ってられへん。血が流れ過ぎて、ワイの足元がそういう現代アートみたいになっとる。まだ呪詛師の生き残りとかいるかもしれへんけど、それは他の人に任せよか。ワイはもうぶっ倒れるわ。

 

「ほな……ワイは、先にお暇するやで……」

 

 気絶した、早く家入さんを呼べと騒ぐ声を聴きながら、ワイは意識を手放したのやった。

 

 

 

 報告。

 渋谷内の呪霊、呪詛師の反応途絶。一部は逃亡したとの報告あり。

 死者数、数千人以上。多数の補助監督が死亡、または重軽傷。

 

 22:36。

 取り残された呪霊の内、最後の一匹の消滅を確認。

 この時刻をもって、渋谷事変は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

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