私は正義実現委員会所属の生徒だ。名前はまぁ、無いようなもの。 作:みょん!
正義実現委員会の決まりとして、任務中に怪我をした場合、しばらくの間は出動を免除されるらしい。
任務中に怪我などをした場合、それがトラウマとなって残っていることが多く、任務に支障を来す場合が多いため、とのことで。
「――――わぁ」
「どっすか? 今回の茶葉は、結構いいとこのを使ってるんすけど」
出動が免除されて暇を持て余す私を見かねてか、イチカ先輩はことあるごとに私をお茶会に誘ってくれていた。
『イチカ先輩と私が姉妹の誓いを結んでいる』ということは、イチカ先輩が私の教室に突撃したときから既に周知の事実になっているようで、二人でお茶をしている所を目撃されても、ちらりと見られるだけで終わるようになっていた。
イチカ先輩を独占しているようで申し訳ないという気持ちの反面、イチカ先輩とこうやってまたお茶会ができるのが、泣きそうなくらいに嬉しい。――実際最初の頃は割とよく泣きそうになって、その度にイチカ先輩に頬を突かれた。
「おいしい、です。先輩。香りが今までのよりも強いのに、味はまろやかで……。飲んでいて、すごく落ち着きます」
「それは何よりっすね」
頬杖をついたイチカ先輩が、私を見て頬を緩める。イチカ先輩の綺麗な黒羽がぱたぱたと動くのは、イチカ先輩が喜んでいる証拠なのだと思う。
「ミコちゃんが笑顔になってもらえたら、それが一番っすよ」
「――――ふぇ!?」
いきなり何を言うんだこの人は。落ち着いた感じが一瞬で吹き飛んで、心臓が一気にうるさくなってくる。
「その反応も初々しくって可愛らしいっすねぇ」
「イチカ先輩!」
「えっへっへ」
笑って誤魔化された。むぅ。不意打ちにも程がある。
きっとイチカ先輩は飲み終わった後のタイミングを見計らっていたんだろうと思う。――前に同じようなことを飲んでいるときにされて、盛大に吹き出したことがあったから、きっとその対策ってことなんだろう。
一度同じことをして対策をしているイチカ先輩と、一度同じことをされて変わらない私と。
成長していないと言われればその通りなのだけれど、イチカ先輩の、憧れの先輩からの突然の誉め言葉に反応しちゃうのは仕方ないと思う。
「むぅ……」
「ふくれっ面も可愛いっすよ。ミコちゃん」
「むぅぅぅー」
「ほらほら、スコーンも食べて食べて。ミコちゃんのために準備したんすから」
スコーンに合わせて、ビンが3つ。ひとつはクロテッドクリーム。ひとつはイチゴジャム。いつもよりもひとつ増えた方のビンは、アプリコットジャムだった。
「自信作なんで、まずはそっちの方から試して貰えると嬉しいっすね」
自信作? イチカ先輩のことだから、新しく目利きでも始めたんだろうか、と思いつつ、イチカ先輩に習って、半分に割ったスコーンの断面に、クリームたっぷり、ジャムたっぷりを付けて、口を大きく開けて、食べる。ザクッと心地良い音が聞こえるのとほぼ同時、ジャムの爽やかな酸味と、クリームと組み合わされてまろやかになった甘みが口いっぱいに広がる。
「~~~~~~っ!」
思わず、唸ってしまうほどの、笑顔になってしまう美味しさ。
「ほいひいえふへんはい!」
「へへ。キラキラしたミコちゃんの目が見れたら、大成功っすね」
私の顔がどんな風になってるのかは分からないけど、本当に嬉しそうなイチカ先輩の顔からすると、さぞキラキラした顔をしてるんだろうなぁと思える。
イチカ先輩が持ってきてくれる紅茶やスコーン、ジャムやお菓子はどれもこれもおいしくて、餌付けされている気分だ。でもどれもおいしいのは事実だし、食べる私を見て嬉しそうなイチカ先輩を見て私も嬉しいから、WIN-WINなのだと思う。きっと。
「実はそれ、私の手作りなんすよ」
「むぐっ!? ……んっ、このジャムをですか? お店で売ってるものみたいです!」
「へっへっへ。ミコちゃんは褒めるのが上手っすね。色々と手を付けてみてるんすよ」
自信作ってそういうことか、と納得が行った。そして同時に、イチカ先輩すごい! という憧れの気持ちがより強くなった。
この間はスコーンを焼く練習をしている、とのことで、イチカ先輩自家製スコーンを持ってきてくれた。さっくさくで風味豊かで、紅茶に合う素晴らしいおいしさだった。
かと思うと、今度は自家製のジャムと来た。いろんなことに挑戦しているイチカ先輩、今度は茶葉を仕入れてきて自分でブレンドを始めかねないな、と思う。
「あ、それもいいっすね。ブレンドかぁ……茶葉の勉強からっすね」
イチカ先輩は手帳を取りだして、何やらメモを始める。私の位置からはよく見えなかったけれど、文字が割とびっしりと書かれているように見えた。
その内に、1/4片になったスコーンにクリームと、今度はイチゴジャムをたっぷりと塗って、食べる。そして紅茶を一口。口の中に広がった甘みが、紅茶で洗い流されて、紅茶の風味が口いっぱいに広がる。息を吐く。はぁ……幸せ……。
おいしい紅茶と、おいしいスコーンが目の前にあって、そしてイチカ先輩とお茶を囲める。一度はもう見られないと思った景色が、今目の前に再び広がっていて。そう思うと、何かがこみ上げてきそうになった。
ふと無意識に、左眉の上に触れる。ぴりっとした痛みを感じるけれど、そのくらいで止まっている。――自分の目で見るのはやっぱりまだ怖いし、自分から見せようとは思わないけれど。イチカ先輩が『それがあるミコちゃんでいい』と言ってくれたおかげで、私は立ち直れた。イチカ先輩と、また一緒に歩けるようになった。
イチカ先輩には、どれだけ恩を返しても、返しきれない。
お茶会用の丸テーブルの向かいに座るイチカ先輩は、メモが終わったのか、今はスコーンを手にして、クリームとジャムを手際よく塗っている。その姿すらも画になるほどのカッコ良さ。
「イチカ先輩って、器用ですよね。なんでもできるの、羨ましいなぁ……」
「んー? 私だって、何でもできるわけじゃないっすよ。できることを増やそうとはしてるっすけど」
そういうものかな、と思う。私から見て、イチカ先輩は何でもできる完璧超人で、非の打ち所もない、すごい憧れの人ってイメージがずっとあるのだけれど。
「でも、……そっすね。ミコちゃんからそう見られてるのは、ちょっとくすぐったいけど、嬉しいっすね。今度は何をご所望っすか?」
だなんて、キザっぽいセリフを吐いてくる。
正義実現委員会の出動免除は私だけで、イチカ先輩は姉妹の誓いを結んでいたとしても、なんやかんやで駆り出されたりはしている。けれどその度に『埋め合わせは必ずするっすから!』と言ってくれるイチカ先輩に、私はどうしても甘えてしまう。
イチカ先輩とのお茶会は、イチカ先輩といられる時間は、私の傷の記憶を消す――とまでは行かないけれど、和らげてくれるのは確かで。
イチカ先輩と一緒にいられるようにしたい、という私の気持ちが強くなっていくのも、当然の流れなのだと思えた。
仲正イチカ✕正義実現委員会のモブちゃんの長編小説、第十話です。
出動を免除されて暇を持て余すミコに、姉であるイチカはそれまでと変わらずにお茶会に誘う。
ミコに刻まれたものは変わらない。けれどミコとイチカの姉妹の日常は、そこに戻ってきた。