メダロットSAGA   作:正気山脈

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『メダロット! それは、テクノロジーが生み出した全く新しいロボットである!』

 老若男女問わず多くの観客で満たされた広いスタジアム、設置されたモニターから雄大なBGMと共に流れるナレーション。
 映像には二本足で立つ白と青で彩られた男性型の金属骨格と、髪のようなものがついた赤と白の女性型骨格が一体ずつ並んでいる。
 そのロボットの骨格に、操作音と共に変化が起きた。

『ティンペットと呼ばれる基本フレームに、人工知能メダルを搭載!』

 頭部、右腕、左腕、脚部。それぞれの部位に転送された各部パーツが装着され、全身が組み上がっていく。
 続いて背中のハッチが開いて六角形のメダルが装填されると、男性型は頭部の尖った耳のようなものが特徴的な青い犬のようなロボットになり、女性型の方は赤い猫のロボットとなった。
 青い方には『MDT-DOG-00 シアンドッグ』、赤い方には『MDT-CAT-00 マゼンタキャット』のテロップが表示され、眼部がギラリと光る。

『さらに様々なパーツを合体させる事によって、無限の能力を引き出す事ができるのだ!』

 電子音が響いて脚部や左右の腕のパーツ、さらに頭部も異なるパーツへと目まぐるしく変化していく。
 そして二体のメダロットたちは互いに向き合うと、自らの腕に備わった武器を突きつけあって戦いを始め……。
 直後に『MDT(メダテック)』の六角形のロゴが表示され、そこで映像は終わり、モニターはスタジアム内の様子を映し出した。

「みなさん、長らくお待たせ致しました! これより、冬季全日本ロボトルリーグ『天領杯』の決勝戦を始めます!」

 シワひとつないワイシャツと黒いズボンに赤い蝶ネクタイを付けた白髪交じりの男が、六角形の戦場(リング)の中心で、マイクを片手に熱く叫ぶ。
 観客たちは一斉に腕を掲げて歓声を上げ、選手たちの入場を今か今かと待ち望んで名前を呼び始めた。

「レフェリー及び司会進行は(わたくし)Mr.(ミスター)ムクドリが引き続いて担当します! それでは、選手の入場です!」

 拍手喝采の中でフィールドに現れたのは、不敵な笑みを浮かべる目鼻立ちの整った一人の少年。
 茶色いウルフカットの髪に、青い瞳と涼し気ながらも鋭い目つき。余裕を見せつけるかのように声援に応えながら、ゆるりとレフェリーのいるリングまで上がった。

百舌鳥(モズ) ユウト選手! 小学生時代から有名な強豪メダロッターを打ち負かし続けた、大人顔負けの才気あふれる麒麟児! なんと今回、最年少の13歳という若さでここまで上り詰めました!」

 そうしてユウトがリングに立った後、今度は反対側の入場口から別の人物が姿を見せた。
 外ハネの黒髪が特徴的な、真っ赤な瞳の少年。
 こちらは快活さや少年らしい元気な明るさを感じさせる表情で笑うが、しかしリングに立つとそれが一変。唇を引き結んで真剣な眼差しを一直線にユウトへ向け、ギュッと拳を握り込んだ。

「対するは白藤(シラフジ) ハジメ選手! 百舌鳥選手と同じく13歳にして決勝戦まで勝ち進んだ、若き強豪メダロッター! まさに龍虎相打つという表現が相応しい対決です! さらに彼らは幼馴染で幼少期から互いに競い合っていたライバルとのこと、これはどちらも負けられませんね!」

 選手たちを置いてひとり熱くなるMr.ムクドリの語りを聞き流しつつ、ユウトは正面に立つハジメに向かって指を差す。

「ようやくこの時が来たな、ハジメ……大勢の観客が見てる前で証明してやるよ」

 そう言った彼の左腕には、黒い腕時計型デバイス『メダロッチ』が装着されている。
 ユウトがそのメダロッチを操作すると、眼の前の空間に光の粒子が集まって六角形の輪を形作ると、そこから三つのティンペットが出現し、ネジ単位まで分解されたパーツが自動で組み上がって機体を完成させていく。
 中央に立つクワガタの『MDT-KWG-01 ヘッドシザース』を筆頭に、トンボ型の『MDT-DRF-00 ドラゴンビートル』、そして精霊型の『MDT-WDN-00 アクアクラウン』。全てユウトの所有する、ここまでの戦いを勝ち抜いてきたメダロットたちだ。
 自軍のメダロットの背後で腕を組み、ユウトは得意げに笑って言い放つ。

「お前なんかよりずっと! 俺こそが、この世の誰よりも! 強いって事をな!」
「いいや、ユウト。俺は負けるつもりはないぜ」

 言いながらハジメも白いメダロッチを操作し、三体のメダロットを呼び出す。
 こちらはカブト型の『MDT-KBT-01 メタルビートル』に、戦乙女型の『MDT-VAL-00 プリティプライン』、ティラノサウルス型の『MDT-TIR-00 アタックティラノ』という編成。
 メタルビートルとヘッドシザースが睨み合うのと同じように、ハジメもユウトへ力強く指を差した。

「お前に勝って、必ず頂点に立つ! 栄光の一番星を掴むのは俺たちだ!」

 二人の宣戦布告を聞き、会場はさらに盛り上がりを見せる。
 彼らと共にリングに立つムクドリも満足そうに頷き、ハジメとユウトに呼びかけた。

「合意と見てよろしいですね?」

 戦う準備はもうできている。
 両者とも首肯し、メダロッチを構えて自身のメダロットたちに戦闘態勢に移るよう指示を出す。
 彼らの戦意を確認した後、レフェリーのムクドリは大きく右腕を上げた。

「それでは! ロボトル――ファイトォォォーッ!!」

 掛け声とともに、振り下ろされる手。彼らメダロッターにとってはお決まりの、始まりの合図。
 双方の指揮の元、メダロットたちが激しくぶつかり合う――。


邂逅編
FIGHT.01[知恵と勇気で]


『おぉっと、戦闘開始と同時に百舌鳥選手のヘッドシザースがいきなり仕掛けて行く! 対してプリティプラインが割り込みガード、メタルビートルの反撃だぁ!』

 

 3月、日本の東京郊外にある『サイオウ市』。その住宅地の道路を走る車中にて。

 スマートフォンに繋いだイヤホンから流れる、再生中の動画の音声。

 右腕の刃を突き出すヘッドシザースと、それを銃撃で応戦するメタルビートルの映像を目を輝かせて眺めているのは、その選手たちと変わらないくらいの年齢の少年であった。

 耳周りまで伸ばして無造作に流した黒い髪、さらに丸みのある柔らかな目つきとオレンジ色の瞳で、その整った顔つきはあどけない幼さと同時にどこか可愛らしさを感じさせる。

 身長は平均的だが足は長くスラリとした体型で、赤いシャツの上に青色のパーカー、白いズボンとブラウンのブーツという出で立ちだ。

 

「アスカ。もうすぐ着くぞ」

「あ、うん」

 

 運転席から聞こえた声に頭を上げて、その少年、日晴(ヒバリ) アスカは動画の視聴を中断した。

 眼鏡をかけた男、父親のウイチロウはそれをミラー越しに見て優しげに微笑む。

 

「12年前の天領杯見てたんだな?」

「うん、決勝戦が始まったところ。やっぱり何度見てもすごいよ、勝ち上がった選手が当時俺と同じくらいの年齢なんて」

「そうだなぁ。父さんも別の大会でそのハジメって子やユウトって子と対戦した事があるんだけど……いやぁ、勝てなかった勝てなかった」

 

 ははは、とウイチロウは笑う。そんな彼の左腕には、動画のメダロッターたちと同様に白いメダロッチが装着されている。

 その隣の助手席に座る女性も同じようにコロコロと笑った。

 

「私も父さんと一緒に見てたのよ、天領杯。あなたを抱っこしながら。でもあの頃はずっと小さかったし覚えてないわよね?」

「1歳くらいの時の話でしょ? そりゃ俺は覚えてないよ」

 

 母のチヨメにそう言って、首を左右に振るアスカ。

 そんな風に話していると、ウイチロウが「おっ」と声を上げる。

 

「ほら見えて来た、あれが学生寮だ」

 

 車窓からアスカが覗き見ると、キレイな赤いレンガ造りの外装が特徴的な建物が見えて来た。

 アスカはもうじき中学生となって、この町で不安も期待も交じる新しい学校生活を送る事になる。

 その準備のため、両親に荷運びを手伝って貰っていたのだ。

 

「アスカがまだ自分のメダロットを持ってないのに『メダリオン学園』を受けたいって言い出した時は、どうなるかと思ったけれど……」

 

 メダリオン学園。

 主にメダロットに関連する研究や技術開発、及びメダロッターの養成を目的とした広大な敷地を持つ中高一貫校のことである。

 自分の相棒と共に学業に励み、ロボトルで互いの腕を競い合う事で、人間ともメダロットとも絆を育む事を理念としており、数多くの技術者やプロのメダロッターを輩出する名門校として有名だ。

 

「実技試験で使えるのはロボトル試験用のメダロットだけって話だったからね、自分のを持ってなくても参加できる。お陰でなんとかなったよ。あとは俺もメダロットを買わなきゃ」

 

 ガレージに駐車して外へ出た日晴家一同は、早速寮の中に入っていく。

 まずは管理者である寮母への挨拶と手続き、寮内ルールの確認などを済ませ、車から荷物を運び出そうとする。

 そこでウイチロウは咳払いすると、左腕のメダロッチを操作してそれに向かって叫んだ。

 

「メダロット、転送!」

 

 するとアスカが大会の動画で見ていたのと同じように六角形の光が出現し、メダロットの姿が現れる。

 頭部に銀の鉢金のようなものがついた青いイヌ型メダロット、シアンドッグの後継機『MDT-DOG-02 パープルカーラー』の一式装備だ。

 

「悪いねバウ、手伝ってくれ」

「いいよ~」

 

 快く返答すると、そのパープルカーラーのバウは小さな体で軽々とアスカの荷物を持ち上げ、指示された場所へ運搬し始めた。

 その様子を微笑んで見守りつつ、ウイチロウもアスカと話しながら同じように運び出していく。

 

「近い内にメダロットを買いに行くと良い。お金は渡しておくよ、ちょっと遅れたけど合格祝いだ」

「ありがとう。色々欲しいけど、とりあえずメタルビートルを探そうかな」

「好きだもんなKBT型、でもメタルビートルは人気だから売り切れてるかも知れないぞ?」

「その時は……そうだなぁ、クロトジル買うよ。カッコいいし。メダルも良いの置いてると良いんだけど」

 

 三人はそのような会話をしながら、これからアスカが住む事になる自分の部屋で、荷物の整理を始めるのであった。

 

 しばらくの後。

 ウイチロウとチヨメ、そしてパープルカーラーのバウは、積んでいた荷物を全て運び終えて再び車に乗っていた。

 そして寮の入口の前で停車し、窓を開いてアスカに話しかける。

 

「じゃあ、父さんと母さんはこれで帰るから。しっかりやるんだぞ」

「同じ寮の人たちに挨拶も忘れずにね」

「いつでも帰って来てね~アスカ~」

 

 自分に向かって窓から手を振る三人へ、アスカもニッと唇を釣り上げて手を振り返す。

 

「じゃあ、またね」

 

 その返事に父が頷き、車を走らせ去っていく。

 一人残ったアスカは寮に戻り、改めて近い部屋や上階・下階の寮生たちへ挨拶に向かおうと決意する。

 しかしその直前、エントランスにいる目鼻立ちの整ったエプロン姿の茶髪の女性、寮母の河須(コウス) ユカコがアスカを呼び止めた。

 

「今はあんまり人いないわよ。ほら、まだ一応春休み期間中だから。帰省中の子が多いの」

「そうですか、言われてみればちょっと人が少ないような……」

「まぁ帰省せず残ってる子とか、あなたと同じで入寮の手続きをしたばかりの子もいるにはいるけど、ほとんど遊びに出かけてるし。夕飯時ぐらいには大抵みんな帰ってくるけど」

 

 では、挨拶をするならその夕食後の方が良いだろう。

 アスカはそう考えるものの、それまでの間どうするべきかを悩む。するとそこで、再びユカコが話しかけて来る。

 

「一応言っておくけど、あんまり浮かれすぎて羽目を外さないように。ここ男女共用の施設だから普通に女子もいるのよ。中等部の子も高等部の子も混じってるわ」

「確かに、お姉さんも女性ですしね」

「え? あっはは! お姉さんって、私はもう29よ! お世辞は良いから外で遊びにでも行ってきなさい!」

 

 豪快に笑う彼女からバシバシと背中を叩かれ驚きながらも、アスカは自分の部屋に戻り、言われた通り外出の準備を始める。

 とりあえず財布を持って、行動できる内にメダロットを買っておこうと考えたのだ。

 

「じゃあ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 慈母のように柔らかく微笑み、手を振るユカコ。

 そんな彼女の暖かい視線を受けつつ、アスカはスマートフォンのマップアプリを眺め、商店街に向かって歩き出した。

 

 

 

 そうして約十数分後。

 商店街内のコンビニの自動ドアが開き、アスカが小さく肩を落としてとぼとぼと出ていく。

 

「まさかKBT型どころかカブトメダルすら売ってないなんて……」

 

 大きな溜め息を吐いて、アスカは呟いた。

 メダロットの背に装着される六角形の金属物質、メダルは、いわば頭脳であり魂。これがなければそもそも動かす事すらできない。

 商店街にあるトイショップやコンビニをくまなく探して回ったものの、アスカはメダルの方もメダロットの方も目当てのものを見つける事ができなかったのだ。

 しかし入手できなかったものはしょうがないので、明日以降に隣町を探すか、送料の問題はあるがネットショップを確認しようと心に決めた。

 

「……ん?」

 

 そんなアスカがやや落胆しながら商店街を出て寮までの帰り道を歩いていると、不意に背後から慌ただしい足音が聞こえて来る。

 何事かと思い振り返れば、そこには小さなアタッシュケースを抱えた白髪に口髭の白衣の男がおり、背後を気にしながら必死の形相で走っていた。

 

「わっ!?」

「むおっ!? す、すまん! 大丈夫か!?」

 

 男はアスカと衝突しそうになり、慌てて寸前で足を止め、肩で息をしながらも安否を気遣う。

 アスカが頷くと安堵の息を吐くが、直後にハッと目を見張って再び振り向く。

 すると姿を現したのは二つの影。警棒で武装し、覆面を被って顔を隠した二人の男だ。

 

「チッ、こんなところまで逃げ込みやがって……もう良いだろう博士。大人しくそれをよこせ」

「置いていかないなら……どうなるか分かるよなぁ?」

 

 言いながら、男たちはメダロッチに指で入力し、自分たちのメダロットを呼び出す。

 それぞれメキシカンハットを被ったサボテンのようなデザインのメダロットと、両腕が矢尻のように尖った白いカラーリングのカマドウマ型の機体だ。

 

「あのメダロットたちは……『MDT-SAB-00 サボテンナ』と『MDT-CCC-00 イエロークリック』か!」

「ケースを渡さないなら、さっきみたいに車も逃げ道もブチ壊してやるぜぇ?」

 

 どうやら、男たちはメダロットを利用して追い詰めていたらしい。

 博士は苦々しい表情でアスカの方を振り向くと、焦った様子で声を掛けて来た。

 

「君、私の事は良いから逃げなさい!」

「させるかよ。助けを呼ばれるかも知れないからな」

 

 なぜこんな事をするのかという疑問を挟む余地もなく、覆面たちは武器を手ににじり寄り、博士と呼ばれた男はアタッシュケースを離さないよう小脇に抱える。

 目的は分からないが、白衣の男の身の危険が迫っており、覆面強盗が奪おうとしているのは間違いない。

 そして、それを見過ごす事などアスカにはできなかった。

 アスカは博士と彼らの間に割って入り、真っ向から強盗に立ち向かう。

 

「やめなよ! どうしてこんな事をするんだ!?」

 

 すると男たちは、苛立った様子でアスカに警棒を突きつける。

 

「ガキには関係ねぇよ、こいつは大人のビジネスなんだ」

「引っ込んでろ!」

 

 言いながら、男の片割れはその警棒を強く振り被る。

 アスカは咄嗟に右腕でかばうように身を守るが、受けきれずにたたらを踏んで、背後の白衣の男にぶつかった。

 

「うぁ!?」

「ぬお!?」

 

 博士と一緒に倒れ込んだ事で手からケースがこぼれ落ち、その拍子にアスカの手が蓋に触れ、意図せず開いてしまう。

 そしてそのアタッシュケースに刻印された六角形のロゴを見て、アスカは目を丸くした。

 

「『MDT』って……メダテック!?」

 

 中に保管されていたのは、白いメダロッチとメダル。それもアスカが探し求めていた、幼虫の姿が表面にレリーフされたカブトメダルだ。

 瞬間、アスカは思った。

 使うしかない。この窮地を脱して、この白衣の男性を助けるには、そうするしかないと。

 

「あ! そ、それは!」

「すいません、ちょっとだけ……お借りします!」

 

 そう言ってメダロッチを操作すると、アスカは叫ぶ。

 

「メダロット、パーツ転送!」

 

 すると、アスカの眼の前でティンペットとパーツが出現し、脚部・左腕・右腕・頭部の順にメダロットが組み上がっていく。

 

「こ、これは……!?」

 

 完成したのは、西部劇のガンマンを彷彿とさせる姿のカブトムシ型メダロット。

 上に角を伸ばしたカブトムシとウェスタンハットを組み合わせたような形状の頭部に、右肘のラインには銃身が一つ、左側には二つ付いており、前に二本の爪が付いた足は安定感を重視してかやや大きめに作られている。

 全体のカラーリングはオレンジと白、ミサイル砲口のついた角やバレルは赤いカラーラインで彩られている。

 メダロッチに表示された機体の型式番号と名称は『MDT-KBT-NG01 ローンビートル』とあり、アスカは目を輝かせた。

 

「す……すごい、すごいよ! 初めて見るKBT型だ! そういえば近々大きな動きがあるって発表があったけど……新型!? もしかしなくてもメダテックの新作ですよねこれ!?」

 

 博士も強盗たちも、あまりの熱中ぶりにあっけに取られる。

 そうしている内に、メダルを装着されたローンビートルのライトブルーの両目がチカッと輝き、視線が周囲を彷徨う。

 

「なんだぁ? じーさん、今日のテストは終わったんじゃ……んん? お前さん誰だよ?」

 

 ローンビートルは怪訝そうな様子で、アスカに視線を送った。

 

「あ、えと……俺はアスカ! ちょっと君に助けて欲しいんだ!」

「助ける? いきなりどういう事だ? じーさん、こりゃ一体何が起こって……」

 

 直後、今度はローンビートルの目が強盗とそのメダロットたちを捉えると、納得した様子で数度頷く。

 

「はーん、なるほどね。なんとなく分かった」

 

 そしてビシッと彼らに向かって機械の指を突きつけ、断言する。

 

「要はてめーら悪いヤツだろ! いいよなじーさん、オレが懲らしめてやってもよぉ!」

 

 問いかけると、白衣の男は一瞬の思考の後に「頼む!」と頷いた。

 それを受けてローンビートルはやる気に満ちた様子でグッと腕を前に掲げ、その隣でアスカがメダロッチを構えて声をかける。

 

「よし、どこまでできるか分からないけど俺が協力するよ」

「なんか知らんが勝手にしな!」

 

 こうして出来上がった即席コンビが、強盗と対峙する事となった。

 それを受け、強盗二人は声を潜めて話し合う。

 

「おい、どうする? この展開は予想外だぞ?」

「どうもこうもないだろ! あいつは元々メダロッチを着けてなかった、つまり初心者どころか未経験だ!」

「たとえ新型のメダロットが相手だろうと、使うのは今日メダロットを手に入れたばかりのガキと戦闘経験不足の素人メダル。負ける要素はどこにもない、か」

 

 だったら少しくらい遊んでやっても良いだろう。

 そう結論付けた強盗たちは、ニヤリと笑ってアスカの方に向き直る。

 

「おいガキ! 俺たちが勝ったらそのメダロットもメダルも大人しく渡して貰うからな!」

「オレは負けねぇよ!」

「なら決まりだ! やっちまえイエロークリック!」

 

 言うが早いか、ローンビートルの了承と同時にイエロークリックが飛びかかり、尖った右腕を突き出して来た。

 当たる寸前に身をかわしたので掠める程度で済んだものの、その不意打ちにアスカは瞠目する。

 

「レフェリーがいないのにいきなり始めるなんて!?」

「バカめ、誰が公式試合なんぞするか! サボテンナ、右腕パーツ(トゲトゲガン)使用!」

 

 細いバイザーの内側にある赤い眼光がローンビートルを睨み、腕の機関銃が充填の後に火を噴く。

 元々装甲が厚い事もあって今回も大したダメージにはなっていないが、それでも一対二という不利な状況ではいずれ全身を破壊されてしまうだろう。

 

《ローンビートル、脚部・左腕・右腕パーツに軽度ダメージ》

「くっ! この!」

《サボテンナ、左腕パーツに中度ダメージ》

 

 よろめきつつもローンビートルは自身の左腕パーツ、ラピッドバルカンで応戦。サボテンナに決して軽くない負傷を与えた。

 しかし、それで状況が大きく変わったワケではない。どうやってこの苦しい戦況を覆すべきか。

 互いのパーツ冷却の合間に思考していると、メダロッチを介してアスカからの声が届いた。

 

「君、聞こえてる?」

「ンだよ、邪魔すんじゃねぇ!」

「協力するって言ったろ? 話を聞いてくれ。あのイエロークリックはこっちの攻撃を妨害する厄介な技を使う、あっちから先に仕留めるべきだよ」

「バカ言ってんな! どう見てもリーダーはあのサボテン野郎だろうが! ロボトルは先にリーダー機を倒した方が勝つ、アイツをブッ壊せば決着は――」

「つかないよ。だって、これ公式試合じゃない」

 

 それを聞いて、途端にローンビートルは沈黙してしまう。

 耳を傾ける気があると見て、さらにアスカは話を続けた。

 

「仮にリーダー機だとしてもヤツらは納得しないさ。平気で不意打ちするような連中だし」

「……だな」

「だから、少しの間……博士を助けるまでの間で良いから、俺の話を聞いて戦って欲しいんだ」

 

 ズキズキと痛む腕に耐え、アスカは懸命に説得する。

 ローンビートルはその右腕の怪我に気付くと、やや思考した後に頷いた。

 

「良いだろう、そこまで言うなら指示してみな」

「うん! まずはさっきも言った通り……」

 

 次の攻撃が来るまでに、距離を取らせながらできる限りの事を伝える。

 しばらく両者ともに間合いを測るようにジリジリと動いていたが、痺れを切らした強盗の片割れが、メダロッチ越しに叫んだ。

 

「もういい、素人如きに駆け引きなんざ必要ねぇ! イエロークリック! キッチンレンジで《がむしゃら》だ!」

 

 苛立った強盗男の言葉に従い、左腕の武装を食らわせるべく、大きく跳躍するカマドウマのメダロット。

 がむしゃらとは、対応の格闘パーツを用いて全速力でぶつかる事で、相手メダロットのパーツ全てに打撃を与える機能。使用後に大きな隙ができるものの、強力な技だ。

 ローンビートルに狙いをつけられないようにするためか、ジグザグに移動して撹乱しながら襲いかかろうとしている。

 そして立ち止まった瞬間を見計らい、頭上から左腕パーツを突き出した。

 だが、それはアスカの狙い通り。

 

「今だ! 後ろにジャンプ!」

「おうっ!」

 

 彼の指示を受けて、ローンビートルは大きくバックステップ。それにより、イエロークリックの攻撃は空振りに終わった。

 

「なに!?」

「続けて頭部パーツ! いっけー!」

 

 ローンビートルの角の付いた頭部であるビリーザハットから二つのミサイルが飛び出し、着地寸前のところを狙われた事で無防備な状態で着弾。

 その一撃によって全身が焼け焦げ、強盗のメダロッチからもダメージアナウンスが響く。

 

《パーツ各部重度ダメージ。右腕・左腕パーツ、機能停止》

「なっ、クソッ!」

「よぉし! 作戦通りだ!」

 

 イエロークリックの頭部は攻撃用のパーツではないため、これで攻撃手段は断たれてしまった。

 よって、実質的に残る相手はサボテンナのみとなる。

 

「まぐれで上手く行ったからって勝った気になるなよガキ! レベルの違いってヤツをたっぷり教えてやる! サボテンナ、ソンブレーロ使用!」

 

 歯を軋ませながら強盗の片割れが言い、サボテンナの頭部パーツが輝いて両腕に緑色の光を浸透させる。

 頭部パーツ、ソンブレーロは《シュートブースト》という、自身を含む味方の射撃攻撃の威力と精度を高める補助機能を持つ。

 さらに、サボテンナは脚部の車輪を駆動させてローンビートルの周囲を高速で回り始めた。

 

「む!」

「これで冷却・充填完了の瞬間! てめぇのカブトムシ野郎のド頭を《狙い撃ち》でブチ抜いてやる!」

 

 狙い撃ちは、敵メダロットのパーツひとつに的を絞って攻撃する機能。

 文字通り立ち止まってじっくりと狙う必要があるので、通常よりも充填に時間がかかってしまうが、防御も回避もさせず確実に命中させる事が可能なのだ。

 今のサボテンナはシュートブーストにより攻撃力が高まっている状態、加えてメダロットは頭部パーツを破壊されると、他の部位が残っていたとしても本体が機能停止する。被弾すれば確実に形勢逆転は免れないだろう。

 

《ソンブレーロ、冷却完了》

「待って、まだだよ」

「ああ。焦らずに……」

 

 追い詰められた状況でも、メダロッチを通して、言葉を交わし合うアスカとローンビートル。

 そして。

 

《バルバルカン、充填完――》

『今だ!!』

 

 アスカとローンビートルの声が重なり、左腕の充填を終える寸前、敵が撃つよりも一瞬速く動いた。

 使うのは右腕パーツ、バスターマグナム。銃口から放たれた一発の弾丸は、パワーを溜め込んだサボテンナのバルバルカンを一撃で破壊する。

 

「なんだと!? そいつも狙い撃ちを!?」

「ソンブレーロを冷却し始めた時から充填しておいたのさ! そしてその左腕にはさっき既にダメージを与えていた、これで確実に破壊できると踏んでいたよ!」

「クッ! ならトゲトゲガンを……」

「もう遅い!」

 

 充填していたパーツが実行の前に破壊されてしまうと、冷却の後に別の行動パーツの再充填が必要になるため、大幅なタイムロスとなる。

 そして既に、アスカの指示でローンビートルは冷却を終えて、次の武装の準備を整えていた。

 

「これで終いだ」

《ビリーザハット、充填完了》

BANG(バン)!」

 

 右手の指で銃の形を作り、発砲するような動作で頭部のミサイルを放つ。

 当然サボテンナは回避できず、直撃・爆発。全身のパーツが機能停止して、背中のハッチからメダルを吐き出した。

 残されたのは抵抗能力のないイエロークリックのみ。そのまま射撃攻撃を一方的に受け、あっという間に同じくメダルを排出する。

 

「勝っちゃったよ、大人相手に……公式試合じゃないけど」

 

 驚きながらも嬉しそうに声を発するアスカ。

 しかし、自身のメダロットたちを破壊されてなお、覆面強盗は諦めていなかった。

 二人の男たちが、警棒を手にアスカと博士へ飛びかかっていく。

 そんな状況でもなお、アスカは咄嗟に白衣の男をかばいに動いた。

 

「クソがァ!! ロボトルの結果なんざもう関係ねぇ、そいつを寄越せ!!」

「チッ!」

 

 遅れながらもローンビートルが急いでアスカたちを守りに向かう、その時。

 

「そこまでだ! 両手を上げて跪け!」

 

 銃声と共に男たちが警棒を取り落とす。

 見れば、弾丸の飛んで来た方向にいたのは、軍隊や警官を彷彿とさせるような隊服と、頭部と眼部を守る白いマスクヘルメットを身に纏った男たち。傍らには市街地迷彩仕様にカラー変更されたイヌ型メダロットの『MDT-DOG-04M コバルトセッター』がおり、彼らがアスカらを守るために発砲したようであった。

 彼らの左腕に付けられた腕章には黒く『S.E.L.E.C.T SQUAD』と印字されている。

 

「せ、S.E.L.E.C.T.(セレクト)!? やべぇ、誰かチクリやがった!!」

「逃げ……」

 

 強盗男たちは大慌てで逃げ出そうとするものの、一瞬で彼らの前へと素速く回り込む赤い機影があった。

 ザリガニ型のメダロット、レーザーを発射する『MDT-RAY-00 ロールスター』である。

 そして怯む男たちの背後に、ゴツゴツとした筋肉を持つ大柄な灰色の髪の男が立ち、退路をも塞ぐ。

 どうやら隊長格のようで、灰髪の男はそのまま二人の覆面を拘束し、部下へ任せた。

 

「逃がさんよ、若造ども。こいつらを警察に引き渡せ!」

『ハッ!』

 

 隊員たちの返答と共に、強盗は呆気なく車に乗せられ連行される。

 去り際、隊長の男は博士に向かって敬礼。何も言わずに自身も車に乗り込むのであった。

 危機は去った。それを実感すると、アスカは溜め息とともにその場に座り込む。

 

「よう!」

 

 直後、ローンビートルはバシッとアスカの背を叩く。

 

「アスカって言ったっけ、お前。怪我してるのになかなか根性見せるじゃねぇか! 気に入ったぜ!」

 

 嬉しそうな声でそう言って、カブトムシのガンマンはわしゃわしゃと頭を撫でた。

 すると、今度は白衣の男も頷き、アスカへと近づいて行く。

 

「うむ……君なら任せられるかも知れんな」

 

 そう言って、博士は半ば混乱状態のアスカに手を差し伸べる。

 

「アスカくん。君さえ良ければだが、この子のパートナーになってみないかね?」

「……え!?」

 

 ――ローンビートルとの出会いを果たし、戦いを終えたその瞬間。

 彼の物語(サーガ)が今、始まったのだ。

 




メダロット解説コーナー

[機体名]
ローンビートル

[型式番号]
MDT-KBT-NG01

[性別]


[パーツ]
◆頭部:ビリーザハット(射撃/ミサイル/なし/5回)
◆右腕:バスターマグナム(射撃/ライフル/狙い撃ち)
◆左腕:ラピッドバルカン(射撃/ガトリング/なし)
◆脚部:アウトロー(二脚/アキンボ)

●Hv:0/0/0 合計:0/1

[備考]
KBT型のメダロット。モチーフはガンマン、名前の『ローン(Lone)』は『孤高』を意味する。
歴代のKBT型のデータを元として新たに制作された、メダテックのニュージェネレーションズ・エントリーモデル。
高い耐久性を持つ装甲で攻撃を受け止め、多彩な射撃武器で敵を圧倒するコンセプト。扱い易さを追求しており、クセが少ない。

脚部特性の《アキンボ》は、ロボトル開始時の時点で発動する機能。
両腕が射撃武器の場合に、自分の射撃パーツ全ての威力・成功値と防御性能をアップさせる。
ちなみにアキンボには『肘を張って両手を腰に当てたポーズ』という意味があり、これが西部劇のガンマンが両腰のホルスターに手を伸ばす姿に見える事から『二挺拳銃』という意味も持つ。

本作品のオリジナルメダロット。
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