私は正義実現委員会所属の生徒だ。名前はまぁ、無いようなもの。 作:みょん!
「イチカ先輩ッッッ!!!」
「――――――………………、」
それまで、音も声も何もかもが聞こえなかったはずなのに。
その声だけは、しっかりと聞こえた。
「………………あ、」
その時になって初めて、自分の手が頭上に振り上げられていることに、自分の手がライフル銃の銃身を握っていることに、今まさに、それを振り下ろそうとしていることに、気づいた。
足元を見ると、チンピラがひとり転がっていた。
周りを見ると、室内がものの見事にボロボロになっている。台風の日に窓を全開にして放置した後みたいに、人も、物も、家具も、壁も、あらゆる物がめちゃくちゃになっている。
「――――――ッ!」
背後から、悲鳴のような音が聞こえたような気がした。
振り返る。黒い制服を着た、見慣れた姿が見えた。
――けれど、その子は。毎日見るミコちゃんの姿は、いつもと違っていた。
「………………ぁ、……あ、ぁ…………」
銃を体の前で握りしめて、時が止まったかのように、動きを止めている。
いつもなら、私の名前を読んで、仔犬のように私の手が届くところに来てくれるのに。今部屋の入り口に居るミコちゃんは、そこから一歩も、動かない。
それどころか。
髪の毛の間から見えるミコちゃんの綺麗な目は、恐怖で見開かれている。
……そりゃあ、そうだ。
だって――ミコちゃんには、こんな姿は、見せないようにしていたのだから。
正義実現委員会の生徒が、偶然その近くにいたからという単純極まりない理由で人質に取られた。ミコちゃんとは違う。でも同じ背格好をして、同じ髪型をして。――そうだ、私はあの子を守ろうって最初に思って、交渉に臨んだんだ。
怪我なんてさせないように。武力衝突にならないように――私の全力を尽くした。
それでも、交渉は平行線。間もなく約束の時間。私はそれまで切らなかった最後の手札を切ろうとして。
背後から、ドンッと銃声が聞こえた。
人質の子の頭に突きつけていた銃口から、煙が吹いていた。
人質に取られていた子が、前のめりに倒れていくのが見えた。
「やべ、やっちまった」と、後ろで、そう簡単に言う声がした。倒れた子の頭から血が流れていくのが見えた。
「手駒はしゃべれるようにし」
――私が覚えていたのは、そこまでだった。
足元のこれは、まだ形を保っているし、パッと見では息をしているように見える。いつの間にやら手に持っていた銃も原形を保っているから、たぶんこれで殴りはしなかった、と思う。たぶん。
だけど。
ミコちゃんの怯え方からすると、周りの状況を見ると……「やっちまった」んだと分かった。
そのときを見られたのか、見られていないのかは、分からない。
だからせめて、今は全て終わったから大丈夫だと、怖くないよと、いつものように私の方からミコちゃんの方へと向かい、頭を撫でようとして。
「――――――ッ!」
ミコちゃんは、びくりと体を震わせて、そして、後ずさりした。
「ミコちゃん?」
私の声に、びくりと体を震わせて。そして、開けた口をわななかせて、その目を瞑って、顔を左右に、何度も何度も振った。
怯えた表情で、何度も。
歯が震えてカタカタと鳴っているのが、聞こえてしまう。その怯えた目から涙が流れたのが、見えてしまう。
それで私は悟ったんだ。
――ああ、見られたちゃったんだな、って。
――この子も、私から離れちゃうんだ、って。
仲正イチカ✕正義実現委員会のモブちゃんの長編小説の断章です。
その様子を見て、全てを悟ったんだ。
ああ、この子も――――。