私は正義実現委員会所属の生徒だ。名前はまぁ、無いようなもの。 作:みょん!
私は、暗闇の中にいた。
夢の中に居るような、ふわふわとした感覚。
意識は確かにあるのに、目は開かないし、体は動かないし、体の感覚もなくて、プールの上に目を瞑ったまま浮かんでいるような感じがあった。
布団の中で、眠りに落ちる前のようでもあって、なんとなく、最近、感じたことのあるような感覚でもあるような、ないよう――な。
「――――ん」
暗闇の中で、何かが聞こえる気がする。
私がよく知る人の声のようで、でも、全然聞いたことがない声の感じで。
「ミ――――。――――ちゃん!」
視界が、白みがかるのが分かった。途端――。
「ミコちゃん!」
イチカ先輩の、声がして。体が反射的にびくりと跳ねた。
会いたいって気持ちが見せてくれた、幻聴か何かだと思った。
目に力を入れると、少しだけ視界が戻る。薄ぼんやりと、イチカ先輩の顔が見えた。瞬きをして、視界がクリアになると、イチカ先輩の顔が、はっきりと見えた。
――会いたかった人が、そこに、いた。
「イチ、カ……せん、ぱい……?」
でもその顔は、どこか泣きそうで。いつものイチカ先輩のようでは、ぜんぜん無くて。
「――――ッ! ミコ、ちゃん、目が、覚めて……! …………――――ッ! ミコちゃん、どうして、危ないことしたんすか!?」
そして、突然怒られた。あまりにも近くで大きな声を出されて、耳を塞ぎそうになったけど、どっちの手も動かせない。というか、左手はイチカ先輩が両手で握っているのが見えた。……どんな、状況?
今がどこで、何がどうなっているのか、まったく分からない。けど。……けど。
「――――」
イチカ先輩が、私が会いたかった人が、側にいてくれている、ということだけで、私は。嬉しくて、泣きそうになる。鼻の奥が、つんとしてくる。
「ミコちゃんは、まだ下っ端で……、応援を呼ぶだけでも十分だったのに、逃げてもいい所だったのに! なんでそこまでやっちゃうんすか! あやうく、……あやうく、ミコちゃん、死んじゃう、ところ、だったんすよ!?」
イチカ先輩の綺麗な声に、濁りが混ざってくる。所々で言葉が詰まって、そして、叫ぶような声になっているのが、分かる。なんで私は怒られてるんだろう、とか。なんで体が動かせないんだろう、とか。さっき私は列車にいたはずじゃなかったっけ、とか。頭にいくつも疑問が浮かぶけれど。どれにも答えが出ないまま。私はイチカ先輩が悲しそうな顔で声を上げるのを、聞くしかできない。
「通話越しにミコちゃんが危ないことをしてるって分かるのに、それを聞くしかできないの、私がどれだけ心配で不安で大変だったかって、分かってんすか!?」
「…………ぁ」
――理不尽にイチカ先輩に怒られてる、と思っていたけれど、やっと合点が行った。
私の、緊急通報は、イチカ先輩に行ってたんだ。最後に電話したのもイチカ先輩で、通話しようと何度も電話をかけたのも、イチカ先輩だったから。
……あぁ、あのやり取りは、全部、イチカ先輩に、筒抜け、だったんだ。
なんだか、恥ずかしいなって気持ちが浮かんだ。かっこ悪いところしか、見せてないから。
「なんで、そんな、爆発物あるの、危険だって、分かってて、……ッ、そこまで、無茶しちゃうんすか!? 逃げてたら、こんな、怪我までしなくても――」
「――……だって。そんなの、決まってる、じゃないですか」
掠れた声だったけれど、ちゃんと、声になった。口の中は乾いてるし、ざらざらしたものが邪魔だけど、発音するのなら、問題はなさそうだ。
「私は、イチカ先輩の、妹分、ですから……。あそこで、逃げ、たら……。イチカ先輩の、私の、大好きな、お姉ちゃんの名前に、泥が、付いちゃう、じゃないですか」
「――――――ッ!」
イチカ先輩の目が、見開くのが見えた。
結局、そうだったんだ。私がどうなるか、じゃなくて。イチカ先輩の妹分の私がどうすべきかって考えて、私が選択した。何もしないんじゃなくて、自分から、地獄に進むんだって。
「私だって、憧れのイチカ先輩みたいに、できましたよ。…………へへ。見直して、くれましたか?」
「ミ…………――――~~~~ッ!」
ぽたり、と頬に冷たい感触があった。
一つそれを感じたと思うと、二つ三つと、ぽたぽたと、落ちてきた。
イチカ先輩が、歯を食いしばるようにして、私の方を、じっと見ていた。
「泣いて、くれてる、んですか……? 私、なんか、の、ため、に……」
「当然――――じゃないっすか! ~~~~バカ!」
握られてる手が、強く握りしめられる。
「~~~~~~ッ! 良かった。ミコちゃんが、無事で、ほん、とうに、よかっ……った。良かった…………」
私の手が、イチカ先輩の額に当てられて。祈るような体勢になっていた。イチカ先輩の声が、体が、震えているのが見える。イチカ先輩の目は、手に隠れて見えない。けれど、頬に、涙が次々と流れては、落ちていくのが見える。
私のせいで、イチカ先輩を泣かせてしまってるんじゃないかって罪悪感が浮かびかけるのと同時、手が本格的にみしみしと言い出した。イチカ先輩が、全力で私の手を握っているおかげで。そろそろ、本気で痛くなってきた。
「イチカ、ミコが痛がってるので、そろそろ止めておきましょう」
イチカ先輩の後ろに、ハスミ先輩が現れた。イチカ先輩の頭に手を載せて、初めてその存在が分かったように、上を見て。そして照れくさそうに頬を掻く。
「ひとまず、緊急車両がもうすぐ来ます。ミコはそちらに乗って頂きます。様々なお話は、治療が済んでからです」
「緊急、……車両。…………治療?」
「ミ、コちゃん、ここが、どこで、今、どんな、状態か分かってる、んすか?」
袖で顔を拭いたイチカ先輩が、私の顔を覗き込んでくる。
――どんな、状態?
ふと、首を動かして、自分の体を、確認しようとした、瞬間。
「――――――ッ!」
全身に、痛みが走った。体が痛みを思い出したとでも言うかのように、突然、痛みが走ってきた。さっきまで、左手だけだったのに。
「痛むっすか、ミコちゃん。大丈夫っすか」
「――――~~~~! ぁ…………だ、だい、じょ……、――――――ッ!」
みしり、と体が軋む音がした。なんでさっきまで痛みが無かったんだろうと思うくらいに、泣きたくなるくらいの痛みが走ってきた。
イチカ先輩の心配そうな顔が見える。
ふと、救急車両の音が聞こえてきたかと思うと、赤い光がイチカ先輩の服を染める。
「持ちます」
「あ、私も持ちます!」
ハスミ先輩とイチカ先輩の声が聞こえたかと思うと、体が宙に浮く感覚があった。
視界が急に高くなった、少しだけ上下に揺れた、かと思うと、何かに乗せられる感覚。そしてガラガラと音がしたかと思うと、何回か遠目で見たことがある救急車の姿が、目に入った。
「私もいっしょに入ってもいいっすか?」
「ええ、そこは伺ってます。大丈夫です。鎮痛剤、準備します」
そんなやり取りが聞こえたかと思うと、いつぞやにお世話になった救護騎士団のセリナさんの桃色の髪が見えた。
「すぐ楽になりますからね。ゆっくり、呼吸をしてください」
マスクのような物を付けられて、なんとも言えない香りがしたかと、思うと。
頭の中に靄が掛かったように、なってくる。瞼が、急に、重くなるのが、分かる。
ふと、左手に、温かい感覚があった。
「ミコちゃん」
私を覗き込む、イチカ先輩の顔が見えて。
「よく、頑張ったっすね。――やっぱりミコちゃんは、すごいっすね」
そう、言われて。
久しぶりにイチカ先輩に褒められた気がして。ああ、嬉しいな、と幸せな感覚があったと思った時には、もう私の目は、開けられることも、できなくなっていて――――。
仲正イチカ✕正義実現委員会のモブちゃんの長編小説、第十九話です。
爆発に巻き込まれたミコは、懐かしい人の声を聞いた気がした。