メダロットSAGA   作:正気山脈

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 五年前。
 当時7歳だった狩兼 ホムラは、小学生ながら愛知県では既にそこそこ名の知れたメダロッターだった。
 大人が相手であろうと臆さず片っ端からロボトルを挑み、勇猛果敢に激しく攻め立て貪欲に勝利を掴む。そうして付いた異名が『百発百獣』。
 どうしようもなく美女に弱いという欠点があり、まだ子供ということで疎む声や嫉妬の眼差しを受ける事もあったが、多くの同世代のメダロッターたちにとっても憧れの的であった。
 ――ある男に出会うまでは。

『弱いな。負け知らずのガキとか抜かすからどれ程のモンかと思ったが、とんだ期待外れだ。いるんだよなぁ、俺様に挑むまでは最強を自称してるザコが』

 鷹嶺(タカミネ) リクドウ。
 この時中学1年生でありながらプロメダロッターも出場している大会で優勝・準優勝を重ね続け、白藤 ハジメや百舌鳥 ユウト以来の天才児として現在においても全国にその名を轟かせている『魔王』。
 偶然にも、そして不運にもこのリクドウと大会でぶつかり合い、ホムラは圧倒的大敗を喫したのだ。
 それだけではない。

『才能ねぇよ、お前。価値のねぇヤツは引っ込んでろ』

 敗れたホムラに放たれたその一言が、周りの見る目だけでなく彼自身をも歪めてしまった。
 これ以上負けたくない。ロボトルで負ける自分には、何の価値もない。負ければそれまで積み上げたものも信用していた友人も、全部失う。
 勝たなければ、勝たなければ、勝たなければ。
 ホムラはそんな強迫観念に囚われ、勝利に異常なまでの執着を見せるようになった。
 格上であろうと格下であろうと関係なく、目の合ったメダロッター全てに対戦を仕掛けるようになるばかりか、リクドウの話をしたというだけで殴り合い同然の喧嘩とロボトルを仕掛けるなど。
 気付けば敗戦後も傍にいたはずだった友達もいなくなり、メダリオン学園に入学するまでの間、ホムラはずっと孤独に過ごしていた。



「……夢か……」

 そして、現在。
 かつての苦い記憶を居眠り後の机の上で呼び起こされ、ホムラは深い溜め息を吐く。
 今の彼の両の瞳には、かつてと同じ昏い陰が差している。

「なんで、いつもいつも……俺の周りに……俺より強いヤツが出てくる……!!」

 歯を軋ませ、放課後の教室を出ていくホムラ。
 そんな彼の前に立ち塞がったのは、ケンスケとキイチだった。

「よう狩兼!」
「ここで会ったが百年目! ロボトルして貰うぜ、このニュー・ガメスとなぁ!」

 見れば、キイチの前には両腕にレーザーを装備した黄土色のカメ型メダロットがいる。
 これは『MDT-TOT-NG01 ランドオーカー』で、ブラウシェパードやシャルトルージュと同じく新発売されたNGシリーズの機体だ。
 自信満々に挑みかかるキイチに対し――ホムラは、苛立った様子で睨みつける。

「あぁ?」


FIGHT.12[激突! 百発百獣のホムラ!]

 放課後のサイオウ市メダリオン学園の校舎、その屋上にて。

 

「よし、これで……OKかな?」

 

 ベンチに腰掛けたアスカは、オオセイボウ型メダロットのセイボウメイツの背中のハッチを開け、そこにある窪みにウマメダルを装着した。

 ややあってセイボウメイツのアイセンサーに緑の光が灯り、その視線が不思議そうにアスカの姿を捉える。

 

「えっと、はじめまして。俺は日晴 アスカ、今日から君のマスターになるメダロッターだよ」

「……マス、ター?」

 

 セイボウメイツが幼い子供のように首を傾げる。

 アスカはしゃがんで視線を合わせ、彼女に優しく言い聞かせた。

 

「君の名前は『アオカゲ』。良いかな?」

「ア、オ……カゲ……」

 

 何度か復唱した後に小さく頷き、自分を指差して「わたし、アオカゲ」と呟いて再び頷く。

 

「じゃあこれからよろしくね!」

「アスカ、よろしく」

 

 差し出された右手に、アオカゲはゆっくりと両手で触れた。

 続いてアスカは、メダロッチを操作してフリントをその場に呼び出す。

 フリントは腰に両手を当ててふんぞり返り、何やら得意げな笑い声を上げる。

 

「オレはお前の先輩のフリントだ! 今日からビシバシ鍛えてやるからな!」

「フリ、ント。わかった」

 

 たどたどしい口調でそう言ったアオカゲは、フリントの手も無理矢理引っ張って握った。

 まるで本当に小さな子供と話しているようだと思いながら、アスカは二人に声をかける。

 

「じゃあ、早速ロボトルしに行こうか」

「ロボトル……」

 

 アオカゲは了解の旨を首肯で示し、一同は歩き出す。

 するとすぐに、メイが屋上に現れブンブン手を振り「おーい!」とアスカに向かって叫んだ。

 

「十々喜さん! 丁度良いや、ロボトルしようよ」

「ちょ、ちょっとその前に! 一緒に来てくれない!?」

「え? うわっ!」

 

 返事を待たずして、メイはアスカの手を取って全力疾走する。

 

「待って待って待って、どうしたのいきなり!?」

「狩兼くんが大変なの!」

「狩兼が!?」

 

 それ以上詳しい事情は聞かず、アスカは彼女の後に続いて走った。

 やがて運動場に到着すると、果たしてホムラはバレットと共にそこに立っている。

 だが彼らの周囲には、数多くの膝から崩れ落ちている学生たちと死屍累々と倒れ伏すメダロットの姿があった。

 その中には、キイチとガメスもいる。ケンスケは破れたキイチの背に手を置き慰めている。

 

「な、なんだこれ……!?」

 

 予想だにしていなかった光景に、困惑するアスカ。

 そんな彼に、ロボトルを観戦していたらしい深刻な面持ちのタマキが声をかけて来る。

 

「これはもう完全に『戻ってる』わね……」

「國丸さん! それ、どういうことなの!?」

「まぁ、私も噂だけ知ってて実際に見た事はなかったし、アンタが分からなくても無理ないかしら。アレは百発百獣の狩兼 ホムラの……当時そのままの姿よ」

 

 言いながらタマキは彼の背中に目を細める。

 そしてその視線に気付いてか、ホムラは振り返った。

 瞬間、アスカはぐっと息を呑む。

 

「見なさいよ、あの目。飢えたライオンみたいにギラギラして、誰が相手だろうと関係なく噛み砕きにかかりそうな殺気。何がキッカケだったのか知らないけど……完全にかつての感覚に立ち戻ってるみたいだわ」

 

 対峙するもの全てにプレッシャーを放つ、猛々しい眼光。

 その獅子の如き赤い瞳が、強張った顔つきのアスカを静かに睨んでいる。

 

「来たか、日晴。手間が省けたな」

「狩兼……?」

「今すぐ! 俺とロボトルしろ……パーツを賭けた、真剣ロボトルだ!」

 

 凄まじい気迫と荒く強い語気。

 やや怯みながらも、アスカは睨み返して頷く。

 

「望むところだと言いたいけど。その前に、どうしたんだよこれ?」

「……あぁ?」

「こんな無茶苦茶なの、狩兼らしくないだろ! 今のお前はおかしいよ!」

 

 そんな指摘を受けても、ホムラは呆れたように溜め息を吐いて頭を振った。

 

「おかしい、だと。俺らしくないだと? 笑わせんなよオイ。一体お前が俺の何を知ってるってンだ?」

「狩兼……!」

「そんな御託はどうでもいい。やるのかやらねぇのか、さっさと決めろ!」

 

 叩きつけられる激情。

 気圧されないようにグッと唇を引き結び、アスカは躊躇いを捨てて「分かった」と返してメダロッチを構える。

 

「こんな形でするのは残念だけど、ロボトルだ」

「よし……レギュレーションは二対二だ、いいな」

「ああ」

『メダロット、転送!』

 

 宣言と同時に、二人の眼の前に、それぞれ二機のメダロットが呼び出される。

 アスカ側にいるのはローンビートルのパーツ一式を装備したフリントと、右腕のみ『MDT-KYB-00 ココノエレージュ』のゴゼンノアカシへ変更しているセイボウメイツ装備のアオカゲ。

 ホムラの方にはリオンビアード一式のバレットと、頭部と脚部がグレードカブキで右腕が『MDT-GOG-00 ゴリオンゴー』のゴーファンクに、左腕が『MDT-NIT-03 アーマーチャリオ』のレフトスクトゥムになっているトシマスがいる。

 

「合意と見てよろしいですね!!」

 

 こんな状況でもいつものように聞こえて来る、オオルリの声。

 今回はブルマを着用しての体操着姿で、ハチマキを頭に巻いて叫んでいる。

 しかしホムラは彼女の方に少しも視線を向けず、アスカへ全神経を注いでいた。

 

「ただ今より日晴 アスカ選手と狩兼 ホムラ選手の真剣ロボトルを執り行います! 準備はよろしいですか!」

 

 アスカは「はい!」と返事をし、ホムラは無言で頷きメダロッチを構える。

 二人の意思表示を確認して、オオルリは掲げた右腕を振り下ろした。

 

「それでは! ロボトル――ファイトォッ!」

「行けバレットォ! トシマスは左腕を使え!」

「フリント、アオカゲ! まずは散開!」

 

 開始早々二人は自分のメダロットたちに指示を下し、同時にホムラも踏み出してアスカの前に立ち塞がり、視界を遮った。

 ノアのやっていた事を学び、自らのものとして利用したのだ。

 

「うっ!?」

「全力で行く! トシマス、冷却終わったら右腕の充填開始!」

 

 盾を構えているトシマスが「おう!」と元気よく返事をしている傍ら、充填を終えたバレットは左腕のローグシューターから銃弾を放つ。

 狙われたのはフリント。しかしこちらも既に左腕の充填が完了しており、回避の後に乱れ撃った。

 そこへ、トシマスが即座に割り込んでレフトスクトゥムで防ぎ切る。

 

「どうだ凌いでやったぞ!」

「ヘッ! でも背中がガラ空きだぜ!」

 

 フリントのその言葉の直後、動いたのはアオカゲ。

 燃え上がる右腕のゴゼンノアカシを、トシマスの背に叩き込む。

 

「アオカゲファイヤー」

「グオッ!? あっつ!?」

 

 炎を浴びたトシマスはそのまま身体が燃え始める。

 継続して装甲を燃焼させ、冷却効率も下げるファイア症状だ。

 ただし、ゴゼンノアカシの機能であるフレイムは自分自身にもそのファイア症状を与えるため、アオカゲの方も燃え出した。

 

「私もファイヤー……?」

「言ってる場合じゃねぇーよ!? トシマスが来るぞ!?」

 

 車輪を走らせ、チェーンソーの付いた腕を振り回すトシマス。

 アオカゲはその攻撃を左腕で受け止めようとするものの、その強力な一撃(パワーハンマー)は防御など意に介さず、彼女の身体を殴り飛ばして一撃で甚大な被害を与える。

 

「あっ……!!」

「ハッハァーッ! これ以上好き勝手はさせねぇぜ?」

 

 続いてトシマスは盾を構えたまま頭部の充填を開始。その間に、バレットはチャージを行う。

 一方、アスカはホムラがチャージの指示を出した時点で次に来る手を察した。

 

「メダフォースか!!」

「言ったろ。全力で行くってよ」

「……だったら!」

 

 相変わらず視界を遮って妨害して来るホムラに対し、アスカは大きく飛び下がって距離を取り、右側を向いて足を踏み出す。

 そして相手が真っ直ぐ迫ろうとした瞬間、反対側へ一気に疾走して抜き去った。

 

「なに!?」

「こっちは元サッカー部って言ったろ! このくらいで抑えられる程ヤワじゃ、ない!」

 

 既に走って追いつける距離ではなくなっており、出遅れたホムラではアスカを再び捕らえる事はできない。

 アスカは走りながらも戦況を素早く分析し、自身の機体へすぐに指示を送る。

 

「フリントは頭部! アオカゲは左腕で、左右から同時に仕掛けろ!」

「おうよ!」

「ん」

 

 二人の狙いはバレットだ。フリントのビリーザハットからミサイルが発射され、丁度チャージを終えた海賊獅子へ飛んで行く。

 そこへ、やはりというべきか盾持ちのトシマスが割って入った。

 着弾、爆発。爆発で舞い上がった土煙と装甲から吹く黒煙が混ざり合い、トシマスは砕け散った盾と共に肩を下ろした。

 

「ぐおぉ、流石に効く……が、バレットには傷一つ――」

「まだだよ」

 

 瞬間、煙に紛れたアオカゲがトシマスの左側から素早く駆け抜け、バレットに肉薄する。

 

「そこだ! 左脇を狙って!」

「ん!」

 

 頷くと共に、掌底が狙い通りの位置に命中。

 コンフュージョンを与える機能を持つ左腕、セイボウメイツのラズリーチャーム。発症すればメダロッターの指示が効かなくなるため、メダフォースの発動を封じ、運が良ければトシマスとの同士討ちも狙える。

 だがバレットは健在で、冷却を終えると同時に全身が赤く発光し始めた。

 アスカが狙っていたコンフュージョンの付与は、失敗に終わったのだ。

 

「狙いは悪くないが、惜しかったな。これで終わらせてやる」

「バレットォ! 獣王武神撃、発動ォ!」

 

 発動の宣言と同時に、充填が始まる。

 ホムラたちが狙うのは、フリントの方だ。まだ熟練していないアオカゲを選ぶのはリスキーだろうと考え、相棒である彼をリーダーとするのが自然と判断したのだ。

 そして、実際にアスカが指定したリーダー機は、彼らの想像通りフリントである。

 

「充填が終わった時点で俺たちの勝ちだ! しくじるなよ!」

「させ……るかァッ!!」

 

 言いながら、フリントは横合いからトシマスの頭を右腕で殴り抜けながら撃ち、機能停止に追い込んだ。

 

「トシマス!? クソッ……だが、今更そっちを狙ってどうなる!! リーダー機もメダフォースを撃つのもバレットだぜ!!」

 

 バレットが走り抜けフリントにしっかりと照準を合わせた後、充填完了のアナウンスがメダロッチから流れる。

 

「喰らいやがれェェェッ!!」

「獣王武神撃!!」

 

 メダフォースによって融合し一つの大砲に変化した両腕の砲口から、勢い良く弾は発射される、その刹那。

 バチッ、という音と共に、バレットの左腕が動き、射線が()()()

 砲弾はそのままフリントの左肩を掠めて破壊し、地面を抉って着弾する。

 

「な……!?」

「カスッただけ!? いやそれより……バレット、なんで腕を逸らした!? 何やってんだ!?」

 

 驚き慌てふためく二人を正気に戻すのは、アスカの声。

 

「バレットのせいじゃないよ」

「なに!?」

「忘れたのか、狩兼。俺がアオカゲに()()()()()()

 

 言われて、ホムラはハッと思い出す。

 先程のアスカとアオカゲの行った攻撃には、妙な部分があった事を。

 左腕を攻撃したいだけなら単にそう指示すれば良いところを、わざわざ()()と指定していた。

 そこに意味があるとすれば。ホムラはそう思ってバレットの左脇を見て、歯を軋ませ確信に至る。

 パーツの関節と、脇部から腕部にかけての装甲。そこが破損している上に、破片が詰まって動きを妨げていた。

 

「お前……これを狙ってたのか!?」

「あれだけの連戦の後だ、ナノマシンで装甲が直っても細かい整備が万全じゃないだろうなって。だから、関節辺りに攻撃すれば駆動に影響が出て照準も付けられなくなると思ってたよ」

「く……!?」

「そして、俺の方の仕掛けはそれだけじゃない!!」

 

 彼の言葉に呼応するように、バレットの身体を徐々に火の手が包んでいく。

 

「バレットが燃えてる!?」

「いつの間に……使ったのはファイア症状にするゴゼンノアカシじゃなかったはずだろ!?」

 

 キイチとケンスケが驚く一方、タマキはハッと目を見開いて答えに辿り着いた。

 

「……分かった、キャリアーよ!」

 

 脚部特性、キャリアー。

 マイナス症状を受けている状態で敵機を攻撃した時、その症状を攻撃の対象にも移す効力を持つ。

 アオカゲは自らファイア症状を受ける事で発動条件をクリアし、コンフュージョンと同時とは行かなかったが、バレットへの攻撃時に付与させる事に成功していたのだ。

 

「くっ、冷却が遅れて……ハッ!?」

 

 そうこうしている内に、冷却を終えたアオカゲのラズリーキャップから小さな針が飛び、バレットの頭部に刺さった。

 パニック症状を付与するパーツ。そして、パニック攻撃は冷却中の場合MF(メダフォース)シールの症状に変化する。

 ――つまり。

 メダフォースによって成るバレットの両腕は、症状が切れるまでの間、その攻撃機能を失う。

 

「なんだとォォォ!?」

「アスカ……お前、ここまで計算して……!?」

 

 瞠目し、立ち尽くすホムラ。どうすることもできず、藻掻くバレット。

 そんな彼らとは正反対に、アスカとフリントは対峙し突き進む。

 

「今だ、フリント!」

「おっしゃあああああ!!」

 

 右腕から放たれるライフル弾が海賊獅子の頭部を撃ち抜き、直後に排出音とメダルの落ちる音が響く。

 それを確認して、オオルリは興奮した様子で叫んだ。

 

「日晴 アスカ選手の勝利!!」

 

 周囲から湧き上がる歓声と、アスカコールの連続。中にはフリントとアオカゲの名を呼ぶ声も混ざっている。

 アスカは照れ笑いしつつ、声援に対し小さく拳を掲げて応えた。

 

「すごい、すごいよ!! 日晴くんが勝っちゃったー!!」

「本当にメダフォースなしで……あの百発百獣のホムラを!?」

 

 メイとタマキも、そしてケンスケやキイチらも日晴に歓声を送る中、アスカは静かにホムラの方へ歩み寄っていく。

 

「狩兼」

 

 放心し、その場で座り込んだホムラに対し、アスカは声をかけ続ける。

 

「パーツはいらないから、約束してくれ。もうこんな……ただ憎しみや怒りを誰かにぶつけるようなロボトルは二度とやらないで欲しい」

「……」

「狩兼……!!」

「悪い、分かってる。聞こえてるよ。ちょっとボーッとしちまった」

 

 深く溜め息を吐きつつ、右手で頭を抱えてホムラは俯く。

 

「どうしても……どうしても許せない、絶対に勝ちたいヤツがいて……でも、今の俺じゃ全然届かなくて……いや、これは違うな」

 

 自分の震える手を見下ろして、かつての自分の戦いを思い出し、それを語って聞かせる。

 鷹嶺 リクドウに大敗を喫した、当時の事を。

 

「本当はただ焦ってたんだ、不安だったんだ。俺より強いヤツが身近にいる事が。まだロボトルを始めたばかりなのに、すぐ後ろから追いかけて来る……お前みたいなヤツの事も」

「狩兼……」

「ずっと怖いんだよ。自分の心が圧し潰されそうで。また負けたらどうしようって……だから、昔の俺に戻るしかなかった……もう負けたくなかったんだ。だって、負けたら俺には何の価値もない……」

 

 ――才能のない負け犬のお前には、何の価値もない。

 あの時からずっと頭に残り続けている言葉。

 

「価値がないなんて言うなよ!!」

 

 そんな恐怖感に身を竦めるホムラに、アスカは拳を握りながら一喝した。

 

「他の誰がなんと言おうと、狩兼は俺にとってかけがえのない友達で、ライバルだ! 勝っても負けても絶対それは変わらない! だからそんなヤツの言葉に惑わされるな!」

 

 一瞬の沈黙。

 見上げるホムラのその両目には、未だ迷いの色が見て取れる。

 アスカはそれを理解しつつも、拳を解いてスッと右手を差し伸べた。

 

「それに昔って言ったって、ロボトルを始めた頃からずっとそんなんじゃなかったハズだろ?」

「……それは……」

「当時の事を全部忘れろなんて言わない。けど、そいつの決めた『価値』のせいで友達がこんなに苦しそうにロボトルするの、見てられないよ」

 

 差し出された手をじっと見つめ、ホムラは目尻に滲んだ涙を振り払うように首を振り、自分も右手を伸ばす。

 

「悪かった。こんな俺でも、本当にまだ友達でいてくれるのか?」

「勿論だよ!」

「……ありがとな、アスカ」

「……うん、ホムラ!」

 

 二人は微笑み合い、堅い握手を交わした。

 その場に留まって観戦を続けていた生徒たちにも頭を下げパーツを返そうとするが、戦って勝って得たものであるのは事実ということで、誰もそれは受け取らず。

 次にロボトルした時に、勝って奪い返すという形で落とし所を作った。

 そんな彼らの様子を見ていたフリントは腰に手を当て「ハッハッハッ!」と笑い声を上げる。

 

「これで一件落着だな!」

「あっ」

「なんだよアオカゲ?」

「せんぱい、背中光ってる」

「光ってる!? え、なんだよそれ怖ッ!? アスカー!! アスカー!!」

 

 突然アオカゲから妙な事を言われてフリントは飛び出していき、背中のハッチを開いてアスカにメダルを見せる。

 すると、メダルを見たアスカとホムラ、さらに話を耳にして駆けつけたメイは目を丸くした。

 

「これは……メダルの絵が変わってる!」

 

 幼虫からサナギへの図柄の変化。

 それは即ち、フリントが次の段階へ進化した事を意味する。

 アスカとホムラからその事を告げられると、フリントは歓喜して両腕を天に掲げた。

 

「おっしゃあ! このままドンドン強くなってやるぜー!」

 

 いつか、アスカと共に頂点へ到達するために。

 意気込むフリントとアスカの姿を、ホムラは微笑み見守っていた。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 同日、夜。

 関東はサイオウ市から少しばかり離れた場所にある、千葉のアッカ市にて。

 ネズミの悪魔が看板に描かれた子供たちに大人気のこの街のテーマパーク『デアデビルランド・ジャパン』の広告が駅内通路の電光掲示板に表示される中、そこから噴き出るサイケデリックな光を煩わしそうに通り過ぎる赤い長髪の美女が一人いた。

 金縁の赤レンズサングラスをかけ、ノースリーブの黒いシャツに赤い長ズボンを履いたその女は、カツカツとヒールの音を響かせながら無言で駅の中を歩き続けている。

 そうして連絡通路に到着すると、柱に背を預けて、彼女は自らの黒いメダロッチを確認する。

 

「状況はどう?」

 

 そんな声が、彼女が歩いていた通路の反対方向から聞こえて来た。

 見れば、そこには深い青色のゴシックドレスを纏う、左目の下の泣きボクロが特徴的な青い髪の人物。

 長い睫毛に艷やかな唇と、一見すれば誰もが振り返る程の細身の美女なのだが、女性と呼ぶには不釣り合いな逞しさを感じさせる重く低い声がその口から発せられていた。

 

「なんだかご機嫌ナナメみたいねぇ」

「新たに数枚、レアメダルを入手した。ただ最近は例の『バイト』共の質の低下が目立つな」

「あらぁ~、そうなの?」

「遺跡からノルマ枚数分メダルを見つけて寄越すだけのハズだがな。どいつもこいつも、連絡もナシにいきなりバックレやがる」

 

 赤髪の女はそう言って舌打ちし、腕を組んでふんぞり返る。

 すると、今度は青髪の人物の後ろから一人の男が歩いて来た。

 

「納品できない事情があるのだとすれば?」

 

 現れたのは、紫色の礼服を着込んだ緑髪の男。

 目を閉じているのではないかと思える程の切れ長の目に、余裕を感じさせる薄い笑み。何より目を引くのは、両耳を埋め尽くす程に開けられた無数のピアスだ。その一つ一つに、ドクロのマークが刻印されているのが見て取れる。

 彼の傍にはメダロット、デュラホース一機が随伴しており、赤髪の女と青髪の男を見るなり彼は一礼した。

 

「なに、風の噂で聞いてね。遺跡に立ち入ろうとした人間にロボトルを仕掛けて退去を促す者がいるとか」

「……『遺跡守の一族』なのか?」

「噂は噂だが警戒しておくに越した事はない。まぁ、かと言って大人数で押しかけると目立ってしまうのだが……」

「セレクト共の目もあるからな……よく働きやがる連中だ」

 

 チィッ、と赤髪が大きな舌打ちをし、サングラスの奥で燃え立つような赤い瞳を滾らせ、グッと拳を握り締める。

 

「俺たちにはもっともっと多くのレアメダルが必要だ、そのために邪魔な者は誰であろうと容赦なく排除し、そいつがメダルを持っているのなら必ず奪い取る。それが遺跡守だろうが、セレクトだろうが」

 

 そこで一度言葉を区切った後、電光掲示板に白藤 ハジメとメタルビートルの姿が映った広告を目にした瞬間。

 女はその掲示板に向かって歩き、憎悪の込められた眼差しを送って、拳を思い切り叩き込んだ。

 

「なんてことないただのクソガキが持っていようと……だ!!」




メダロット解説コーナー

[機体名]
ランドオーカー

[型式番号]
MDT-TOT-NG01

[性別]


[パーツ]
◆頭部:ギガントシェル(守護/チャージガード/なし/5回)
◆右腕:ビッグレーザー(射撃/ショットレーザー/なし)
◆左腕:デッカレーザー(射撃/ハイパーレーザー/狙い撃ち)
◆脚部:コークタンク(戦車/デザートタイプ)

●HV:1/1/1 合計:3/3

[備考]
NGシリーズ初のTOT型メダロット。モチーフは砂漠地帯に生息するリクガメ、名前は陸を意味する『ランド(Land)』と黄土色を意味する『オーカー(Ocher)』から。
両腕が光学射撃武器、頭部はチャージゲージを利用した防御行動というパーツ構成がされている。
右腕のショットレーザーは通常のレーザー攻撃である事に加え、乱撃特性によって敵の守護パーツの機能を削る事ができる。ただし、攻撃の対象は最も近い距離にいるメダロットとなる。
さらに左腕パーツは高い威力故に敵の防御を突破し、大打撃を与えるレーザー攻撃。
頭部の機能で味方へのサポートもこなしつつ、これらを利用して相手を確実に仕留めるのがランドオーカーの戦術である。

本作品のオリジナルメダロット。

※ ※ ※ ※ ※


[機体名]
リオンビアード

[型式番号]
MDT-KLN-NG01

[性別]


[パーツ]
◆頭部:キャプテンハット(設置/リペアプラント/なし/5回)
◆右腕:カトラスバレル(射撃/パワーライフル/狙い撃ち)
◆左腕:ローグシューター(射撃/マックスバルカン/速射)
◆脚部:アグレッサー(二脚/マリナー)

●HV:0/1/0 合計:1/1

[備考]
NGシリーズの機体の一種で、KLN型。モチーフは海賊とライオンであり、獅子のタテガミから連想して、黒髭や赤髭のような海賊的なイメージとしての『ビアード(Beard)』を名前に組み込んでいる。
従来のライオンメダロット同様に、両腕は射撃武器、頭部には設置機能を有する。
さらに脚部特性により、水上や水中でも戦闘を可能としている。
最も特徴的なのは左腕の速射・マックスバルカンであり、速射の威力減衰がほとんど気にならない程度の威力で攻撃可能。

本作品のオリジナルメダロット。
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