直哉「疾風迅雷やね」   作:成間饅頭(旧なりまんじゅう)

9 / 13
渋谷事変②

 

「ハァッ、ハアッ……!!」

 

 人が減り始めたホーム内を、漏瑚(じょうご)は必死に走っていた。

 誤算。五条悟の"赫"は、()()()()一般人を巻き込まなかった。思わぬ暴走に驚愕した呪霊が、非情さを見せつけるためのブラフかと判断に迷った瞬間、二発目の"蒼"が花御を砕き尽くした。

 

「(何故だ!? なぜ五条悟は、非術師を、守ろうと――――!!)」

 

 何処で計算が狂った。何故花御(はなみ)は死んだ。相手の善性に期待した作戦に、そもそも命をベットするべきでは無かったのか。死に物狂いで駆ける漏瑚の脳内には、既に走馬灯らしきものが流れ始めていた。

 

「ッ、邪魔だ!!」

 

 五条悟を封じるために用意した人間(肉壁)が、今やこちらの動きを阻害する檻となっている。非術師にぶつかる一瞬、炎で焼く一瞬で自らの命が零れ落ちるかもしれない緊張。

 

「(相手の狙いは分かっている! 人質をあえて無視する事で、非術師を殺しても意味が無いと儂らに思わせたいのだ! ……だが、それが分かった所で……!!)」

 

 初手だ。初手で、花御を殺されたのが致命的だった。

 もし五条悟が問答無用でこちらを鏖殺するつもりなのであれば、"領域展開"こそが最善の策だったはずだ。非術師を一人残らず鏖殺する代わりに、呪霊を確実に祓う事が出来る。それをしないという事は、今なお非術師が彼の足を僅かに緩めているという事。

 だが、あの圧倒的な暴虐を前に、その一縷の望みは余りにもか細いものだった。

 

「ッ、漏瑚ォ!」

「ガァ――――ッ!」

 

 五条悟の長い脚で繰り出された蹴りを防ぎきれず、右腕が千切れ飛ぶ。

 慌てて呪力を流し込むことで再生させるが、その動きは戦闘当初からすると余りにも鈍い。度重なる再生や領域展延により、無尽蔵だと自負していた自らの呪力も尽きかけている。

 

「(20分……! たったの20分が、こんなにも遠い……!)」

 

 人間は嘘で出来ている。表に出ている偽善の裏に、ドス黒い醜悪を抱えている。

 偽りの無い、純粋な憎悪や殺意。そこから生まれ落ちた呪霊(我々)こそ、真の人間だ。

 死すら恐れず、目的の為に裏表のない道を歩む。それこそ、偽物どもには出来ぬ呪霊の真髄。そう信じる漏瑚が、なおも自らを奮い立たせようとして――――。

 

 ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!

 

 けたたましい音と共に、電車が駅のホームへ火花を散らしながら到着した。

 

「来たな!」

 

 状況は一変した。

 喜色を浮かべる漏瑚を他所に、やっと来た電車(脱出手段)へと人々が我先に押し寄せていく。

 しかし、呪霊は知っている。この中に居るのは、真人によって怪物と化した改造人間たちだ。電車から溢れ出した化物たちによって、駅構内の人間は次々と食い尽くされていく。更に、吹き抜けを覆っていた樹木が解け、その上に立っていた人間が駅構内へ投入されていく。

 

「よくやった、真人―――?」

 

 そう言おうとして振り返り。

 真人が何処にもおらず、何故か宿儺の気配を感じて、気づけば夏油が眼の前に立っていて、

 

「うーん、ホントは真人も君も、今取り込みたくは無かったんだけど……真人は器を殺したがるし、君はそろそろ死にそうだし。仕方ないよね。じゃ、今までお疲れ様でした~」

 

 目の前を掌が覆い尽くしたのを最後に、漏瑚の意識は闇へと消えた。

 

 

 

 

「やっ、悟。久しいね(笑)」

「……テメエは、誰だよ」

「おー、怖い怖い。その様子だと、親友と奇跡の再会! って感じじゃなさそうだね。あー、危なかった。アレ(獄門疆)を使ってたら失敗してたんじゃない?」

 

 阿鼻叫喚の渦の中、その二人の周囲だけは周囲の喧噪から外れて凪いでいた。本能のままに暴れるはずの改造人間が、二人に背を向けて逃げ出そうとしている。

 

「名は羂索。こういう術式でね、脳を入れ替えれば肉体を転々と出来るんだ」

「へー、そりゃご丁寧にどうも。で? お前の遺言ってそれだけで良いの?」

 

 知性を無くした改造人間にすら感じ取れる、二人の隔絶した実力。

 

「まさか。メインプランは既に破棄した。だったら、サブプランの出番だろ?」

 

 そこに踏み込めば死ぬしかないと、本能で分かる絶死領域(デッドゾーン)

 ()()()()()()()()

 

「げ、夏油ぉおおおおおおおおお!!!お、お?」

ククッ。蛸風情が、そう粋がるな」

 

 仲間である漏瑚を取り込まれ、怒りのままに地下を水で満たそうとした陀艮(だごん)の全身がズレる。

 グチャグチャになった死体の背後から現れたのは、五条悟にとって予想外の顔だった。

 

「―――――っ、宿儺!」

 

 史上最強の術師、両面宿儺。虎杖悠仁に封じられていたはずの悪鬼が、表に出ている。

 羂索を名乗る男を睨みつける。この状況。誰の仕業か、考えるまでも無い。

 

「……お前か」

「正解。六眼相手に一人で挑むのはもう懲りたからね、ちゃんと君を殺せる相手を用意したよ」

「―――――『小僧の身体をモノにしたら真っ先に殺す』と、そう言っていたな。少々予定は早まったが、まあ良い。約束通り、殺してやる」

「ああ、虎杖悠仁()の事は気にしなくていいよ。念入りに痛めつけた(調整した)から、少なくとも今日一日は目を覚まさない」

「……ハッ、良いね。二人とも、これで負けたら言い訳できないよ?」

 

 闘気が立ち昇る。

 現代最強の術師。史上最強の術師。そして、その両方を知悉(ちしつ)する者。

 人外魔境と化した渋谷駅構内にて、三人の決戦が始まろうとしていた。

 

 ――――そして、()()()()

 

「―――――羂索!」

残っ念!! 最高レア確定演出からの――――ワイや!

 

 パゥ、と空気を弾くような音と共に、羂索の背が刀によって斬り裂かれる。

 遅れて、踏み砕かれた大地の衝撃音が空気をビリビリと震わせた。人が音より早ければ、そのようになる。自身の速度に任せた、遥か後方からの奇襲であった。

 

 それを成したのは。

 

「や、直哉。遅かったんじゃない?」

「アホ抜かせカス。色々考えたら、お前が助かっとるのって全部ワイのお陰やで。崇め奉りや」

 

 現代最速の術師、禪院直哉。

 

「クククッ。どうした羂索、もう死んだか?」

「……まさか。ハァ、だから封印が良かったんだよね……」

 

 彼を加えた四人で、渋谷決戦のゴングは鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、ワイやで。

 特別一級術師、禪院直哉くんや。

 

 ハロウィンは元々ケルト文化の祭りでーー云々言うても、もう何の意味も無い世の中になってしもうたね。すっかりパリピ風にスクラップ&ビルドされまくって、ただ陽キャが騒ぐ口実のためだけに使われとる。

 ちなみにワイにとってハロウィンは、スケベな恰好した女の子の写真がTwitter(新 X)に上がりまくるだけのイベントや。ある意味一番恩恵にあずかっとる人間かもしれんね。

 

「……で、何か一対一×2になってもうた訳やけど。こういうのって普通四つ巴ちゃうん?」

「実力差を考えれば妥当じゃない? まあ気にしなくていいよ、すぐ二対一になる」

「へー……なんや、煽り上手いやんお前」

 

 狭すぎる駅地下を脱して、袈裟姿の羂索いう男と向き合う。

 

 ハロウィンの飾り付けが目に痛いわ。陰を超えた陰、(スーパー)陰キャ2とでも言うべきワイが渋谷ハロウィンに参戦なんざ、本来やったら吸血鬼が教会のミサに参加するよりも有り得へんことや。

 クリスマスとかも、クリスマスソングが聞こえてくると苦しくなるんよね。闇属性やから聖属性で弱点ダメージ食らっとるのかもしれん。

 ワイは……悪魔崇拝者(サタニスト)か……?

 

「にしても、禪院家か。少しは蘊蓄(うんちく)のある奴が来てくれて嬉しいけど、君今まで何してたの?」

「ずっっっと駅の隅っこで芋っとった。呪霊がドンパチやっとる画面端にワイもおったんやで」

 

 マンガの隠しキャラみたいやね。呪力も気配も殺してずっとジッとしとるの、何か学生時代を思い出して陰鬱な気分になったわ。

 ちなみにあのアホ目隠しが領域展開せんかったのは、ワイが隅で可愛くすみっコぐらししとったからやで。アイツが本気で領域展開したらワイ普通に死ぬからな。自重してくれてホッとしたわ。

 

「……なるほどね。一番速い駒を、不慮の事態に対する返し札(カウンター)として伏せておいたのか」

「そう言う事や。お前らが何してくるか分からんかったから、隠れとるワイはずっとヒヤヒヤしてたんやで」

 

 『え、今行くか!?』『いや、まだか……』『いや、今か!?』 みたいなんをずっと繰り返しとったからな。爪痕残そうとする若手芸人か。大抵そういうのってスベるもんやけど、今回は満点大笑い取れたようで何よりやわ。あのアホ目隠したってのお願いや、ちゃんと叶えたらんとな。

 

「後はお前さえくたばってくれたら万々歳やったんやけど……何で死んでへんの?」

「ハハッ、背中を斬られたくらいで死ぬわけ無いだろ?」

「そこは死んどけや、人として……」

 

 空でバケモン二人(宿儺と五条)がドンパチやっとるのを見ながら、ワイはため息をつく。

 

「あの二人も頑張っとるみたいやけど……どうする? ワイはこのままお茶しても構へんよ」

「ふふふ。お誘い頂いて悪いんだけど、そうすると後で彼に殺されるんだよね」

「あら残念……ほな、やろか」

 

 刀を構え、深く息を吐く。

 非術師の家に代々伝わる特殊な呼吸法、それを併用して全身に呪力を廻す。

 

 非常に残念ながら、実力差ではこっちが圧倒的に不利。コイツがワイとの一対一を選択したのは、またワイに奇襲されたら面倒なのと、そっちの方が()()()()()()と思ったから。

 

 五条や宿儺と同じ、あっち側の住人。

 

「……ワイの、勝利条件は……」

 

 ブツブツとつぶやく。ワイの目標はもう決まった。

 ①死なない。

 ②あのアホの決着がつくまで、コイツをここに押しとどめる。

 ③上の戦いに介入して、五条(アホ)の勝機を造る。

 

「前と同じや。今回も、③まで何とか達成したる……!」

「……良いね。じゃ、やろうか」

 

 次の瞬間。

 敵の掌から溢れ出した呪霊の群れと、ワイの刀が激突した。

 低級呪霊! それを呪力で強化して、数を纏めた上でぶつけて来とるな。戦いは数や言うけど、流石に特級術師の肉体使っとるだけはあるやんけ。

 

「舐め過ぎやろ、こっちは特別一級術師やで」

 

 投射呪法を使うまでも無い。バシャリと音を立てて、斬り裂かれた呪霊たちが消滅する。

 

「そうかな? じゃあ、もう少し試してみようか」

 

 楽しそうな言葉と共に、さっきよりも大量の呪霊が押し寄せてくる。

 脚狙いの呪霊を跳んで避け、空中で身を捻りながら刀を振るって大型を祓う。

 

 呪霊操術。長所は、その圧倒的な手数。準一級以上の呪霊を大量に使い潰して、術式が解明されようが次の呪霊を出してくる。

 相手の得意な部分で戦うほどアホらしい事は無い。対抗するには、こっちの強みを押し付けるべきや。

 では、投射呪法(ワイ)の強みとは何か?

 

「ずっと遠距離なんて寂しなるわ。もっと、仲良う、しようや―――!」

 

 体重移動。距離を詰め、歩法で相手の懐に潜り込む。衝撃を(とお)す発勁で動きを止め、呪霊を差し向けようとする手を掴み、合気でひっくり返す。

 

「――――――――!」

「どや、魔法みたく何されたか分からんやろ。ワイも最初食らった時そう思ったわ」

 

 倒れた羂索の頭を踏みつけ(ストンピング)ようとしたが、転がる事で避けられる。

 

「……面白いね」

「お前と同じでな、こっちの強みも引き出しの広さじゃボケ。人間舐めんなや、ドブカスが」

 

 この世に幾つ流派があって、秘奥が何個ある思っとるねん。

 

「ふぅん……良いね。次の百年は、そっち(武術)にも手を出してみようか」

「アホ抜かせ、お前はここでご臨終や」

 

 ……言葉ほど、武術に疎い訳ちゃうな。

 専門は呪術やったんやろうけど、体捌きは何処かの流派を修めた奴のソレや。さっきの合気もホンマやったら骨ブチ折っとるはずが、(すんで)の所で外された。呪術も体術も隙が無いとか、考えれば考えるほどダルい敵や。

 

「……やっぱ、お茶にしとく? スタバ行こうや、奢るで」

「嫌でーす」

「チッ……まあええわ、フラれるのには慣れとるからな」

 

 嘘をつきました。ホンマは誘ったことが無いから何も慣れてへんわ。

 ワイに女の子を誘うなんて高等技術が出来るはずないやん。それを見抜けへんとは、コイツの眼力もその程度やね。

 自分を鼓舞するように刀を握り締めて、ワイは気合を入れ直した。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。