直哉「疾風迅雷やね」   作:成間饅頭(旧なりまんじゅう)

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第五話

 

 どうも、ワイやで。

 戦闘中は自己暗示も兼ねてイキリまくるでおなじみ、特別一級術師の禪院直哉くんや。

 

「―――ッ、速い!! 」

「あ゛にじゃぁ゛っ!」

「ちゃうちゃう、キミらがトロすぎるんやって」

 

 帳を抜けて現れた、呪物の受肉体らしき二人。高専から盗まれた呪物らしき二人をタコ殴りにしながら、ワイは内心ヒエッヒエやった。

 酸か毒か分からんけども触れたらアウトっぽい血を吐く弟、背中から血の羽を生やして操る兄。今んとこワイが優勢やけど、一発でも毒を貰ったら一気にひっくり返される。電撃イライラ棒並みに気を付けて動かんとあかん。

 

 それに新田ちゃんの安否も心配や。帳が下りとるままな以上、生きとるとは思うんやけど……。

 あ゛ああああイライラするで……何やコイツら、普通に強いやんけ~~~!!!

 殺すぞ~~~~~~~~~~!!

 

「―――――血塗(けちず)!!」

「遅いわカス!」

 

【投射呪法】。

 

 出来損ないゆっくりを突き飛ばした裸ボンテージの肩に、ワイが投擲した短刀が突き刺さる。そういやこいつらの名前って何やねん。ゆっくりとボンテージって呼べばええんか?

 

「この短刀、一億くらいするねんで。もっとその切れ味、味わってって、や!」

 

 ボンテージが短刀を抜こうとする前に、ワイがその肩の短刀をひっつかんで何度も突き刺す。向こうからしたら訳わからへんやろな。肩に何か刺さったと思ったら、次の瞬間にはワイが眼の前におるんやもん。

 

「ぐ、がぁっ!!」

「やから、トロ過ぎて当たらへんって。顔デカいくせに脳ミソピンポン玉か?」

 

 吐き出してきた毒血を回避して、兄弟と距離を取る。

 

「弟は毒の血を吐き出すだけ、兄はそれに加えてちょっと操れるだけ。帳を抜けてきた結界術はどしたん? このままやとそろそろご臨終やで」

 

 もうええわ。

 戦闘の流れからして、コイツらに結界術の知識は無いとワイは読んだ。多分背後におる奴がヤバいんやろね。呪具渡したんか遠隔操作したんか知らんけど、ここまで結界操作に長ける奴がおるってのはかなりのマズいで。コイツらが結界クソ上手勢やった方が何倍もマシやったわ。

 

「降参するなら早めに言ってな。洗いざらい吐くんやったら、命だけは助けたる」

 

 ワイの目標はもう決まっとる。

 ①誰も死なさへん。

 ②このアホ二人を無力化する。

 ③背後におるカスの情報を得る。

 ④生け捕りにして、情報を絞り出す。

 

「②までは絶対。③まで出来たら、気になっとったVRゴーグル買ってええことにしたる……!」

 

 その為には、もう一枚手札を切っておこか。

 短刀をゆっくりの方に放り投げて牽制し、腰に差しとった日本刀を抜く。

 

「―――――」

 

 ピィン……と、空気が張り詰めるような感覚。認知が拡張されて、五感が今までより鋭敏に刺激を受け取ってくれる。やっぱ刀はええね。背筋が伸びるわ。ワイ、男の子やもん。

 

 術式は、解釈によって姿を変える。

 【投射呪法】。事前に24fpsで作った動きをトレースする術式。この術式も、解釈によってどんな風にでも変わる。

 

「―――ッ!! (刀を手にした途端、この圧力! 馬鹿な!この術師、呪具使いか!?)」

「あ゛に゛じゃぁッ!」

「ああ、弟よ! ―――蝕爛腐術(しょくらんふじゅつ)(ごく)ノ番!」

 

 極ノ番。術式を極めた先にある奥義。

 ボンテージの背後から、血で固められた(はね)が生える。一つ一つが猛毒で出来た死の翼。それを自由自在に操ると。成程ね、結構イヤな術式やないの。

 

「死になさい、名も知らぬ術師よ!!」

 

 翅が一斉に蠢いて、複雑な機動を描きながらワイに襲い掛かってくる。あれ全部が毒や。一発でも掠ったら激痛で動けへんくなる。そしたら救援もおらんワイはこの兄弟になぶり殺されてゲームオーバーや。

 一発オワタ式のゲームは今のトレンドに合ってへんで。そもそも、受肉体やからなんか知らんけど何やねんこの血液の量は。ちゃんと失血死せえ。

 

 四方八方で蠢く血の翅が、一斉にワイへ襲い掛かって―――。

 

「死ぬかい、こんなもんでワイが。寝言はお布団の中でせえよ」

 

 ――――ひとつ残らず、ワイの刀によって斬りふせられた。

 

「―――――ッ!!」

「あと、ワイの名前は禪院直哉くんや。よう覚えとってな」

 

 術式は、解釈によって姿を変える。

 

 動きを正確にトレースする【投射呪法】を、ワイは『()()()()()()()()()()()()()()()()』として再解釈した。

 

 浅山一伝流、北辰一刀流、薬丸自顕流、天然理心流、タイ捨流。果てには、歴史の闇に埋もれた過去の術師の秘伝まで。新古問わず、ありとあらゆる剣術師範を呼びつけては剣を教わった。その全てを、【投射呪法】は正確に再現してみせた。

 

 今お前らの眼の前におるんは、ワイ一人だけやない。

 弱っちい人間が、ちまちまちまちま千年かけて練り上げた『剣術』の歴史がお前らの前に立っとるんや。

 

「あんまり、舐めるんや、な、い、で!!」

 

 懐へ飛び込む。相手は切り札を切った、ここが決め時や。

 

 一瞬で弟の四肢を斬り落とし、術式を維持したまま兄の方へ跳ぶ。まだワイの速度についてこれてへん右腕。弟の異変に気付いて叫ぼうとする左足。逃げようとした右足、左腕。全部切り落として脳天に刀を突きつける。

 

 詰みや。ここからコイツが血を動かすよりも、ワイが首を飛ばす方が確実に早い。

 

「―――四肢を斬った。弟の方はほっといたらあと数分で死ぬ。……はよ降参せえ」

「……呪術師が、何を、」

「アホ。ワイかて、呪霊相手にこんなアホらしい事言わんよ。これでも御三家や、お前らの事はよう知っとる。()()()()()。高専から盗まれた呪物の一つや。御三家の汚点、加茂憲倫が造り出した人間と呪霊のハーフ。純粋な呪霊とちゃうんや、人間(こっち)側につく余地もあるやろ」

 

 無いって言ったら殺す。

 そう言って、首筋を刀で脅すように叩く。

 

「こっちも必死のパッチや。……お前らの背後に何がおるんか、分かっとかんとヤバい気がする」

 

 かつて起こった、呪詛師夏油傑による大規模テロ。あれでどれだけ禪院家(ウチ)が被害受けたと思ってんねん。あれの焼き直しは絶対ゴメンやで。

 

「『縛り』や。お前らレベルを長々拘束できる持ち合わせは無いからな。協力を約束するんやったら、お前も弟も治したる」

「……反転、術式……!」

「呪霊やったら死ぬけどな。受肉しとるお前らなら治せる。……はよせえ、弟はもう虫の息やで」

 

 そう言って、首に置いた刀を少し食い込ませる。ここまでズタボロにして、まだ折れへんのやったら殺すしかない。兄と弟のうち、まだ頭が回りそうな兄の方を交渉相手に選んだ。兄弟仲が良さそうやったから、弟の命も天秤に載せたった。これ以上の条件はワイには造れん。一発アウトの毒血相手や、次安定して勝てるかは分からんしな。

 

 ……数秒の逡巡(しゅんじゅん)

 

「……条件を、吞みましょう。だから、弟を……!」

 

 ボンテージは、諦めたように首を縦に振った。

 

 ふう。

 あー、良かった良かった。勝利条件、④まで無事達成とちゃう? VRゴーグルはワイのものやね。顔面(ヘッド)騎乗(マウント)罵倒(ディス)プレイで本日はお楽しみやで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァ……ア、ぶ、無事で良かったでェ……」

 

 その後。

 

 誰かが帳を抜けた事に気付いて、ワイらを探してくれとった新田ちゃんと合流したワイは、バチクソに焦りながら、フルスピードで八十八橋の結界へ引き返した。

 ボンテージ兄弟について新田ちゃんに禪院家と連絡を取ってもらっとった間、ボンテージ兄が『私たちの目的は、宿儺の指の回収でした』なんて言い出したからや。

 

 ホンマに血の気が引いた。正直終わったとすら思ったわ。

 八十八橋の呪霊は、特級呪物である宿儺の指を取り込んどったんや。あのフジツボ系ゆるキャラは呪胎……いわばポケモンの進化前みたいなやつで、本体は特級相当や。それ相手にワイは伏黒くんら三人を置き去りにしてしまった。『ヤバかったら逃げえ』とは言ったものの、特級相手に逃げられるかは怪しい所や。

 

 頼むから無事でおってくれと思いながら顔中真っ青にして八十八橋に辿り着くと、伏黒くんら三人は疲れて河原に倒れこんどった。三人で特級を祓ったんや。これはとんでもない快挙やで。

 

「(……元に戻っちゃったな)」

「(まあ……任務が終わったからな。スイッチがオフになったんだろ)」

「(なんか、残念な男ねぇ……普段からずっと仕事してればいいのに)」

 

 そこから、九相図兄弟を禪院家に引き渡して呪術高専にも報告入れて、全部の仕事が終わって。

 仕事用のスイッチが切れたワイは、またプルプル微振動するしかない哀れな生き物に戻ってしまったという訳やね。

 

 な、何の話すればええんや? 今の高校生って何を見とるん?

 ワイは最近TikTokでエッチなダンス動画を見るのにハマっとるけど、これで「ワイもTikTok大好きやで!」って言うのは月とスッポンくらいの差があらへんか?

 そもそも、ワイが呪霊の等級を見切れへんかったせいで無駄に三人を危険に晒しとるし……。

 

 あかん。

 もう迎えとか待ってられへん。逃げるわ。

 

「あ……ほな、ワイは用事あるからこれで……」

 

 そもそも、ワイは仕事が終わったらすぐ家に帰ってゆっくりしたいねん。

 仕事外の付き合いはメンタルを金やすりで削られるような苦行なんや。

 

「ちょっと」

「ピッ」

 

 やめてくれややめてくれや……大人は噓つきやない、間違えるだけなんや……。

 

「……ありがとうございました。あと、ごめんなさい」

 

 そう言うと、釘崎ちゃんは静かに頭を下げた。

 

「おおー!」

「何よ、虎杖」

「いや、釘崎が素直にお礼言うの珍しいと思って……」

「アンタねえ」

「やめろやめろ。直哉さん、俺からもお礼を言わせて下さい」

「あ、俺も俺も! ありがとうございました!」

 

 三人がワチャワチャ騒ぎながら、ワイに御礼を伝えてくる。

 

 ……そうか。このあたたかい空間……。そうか、そういうことやったんや……。

 

「ワイも……呪術高専の1年生やったんやね……」

 

 ああ……だんだん思い出してきたで……。皆で行った修学旅行、ダラダラ教室で過ごす楽しかった時間……。ワイがモテなさ過ぎて発狂してたバレンタインデーは、皆で慰めてくれたやね……

 

「は?」

「東堂と同じ事言ってる!!」

「あなた高専行ってなかったでしょ」

 

「マジレスやめてくれへん?」

 

 

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