私は正義実現委員会所属の生徒だ。名前はまぁ、無いようなもの。   作:みょん!

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第一話 私は正義実現委員会所属の生徒だ。名前はまぁ、無いようなもの。

 私は、正義実現委員会所属の、トリニティ総合学園の生徒だ。――以上。

 そうだと言い切れる。いや、逆に言えばそうとしか言えない。

 黒色の制服をきっちりと着て、委員会指定の黒色の帽子を被り、前髪も目元までしっかりと伸ばす。――トリニティを歩けばすぐに目にする姿。それが私。

 名前も、見た目もありきたりで、私を装飾する言葉は碌に見当たらなくて、周りからは学籍番号の359番から『ミコ』だとか『ミコっち』だとか『ミコちゃん』だとか言われるのが、唯一の私の、私たりえる個性だと言える。

 私にも何かとりえのひとつやふたつくらいあるんじゃないか、と思いながら人生を過ごしてきたけれど、悲しいかな、まったくもってそんなことはなかった。

 私自身が、特別何もない私なのだという自覚を持って生きてきたものだから、物心付いたときから平凡な生き方を望んできたし、実際そうやって生きてきた。

 目立つのが苦手だし、自分のみてくれにもさっぱり自信なんてない。正義実現委員会に入る前から前髪で視界を狭めることで、嫌な物から目を背け、見える範囲のものに手を伸ばし、人とほどほどの距離を保って生きてきた。

 そんな学校生活を送ってきたものだから、主体性なんてものは特になくて、家から一番近いからという理由でトリニティ総合学園に入学して、クラスの皆が入ると言うから、私も正義実現委員会に入った。

 そこは活動すれば一応お金がもらえるから、アルバイトみたいな感覚。学内のものってことで内申点ももらえるし、入っていればクラスでの話題にも事欠かないから浮くこともない。

 続ける明確な理由はないけれど、かといって辞める理由も見当たらず。趣味だってあんまり無いし、放課後はいつも暇だし。

 私はただ、流されるように正義実現委員会の任務をこなしつつ、学園生活を送ってきた。

 

 そんな私は、ある日の招集で出会ったんだ。

 仲正イチカ先輩という存在に。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ある日、不法占拠している集団を制圧しろ、とか割と無理難題な命令が下って、私たちは現場に急行。現場は崩れかかったボロビルの中から、拡声器を持ったよく分からない連中があれやこれやと主張をわめき散らしていた。

 その回りでは取り巻きだと思われる面々が銃を持って警戒しているし、私たちの姿を見つけるや否や『ビルの中には爆発物がある』だとか言い出したからさぁ大変。

 受けた命令は完遂しなければならない、かと言って無闇に特攻なんてしようものなら怪我は免れない。私たちはいつものように、仲間と突破手段の相談を始めた。

 ああしようこうしようと議論が白熱していって、公平に全員が一つずつ案を出していくことになって、私の番が来た。散々案は出し尽くされた中、私はひとつの提案をした。

「そうだ、ツルギ先輩みたいに隣のビルから壁をぶち壊して奇襲しよう!」

 仲間の顔が一斉に私に向く。皆がみんな同じような髪型をしているから、これは気のせいかもしれないのだけれど、全員が私を刺すような視線をしているような気がして、心臓を氷の手で掴まれたような、そんな気がして――。

 その時だった。

「はーいはい落ち着いて」

 ふと、頭をぽんと叩かれた気がした。後ろを向くと、糸目の、背が高い人がいた。腕には腕章があって正義実現委員会の生徒だとは分かったけれど、私はその人を見たことがなくて。

 けれど仲間たちはその人を知っていたらしく、いきなり直立不動になって敬礼をした。

 なんでもその人は、イチカ先輩、という人らしい。よく知らないけど。

 その方は、白熱していた私たちの議論にちゃんと耳を傾けてくれて、その上で的確な指示をくれた。仲間たちの誰もが納得して、そして私たちならできると希望が持てる作戦だった。

 それから一時間足らずで誰も怪我すること無く制圧が完了して、仲間同士が喜んでいたとき、あの人がやってきて、私たちに向けてこう言ったんだ。

「皆のがんばりのおかげっすよ。やっぱり正義実現委員会の生徒たちはやれる子たちっすね」

 私に直接ではなくて、みんなに向けて言ったであろうその言葉は。

「………………は、はい……」

 けれど、私の耳に、直接響いた。

 けれど、私の胸に、まっすぐに届いた。

 それと同時に、息ができなくなった。ひくっと喉が鳴ったのを最後に、息を吐くことも、吸うこともできなくなって。

「それじゃ、後処理は任せたっすよー」

 との言葉を最後に、イチカ先輩が踵を返して道の向こうまで見えなくなるまで、私は視線がイチカ先輩から離せなくて。

 私はその人が、ただ、眩しいなって思った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その日以来。学校で、正義実現委員会の任務で、その人の姿を探し始めるのに、時間はかからなかった。

 イチカ先輩を見かけるのは、大体が正義実現委員会の委員会室がある別棟周りが多い。だから放課後に教室棟から別棟に移動するとき、周りをきょろきょろと見回すことが増えた。

 ――あ。

 別棟へと向かう方向に、イチカ先輩が歩いているのが見えた。

 私は、なんだかそれだけで、今日は運がいいな、と思えた。

 イチカ先輩、今日も黒髪が綺麗だな、とか、黒い翼がカッコいいな、とか、背が高いから歩いてくる姿が綺麗だな、とか思っていて。

 ……ん、歩いてくる姿?

 イチカ先輩が、気がつけばすぐ近くに来ていて、思わず背が伸びて体が動かなくなった。

「おはようっす。これから正義実現委員会のお仕事っすか?」

 それどころか、声をかけられた。え、は、……え、――え!?

「お、おおおおはようございますっ! き、今日は先日の出動報告の作成予定でしゅっ!」

 …………噛んだ。……あぁぁ……恥ずかしい…………。

 イチカ先輩は近くにいるとより背が高く見える。憧れという意味でも、物理的な意味でも、思わず見上げてしまう。

「あー、そうだ、キミはこの前のビル立てこもり占拠の時の子っすよね?」

「へぁっ!? お、おぼ、ぼぼえてらっしゃって!?」

 声をかけられたどころか、え、私を特定して覚えて? え? えええ?

 これは夢かと思って、お腹のお肉を抓んでみたけど痛い。現実らしい。

「あはは、まぁ。面白い話してたんで、覚えてたんすよ。あの時の現場での動き、素晴らしかったっす。これからも頼りにしてるっすよ」

 そう言って、イチカ先輩は。帽子の上から、私の頭を、撫でてくれた。

 優しい手の動きは、あの日にしてくれたものよりも、長くゆっくりで、優しくて。

 頭に手の感触が無くなったあとに見上げたときのイチカ先輩は、優しくほほえんでいた。

「それじゃ、今日も頑張るんすよー」

「はっ、はいっ!」

 そしてイチカ先輩は、正義実現委員会の委員会室がある建物の中へと入っていった。

「――――」

 イチカ先輩に撫でられた頭に触れる。まだ、その優しい感触が残っている気がして、思わず口元がゆるむ。

 イチカ先輩に声をかけてもらって。

 イチカ先輩に覚えてもらっていて。

 イチカ先輩に頭を撫でてもらって。

「~~~~~~~~」

 本当に、現金で単純だと思うけれど。

 嬉しくて嬉しくて、たまらなくて。今日の正義実現委員会のお仕事も、頑張ろうって思った。

 

「仲正イチカ、先輩……か……」

 

 仲正イチカ先輩が、私にとっての明確な憧れの存在になるまで。

 あっという間だった。




初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はまたありがとうございます。みょん!と申します。

仲正イチカ✕正義実現委員会のモブちゃんの長編小説、始まります。
大体ずっとミコ(モブちゃん)がはわはわしてます。甘めなお話になってる、といいな。

せるげい先生の『【あおはるレコード】第24話』を見たら色々と妄想が捗りに捗って、その熱を叩きつけた結果がこちらです。
全部で計18話。合計8万文字くらい。
一日一話で投稿していきます。
お付き合いいただけたら嬉しいです。

※pixivで投稿しているものと同様の内容です。
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