私は正義実現委員会所属の生徒だ。名前はまぁ、無いようなもの。   作:みょん!

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第十八話 地獄行き最終列車

 アナウンスが終了する音が流れた後、急に電車の速度が上がり、ガクンと前につんのめりそうになって、慌てて椅子の背もたれで体を支えた。

 ――なにが、起こってるんだろう。

 詳しいことは、分からない。

 けれど、少なくとも、何か非日常のことが起こっていると、私の正義実現委員会のカンが囁いていた。

 ドアの上のモニターを見る。ここは10両車両のうち、8両目。後ろの方だ。

 端の方なので、人の数はまばらだ。トリニティの生徒もいれば、別の学校の生徒もいる。――アナウンスに気づいたのか、周りをきょろきょろと見回しているのが見える。

 ガクン、と体が揺れる。目眩のような感覚もあったから、疲れてるのかな、と思った。でも次の瞬間、窓の向こうに『トリニティ通り前』の駅名の看板が見えて、それは一瞬のうちに通り過ぎていった。

 ――駅を、通り過ぎた?

 不意に、心がざわついた。止まるはずの列車が止まらない。それはおかしい。それはあり得ない。私が乗ったのは普通電車だ。そして違和感しかない先ほどのアナウンスは――。

「――――――!」

 いつぞやに見た、事案報告書の事が頭を過ぎった。

 『列車ジャック』。私の頭には、その文字が浮かんでいた。

 列車のどこかで、誰かが、大変な目に会っているんじゃないか、と、そう思うと。

 行かなきゃ。あなたは正義実現委員会所属の生徒でしょ。――強い勇敢な自分と。

 あなたが行ってできることはないよ。ここで応援を待とうよ。――弱い臆病な自分と。

 同時に二人が出てきて、盛大に言い合いを始める。

「…………――――行かなきゃ」

 ほんの少し浮かんできた自分の弱い心は、胸をぶん殴って押さえつける。大きく息を吸って、吐いて――覚悟を決める。

 ――私は、正義実現委員会所属の、生徒だ。

 ――そして、憧れのイチカ先輩の、妹分だ。

 私は、先頭車両の方向へと、走り出した。

 

「銃を置け! 頭に手を置け! 窓際に立て!」

 車両間のドアを何回か潜った瞬間、大きな声が私の耳に入った。

 ドスの利いたしゃがれた声は、聞くだけで心がざわつく。心臓が跳ね上がる。

 心はざわつく一方で、逆に頭はクリアとなっていた。それまで半信半疑でしかなかった、この列車の状況は、その声が答えだった。

 

 四枚目のドアを潜ったとき、その光景は現れた。

 

 窓を被うように窓際に立たされた、キヴォトスの生徒たち。

 銃を頭に突きつけられた、トリニティの生徒。

 そして――ハンドガンを持つ、頭にヘルメットを被った、見るからにガラの悪そうな生徒。

「あぁ?」

 私の姿を見るやいなや、私に向けてガンを飛ばす。

「なんだぁ? てめぇ……。アナウンス聞いてなかったか? 椅子に座って待ってろと――」

 何やら言っている間に、ポケットに入れているスマホの電源ボタンを、ポケットの中で連続で押す。すぐに、確かな振動が足に伝わる。――よし、と心の中で拳を握る。

 その振動は、スマホに登録していた緊急警報機能が働いた証拠だ。私の位置情報が正義実現委員会に共有されるのと同時に、直近に電話した人へ、自動的に緊急通話が繋がる。

 画面を見ていないから誰かは分からないけれど、ここでの音が届いて、もし私に何かあっても、正義実現委員会に繋がってくれれば、と思う。

「あなたは、誰ですか。そしてあなたは、何が目的ですか」

 出した声は、自分が思っている以上に、震えていた。銃を持つ手が震える。銃自体も、そして足も――悔しいけど、震えてしまっていた。

 今の私にできることを、情報収集と時間稼ぎを、する。

 人質を取っていて、撃たないだろうと高をくくっているのだろう。その人物はふん、と鼻息一つ。そして、語る。

 曰く。

 この列車は私たちがジャックした。この列車はこのまま廃止された線路を進み炭鉱へと向かう。列車に乗っている者たちは地下資源を発掘する労働力の足しにする。窓から降りることは無駄だから止めた方がいい。通報も止めた方がいい。変なことをすればこいつが死ぬ。

 などと勝ち誇ったような声で、語る。

 盾にしている生徒の首を絞めた体勢で、その銃口を何度も頭に擦りつける。

 私の方を見る生徒の目は、私に助けを求めるようでもあったし、私に何もしないでくれと頼み込むようなものでもあった。

「……っていうか、お前は、誰だ」

「わっ――私、は、正義実現、委員会です。組織的な列車ジャックを企てたとして、あなたを、拘束します! 大人しく投降しなさい!」

 ふぅん、と値踏みをするような目に、一瞬足がたじろぎかける。

 それまでの私は、あくまでも作戦遂行員で、イチカ先輩のように交渉ごともしなければ、突入の最前線を張ったこともない。明確に、『敵』とこうやって対峙することは、初めてなのだと、この時初めて悟った。

「なるほどね。…………、あぁ、トリニティの正義実現委員会の下っ端がいるんなら好都合だ。あんた、交渉役になってくれよ」

「…………は?」

 その人物は私が所属を名乗るやいなや、横暴な態度を取り始めた。下っ端と言ったか。……悲しいけど事実だ。でも下っ端にだって、できることはある。今話してることだって、その一つだ。

「この列車の天井に、ちょいと列車を吹き飛ばせるくらいの火薬を仕掛けてるんだ。起爆したらここに居る全員が死ぬくらいの、だが発破するにゃ可愛いくらいのもんだ」

 ハッタリだ、と思った。この列車に仕掛けたってことは、その時は本人や仲間も巻き添えになるということ。そんな人は、わざわざ人質を取るようなことはしない。

「……嘘、ですね。それなら、あなたも、巻き込まれますから」

「なぁに、自殺する気はない。アンタの上役に、俺たちを見逃せと言ってくれれば、それでいい。他の学校の生徒を守るほどの正義感はないだろうからな。あんたは爆発に巻き込まれずに、生き残れる。ここの生徒全員も、生き残れる。……どうだ、簡単な話だろう?」

「……もし、私が正義実現委員会に進言しなければ、どうなるんですか?」

 そう言うと、ヘルメットの向こうで、目が細められたような気がした。

「簡単に言うこと聞いてくれそうな子だと思ったんだけど。結構めんどいね、君。そうだなぁ、まずこいつをあんたの目の前で撃ち殺す。そしてこの五両目を起爆させる。俺は隣の列車に逃げ込む。労働力の数が半分になるが、まぁないよりはマシだな。……さぁ、どうする?」

 甘く見られていたことには、目を瞑る。私はどう見ても、正義実現委員会の、その他の生徒Aでしかないのだから。

「あんたが変な正義感を出さなければ簡単な話だ。みんな生き残れる。ハッピーじゃないか?」

 演技ぶって、そう言う。

 ――生き残った所で、連れて行かれた先は絶対にハッピーとはいかないでしょう、とは言わないでおく。私は、少しでも時間を稼いで、正義実現委員会の人に情報と時間を――

「――しかもそれ、今向こうに繋がってんだろ?」

 指差すのは、私のポケット。――バレていた? いや、バレていた上で、この話をしていた?

「バレたって顔をしてるけど、簡単だろ。銃を肩に掛けてるのに、ポケットからハンドガンを出すのは居ない。何かしてるって思うのが当然だろう?」

 つまり、今の状況は、アイツの手の中ということで。

「今繋がっているヤツに、全員撤退を指示させればいい。簡単だ。自分の命を無駄にする必要は無いだろう。もちろん、コイツを殺したら次の人質はお前だ。正義実現委員会の生徒が来るだろうからな」

 人質に突きつけた銃で、コンコンと人質の頭を叩く。私の方を見るその顔が、恐怖に歪むのが見える。……今にも、助けたい。ここから逃げさせてあげたい――けど。

「……いや、むしろこの時点で人質になってもらった方がいいか。よし、お前、こっちに来い。銃を置いて、頭に手を置くんだ」

 話は少しだけ進んだ。……悪い方に。

 考えろ。考えろ、私。

 私の変わりにあの生徒が解放されるのは、私としては嬉しい。でもその先は……? 結局、意味の無いただの自己犠牲にしかならない。

 ならここでできることは――と相手を見て。

 

 ――ああ、なんかこれ、見たことあるな。

 

 と、頭の片隅で、そんな感想が浮かんだ。

 イチカ先輩と一緒に訓練しているときの、的(まと)の構図とまるっきりおんなじなんだ。人質を前にして、ターゲットが頭に銃口を押しつけた、それと。

 的としては、人質部分に当てれば問答無用で失格。人質がターゲットに近接しているから、少しのズレが即失格に繋がるという、シビアなもの。

 私の命中率がどのくらいだったかと言えば……言うまでもない。イチカ先輩は正確にターゲットの頭部分を打ち抜いていたし、銃部分まで打ち抜くという離れ業をやっていたけれど。

「……」

 ヘルメットの上から、一発で相手を昏倒させるのは私の銃じゃ不可能だ。

 かと言って腕を撃とうものなら、撃たれた衝撃でトリガーが引かれるから、ダメ。

 ――だとすれば、狙うのは、その銃のみ。

「…………」

 やるとしても、チャンスは一瞬、一度きり。失敗したら、その時点で、きっと人質は――そして私も、死ぬ。

 私のせいで人質が撃たれたとあれば、きっと私は、ここで死ななくても、きっと、死にたくなる。自分の判断を最期まで悔やんで悔やんで、きっと、自分で、死を選ぶ。

「………………」

 かと言って、このままむざむざと人質になろうものなら。自分のせいで正義実現委員会の皆さんに迷惑をかけたと自分を責めることになる。全てが終わった後にどれだけ励まされたとしても、きっと、いつまでも、自分で、自分を、許せない。――私は、強くないんだから。

「……………………」

 何もしなければ、結局地獄行き。

 これからやることが失敗しても地獄行き。

 止まるも地獄。進むも地獄。

「…………………………」

 ――なら、私は。自分の意志で、地獄に進むことにする。

「早くしろ」

 しゃがれた声がする。私はターゲットの顔を見る。

 これから狙う相手は、人質に銃口を擦りつけた。「ひっ」と乾いた声が響いた。

 

 抜き打ちなんて、初めてだ。

 しっかり狙って撃ったときですら、そこまで命中率は高くない。それを、抜き打ちで、初撃で、銃だけを正確に、なんて。……そんなことは。

『ちゃんと、息を吸って。落ち着けたい時こそ、意識して呼吸するのが大事っすよ』

 イチカ先輩の声が、聞こえた気がした。

『呼気。吸気。撃つ前の呼吸は常に同じに。……そう。もう一回。吸って、止める』

 吸って。吐いて。……吸って。吐いて。吸って。止める。

『大丈夫。だってミコちゃんは、私の自慢の妹分っすからね』

 そうやって、撃つ前に褒めてくれる。射撃姿勢なのに、口元が緩んでしまう。

 ――ストレスを和らげるために、口元だけでも笑うといい、とそんな意図があると知ったのは、割と後になってからのことで。それまでは、イチカ先輩の言葉に惑わされまくりで、正確に当てられはしなかったのだけれど。

 イチカ先輩の手が、私の不安定な左手と背中に当てられる感触。もちろん、そんな気がする、というだけだ。――でも、勇気は、貰えた気がした。

 

「分かり、ました。……なります。人質に」

 銃を持った手をスライドさせて、銃を床に置く動きの中で、撃つ。

 一瞬で銃を構えて、一瞬で照準を合わせて、一瞬でトリガーを引く。

 やることはその三手順。それを、予備動作で悟られないように、そして素早く、行う。

 言うは簡単だ。私の憧れのイチカ先輩のようにやればいい。……でもここで頼れるのは、弱い、私だけだ。でも、やるしか、生き残る手段は、ない。

 息を、大きく吸う。止める。

 不思議と、世界がスローモーションに見えた。

 銃を床に置こうと、肩紐から外して、構えるのと同時に照準、ほんの少し息を吐いて、ピタリと会わせるのと同時に、トリガー。

「――――――!」

 発射後の薬莢が、視界の隅に消えていくのが見えた。

 ターゲットのハンドガンが、後方に飛んでいくのが見えた。

 照準を再調整。真横にスライド。ターゲットの胸中央部を狙って。トリガーを絞る。

 手に反動が響く。けれど私の左手は、ブレることなく、弾を吐き出し続ける。

 ほんの数秒。ヘイローが消灯して崩れ落ちたターゲットと、ヘイローが転倒したままの人質だった子を見比べ、そして人質の子に流れ弾が当たっていないことを確認して、初めて。

「はぁぁぁぁ…………」

 息を、大きく吐いた。

 制圧射撃は何度もやった。けれど、相手を倒す目的で銃を向けたのは初めてで――自分の手が小さく震えているのが分かった。

 足が震えて、もうその場に座り込みたくなる。けれど、私には、まだやることがあるから。もう少しだけ、もう少しだけと自分を奮い立たせる。

「次。やら、なきゃ……」

 一人をやったら、もう二人も三人も変わらない。車両にいるジャック犯を、全員、やるだけ。

「この人の手と足を何かで縛っておいてください」

 私は車両にいる人たちに向けて、そう端的に指示を出す。テロリストがいなくなったためか、ほっとした表情を浮かべていた。人質として取られていた人は、同じ制服を着た人の胸にすがりついているのが見える。

「――――――」

 ――私も、イチカ先輩に慰めてもらいたい。頑張ったっすね、と言われたい。

 ふと、弱い自分が頭を出しかけてくるのを頭を振って追い払う。

 でも今は、イチカ先輩はいない、私一人だ。私一人で――やるしかない。

「…………あのっ!」

 前の車両に歩き出そうとしたとき、後ろから声がかけられた。トリニティの白い制服を着た、さっきまで人質の子を慰めていた人だ。

「貴女はこれから……制圧しに行くのですわよね?」

「はい。なのであなたたちはここで銃を持って身の安全を確保して――」

「私(わたくし)も、行きますわ」

 白い制服――ティーパーティ所属のその人は、ライフル銃を握りしめて、その人は言う。

 一瞬、頭が固まってしまって、声が出なかった。

 どうせ進むんだったら最後まで一人で進む。生きるのも死ぬのも、私だけ――そう、思っていたから。

「私だって、誇り高きトリニティ総合学園の生徒ですわ。お嬢さま学校だからと、舐められては困ります。銃だって持ってます! そして何より、何より――私の妹を危険な目に遭わせておいて、私が何もしないのは、私自信が許せませんの!」

 ――ああ、そっか。この人は。

 声が、叫ぶようなものへと変わっていくのが分かる。握りしめられた手が震えているのが見える。手に力が入りすぎて、白くなっているのが見える。今にも人を射殺しそうな目で、歯を食いしばって――そのお姉ちゃんは、私を見つめる。

 ――姉は妹を思い、妹は姉を慕う。ハスミ先輩から聞いた姉妹関係の姿は、誰でも一緒なんだな、と。お姉ちゃんの強い思いに、危うく涙が出そうになった。

「……分かりました。ご助力いただけるのは助かります。先輩」

「感謝いたしますわ。――さぁ、行きますわよ。ティーパーティとて、お茶会ばかりしている集団ではありませんの」

 二人で前の車両に向かおうと扉を開けて――次の瞬間、銃声が響き渡った。

 慌ててシートの後ろに身を隠す。

「何か来たぞ! ボスはどうしたんだ!」

「知らねぇ! 作戦通り抜けてきたヤツをやるぞ!」

 そんな声と共に、少なくとも複数の銃からの弾幕が形成される。

 遮蔽物を使う訓練は、イチカ先輩にしてもらった。列車のシートを遮蔽物にして、ティーパーティの先輩とハンドサインを交わし、時を待つ。相手の練度が低いのか、やたらめったら打ち込んでいるのが聞こえる。銃弾が完全に途切れたタイミングを図って、飛び出す。私が狙った相手と別の相手の銃口が向くのが見えたけれど、後方からの銃声の後に倒れる。

 クリアリング。トリニティの生徒のみ。安全確保をするように言って、次の車両へ。

 ドアを開けると共に、待ち構えたように銃弾が飛んできて、慌てて元の車両に戻る。相手の人数が多いのか、いつまで経っても弾幕に隙がない。

 ……こういうとき、突撃部隊の人はどうするんだっけ。イチカ先輩ならどんな作戦を立てるんだっけ――。鳴り止まない銃撃音に何もできないでいると、ティーパーティの先輩が私を呼ぶ。

「貴女、フラッシュバンは使えまして?」

 その人が手に持っていたのは、黒い筒状のスタングレネードだった。……なんでティーパーティの先輩が持ってるんだろう、という疑問は、頭から追いやる。

「え。……はい。使い方も知っています」

「そちらは、練度が行き渡ってますのね。ではこちらを貴女に預けますわ。私が扉を開けた瞬間に、投げ入れてくださいますこと?」

「――え、でも、それでは」

 現在進行系で銃弾がたたき込まれ続けている車両間の扉を開けるということは、限り無く危険に近づくということで、下手したら敵の前に身を投げ出すことに――。

「あの子が味わった恐怖に比べれば、このくらい、なんてことありませんわ。――ドアにぶつけたら、承知しませんわよ」

 胸を張って、ティーパーティの先輩は、そう言い切る。このくらい怖くもなんともない、と。「……分かり、ました」

「貴女がピンを抜いたら、その一秒後に開けますわ」

「はい」

 ティーパーティの先輩が、身をかがめてドアの前へと位置取る。銃弾がドアを叩く音がひっきりなしに聞こえてくる。何時ドアが破られるかは分からない。だから、落ち着いて、急ぐ。

 大きく息を吸って、吐いて、もう一回吸ってから、止める。

 思いきり力を入れて、ピンを抜く。

 ティーパーティの先輩が、ドアを、開ける。

 訓練でやった通り、最小の動作で、スタングレネードをドアの隙間に投げ入れる。

 壁に背を向けて、急いで、耳と目を塞ぐ。

 数秒後、閉じた目の向こうでもはっきりと分かる閃光。

「突入、します!」

 先輩がドアを開けてくれる。自分を奮い立たせるために、不安を押しのけるために、声を張り上げて、進む。

 キィン、と耳に残響が残っている。けれど、聞こえるのはそれだけ。銃声は聞こえない。

 車両の中は何人もの人が重なって倒れていた。

 トリニティの生徒以外、銃を持っていたであろう人物を撃って、先輩と共に次々と無力化させる。この車両に乗っていた方々については――ごめんなさい、と心の中で謝る。

「やりましたわね」

「――先頭車両まで、行きます」

 褒められて、口元がゆるみそうになる。けれど戦闘中なのは変わらない。口元を引き結んで、先へと進む。

 先ほどの車両にジャックしていた面々が集まっていたのか、その次の車両も、更にその次の車両も、交戦してくる相手は居なかった。

 操縦席に飛び込む。分かりやすく銃で脅しているターゲットが居たので、撃つ。

 ヘイローが消灯したのを確認し、操縦席に居た人に列車を止めるように言う。

 先輩には、もしも増援が来たときのために、運転手の護衛をお願いする。

「…………よし」

 交渉をしてきたターゲットは、屋根に火薬を仕掛けていたと言った。気を失わせているので聞くことはできないけれど、列車を止めてここから離れれば、少なくとも大丈夫だ、と思って。

 最初の車両に戻る。交渉をしてきたターゲットの元へと向かって。車内に違和感。

 人質として窓に立たされていた生徒たちが、何やら不安げな顔をして、車両の中央部に集まっていた。

「あっ、戻ってきた!」

「あの! ちょ、ちょっと、来て、くださいまし!」

 手招きをされて、私は集まっている方へ。

「どうか、したんですか?」

「そのっ、この人の体から、なんかピッピッて音がさっきから……」

「……へ?」

 嫌な予感がした。確かに、電子音がする。音がするのは――ヘルメット?

 あごひもを外して、ヘルメットを取る。ヘルメットの中には、デジタル時計のような表示がされていて、00:05、00:04、とその数字が、減っていくのが見えた。

「――――――! みんな、離――――」

 00:00とその数字は変わり、ピーッと長い音が聞こえた、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の上から、破裂音がした。




仲正イチカ✕正義実現委員会のモブちゃんの長編小説、第十八話です。

ミコは、列車ジャックの現場に居合わせてしまう。

応援は見込めない。周りに正義実現委員会の生徒はいない。
けれどミコは、列車ジャック犯と一人で相対することを決意する。

正義実現委員会所属の生徒として。
そして、憧れのイチカの、妹分として。
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