私は正義実現委員会所属の生徒だ。名前はまぁ、無いようなもの。   作:みょん!

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第十三話 変貌

 私が定例会議に参加し始めてから何回目かの、定例会議が始まった。

 ここ数日は事件らしい事件もなく、各自警戒及び情報収集を行うように、という連絡事項のみで会議が終わりに差し掛かるな、と思った、その時。

「――――、ちょっと失礼」

 ハスミ先輩の元に、着信が入った。

「――――はい、……ええ、分かりました。すぐに向かわせます」

 ハスミ先輩が携帯端末を切ると、イチカ先輩の名前を呼んだ。

「イチカ、少々厄介なことが起こっているのですが、これから向かえますか? 武力の方ではなく、交渉術に長けたあなたにお願いしたい内容なのですが」

「あー、そっちっすか。了解っす、出られるっすよ」

 立ち上がったイチカ先輩は、ちらりと私の方を見て。

「あー、それと」

「分かってます。ミコも同行を許可します。ただ、免除が明けてすぐですから、なるべく後方待機などの形を取ることが――」

「了解っす。ミコちゃんには戦わせないようにするっすから。ひとまず場所と要件、スマホに送っておいてもらっていいっすか? 向かいながら確認するんで!」

 そう言うやいなや、イチカ先輩は私の手を取る。

「ミコちゃん、行けるっすか?」

「――――はい!」

「ん。じゃあ現場に向かうっすよ!」

 私はイチカ先輩と共に、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場はトリニティ総合学園から走って20分ほどの場所にある廃ビルだった。

 出動の内容は、チンピラ――もとい強い主張を持つ人たち――が人質を取って建物を占拠しているらしい。

 私たちが着いたときには、周囲に私と同じ格好をした正義実現委員会の生徒たちが待機していた。中には私と同じクラスの子もいる。

「状況は?」

「はいっ! 相手は正義実現委員会所属の生徒を人質に取って籠城中。あちらは一切こちらの聞く耳持たず。建物内はバリケードが多数確認できます。建物の配置図は入手できていません。外部階段は一箇所確認できますが、バリケードで封鎖済みです」

「ありがとう。的確な状況判断、助かるっす。……ふむ」

 報告してきた正義実現委員会の子の頭をぽん、と撫でて、そしてイチカ先輩は顎に手を当てて考え出す。頭を撫でられた子がすごく嬉しそうな様子をしているのを見ると、私もあんな様子なのかな、と思えてしまう。

「――――っと」

 いけないいけない、今は現場。集中しなきゃ。

「下からアレを狙い撃つ打つのは、難しいんすよね?」

「はい。私たちに支給されている銃ですと、あの高さは……」

「いや、大丈夫っす。うーん、それだと…………」

 イチカ先輩の真剣な横顔を、私は見上げていることしかできない。

 こういうときにイチカ先輩を何らかの形で助けられたら、と思うけれど、私には頭も、腕もないから、見守るだけで。

「よし、決めた。……ちょっと、行ってくるっす」

 周りが一気にざわつく。行く? どこへ?

「だいじょーぶ。ちょおっと交渉ごとしてくるだけなんで」

 よほど心配そうな顔をしていたのだろう、イチカ先輩は困ったような顔をして、私の頭に手をのせる。その手を前後に動かしながら、イチカ先輩は言う。

「傾聴。交渉しに建物の中に入るんで、20分経って私が出るか、ミコちゃんに連絡が来なかったらモク焚いて突入。突入人数はここの半分。残ったうちの半分は、私があそこの窓から人質を放り投げた時の救出役。復唱はいるっすか?」

「――――いえ、不要です!」

 全員が一度で作戦を把握。何度も出動し経験を積んだ正義実現委員会の生徒であればこその光景だ。

「それじゃ、任せたっすよ」

 イチカ先輩は、そう言って肩に背負っていた銃を私に預けたかと思うと、一人で廃屋の正面に立つ。

「正義実現委員会委員、仲正イチカ! 交渉しに来たんで話が分かる人のところに連れて行って欲しい! ああ、武器は身につけてないんで、ボディチェックしてからで大丈夫っすよ」

 両手を広げて、武装解除していることを宣言。しばらくして、命令を受けたであろう数人がイチカ先輩の元へと向かい、武器を隠し持っていないことが分かると、建物の中へと入っていく。

 カウントスタート。

 それまでの間、突入役、待機役、その中で救出役を誰が担うかの打ち合わせが行われ、すぐに決まる。私は作戦の中に含まれていないので、自動的に救出役ではない待機役となった。

 つい先ほどまで、拡声器で行われていた主張は鳴りを潜め、辺りはしん、と静かになっていた。

 銃声のひとつも聞こえなくて、ただ私たちの呼吸音だけが耳に入ってくる。

 5分が経過。何も起こらない。

 10分が経過。何も起こらない。

 15分が経過。動きがなく、胸がそわそわとしてくる。周りの突入役が、準備をし始めた。

 そして間もなく20分が――と思った矢先、建物の中で発砲音が響いた。

「――――えっ!?」

 こちらの人たちはまだ突入していない。とすれば、中で発生した銃声ということになる。

「――――ッ! 突入!」

 私たちの判断は早かった。

 イチカ先輩から言われていたのは、その時間までにイチカ先輩が出るか、連絡が来るか、のどちらか。そのどちらかではなく時間が来て、そして中で何かが起こっていると分かったなら、突入の選択肢以外はない。

 突入班は煙幕弾を撃ち込み、通りと建物内に煙幕が満ち始めたのを見て、突入を開始する。

 同時に待機役は窓方向から誰かが落ちてきたときのことを想定し、準備。私もその役目を果たそうとする。

 中から銃声が聞こえ、何回か爆発音が聞こえた。

 爆発音を聞いて、私の中に隠れていた恐怖心が鎌首をもたげてきているのがわかった。じわり、じわり、とその時の記憶が、やってくる。

 爆発音。殴られたような感覚。動かない体。流れ出る血液。そして、そして――――

「――――ん! ミコちゃん!」

「――――え?」

 気がつけば、私はクラスメイトの子に肩を揺さぶられていた。

「しっかりして! 中で戦闘継続中。今、何人か運ばれてきてる。まだ交渉に行ってるイチカ先輩の状況は不明。……私たちは窓からの人たちを救わなきゃいけない。ミコちゃん、行ってくれない?」

 私だって、戦力外だと言われたくはない。私だって、正義実現委員会の生徒で、――何より、イチカ先輩の、妹分だから。

「了解。これ、イチカ先輩の銃。大事な、大事な物だから。よろしくね」

「分かった! ――ミコちゃんも、気をつけて!」

「うんっ!」

 私は自分の銃を背負う。整備は昨日やった。残弾確認。問題なし。

「突入、します!」

 誰に言ったわけでも無いけれど、これは癖だ。言うことで自分自身を鼓舞する。私だってやれる、と自分に言い聞かせる。

 一階。ヘルメットを被った生徒がそこらへんに転がっていて、死屍累々といった状況だった。階段に通じるバリケードは撤去されていて、運び出される正義実現委員会の子とすれ違った。

 階段を駆け上がる。上の階から、銃声が聞こえ続ける。

 四階の階段の踊り場へたどり着くと、正義実現委員会の子たちが、そこで待機していた。

 え、なんであなたたちがここに?

 イチカ先輩は?

 じゃあこの銃声は?

 頭の中に疑問符がいくつも浮かぶ。けど走り出した足は、不安に思う心は、私を止めてくれなくて――私は踊り場からさらに上へ、最上階の五階へ、体を滑り込ませた。

 

「――――――――――」

 

 銃声に混じって、人ならざる声が、聞こえた気がした。

 私が見たのは。

 ボロボロになった室内と、血を流して倒れ込んでいる、私と同じ姿形をしている生徒と。

 一人の人物を滅多打ちにしている、私がよく知る人物の後ろ姿。

 

 ライフル銃を至近距離で連射し続け、銃弾が出なくなっても銃口を引き続け。そして銃弾が出ていないことが分かると、その銃身を振り上げ、そして――――

「イチカ先輩ッッッ!!!」

 思わず、私は叫んでいた。

 その人物が、その人だとは思えなくて。

 でもその後ろ姿は、その黒羽は、その腕章は、そのヘイローは、紛れもなく、私が尊敬する、憧れの、私のお姉ちゃんで。

 銃身を振り上げた姿勢のまま、その人物は、首だけで後ろを振り返る。

 見開かれた目は焦点を結んでおらず、開いた口からは、獣のような鋭い歯が見え、そして制服には、赤色のリボンよりも更にどす黒い血が点々と付いていた。

「――――――ッ!」

 銃を持つ手を静かに下ろし、静かにため息をついたその人は。イチカ先輩は。私が知るその人じゃなかった。

 その目は見開かれていて、その瞳を見た私は、声が出なくなった。

 私が見たものが、ただの夢か幻かと思いたいのだけれど、現場に立ちこめる火薬の匂いと血の臭いが、どうしてもここが現実だと思い知らされてしまう。

「…………ミコちゃん?」

 ぽつりと、そうこぼすその人は。ゆっくりとした足取りで、私の方へと向かってくる。

 持っていたライフル銃を投げ捨て、そして両手を自由にして。一歩一歩、静かな足取りで、近づいてくる。

「…………見られちゃった、っすね」

 近づいてくるその姿に、私は足どころか、指一本すらも動かせない。愛銃を胸に抱いて、私は、震えるだけで。

 ――震える?

 頭の中の冷静な私が、そう指摘する。

 私が、震えている? 何に?

 答えなんて、一つしかなくて。答えなんて、明白で。

 自分が、いつの間にか、尻餅を付いていることも、気がつかなくて。

 イチカ先輩の、目を見開いたその顔から、視線が、逸らせない。

「…………ぁ、…………っ」

「これが、私っすよ。……幻滅したっすよね?」

 彼女は、低い声で、静かに言う。

 困ったように眉を下げて、演技をするように、大げさに肩をすくめて。

「私はあんたにとって憧れの先輩でも、なんでもないんすよ。ただの、化け物の皮を被った、生徒ってだけっす」

 淡々と語る。私が聞いたことのない声色で、私が見たことの無い表情で、語る。

 目の前にいるのが、イチカ先輩だとは思えない。語る内容が、イチカ先輩が言ったものだとは思えない。

「――――そ、」

 ――そんなことはないです、イチカ先輩は私が唯一憧れる人です。

 と、頭では言いたくても、歯がカタカタと鳴って、言葉にならない。

「…………ぉ、…………あ……」

 イチカ先輩、と呼びかけたくても、弱い、流されるだけの私が表に出てきて、言葉を発しようとはしてくれない。弱い私が、強い私を、押さえつけてくる。

 声に出せない分、私は、首を左右に振る。

 ――そんなことない。イチカ先輩は、そんなこと言わない。

 けれどその人は、私の様子を見て、悲しそうな顔をして。そして。

「ほら、そういうことっすよ。…………じゃ」

 私の横を通り過ぎて、行ってしまう。

 背後から、

「人質一名、負傷。速やかに救護騎士団に連絡」

「は――はいっ!」

 の声と共に、人がばたばたと部屋の中へと入ってくる。

 足に力が入らず、地面に座り込むばかりだった私は。

 それを見守ることしか、できなかった。




仲正イチカ✕正義実現委員会のモブちゃんの長編小説、第十三話です。

ある日、ミコとイチカは出動命令を受け、現場へと向かう。
人質を解放すべく、イチカは一人交渉を行うために敵地へと入っていった。
予定の二十分経過しても戻らないイチカに、予定通り現場へと突入したミコが見たのは――――。
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