直哉「疾風迅雷やね」   作:成間饅頭(旧なりまんじゅう)

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第四話

 

 どうも、ワイやで。

 身内には強気に行けるけど初対面には超人見知りでおなじみ、禪院直哉くんや。

 

 三人の被害者の知り合いに話を聞こうとしたら、もうお亡くなりになっとって空振り。伏黒くんの通ってた中学に行って心霊スポットである八十八橋(やそはちばし)の情報を得て、日が暮れるまで張りこみしとったけど何の成果も無くて空振り。

 

 低級案件はこういうフィールドワークが必要なのがしんどいんやね。色々探し回って手がかりを見つけるのはゲームでやるから楽しいんであって、リアルでやるとメンタルがキツイわ。

 

「…………………」

「(なあ伏黒、あの人ずっと難しい顔して黙ってるけど大丈夫か? 俺たち何かやらかしたかな?)」

「(いや……まあ、そっとしといてあげてくれ。悪い人では……いや、うーん……時々気持ち悪いが……まあ、悪い人では無いんだ)」

「(煮え切らないわね。そもそもアイツ、上層部の回し者でしょ? 上層部が前の任務で虎杖に何やったか、私はまだ忘れてないわよ)」

 

 ワイを見てひそひそ話すんのやめてくれへん? 陰口は魂の殺人やで。

 

 教室の隅が主な生息域なワイにとっては、中央でワイワイやっとる男女グループの笑い声でさえビクッとなってまうんやね。え、今視線がこっち向いてへんかった? って永遠に疑心暗鬼になってしまうんや。ワイはいったい何に怯えてるんやろね?

 

 しかし監督役として来とる以上、このまま黙りこくってる訳にもいかん。

 真希ちゃん……この借りは高くつくで……!

 

「ねえ」

「!?」

 

 アカン、機先を制された。ワイの速度についてこれるとは……中々やるもんやね。

 

「監督役サマの意見も聞いておきたいんだけど? 呪霊捜索は見ての通り成果ナシ。呪霊の呪の字も出なかったわ。見事振り出しに戻ったわけだけど、さっきからずっと喋ってないアンタはどう思うのよ」

 

 言い方キツすぎへん?

 ワイ何もしてへんやん。何もしてないのがアカン言われたらぐうの音も出んけど、それでも植物のように静かに生きてきたワイに対してあんまりな仕打ちちゃう?

 

 さっきから思っとったけどこの子、オタクに優しくないタイプのギャルやね。 ワイに対して特効や。女慣れしてへん童貞にとっては最もハードルの高い女の子やね。

 

 後は言わんでも分かるやろ。詰みや。死ぬでワイ。

 

「……………!!」チラッチラッ

 

 伏黒くん!! ワイらって"親友"やんな! ワイは伏黒くんのこと信じとるで!

 

「……………」

 

 あ、考え事してて気づいてへんわ。もう終わりやね。

 

「アッ、ワァ……「あぁ!! いたーっ!! 良かったぁー!! 」」

 

 誰や! いや誰でもええわ、ようやってくれた!!! 口座教えてや、然るべき額を振り込むで!!!

 

「……藤沼か?」

 

 騒がしい闖入者に、考えこんどった伏黒くんが顔を上げる。知り合いみたいやね。ええ知り合い持っとるわ。大事にするんやで。

 

「あ、こっちはウチの姉ちゃんです! 昨日、姉ちゃんに伏黒さんの話してて――――」

 

 ふう……皆の注目がワイから逸れたわ。後はいつも通り、隅でニコニコして大人しゅうしとる仕事に戻るやで。ワイはありとあらゆる合同任務を隅っこで愛想笑いを浮かべる事で乗り切ってきた男や。今回も負けへんで!

 

 

 

 

 藤沼くんが語ってくれたところによると、どうやら藤沼くんのお姉さんも中二のころ夜の八十八橋に行っとったらしい。ほんで最近おうちの自動ドアが開きっぱになっとって、そこに何か"いる"ように感じるんやと。

 

 ……バリバリ呪われとるやんけ。今までの被害者から行くと、あと一週間もしたらこの子も死ぬで。

 

「そうだ、伏黒くん。あの時、津美紀(つみき)さんも一緒にいたよ」

「―――――――ッ!」

 

 伏黒くんが息を呑む。

 ……津美紀ちゃんって言うんは、伏黒くんのお姉ちゃんや。血の繋がってへん義理の姉やで。ここは死ぬほど羨ましいけれども、津美紀ちゃんはずいぶん前に倒れて寝たきりになっとる。

 

「……そうか。じゃあ、津美紀にも聞いてみるわ」

 

 何でもないような顔でそう返せる伏黒くんは、まったく大したタマやで。本音はもう居ても立ってもいられへんはずや。

 

「………………」

 

 ふむ。

 今の話だけで、随分状況が変わったんちゃう?

 

 まず一つ。被呪者が想定よりずっと多い。つまり、定められとった呪霊の等級も当てにならんって事や。少なく見積もっても一級以上やね。二級術師の伏黒くんたちだけじゃちょっと力不足や。

 

 二つ。津美紀ちゃんを守る手段が無い。高専は慢性的に人手不足やし、今回の呪霊は一級案件や。どう考えたって人が足らん。加えて、津美紀ちゃんは既にマーキングされとる。内側から術式が発動した場合、いくら傍におっても何の意味も無い。呪霊は被呪者の前にだけ現れる上、津美紀ちゃんは寝たきりや。ワイらには呪殺の前兆が来とるのかどうかも分からんしな。

 

「伏黒……!」

 

 最後に三つ目。

 

 現在ここに()()()()であるワイがおって、呪霊を発見する条件もほとんど解明できたことや。

 

「良かったやん、伏黒くん!」

あ゛?

 

 えっこわ、なんで野薔薇ちゃんがガチガチにキレとるの???

 

「おい釘崎!」

「黙りなさい虎杖。それで? 伏黒のお姉さんが呪われていて、何が『良かった』って?」

 

 怖すぎへん? オタクに厳しいギャルって言ってたの撤回するわ。これもうヤンキーやんけ。

 

「な、何やねんな。釘崎ちゃんこそ、状況分かっとるんか?」

「アンタがクソ野郎なのは良く分かったわよ」

「そうやなしに! ええか? 津美紀ちゃんは、【夜に】【橋の下で】【川を渡って】肝試しに行ったんや。 全部呪術的に大事な要素や、 条件はほぼ解明できたやろ? 後はその呪霊をボコって祓えばええだけやんけ!」

「だからそれが―――!」

 

 そこで釘崎ちゃんの言葉が止まる。あ、あぶな~~~……。胸ぐら掴まれかける直前やったわ。

 綺麗なお顔が眼の前にあってドキドキしたで。もうこの任務も終わりやし、今日は帰ったら女不良もので抜くやね。

 

 にしても、ようやくワイの言いたいことが分かってくれたようでホッとしたで。

 ワイ、これでも一級術師やで? 一級案件が何やねんな、そんなもんパパっと祓って終わりや。

 

「……ごめんなさい」

「(興奮したから)かまへんよ。友達想いのええ子やね、釘崎ちゃんは」

 

 不良は身内に優しいって言うのはホンマやったんかもね。「一級術師や」ってドヤるの気持ちよかったから、何ならもう一回させて欲しいで。

 

「ほな伏黒くん、ここからの指揮はワイが執らせてもらうわ。

 とりあえず、夜まで時間あるし……ご飯でも食べよか? ワイが奢ったるやで」

 

 心配せんでも、もうこっからは誰も死なさへんよ。明日にはみんなお家のベッドでスヤスヤや。

 

 

 

 

 

 

 

 ご飯食べて、ちょっと焦っとった伏黒くんも落ち着いて、今の時刻は夜。

 

「―――闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え」

 

 新田ちゃんに帳を下ろしてもらって、準備も万端や。仕事頑張るやで。

 

「条件は恐らく、【夜に】【下から】【川を渡って】の三つ。つまり、ここを踏み越えたら呪霊と即ご対面や」

 

 川を背にして、三人にクルリと向きなおる。

 

「これは合同任務やし、そもそも三人も立派な呪術師や。当然、今回の戦闘にも参加してもらう。……やけど、ワイは()()()や。皆をちゃんと家に帰す義務がある。ワイは命かけてでも皆を(かば)うけど、皆は絶対にワイを庇ったらアカン。君たちが死ぬんは常にワイの後や。君らのプライドとかは関係ない。大人はそうあるべきやとワイが思っとるから、君らにはそれを押し付けさせてもらう」

 

 真剣な顔で皆の眼を見る。仕事中のワイは真面目な堅物や。ワイの仮面(ペルソナ)をとくと見るやで。

 

「戦闘中は、ワイの指示にしっかり従ってほしい。特に、ワイが退()けと言ったら退いて、逃げろと言ったら逃げる。この二つだけは絶対に守って欲しい。ええね?」

「「「はい!」」」

 

 よし、ええ返事やで。

 

「(……ちょっと伏黒。さっきまでの醜態は何だったのってくらいちゃんとしてるじゃない)」

「(言ったろ。時々気持ち悪いけど、悪い人じゃないって)」

 

 薄暗い川の水面へ足を踏み出し、乗り越える。

 

 一瞬の暗転。

 

「ッ!!」

「お、ビンゴやん」

 

 橋の下やったはずが、フジツボがうようよ生えとる洞窟の中へ早変わり。呪霊の生得領域や。ほんで、あそこでニヤついとるフジツボが今回の呪霊やね。

 

ナァアアアアアア……!!!!

「はい、ほなさよなら。来世はちゃんとカワイイゆるキャラに転生せえよ」

 

 一閃。

 間合いを詰めたワイが短刀を横一文字に振り抜く―――と、呪霊はフジツボの中へ"ニュッ"と引っ込んだ。何やコイツ。ほんで遠くのフジツボからまた"ニュッ"っと出てきて、「ナァアアアアアア……」とキモイ声で鳴く。

 キモ過ぎ。カスのモグラ叩きやんけ。こんなん大阪の心斎橋にあったら、一日でゲーセンから筐体叩き出されるで。 

 

「ワイの嫌いな作業ゲーやな……ほなみんな、後ろで出口叩き潰しといてもらって、」

 

 その瞬間。

 

――――あ?

 

 釘崎ちゃんの背後から、手が生えてきた。

 呪霊やない、結界の外から出てきた腕が、釘崎ちゃんの服をひっつかんで外に投げ出す―――。

 

「舐めんなやッ!!」

 

 ――――前に、ワイがその腕を蹴り飛ばす。

 【投射呪法】。事前に24fpsで作った動きを後追い(トレース)することで高速機動を行う。ワイの術式や。

 

「―――――ッ!?」

 

 硬い。腕とサヨナラさせるつもりで蹴ったんに、服から手ぇ離させるだけやった。

 あまりに有り得へん事態に、思考が高速で回転する。

 手練れか? 何でこのタイミングで来んねん。何者や? 誰の手引き。高専の襲撃事件と関係が?

 

 いや待てや、帳はどうなっとる?

 ―――新田ちゃんがヤバい!

 

「―――ッ、全員傾聴! そこの呪霊は意外と雑魚やった! やけど結界の外になんかおる、ワイは外に出て今の奴を追う!」

 

 果たしてこれが正しいんか、ワイにも分からん。やけど、外にどれだけの脅威があるか分からん以上、いま三人を外に出すんはマズい。先にワイが出て、外の奴らを引き付けんとあかん。

 外のゲボカス共を速攻片付けて、新田ちゃんの安否を確認して、その後結界へ戻って三人の援護をする。これが今のワイに出来る最大効率なはずや。

 

「最低でも外の奴らは離れさすから、呪霊がヤバかったら外出て逃げえ! 返事!」

「「「了解!」」」

「ええ返事や!」

 

 ティーンの元気ええ声を背にしながら、結界の外に出る。さっきのフジツボ洞窟から、また八十八橋の河原へ。

 

「……ほんで、お前らは誰やねん」

「ふむ、手練れの術師が一人……私たち兄弟のお遣いに、呪術師殺しは含まれていません。ここはお互い、見なかったことにいたしませんか?」

あ゛、兄者ぁあ゛……」

 

 ほぼ裸みたいなボンテージ着とる変態が一人と、ゆっくりの出来損ないみたいなバケモンが一体。ほんで帳は下りたままや。コイツらがすり抜けて来たんか?

 以前の呪術高専襲撃。確かあん時も高専の結界が抜かれとったな……。

 

「……とりあえずお前ら二人、バチボコにしばいたるわ」

「ふう……お遣いというのも案外、骨が折れるものですね……」

は、初めてのお遣いだな……

 

 お前、そのガワでちゃんと喋れるんかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





一話に詰め込もうとしたら終わりませんでした。
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