直哉「疾風迅雷やね」   作:成間饅頭(旧なりまんじゅう)

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 日本の何処か、薄汚れた廃ビルの中。
 二人の人間が、月明りに照らされて立っていた。

「……また姿を変えたのか。羂索」
「まあねー。術式は惜しかったけど、あのままだと六眼に捕捉されそうだったから。ま、無為転変だけは契約で確保できたし。セーフセーフ」
「これから、どうするつもりだ?」
「どうって……うーん、どうしようかな……。彼が面白かったから、暫くは武術に手を出してみようかな……。いや、海外に行って呪霊を集めるのもいいかも……」
「っ、そうではない! 計画はもういいのかと聞いているんだ!」
「えー? そんな事言われてもな……。メインプラン(獄門橿)サブプラン(両面宿儺)も失敗したし。この百年はもういいかなー、私は」
「…………!!」
「今から天元を襲いに行っても始末されるだろうし。死滅回遊も、未成熟の無為転変じゃ時間がかかりすぎる。はー、これだから六眼持ちは嫌になる……。次はどうしよっかなー、いっそ仲間に取り込む方向で頑張ってみるか……?」
「お前……っ!」
「ああ、君は好きにしたらいいんじゃない? 宿儺は宿儺で何か考えてるでしょ」
「……帰る」

 白髪の男が一人、姿を消した。
 残された男は、独り楽しそうに呟く。

「彼らが作る次の百年と、私が目指す次の百年。どちらが勝つのか。そういう勝負だよ、これは」

 そして、残るもう一人も姿を消した。
 後にはただ、月の光だけが寂しく残されていた。




第七話

 

 どうも、ワイやで。

 禪院家次期当主から正式に当主へランクアップした禪院直哉くんや。

 

 渋谷事変でパッパが片腕を喪ってもうたからな。身体のバランスが崩れて投射呪法も思うように使えへんくなるし、一歩間違えたら死んでたって事で、本人が勇退を宣言したって訳や。

 

 ……周囲はまだまだ現役やろ言うて止めてたけどな。実際、スピードが落ちても元の実力が実力や。やろうと思えば隻腕ながら一級術師のままでいれたかもしれん。隻腕という個性(オリジナル)……!! みたいなんもまあ、出来んって訳じゃなかったと思う。

 

 その可能性を蹴って、自ら当主の座を降りたってのは……どうなんやろな。死にかけて自分の衰えを自覚したんかもしれんし、主犯を取り逃がした責任を背負っとるつもりなんかもしれん。大穴の大穴、ワイ(息子)の成長を見て次代に譲る気になったってのがちょっぴりでもあったら嬉しいけどな。

 

「……それで、何でお前と二人で海に行かなアカンねん。療養中やぞワイ」

「アッハッハ! いいじゃん、別に。お互い当主なんだしさ、真面目な話をするなら海でしょ」

「どこの常識やねんそれ。お前の地元(宇宙)か?」

 

 そんな当主であるワイは、現在アホ目隠し(五条悟)に連れ去られて11月の海に来とる。潮風は寒いし周りに誰もおらんしで、なーんも楽しない。波を眺めとるだけや。どういうセンスしとんねんコイツ。もうちょい世の中楽しいとこあるで。ユニバとか行かへん?

 

「だいたい、療養中って何をだよ。反転使えるくせに」

「心の療養中や。渋谷でワイがどれだけの死線をギリギリ搔い潜っとったか。呪霊操術、火山頭、宿儺のボスラッシュやぞ。ゲームやったらコントローラー叩きつけとるわ」

「あー、はいはい」

 

 あと、療養中言っとると周りが優しくしてくれるんよね。なんか真依ちゃんもいつもよりキツうなかったし。騙しとるようで気が引けるけども、束の間だけこの役得を楽しませてくれや。

 

「どう、当主になった感想は?」

「ムズイわ。自分の意見は思うように通らんし、周りの事もちゃんと聞かんとギスるし……」

 

 当主に成った! ここから独裁! 全部俺の言う通り! ……なんてことは、当然無いわけで。下部組織の躯倶留隊、隠居済みの老人、親戚、禪院家傘下の家々……色んな奴らが好き勝手言うのを、なんとか手綱握って纏めなあかん。準一級レベルの人材をゴロゴロ抱えとるのが禪院家の強みや言うても、それは裏を返せばそいつらの発言権が強く、当主の意見が通りにくい事と同義な訳で。マジな話、パッパの偉大さを実感しとるわ。

 

「そういう意味では、ワンマン経営のお前(五条家)が羨ましなったりするで」

「いやー、直哉じゃ無理でしょ。雑魚だし」

「ボケカス」

 

 こいつの性格が良くなったら呪術界はもっと発展すると思うねんけど。そこら辺どう思う?

 

「まあ……取り合えず、躯倶留隊の教育にもうちょい予算割いて、結界術を扱っとる家に投資して、研究者を招いて……そういう、細かい事を積み重ねていっとる感じやな。やっぱ、当主に成ったら何でもかんでも解決言うわけには行かんわ」

「ふーん。何か面白い事やってないの?」

「無いわ、そんなもん……あ、一個あったわ。変わり種やけど、銃の呪具化に挑戦しとる。今んとこコストだけ高くて割に合わってへんけどな」

 

 老人たちには渋い顔されとるけどな。変人当主のご趣味って事で、なんとかお目こぼしされとる感じや。これが成功すれば二級以下の任務で損耗率が大きく下がると思うんやけどね。今んとこ、そんなんするくらいやったら素直に刀とか呪具化したほうがよっぽど効率ええって感じやわ。銃弾も呪具化する必要があるのがダルすぎるねんな。まあ、ここら辺はまだまだ発展途上や。

 

「へー、それちょっと面白そうだね。頑張ってよ、期待してないけど」

「出資してくれてもええねんで。無駄に金余らせとるやろお前も」

「うーん……まあ、それも良いかもね。後で金一封でも送っとくよ」

「え、マジかいな」

 

 完全に冗談で言ったんやけど。有難いは有難いけど、ちょっと不気味やな。強い潮風に眼を細めながら、隣の銀髪を見る。

 

「……何か、雰囲気変わったか?」

 

 何やろな……上手くは言えんが、ちょっと髪切ったくらいの違和感があるな。なんかこう……ちょっと柔らかくなったか? コイツ。

 

「別にー? まあ……渋谷で色々あったからかもね」

「……………」

 

 ……渋谷事変の、その後の話もしとこか。

 

 あの事件によって、非術師の一般人が数千人死んだ。渋谷駅地下で呪霊に殺された奴、改造人間にされた奴、それに殺された奴、五条と宿儺の戦闘に巻き込まれた奴。まず間違いなく、今後の呪術史に刻まれることになる大事件やった。いや、戦後最大のテロ事件として歴史の教科書にも載るやろな。

 総監部は、この事件を"海外のテロ組織による犯行"として隠蔽した。この大事件によって生まれる人々の恐怖(呪力)を、少しでも呪霊のほぼ発生しない海外に向ける為や。漠然とした"海外"へ向けられた人々の恐怖は、呪霊として形を成すことなく霧散していく……はずや。それでも、国内の呪霊はしばらく増えてまうやろうがな。

 

 渋谷事変の首謀者は取り逃がした。が、その後、()()()()()()()()宿()()()()()()()。脳みその無い、空っぽな遺体。……正直、不気味な終わり方や。どう考えてもおかしい。

 

 更にその後、上層部の何名かが不審死を遂げた事と言い、そもそも五条が始末したはずの夏油傑が生きていた事と言い、奇妙なことは幾つもある。派手な渋谷事変が終わっただけで、まだ何も解決してへんのちゃうかとすら思う。

 

「……僕さ」

 

 寄せては返す波を眺めながら、五条がぽつりとつぶやく。

 

「多分だけど、直哉が来なかったら死んでたかも」

「……さよか」

 

 そう語る五条の眼は、語っとる内容とは裏腹にどこか晴れやかに見えた。

 

「……お前やったら、勝っとったとワイは思うけどな」

「はは、かもね。術式の性能はこっちが圧倒的だし」

「なんやねん、さっきから嫌に素直で怖いわ。いつもの畜生さはどこいったんや?」

 

 調子狂うでほんま。

 強さ一点集中で呪術界をサバイブしとった奴や、宿儺相手に完勝できんかったから凹んどるんか?

 

「勝てたかもしれない、負けてたかもしれない。そういうギリギリの戦いは、本当に久しぶりで……というか、初めてだったかもな。楽しかったよ」

「ふーん……」

 

 価値観鎌倉武士か? どんだけバトルジャンキーやねん。そう思うが、口には出さんで堪える。

 

「ほら、僕って最強じゃん?」

 

 ピョンと堤防へ飛び乗りながら、五条がそう茶化すように(うそぶ)く。

 

「今だから言うけどさ、やっぱ周りとはどっかに線引きがあったよ。花を愛でる感覚というか……何だろうな。生き物として違うような感じ?」

「へー。孤高の寂しさ的なやつか?」

「まあ、そんな感じかな」

 

 両手を広げて堤防上でバランスをとる五条を下から眺める。日が眩しいな。何でコイツ堤防に上がっとんねん。降りろや。

 

「それで、初めて同格の宿儺(相手)と殴り合って、自分の全てをぶつけて、生きるか死ぬかの瀬戸際で……最後の最後、仲間(君たち)に助けられた」

「…………」

「まあ、それで……ちょっと価値観が変わったみたいな。そんな感じかな」

「ほーん……」

 

 コイツはコイツで、それなりに考えることがあったんやな。最強でも何でもないワイには正直一欠片も共感できひん概念やけど、理解は出来るわ。最強ゆえの孤独とか言い出したらワイは何で孤独やねん、道理があってへんやろとか言いたなるけどな。

 

「まあ、直哉って花は花でもダンシングフラワーみたいな奴だし。それが良かったのかもね」

「シバき倒すでお前……」

 

 ワイも堤防をよじ登って、ザラザラとしたコンクリートへ座り込む。

 

「色々言いたい事はあるけど、何かふんわりええ方向に向かっとるみたいで何よりやわ。ちょっとはお前のドブで煮込んだような性格が治るとええな」

「はいはい。お前だって褒められた性根じゃないだろ」

 

 やかましいわ。ワイは自分の事を積極的に棚に上げていく男やで。

 

「……まあ、ありがとね」

 

「ええよ、別に。確かにお前はカス野郎で、顔と強さしか取り柄の無い男やけど……」

 

 コイツ(最強)にとって、ワイが花でも草でも何でもええわ。

 

「……それはそれとして、友達やろ」

 

 一緒に飯食いに行った、カラオケも行った、スナックも行った。たとえ花でも、まあ友情はギリ成立しとると見てええやろ。異種族との友情(E.T)や。

 どうせ世の女からは怪物と思われとる身や、花やったらまだ綺麗な方やで。

 

「―――――――」

「……おい、何やねんその顔。ワイが滑ったみたいになるやんけ」

「……いやー……直哉と友達って言われると、女の子に噂されて恥ずかしいし……」

「絶交じゃカス」

「ははっ、冗談冗談。まあ……親友の席はもう埋まってるから、とりあえずお友達からで」

「ワイがフラれたみたいになっとる?」

「ゴメン……直哉くんの事、そういう対象として見たこと無くて……もっと直哉くんに相応しい人がいると思うな……」

「クソ女やんけ~~~~~~~!!!」

 

 一瞬キョトンとした顔しとったなコイツ……。これだからコミュニケーション全般は嫌いやねん。ワイが何かおかしなこと言ったみたいな空気になるやろ。

 

 その後、何もオモロない海模様を眺めながら、ぽつぽつと話をして。 

 

 ふとこの前訊いた話を思い出したワイは、五条へ喋りかけた。

 

「あ、せや。この前行ったスナック覚えとる?」

「直哉が下ネタしか話してない所」

「それは早急に忘れえ。チーママから聞いたんやけど、あれ実は支店らしいんよな。本店は北海道の北24条にあるんやって」

 

 何やっけ、店名……なんか、物凄く場末臭が漂う残念な店で……。スナックバス……バス島? あかん、忘れてもうた。

 

「そこで何やえらいめでたい事があったらしいから、暫くお祭り騒ぎしとるらしいんよ。おもろそうやし、今度行ってみいひん?」

「へー……。面白いな。なんか示唆的じゃん」

「は? 何が?」

 

 『新しい自分になりたいなら北へ。昔の自分に戻りたいなら南へ行きなさい』

 

「……別にー。 良いね、北。今の気分に合ってるかも」

「お、さよか。ほな、また今度の任務終わりにでも行こうや」

 

 ちなみに、北海道のすすきのは日本一とも謳われる歓楽街やで。いや、今の話とは何も関係はないけれども。

 

「……じゃ、そろそろ帰ろっか。意外と見る物なかったな~。冬の海ってそんな面白くないね」

「なんで連れてきたんやカス……」

 

 やっぱ絶交したろかな。

 

「今後が憂鬱やでほんま……結局主犯は死んだのか死んでへんのかも分からんし、宿儺の器をどうするかも決まってへんし……」

「ははっ……まあ、何とかなるよ。宿儺にも、次は勝ってみせるさ」

「ほんまかいなコイツ……」

「大丈夫だって。僕、最強だし」

「いっちゃん信用ならんわコイツ……」

 

 いずれ。

 コイツが最強と呼ばれんくなる時代が来る。画一化された技術。汎用化された呪具。そういう凡人の積み重ねが、たった一人の天才を凌駕する時代になる。

 次の百年で、必ずそうしたる。

 

 そんな事を考えながら、ワイは冬の海を後にしたのだった。

 ちなみにこの後、当主のくせに家を勝手に留守にしたとして真希ちゃんと真依ちゃんに滅茶苦茶怒られた。バレるスピードが速すぎるわ。疾風迅雷やね。

 

 

 

 

 

 






これにてこの作品は完結です。
沢山の読者にお読みいただき、心より感謝を申し上げます。

匿名を外して、活動報告に閑話のアイディアを募集しております。
作者の都合により投稿できるかどうかも未定ですが、読みたいアイディアをお書きいただければ幸いです。

スナックバス江、アニメ化おめでとうございます。


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