「ハァッ、ハアッ……!!」
人が減り始めたホーム内を、
誤算。五条悟の"赫"は、
「(何故だ!? なぜ五条悟は、非術師を、守ろうと――――!!)」
何処で計算が狂った。何故
「ッ、邪魔だ!!」
五条悟を封じるために用意した
「(相手の狙いは分かっている! 人質をあえて無視する事で、非術師を殺しても意味が無いと儂らに思わせたいのだ! ……だが、それが分かった所で……!!)」
初手だ。初手で、花御を殺されたのが致命的だった。
もし五条悟が問答無用でこちらを鏖殺するつもりなのであれば、"領域展開"こそが最善の策だったはずだ。非術師を一人残らず鏖殺する代わりに、呪霊を確実に祓う事が出来る。それをしないという事は、今なお非術師が彼の足を僅かに緩めているという事。
だが、あの圧倒的な暴虐を前に、その一縷の望みは余りにもか細いものだった。
「ッ、漏瑚ォ!」
「ガァ――――ッ!」
五条悟の長い脚で繰り出された蹴りを防ぎきれず、右腕が千切れ飛ぶ。
慌てて呪力を流し込むことで再生させるが、その動きは戦闘当初からすると余りにも鈍い。度重なる再生や領域展延により、無尽蔵だと自負していた自らの呪力も尽きかけている。
「(20分……! たったの20分が、こんなにも遠い……!)」
人間は嘘で出来ている。表に出ている偽善の裏に、ドス黒い醜悪を抱えている。
偽りの無い、純粋な憎悪や殺意。そこから生まれ落ちた
死すら恐れず、目的の為に裏表のない道を歩む。それこそ、偽物どもには出来ぬ呪霊の真髄。そう信じる漏瑚が、なおも自らを奮い立たせようとして――――。
ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!
けたたましい音と共に、電車が駅のホームへ火花を散らしながら到着した。
「来たな!」
状況は一変した。
喜色を浮かべる漏瑚を他所に、やっと来た
しかし、呪霊は知っている。この中に居るのは、真人によって怪物と化した改造人間たちだ。電車から溢れ出した化物たちによって、駅構内の人間は次々と食い尽くされていく。更に、吹き抜けを覆っていた樹木が解け、その上に立っていた人間が駅構内へ投入されていく。
「よくやった、真人―――?」
そう言おうとして振り返り。
真人が何処にもおらず、何故か宿儺の気配を感じて、気づけば夏油が眼の前に立っていて、
「うーん、ホントは真人も君も、今取り込みたくは無かったんだけど……真人は器を殺したがるし、君はそろそろ死にそうだし。仕方ないよね。じゃ、今までお疲れ様でした~」
目の前を掌が覆い尽くしたのを最後に、漏瑚の意識は闇へと消えた。
「やっ、悟。久しいね(笑)」
「……テメエは、誰だよ」
「おー、怖い怖い。その様子だと、親友と奇跡の再会! って感じじゃなさそうだね。あー、危なかった。
阿鼻叫喚の渦の中、その二人の周囲だけは周囲の喧噪から外れて凪いでいた。本能のままに暴れるはずの改造人間が、二人に背を向けて逃げ出そうとしている。
「名は羂索。こういう術式でね、脳を入れ替えれば肉体を転々と出来るんだ」
「へー、そりゃご丁寧にどうも。で? お前の遺言ってそれだけで良いの?」
知性を無くした改造人間にすら感じ取れる、二人の隔絶した実力。
「まさか。メインプランは既に破棄した。だったら、サブプランの出番だろ?」
そこに踏み込めば死ぬしかないと、本能で分かる
「げ、夏油ぉおおおおおおおおお!!!お、お?」
「ククッ。蛸風情が、そう粋がるな」
仲間である漏瑚を取り込まれ、怒りのままに地下を水で満たそうとした
グチャグチャになった死体の背後から現れたのは、五条悟にとって予想外の顔だった。
「―――――っ、宿儺!」
史上最強の術師、両面宿儺。虎杖悠仁に封じられていたはずの悪鬼が、表に出ている。
羂索を名乗る男を睨みつける。この状況。誰の仕業か、考えるまでも無い。
「……お前か」
「正解。六眼相手に一人で挑むのはもう懲りたからね、ちゃんと君を殺せる相手を用意したよ」
「―――――『小僧の身体をモノにしたら真っ先に殺す』と、そう言っていたな。少々予定は早まったが、まあ良い。約束通り、殺してやる」
「ああ、
「……ハッ、良いね。二人とも、これで負けたら言い訳できないよ?」
闘気が立ち昇る。
現代最強の術師。史上最強の術師。そして、その両方を
人外魔境と化した渋谷駅構内にて、三人の決戦が始まろうとしていた。
――――そして、
「―――――羂索!」
「残っ念!! 最高レア確定演出からの――――ワイや!」
パゥ、と空気を弾くような音と共に、羂索の背が刀によって斬り裂かれる。
遅れて、踏み砕かれた大地の衝撃音が空気をビリビリと震わせた。人が音より早ければ、そのようになる。自身の速度に任せた、遥か後方からの奇襲であった。
それを成したのは。
「や、直哉。遅かったんじゃない?」
「アホ抜かせカス。色々考えたら、お前が助かっとるのって全部ワイのお陰やで。崇め奉りや」
現代最速の術師、禪院直哉。
「クククッ。どうした羂索、もう死んだか?」
「……まさか。ハァ、だから封印が良かったんだよね……」
彼を加えた四人で、渋谷決戦のゴングは鳴った。
どうも、ワイやで。
特別一級術師、禪院直哉くんや。
ハロウィンは元々ケルト文化の祭りでーー云々言うても、もう何の意味も無い世の中になってしもうたね。すっかりパリピ風にスクラップ&ビルドされまくって、ただ陽キャが騒ぐ口実のためだけに使われとる。
ちなみにワイにとってハロウィンは、スケベな恰好した女の子の写真がTwitter(新 X)に上がりまくるだけのイベントや。ある意味一番恩恵にあずかっとる人間かもしれんね。
「……で、何か一対一×2になってもうた訳やけど。こういうのって普通四つ巴ちゃうん?」
「実力差を考えれば妥当じゃない? まあ気にしなくていいよ、すぐ二対一になる」
「へー……なんや、煽り上手いやんお前」
狭すぎる駅地下を脱して、袈裟姿の羂索いう男と向き合う。
ハロウィンの飾り付けが目に痛いわ。陰を超えた陰、
クリスマスとかも、クリスマスソングが聞こえてくると苦しくなるんよね。闇属性やから聖属性で弱点ダメージ食らっとるのかもしれん。
ワイは……
「にしても、禪院家か。少しは
「ずっっっと駅の隅っこで芋っとった。呪霊がドンパチやっとる画面端にワイもおったんやで」
マンガの隠しキャラみたいやね。呪力も気配も殺してずっとジッとしとるの、何か学生時代を思い出して陰鬱な気分になったわ。
ちなみにあのアホ目隠しが領域展開せんかったのは、ワイが隅で可愛くすみっコぐらししとったからやで。アイツが本気で領域展開したらワイ普通に死ぬからな。自重してくれてホッとしたわ。
「……なるほどね。一番速い駒を、不慮の事態に対する
「そう言う事や。お前らが何してくるか分からんかったから、隠れとるワイはずっとヒヤヒヤしてたんやで」
『え、今行くか!?』『いや、まだか……』『いや、今か!?』 みたいなんをずっと繰り返しとったからな。爪痕残そうとする若手芸人か。大抵そういうのってスベるもんやけど、今回は満点大笑い取れたようで何よりやわ。あのアホ目隠したってのお願いや、ちゃんと叶えたらんとな。
「後はお前さえくたばってくれたら万々歳やったんやけど……何で死んでへんの?」
「ハハッ、背中を斬られたくらいで死ぬわけ無いだろ?」
「そこは死んどけや、人として……」
空で
「あの二人も頑張っとるみたいやけど……どうする? ワイはこのままお茶しても構へんよ」
「ふふふ。お誘い頂いて悪いんだけど、そうすると後で彼に殺されるんだよね」
「あら残念……ほな、やろか」
刀を構え、深く息を吐く。
非術師の家に代々伝わる特殊な呼吸法、それを併用して全身に呪力を廻す。
非常に残念ながら、実力差ではこっちが圧倒的に不利。コイツがワイとの一対一を選択したのは、またワイに奇襲されたら面倒なのと、そっちの方が
五条や宿儺と同じ、あっち側の住人。
「……ワイの、勝利条件は……」
ブツブツとつぶやく。ワイの目標はもう決まった。
①死なない。
②あのアホの決着がつくまで、コイツをここに押しとどめる。
③上の戦いに介入して、
「前と同じや。今回も、③まで何とか達成したる……!」
「……良いね。じゃ、やろうか」
次の瞬間。
敵の掌から溢れ出した呪霊の群れと、ワイの刀が激突した。
低級呪霊! それを呪力で強化して、数を纏めた上でぶつけて来とるな。戦いは数や言うけど、流石に特級術師の肉体使っとるだけはあるやんけ。
「舐め過ぎやろ、こっちは特別一級術師やで」
投射呪法を使うまでも無い。バシャリと音を立てて、斬り裂かれた呪霊たちが消滅する。
「そうかな? じゃあ、もう少し試してみようか」
楽しそうな言葉と共に、さっきよりも大量の呪霊が押し寄せてくる。
脚狙いの呪霊を跳んで避け、空中で身を捻りながら刀を振るって大型を祓う。
呪霊操術。長所は、その圧倒的な手数。準一級以上の呪霊を大量に使い潰して、術式が解明されようが次の呪霊を出してくる。
相手の得意な部分で戦うほどアホらしい事は無い。対抗するには、こっちの強みを押し付けるべきや。
では、
「ずっと遠距離なんて寂しなるわ。もっと、仲良う、しようや―――!」
体重移動。距離を詰め、歩法で相手の懐に潜り込む。衝撃を
「――――――――!」
「どや、魔法みたく何されたか分からんやろ。ワイも最初食らった時そう思ったわ」
倒れた羂索の頭を
「……面白いね」
「お前と同じでな、こっちの強みも引き出しの広さじゃボケ。人間舐めんなや、ドブカスが」
この世に幾つ流派があって、秘奥が何個ある思っとるねん。
「ふぅん……良いね。次の百年は、
「アホ抜かせ、お前はここでご臨終や」
……言葉ほど、武術に疎い訳ちゃうな。
専門は呪術やったんやろうけど、体捌きは何処かの流派を修めた奴のソレや。さっきの合気もホンマやったら骨ブチ折っとるはずが、
「……やっぱ、お茶にしとく? スタバ行こうや、奢るで」
「嫌でーす」
「チッ……まあええわ、フラれるのには慣れとるからな」
嘘をつきました。ホンマは誘ったことが無いから何も慣れてへんわ。
ワイに女の子を誘うなんて高等技術が出来るはずないやん。それを見抜けへんとは、コイツの眼力もその程度やね。
自分を鼓舞するように刀を握り締めて、ワイは気合を入れ直した。