S.E.L.E.C.Tサイオウ市支部の施設、その受付窓口にて。
訪問したアスカは、対応をしてくれているその女性職員に、先日拾ったウマメダルを見せた。
「えっと、このメダルが川の中に落ちていて」
「なるほど紛失物ですね。少々お待ち下さい、今データを照合致します」
女性はメダルを受け取ると、パソコンに接続されている、六角形の小さな窪みが付いた機械にメダルをセットしスキャンを始める。
「メダロッチの登録IDに該当なし、では店舗の商品コード……とも一致しない? ふむ、ということは……」
しばらくキーボードを操作した後、女性はウマメダルを外してアスカに向き直る。
「照合が終わりました。どうやらこのメダルには、最初から持ち主が存在しないようです」
「え?」
「恐らくですが。付近の遺跡や古い時代の建築物にあったものが、地震や台風などの影響で川まで流された、といったところでしょうね」
落とし主がいないのはそういう事だったのか、とアスカが内心納得していると、女性はウマメダルをそのまま彼に差し出した。
「この場合、メダルは見つけた本人のものになります。なのでどうぞ」
「ほ、本当に良いんですか?」
「必要ないのでしたらセレクトで管理致しますが……」
言われてアスカは少し考えた後、顔を上げて結論を述べる。
「見つけたのは俺ですし、責任を持って育てます」
「分かりました。他にご要件はございますか?」
考えるまでもなく首を横に振って「いえ」と伝えると、女性職員はにこやかに微笑みつつ、頭を下げた。
「お疲れ様でした、また何かありましたらいつでもお訪ねください」
そう言って小さく手を振る彼女に見送られ、アスカはセレクト支部を後にする。
途中、メダロットによる犯罪情報を入手したセレクト隊が出動するのを横目に見ながら。
「……で、結局お前が持つ事になったワケか」
その日の夜、寮内のアスカの部屋に遊びに来たホムラがベッドに腰掛けながら言った。
アスカの方は椅子に座っており、友達の言葉に頷いて、机の上のウマメダルを指で撫でている。
そんな彼へと、ホムラのメダロッチからバレットが問いかけた。
『名前は決めたのか?』
「いや、実はまだ……課題とか予習もあったし、そもそも話せてないんだ」
「なんだそうだったのか。これから新しい仲間になるんだろ、早めにコミュニケーション取った方がいいぜ」
それもそうだと思いつつ、アスカはふと「そういえば」とホムラの方を見る。
「狩兼ってバレット以外の
「あぁ……まあ参考になるかも知れねぇし、二人くらい紹介してやるよ」
左腕のメダロッチを操作して、ホムラはその場に自分のメダロット二機を呼び出す。
一体は大きく盛り上がった頭が特徴的な、歌舞伎役者を彷彿とさせるデザインのメダロットだ。
「『MDT-KAB-00 グレードカブキ』!? なんか意外なチョイスだね!?」
「そいつはトシマス。小学生の頃に初めて参加した大会で優勝した時に貰ったサムライメダルだな」
「へぇ……じゃあ、結構長い付き合いなんだね?」
「バレットの次にな」
言いながら、ホムラはもう一体の方のバナナをモチーフとしたパーツで構成されている『MDT-BNN-00 ヒットセラー』を前に出す。
「こっちはジェネラルメダルのカトリー。加入したのはメダリオン学園に入学するちょっと前で、こいつも大会で優勝した時に貰った」
二機のメダロット、カトリーとトシマスはアスカの前に立つと、会釈をして簡単な挨拶を始めた。
「マスターがお世話になっております。私はカトリーと申します」
「俺ぁトシマスだ。今後もよろしく頼むわ、ニィちゃん」
アスカの方も彼らに「よろしくね!」と言った後、再びホムラへ質問を投げる。
「ところで、前はメダル五枚あるって言ってなかったっけ。なんでその二人だけ?」
「手の内全部見せるワケねぇだろ、お前相手に」
ホムラは立ち上がり、部屋の主の顔を戦意に満ちた眼差しで見据え、静かに言い放つ。
「俺はお前のことを友達だと思ってる。でもな、いずれ俺たちは大会とかで勝利を競い合う事になる……つまり、俺たちはライバルなんだよ。俺はそうなりてぇ」
「狩兼……」
「だからもうアドバイスは控える事にする。少なくとも、ロボトルのことに関しては。もう自分で色々できるようになれ」
ごくり、とアスカが息を呑み、訪れる静寂。
やがて沈黙を破ったのは、闘気を収め友人としての笑みを戻したホムラであった。
「じゃ、また明日な。おやすみ」
戸惑いながらアスカも「おやすみ」と返し、ベッドに寝転がる。
直後に、彼のメダロッチからメールの着信音が響いた。
半分身を起こして内容を確認すると、アスカは目を丸くする。
「……えっ?」
※ ※ ※ ※ ※
三日後の朝、食堂にて。
「え、日晴くんのパパさんとママさんが?」
対面の席で朝食をアスカと共にしていたメイは、齧ったパンを飲み込んでからそう尋ねた。
「うん。父さんから、休暇で時間ができたから会いに来るって、少し前にメールがあって」
「へぇー!」
興味津々と言った様子で前に身を乗り出し、目を輝かせるメイ。
そしてサラダを食べ進めるアスカをじっと見ながら、再び尋ねた。
「ね、私も行っていいかな?」
「十々喜さんが?」
「ちょっとどんな人たちなのか気になるな~って……あ、でももし迷惑とかだったらやめとくよ!」
変な事を言ってしまったと今になって気付いたのか、メイは慌ててそう言った。
だがアスカは首を横に振って、ニコリと微笑む。
「ううん、全然大丈夫。俺も、ここでできた友達の話とかしたいなって思ってたし。一緒に来てくれるなら話も捗るんじゃないかな」
それを聞いてメイはまた目を輝かせ、コクコクと頷き同意する。
すると、たまたま近くに座っていたユメが、リオの隣で目を丸くして慌てふためく。
「め、めめめめめ、メイちゃんが日晴くんのご両親にご挨拶……!!」
「ンォブフッ」
「ひゃっ!? リオちゃん!?」
水を飲もうとしていたリオがむせて噴き出し、正面の席に座っていたホムラの顔にその水飛沫が思い切りかかってしまう。
瞬間、ホムラは額に青筋を立て叫び出す。
「何やってんだお前ェッ!?」
「いや……ごめ……と、隣で急に変なこと言い出すから面白くてつい……」
「お前ホントによぉ!! 男だったらブン殴ってたからな!? ったく汚ェわマジで……」
「は!? 汚いって何よ女子に向かって!! 大体、ちょっと水がかかったくらいで大袈裟すぎ!!」
「ちょっとじゃねぇだろガッツリ濡れてるわ!! 口から出したモン吹きかけられたら汚いに決まってんだろーが!!」
いつも通りに始まる口論、周りの生徒も「また始まった」とばかりに間を空け、遠巻きに眺めたり呆れた様子でケンカの模様を聞きながら食事を再開する。
そしてメイはというと、のほほんと二人の姿を微笑みながら見守っていた。
「いつも仲良しだね~ふたりとも」
『良いわけあるかァッ!!』
これまたいつものように、二人は大声で即座に否定する。
その日の午後。
待ち合わせの場所である駅前ロータリーには、アスカとメイだけではなくホムラとリオとユメの姿もあった。
アスカの話を聞き、興味本位だけでなく友人として挨拶に行こうという思いからの行動である。
「……あっ、来た!」
見れば、駅から二人の男女が歩いて来るのが確認できた。
アスカの父母、ウイチロウとチヨメである。
「やぁアスカ! 元気そうじゃないか!」
「この子たちがお友達なのね? はじめまして、会えて嬉しいわ」
ウイチロウたちはにこやかにホムラたちへ声をかけ、自己紹介を交わす。
そして、チヨメはメイやリオ、ユメの姿を見てニンマリと笑いながらアスカに耳打ちし始めた。
「あらまぁ、アスカったら! こんなに女子のお友達がいるなんて、しかもみんなカワイイ子じゃない!」
「か、母さん?」
「それで……アスカはどの子がタイプなの?」
「母さん!?」
いきなり何を言い出してるんだ、とばかりに真っ赤な顔で慌てふためくアスカ。
話が聞こえていなかったメイは小首を傾げ、リオは聞こえないフリをし、ユメはアスカ同様赤面し狼狽する。
そんな折、父のウイチロウは咳払いしてアスカへ助け舟を出した。
「そうだアスカ、メダロットを手に入れたんだろう? 早速見せてくれ! ずっと気になってたんだ!」
「う、うん。メダロット、転送!」
メダロッチを操作して呼び出したのは、ローンビートルのパーツを装備したフリントだ。
アスカが初めてその姿を見た時と同様に、ウイチロウもその目を輝かせる。
「おぉ。アンタらがアスカの親父さんとお袋さんか、オレは……」
「フリントくんだね? 息子から聞いてるよ、相棒になってくれてありがとう!」
ウイチロウはそう言って握手を交わし、チヨメも微笑みながら頷く。
「本当にね。
その言葉を口走った瞬間。
日晴一家以外の四人と一機が、頭上に疑問符を浮かべたような不思議そうな顔をする。
直後にチヨメも、しまったとばかりにハッと口を手で押さえた。
「あんなこと、ってのは? 昔なんかあったんスか?」
『おい、ホムラ……!』
メダロッチから口を挟んだのは、バレットだ。
身内の事情に踏み入るべきではないのではないか、と暗に指摘したのだが、しかし他でもないアスカが首を横に振る。
「大丈夫だよ。いずれ話すことになるかも知れないな、って思ってたから」
そう言ってアスカは「立ち話もなんだから」と一行の先頭を歩き、近場のファミレスに導く。
「俺が小学生だった頃、まだここに来る前の話なんだけどね」
その道中、アスカは前置きするように少しずつ話を始めた。
「俺は、メダロットに殺されそうになったんだ」
『……え?』
仲間たちの驚く声を聞きながら、アスカは己の過去を振り返っていく。
※ ※ ※ ※ ※
――七年前の、夏休みの日。
その頃まだ小学一年生だった俺は、父さんと母さんと一緒に地元の緑地公園へ遊びに行った。
しばらく遊んで、昼頃に確かバーベキューしてたんだったかな?
肉を焼いて食べてる時、後ろから犬がヨダレを垂らしながら近づいて来たのを覚えてる。飼い主さんもビックリしてたよ。
バーベキューが終わった後も、まだまだ遊び足りなくて。
当時はまだ自分のメダロットがいなかったから、父さんやバウとサッカーボールで遊んでたんだったかな。
ただ……。
「あっ! ごめんごめん、強く蹴りすぎた!」
父さんがボールを蹴った時に狙いが外れて、公園の林の奥の方まで転がっていったんだ。
「おれ、取ってくるー!」
「あはは、転ばないようになー。バウ、ついて行ってやってくれ」
バウが元気良く返事をするのを聞いて、俺は競争のつもりで全速力で走った。
自慢じゃないけどね、サッカー部じゃ足の速さを買われてたんだ。だからバウを思いっ切り引き離せるかなって。
けどその時、事件が起こった。
「ん?」
バウが追いつかない内に一人でボールを探していると、木々の間からボールがコロコロと足元に向かって来たんだ。
見つかって良かった、と思ってボールを拾って、でも何か気配を感じて……顔を上げたら。
「――ギギッ」
「えっ?」
そこには、一体のメダロットがいた。
今でもハッキリ覚えてる、あの頭の両側が赤くて、緑色のボディのカマキリに似たメダロットは『MDT-MTS-00 ヒパクリト』だった。
どこの誰のメダロットなのかは分からないし、ひょっとしたら野良メダロットだったのかも知れない。
それから……どこかで事故にでも巻き込まれたのかな?
壊れた人形みたいに首をカクカクさせて、何を言ってるのかも分からなかったし、何より背中から
「え、っと?」
しばらく顔を見ていると、ヒパクリトの方から動き出した。
右腕を振って、俺の持ってるサッカーボールを真っ二つに斬り裂いたんだ。
「あっ、え!?」
本当に驚いたよ。だって、当時の俺でも知ってるメダロット三原則が機能してないんだから。
わざと人間を傷つけてはならない。人間に危険が降りかかるのを見過ごしてはならない。その二つを破らない範囲で自己を守り、他のメダロットに致命傷を与えてはならない。
その絶対的なルールを、あのメダロットは破っていた。
何よりも。
「な、なんで……?」
俺を狙う理由が全く検討もつかなくて、本当に怖かった。
もちろん、俺はすぐに逃げ出した。だけどアイツは追いかけてきて、傍にあった木を斬ったんだ。
そうしたら、俺の方に木が倒れて来て……。
「うわああああああああ!?」
転んだ俺の右足に、ハンマーみたいに打ちつけられたんだ。
そのせいで足が折れて、挟まれて動けなくなった。
しかも……ヒパクリトは動けない俺の方にやって来て、鎌を首に突きつけてきた。
恐ろしかった。襲われる理由が分からない、だけじゃない。
バウとは違うこのメダロットの無機質な様相が、何の感情も見えて来ないその目が、ただただ恐怖を煽っていた。
「や、やだ……やめて、やめ……」
カマキリの刃が、俺の首に向かって振り下ろされようとして。
「何すんだお前! アスカから離れろぉ!」
その前に、バウが来てくれた。
リングライフルの銃撃がヒパクリトの腕に当たって、攻撃を中断させたんだ。
「アスカ、大丈夫か!?」
「アスカ!? アスカ!?」
木が倒れる音が聞こえたみたいで、父さんと母さんもすぐに来てくれた。
俺はそこで意識を失ったから後で知ったんだけど、ヒパクリトはバウに撃たれてすぐに逃げ出したらしい。
ともかく俺の命は繋がった。
だけど。
「どういう意味ですか!! 息子がウソを言っているとでも!?」
入院する事になってから、すぐの事だった。
病室の外から、父さんが電話に向かってそんな風に怒鳴る声が聞こえて来たんだ。
意識を取り戻した俺は、ヒパクリトに襲われた時のことを父さんたちに、それから警察の人に話した。
父さんも母さんも真剣に俺の話を聞いてくれたし、何よりバウの証言と発砲の証拠もあったから、警察は『前代未聞・原因不明のメダロット暴走事件』として捜査に乗り出してくれた。同じことが起こらないように。
でも、あのヒパクリトは見つからなかったんだ。そのせいで警察は最終的に『いきなり木が倒れてきたせいで混乱していたのではないか』って結論を出した。
状況証拠から、子供のイタズラだと思われなかったことだけは幸いだった。
……けど。
「あの病室の子でしょ? なんか……殺されかけたなんてウソを言ったのは」
「そうそう! 聞けばまだメダロットをもっていないそうじゃないか」
「他の子を妬んでそんなウソをついたのかしらね。メダロット三原則を知らないのかしら」
「フン! 最初から親が早い内にメダロットを買い与えておかないから、そんなウソつきが育つんだ!」
詳しい事情を知らない周りの人たちは、
最初こそ心配していたけど、次第に俺を『ただのメダロット嫌い』として白い目で見始めたんだ。
特に大人は酷かった。学校のみんなも、親に言われたのか何なのか知らないけど、すぐお見舞いに来なくなって。
生まれ育った場所のハズなのに、除け者にされ続けて、俺の居場所はどこにもなくなってしまったんだよ。
それだけじゃない。
「ウイチロウ~、俺……ウソついてないよ。アスカだって」
「ひっ!?」
「アスカ……」
「う、うわあああ!! あああああ!! くるなぁぁぁ!!」
メダロットの姿を見ただけで、俺はあのヒパクリトを思い出すようになってしまった。
助けてくれたバウも、看護師の人たちを手伝うメダロットでさえ、恐ろしい怪物に見えた。
俺は……人間も、メダロットも……地元も、怖くなって、嫌になったんだ。
※ ※ ※ ※ ※
「……これが、俺の過去だよ」
ファミレスの奥側の席に座ったアスカは、そう言って静かに目を閉ざす。
話を聞いていた誰一人、しばし言葉が出ずにいる。
やがて沈黙を破ったのは、声を抑えて泣きじゃくるメイであった。
「わっ!? と、十々喜さん!?」
「なに泣かしてんのよあんた」
「これ俺のせいなの!?」
リオからジトッと睨まれ、困惑するアスカ。
それを見てメイは慌てて涙を拭い、頭を振って釈明する。
「違うの、ただ……日晴くんが、そんな怖くて酷い目に遭ってたんだって分かったら……なんか、涙が出て来て」
メイは言いながら、林間学校での出来事を思い出す。
あの時アスカが言った『怖かった』という言葉の意味が、今ようやく理解できたのだ。
さらにメダロッチからは、憤慨する声も挙がっている。
『オイ! 今すぐオレをお前の地元に案内しろ!』
「フリント!?」
『アスカはそんなウソをつくようなヤツじゃねぇ! オレには分かる! ふざけやがって、絶対許さねぇ! 全員ブチのめす!』
もしフリントのボディを呼び出したままにしていたら、地団太を踏んでいただろうと思いながら、アスカは苦笑した。
そこで、ホムラが口を挟む。
「落ち着けよ。おまえ自身が証明するつもりかよ、人を傷つけるメダロットがいるってのをよ」
「うるせぇぞホムラ! お前は今の話聞いてムカつかねぇのか!?」
「キレてるに決まってんだろうが。でも、それでお前がそいつらに八つ当たりしたら、アスカのトラウマを刺激するだけだって事が分かんねぇのか?」
フリントは「うっ」と言葉を詰まらせてしまう。
「色々と謎はあるがな、アスカがそんなバカバカしいウソを言うヤツじゃねぇってのは俺も同じ意見だ」
「私も。付き合い短いけど、するかしないかで考えるなら『絶対それはない』わ」
ホムラもリオも断言し、メイも涙を拭ってコクコクと頷く。
「良い友達ができたな、アスカ」
彼らを見てウイチロウは満足気にそう言って、チヨメ共々息子に向かって微笑んだ。
アスカ自身も、ホムラたちの言葉で笑みを見せ、両親に頷き返す。
「あ、あの」
そんな中、ユメは小首を傾げてその小さな手を挙げた。
「そこまで怖い事があったなら……どうしてメダリオン学園に入学したの?」
どうやって他人への恐怖から立ち直ったのか。どうしてメダロットを好きになれたのか。
ユメの呈した疑問は、ホムラたちにとっても興味のあるものだった。
「この話には、まだ少し続きがあるんだよ」
嬉しそうな笑顔のまま、アスカはその後に起きた出来事を語り始める。
※ ※ ※ ※ ※
右足を骨折して、三週間くらい経った後だったかな。
俺の足の状態はあまり良くなかった。医者の人が言うには、精神的な問題が影響して普通の子より治りが遅れているらしい。
間違いなくメダロットに襲われた時のショックが原因だと思う。実際、当時の俺はメダロットが近くを通りかかるだけで背筋がゾッとするくらい参っていたから。
そんな状態で唯一気を紛らわせる楽しみがあるとすれば、近くの公園でサッカーをしている様子を眺める事くらいだった。
だけど、それはただの退屈凌ぎでしかない。本当はこの脚で公園を駆け回って、みんなと遊びたかった。でも、俺は拒絶されるのが怖くて仕方なくて……塞ぎ込んでいた。
「君、大丈夫かい?」
いきなりベンチの後ろから声をかけられたのは、そんな時だ。
驚いて振り返ると、そこには
外ハネの黒い短髪に、快活そうな雰囲気の真っ赤な瞳、口元には穏やかな笑みを浮かべてこっちを見てる男の人だった。
背は俺よりずっと高くて、当時は多分高校生か大学生くらいかな。左腕に白いメダロッチがあって、俺は思わずビクッと震えてしまった。
「あぁ、ごめん。驚かせる気はなかったんだ。顔色が悪いし苦しそうだったからさ。看護師さん呼ぶかい?」
俺はまともに返事もできなくて、ただ首を左右に振って慌てて病室に戻ろうとした。
あまり見かけない人だけど、メダロットを持ってるってことはこの人も事情を聞けば俺を拒絶するんだろう……ってその時は考えてたんだ。
だけど。
慌てたせいで松葉杖を上手く使えなくて、バランスを崩してその場で倒れそうになった俺を、あの人は素早く受け止めてくれた。
「危なかった。脚、挫いてない?」
「……は、はい……」
「一旦ベンチに戻すよ、気を付けてね」
言いながらゆっくりとベンチに座らせて貰って、俺は改めてお礼を言った。
あの人は俺に怪我がないって分かると、安心したように笑って……。
なんとなくこの人なら信用できるような気がして、俺は勇気を出して、自己紹介してみた。
「そう、君がアスカくんか……俺はハジメ。元々この町の出身でね、妹が入院したって聞いてお見舞いしに帰って来たんだ」
「妹さんが……」
「アスカくんはどうして足を?」
俺が経緯を話すと、ハジメさんは真剣な顔でそれを聞いてくれた。
そして全てを聞き終えて「そっか」と空を見上げて、その後すぐまた俺の方を向いた。
「君はメダロットを嫌いになったかい?」
「嫌い、というより……怖い、です。でも家には父さんのメダロットもいるし……このままでいちゃダメなのかな、って」
「そっか。そうだよね」
再び空を見上げて、ハジメさんは悩み始める。
不思議に思って、俺は恐る恐る質問した。
「あの……おれのこと、変だって思わないんですか?」
「ん? どうして?」
「だって、大人はみんなおれを嘘つきだって」
「……そりゃ、君が嘘をついてるようには全く見えないからね。周りがどう思ってようと何を言おうと、俺は信じたい方を信じるだけだよ」
そう言ってまた考え込んだ後、ハジメさんは「うん、決めた!」と言い出した。
「アスカくん、今から時間あるかい?」
「え? えっと、ありますけど……」
「じゃあリハビリしよう! いやメンタルケアっていうのかなこういうの、とにかく俺が手伝うよ! 君が少しずつでもメダロットに慣れていけるように!」
「えっ!?」
「まぁいきなりメダロットと話すっていうのはハードルが高すぎると思うから、とりあえずまずはメダロッチ越しに俺の『アイゼン』と話してみようか」
俺は驚きっ放しだった。会ったばかりなのに、どうしてそこまで……って。
でも、疑う気持ちは全然湧かなかった。あの人は、本当に優しい人だったから。
それから俺は、ハジメさんや医者の人たちに手伝って貰って、メダロットへの恐怖を少しずつ克服した。
骨折が治って退院した後でも、あの人は俺に付き合ってくれた。自分の相棒のカブトメダルのアイゼンと『MDT-KBT-01 メタルビートル』も見せてくれて、俺は絶対欲しいと思うくらいKBT型が好きになった。
そうして接していく内に、自然に他人への不信感もなくなって行ったんだ。相変わらず、周りには俺を嘘つきと呼ぶ人もいたんだけど。
「その気があるなら、アスカくんもメダロッターになれ! そしていつか……俺と楽しいロボトルをしよう!」
あの人が町を出て仕事に戻る前に、俺たちはそんな約束を交わした。
――彼が父さんの知り合いというだけじゃなく、プロメダロッターで世界チャンピオンの白藤 ハジメ選手なんだと知ったのは、それからしばらく経った後の話だった。
※ ※ ※ ※ ※
「……その後、俺はメダリオン学園に入る事を決めて、必死に勉強して合格して……今ここにいる」
アスカが語り終えると、彼は両親以外の全員が声を出せずに目を見張っている事に気付いた。
「お前、会ったのか!? あの白藤 ハジメに!?」
真っ先に尋ねたのはホムラだ。
微笑みながらアスカは頷き、グッと拳を握り込む。
「いつか絶対、もう一度あの人に会いに行く。会って、あの時の約束を果たす。それで……俺がメダロットと一緒に元気にやってるって、もう平気だってことを伝えたいんだ」
「そのために学園に……」
メイは驚いた様子で息を呑み、ユメと共に彼の姿をじっと見つめる。
「俺はまだ弱い。スタート地点にすら立ってないのかも知れない。でも、諦めず走り続けるよ。それがきっと……過去を乗り越える事にも繋がるから」
『アスカ……』
「フリント、こんな俺だけど……付いて来てくれるかな?」
『当たり前だっての!! オレはお前の相棒なんだぜ!?』
やや照れた様子でフリントが返し、アスカは屈託のない笑みを零した。
それから一行はウイチロウとチヨメを連れて遊び回り、楽しく一日を過ごす。
「白藤 ハジメといい百舌鳥 ユウトといい……なんで、アイツらなんだ……」
ホムラが飲み込み切れなかったそんな呟きを、聞き逃したまま。