私は正義実現委員会所属の生徒だ。名前はまぁ、無いようなもの。 作:みょん!
それから私は、一週間ほどを悶々としたまま過ごした。
出動らしい出動がなかったのは僥倖だった。このまま出動していたら、多分誤射をやらかすか、いつものように掃射してる間にすっ転ぶか、変な作戦を提案しかねなかったから。
もちろん本業の勉強も手に着く訳でもなく。予習していなかったところをピンポイントで当てられて、恥ずかしい思いをした。
散々な毎日を過ごしている中でも、時間になればお腹は減る。今日も人気が少ない裏庭のベンチに座り、コンビニで買った期間限定のサンドイッチをいざ食べようと封を開け、口に入れようとし
「ミコちゃん!」
「――――ぁわっ!?」
思わぬ声と予想していなかった衝撃を背中に受け、盛大に慌ててしまって。
手に持ったサンドイッチも、膝上に載せていた菓子パンも、背を伸ばすためにいつも飲んでる牛乳も、全部が地面に落ちていくのを、私はスローモーションになる世界の中で、それを、見守って――。
ぽとり、と断面が地面に落ちた瞬間に、時の流れが元に戻った。
「…………あぁぁぁ…………私の、ごはん…………」
この世で唯一の楽しみが、ご飯が…………と嘆いていると、どこからか鳩がやってきて、私のごはん――だったもの――をついばみ始めた。
「あ…………。あー、なんというか、ごめん…………」
「――――――!」
振り向くと、イチカ先輩の姿があった。
頬を掻いて、申し訳なさそうにイチカ先輩が言う。イチカ先輩の口調が平坦な物になるくらいには、私の落胆度合いは相当な物に見えたんだろう、と思う。
「え、と…………。その、いえ…………」
食べたかったご飯がおしゃかになって、口からため息は出るけれど、その原因がイチカ先輩とあらば、抗議の言葉も出てこない。
イチカ先輩とまた話せて嬉しいって思う自分がいる一方で、イチカ先輩は別の誰かとお昼に行く途中なんだろうか……と思ってしまう自分もいる。
うぅぅぅぅ…………。イチカ先輩が隣に座ってるってのに私は何を考え――――
「…………へ?」
隣を見る。イチカ先輩がいる。
気がつけば、イチカ先輩に頭を撫でられていて。
――――え?
状況を整理しよう。
無理。
えっと、イチカ先輩は何をして、――――え?
「ね、ミコちゃん」
私の頭を撫でながら、イチカ先輩は、私の顔を覗き込んでくる。
「ミコちゃんのサンドイッチを落としちゃった代わりと言ってはなんなんすけど、一緒にご飯食べないっすか?」
イチカ先輩は、そんなことを言ってきた。
「…………へ?」
「多めに買ってるんで。……とは言っても、ご飯自体はここにはなくって、私がいつも食べてるところでーってことにはなるんすけど。ごめんってお詫びも込めて。……どうっすか?」
顔の前で手を合わせるイチカ先輩に、ぐぅ、と私の代わりに、お腹が返事をした。
◇◇◇
「こっちっすよ、こっち」
イチカ先輩に手を引かれて連れてこられたのは。
『関係者以外立ち入り禁止』と筆文字での張り紙がある部屋。その名も――『正義実現委員会 委員会室』だった。
「…………え、ここって正義実現委員会の」
「いいからいいから。ほらほら」
背中を押されて入ると、じろり、といくつもの視線が私を刺した。
存在感のある大きな黒い翼を生やした人が、私とイチカ先輩を見たかと思うと、小さくため息を吐くのが見えた。
「イチカ、ここに部外者を入れてはいけないと……」
「ハスミ先輩、この子は部外者じゃないっすよ。れっきとした正義実現委員会の子っす。ほら、この間の立てこもり事案の……」
「またですか。……まぁイチカが言うなら、いいのですが」
また? その人が言ったことが気になった。
「さ、お許しが出たところで。こっちっすよ」
そんな私をよそに、イチカ先輩は椅子に私を座らせたかと思うと、奥の部屋からコンビニのビニール袋を持ってきた。中には私が落としたサンドイッチや、菓子パン、エンジェル24で数量限定販売しているメロンパンや、五個入りで500円もする小粒あんパンもあった。
「ささ、たーんとお食べ」
私は流されるままに、イチカ先輩に手渡されるままに、サンドイッチを開ける。落としてもう食べられないものとばかり思っていた限定サンドイッチが、今私の手の中にある。
おそるおそる一口食べる。……おいしい。思わず、口元が緩む。
「うんうん。やっぱりミコちゃんはそういう顔が似合うっすね」
ふと隣を見る。目を細めて、嬉しそうなイチカ先輩の姿があった。
「……え、と。イチカ先輩は、食べないんですか?」
「……ん? ああ、食べるっすよ。じゃあひとつもらうっすね」
もらうもなにも、それはイチカ先輩のじゃ――とは言えなかった。小粒あんパンを半分に割って、口の中に放り込んで咀嚼する。
「んー、やっぱり朝一で行った甲斐があったってもんっすね。……うん、やっぱり」
それから、イチカ先輩は私の方を見て。
「やっぱり、ミコちゃんといるのが心地良いっすね」
「~~~~ッ!」
パンが変なところに詰まった。ごほっごほっと咳が出る。止まらない。背中をイチカ先輩の手がさする感触があって、なんとも情けないやら申し訳ないやらな気持ちになる。
落ち着くのに、少しだけ時間がかかった。「いきなり何を言うんですか」と言う代わりに恨めしい目でイチカ先輩を見るけれど、イチカ先輩はしれっとした顔。
「変な意味じゃないっすよ。ミコちゃんがおいしそうに食べるのを見て、この空気が心地良いなぁって思っただけっす」
「……っ、と、は、言っても。言い方、ってものが……」
「それは、謝るっす。ごめん」
イチカ先輩は頭を下げて、それから私の方に向き直って。どこか、気恥ずかしそうに、頭を掻く。
「いやー、実は、これまで結構、ミコちゃんのクラスメイトの子たちとも、ご飯食べたりお茶飲んだりしたんすけど」
――見てたので知ってますよ、とは言わない。それで一週間くらい悩んでます、とも言わない。
イチカ先輩が、今、真摯な目で私に向き合ってくれてるから。私は、その話を黙って聞く。
「ミコちゃんとお茶会した時に感じた、楽しいなーって感覚は、ミコちゃんの時だけだったんすよね。やっぱり、一緒にお茶したりご飯食べたりするんなら、ミコちゃんとがいいなって、今日再確認したわけなんすよ」
「――――――」
息が詰まった。無意識に目がぱちぱちと何度も瞬きをする。目の前にイチカ先輩がいるのも、手にサンドイッチがあるのも、確かに感じられるから……夢、とかじゃないって分かる。
――私は今、一体、何を言われてるんだろ。
必死に頭をフル回転させるけれど、イチカ先輩が言った言葉の意味を、まったく掴めないでいた。
――私と、が、いい? え? ……どういう、こと?
頭で色々考えていてもまとまらないんだから、言葉なんて出てくるわけが無くて。口からは何も出てこないし、体なんて動きもしない。
イチカ先輩は、そんな私をよそに。
あろうことか、イチカ先輩は、私の手を取って、そして、きゅっと握って。
「…………――――~~~~~~っ!?」
「で、ミコちゃんがよければ、なんすけど」
イチカ先輩が私の目をまっすぐに見て。言った。
「ミコちゃんがよければ、これからも一緒に、お昼食べないっすか?」
「………………………………は、い?」
私の頭は、完璧にフリーズした。
仲正イチカ✕正義実現委員会のモブちゃんの長編小説、第三話です。
ミコちゃんとイチカのお茶会から一週間。
あの日見た光景が忘れられず、悶々とした日々を過ごしたミコの背後に忍び寄る姿が――。