オーシャンパーク付近のホテルにて。
室内でファンシーエールのヴィオラにカメラを持たせ、ジャノメは簡単に挨拶済ませつつ、鞄にゴソゴソと手を突っ込む。
「あの時とはちょっと違う水着を持って来たんだよ! カワイイでしょ!」
そう言ってカメラの前で取り出して見せたのは、腹の両側と背中が大きく開いている、いわゆる『モノキニ』に分類される紫色の水着だった。
正面からはワンピースタイプの水着、しかし後ろから見るとビキニに見えるというもので、ジャノメが持っているのはさらに腹部の正面もシースルーで胸部がクロスタイプのためよりセクシーさを際立たせている。
「さて! 実は今日、エノシガイオスではロボトル大会が開催されてるんだ! 私は寝坊……もとい、予定があったから今回は参加しないんだけど、許可も貰ってるんで大会の様子を撮影していきたいと思いまーす!」
水着に着替えてサングラスを掛けたジャノメは、そう言いながら部屋をロックしてホテルを出て行く。
浮かれ気分でビーチに向かい、歩きながら始まったばかりの試合を撮影するジャノメたち。
そして、その参加者たちを見て目を丸くした。
「……アレ? あの子たちって……」
「それでは第四試合出場者の方々は準備をお願いします!」
神奈川にあるオーシャンパーク、エノシガイオスで開催された、夏休みのロボトル大会。
この場所に二泊三日で訪れたアスカたちは、大会に参戦して強敵たちと激戦を繰り広げていた。
アスカは既に勝ち上がり、残るはホムラのグループのみ。
しかし集合した八人の中には、如何にも手練と言った風貌の屈強な金髪のアメリカ人のメダロッターが混ざっている。
「
彼が従えているのは、頭にヘルムを被っている緑の迷彩柄が特徴的な軍人然とした機体、左腕のみを別機のものに差し替えた『KKR-FRL-00 フロントライン』であった。
そしてその左腕パーツは、
あのパーツは見た事がないな、とアスカが怪訝そうに眺めていると、その後ろでエナとマリン、ヒロシが声を上げた。
「おじいちゃん、あの左腕パーツ!」
「ウム、間違いあるまい」
三人は神妙な面持ちで、そのパーツを見ている。
すると、その様子に興味を持ったメイが「何か知ってるの?」と疑問を口にした。
一瞬の沈黙の後、質問に答えたのは、ヒロシとエナだ。
「……かつて、メダテックに所属する開発チームの中には、強さのみに固執し『兵器型』のメダロットを生み出そうとする者たちがいた」
「でも兵器というコンセプトは『お友達ロボット』というメダロットの根幹を否定してしまうし、子供に悪い影響を与えかねないと判断されて、当時は採用が見送られたの」
「その結果、その一部の過激なメンバーはメダテックを辞職して、中国系企業の黒龍重工に移った。あの会社はリアリティ重視のミリタリー色の強いメダロットを多数輩出しているから、メダテックで培った実力を売り込むのに成功したんだろう」
「そうして誕生してしまったのが、WEA型メダロットシリーズの初期型……『KKR-WEA-00 ビーストマスター』なの。彼が使っているのは、そのメダロットの左腕パーツよ」
兵器型メダロット。
アスカたちも、小学生時代にその話は授業の中で聞いた覚えがあったし、親から教わった事もあった。
しかし、リオは腑に落ちない様子で首を傾げている。
「でも、一応は正規の商品のハズでしょ? そんなに警戒するような事じゃないんじゃないの?」
「……それは、そうなのですけど……」
マリンはやや口籠りながらも「時間が経って今はもう忘れ去られていますが」と前置きした上で、続きを話し始めた。
「ビーストマスターのパーツは、かつて心無いメダロッターによって犯罪に利用された事もあるんです。そしてここ神奈川の倉庫で試作品を隠れて売り捌いていた。いわゆる、闇取引です」
「えぇっ!?」
「黒龍重工はそれが明るみになった後でも、WEA型の開発と生産を諦めなかった。今はセレクトや警察が目を光らせてますし、自浄作用が働いたのか、公式サイトでの受注生産限定になっていますが」
詳しく知らなかった歴史が明かされ、アスカたちは戸惑いを隠せずにいる。
一体なぜ彼らはそこまで当時の事を詳しく知っているのか。ヒロシはメダテック側の当事者なのだろうが、それでも事情に詳しすぎるのではないだろうか。
そう思っていると、他ならぬヒロシ自身が再び口を開く。
「昔、正義感の強いメダロッターたちと共に事件を対処した事があってね。当時の開発チームのリーダーは『メダロットの力を完全に解放する』という個人的な理想のために部下や黒龍重工を唆し、究極の兵器を生み出そうとしていた」
「博士たちはそれを止めるために戦った……って事ですか?」
「ウム。数々の問題行動起こした事で彼は逮捕されているが、
ヒロシたちが警戒せざるを得ない程の強力なパーツを使うフロントラインとそのメダロッターに、アスカたちは息を呑む。
ひょっとしたら、ホムラでも敗れてしまうのではないだろうか、と。
「それでは、ロボトル――」
ウミウが腕を振り上げ、開戦のゴングがなり響こうとする、その瞬間。
「あっれー、やっぱり日晴くんたちじゃん!」
アスカたちの後ろから現れたのは、水着姿のジャノメだった。
「えっ……ジャノメさん!?」
「久し振り~! 元気してた?」
彼女の元気な声は、ホムラの耳にも届き。
「ファイトォーッ!!」
「行っくぜェバレットォォォーッ!」
戦闘開始と同時にホムラは元気を爆発させて前に飛び出し、バレットと共に次々と他の選手のメダロットを倒していく。
最終的に残ったのは、例のフロントラインとアメリカ人選手だった。
「ひっ!? フ、フロントライン! デスビー……」
「獣王武神撃!!」
「
そしてその選手すらも、二人の放ったメダフォースによって敗れ去る。
会場は騒然となり、ウミウも驚愕のあまり言葉を失っていた。
「……し、ししし試合終了ー!? なんと先程のヴァネッサ選手とほとんど変わらないタイムで、狩兼 ホムラ選手が勝ち上がりましたー!?」
「うっそぉ……?」
ホムラは拳を掲げて歓声に応え、バレットを連れて急いで観客席のジャノメの前まで駆ける。
「ジャノメさぁーん!! 俺のカッコいいとこ見てくれてましたかー!!」
「キモすぎ」
「あぁ?」
「はぁ?」
毎度のようにホムラとリオが睨み合う形となり、アスカたちは苦笑いしながらも先程のホムラの戦い振りについて、ジャノメを交えて語り合うのであった。
それから約15分後。ウミウによって、再び会場にアナウンスがかかる。
「予想外にも早めに試合が進行してしまいましたが……お集まりの皆様、お待たせ致しました! ただ今より、オーシャンパーク・ロボトル大会の準決勝を始めます!」
砂浜に集うのはアスカとホムラ、さらにヴァネッサとバイフィッシュ使いの小学生。
この内、決勝進出の座を賭けてアスカが争うのは小学生の少年で、ホムラはヴァネッサと雌雄を決する事となる。
「ちなみにアスレチックの並びは変更しているので、先程よりも難易度は上がってますよ!」
ウミウ自身が語る通り、フィールドは二人用に調整されて先程よりも移動範囲がやや狭まっている。
ただし海面だけが広がったワケではなく、トランポリンや足場は残っており、昇降が容易で身を守る壁としても使える滑り台も増設されていた。
「それでは準決勝第一試合、選手のお二人は前へ!」
アスカと少年がそれぞれ前に出て向かい合い、メダロットを呼び出す。
少年の方が出したのは、先程と同じくバイフィッシュ。
対するアスカは――。
「えっ!?」
「アオカゲちゃん……!?」
頭部と左腕はセイボウメイツのまま、脚部を『MDT-GFS-00 ゴールドフィン』のライトフリルに変え、右腕を『MDT-SBL-00 フラッペ』のフラップに変更したアオカゲだった。
なぜフリントではなくアオカゲで挑むのか。疑問は尽きないが、そのままロボトルは始まってしまう。
「ロボトル――ファイトォッ!」
「行くよアオカゲ、潜って!」
指示通りアオカゲは海に潜行し、水中でフィールドを泳ぎ回る。
「追いかけて、バイフィッシュ!」
負けじと少年も愛機に対し声をかけ、ファイトブーストの指示を出した。
追って追われての水中戦。バイフィッシュは素早く泳いでコンペンチでアオカゲの背を狙うものの、軽やかに海を舞う彼女には当たらない。
アオカゲはそのまま水面の方まで上がっていき、相手側もやはりそれを追跡する。
そして、完全に水面から頭を出したその瞬間。
「今だアオカゲ!」
「ん。アオカゲフリーズ」
「あっ!? さっきから逃げ回ってたのって、もしかして不意打ちのこの一発を当てるため!?」
「しかも身体が濡れてるせいで、フリーズ症状が通りやすくなってる……やっぱ抜け目ないわね日晴」
メイとリオが感心を向け、他の観客たちも見守る中、フリーズを利用した攻撃を当て続けて試合は進行し。
ハッチの開く音が、その場に響く。それと同時にゴングが鳴り、ウミウが叫んだ。
「試合終了ー! 勝者、日晴 アスカ選手!」
戦いを終えたアスカは安心したように息をつき、負けた側の少年が機体を回収した後に駆け寄って来た。
「お兄ちゃん強いね! ありがとうございました!」
「こっちこそ!」
二人はグッと握手を交わし、観客席の方に移動する。
すると、すぐにジャノメが目を輝かせながらアスカへ声をかけに向かう。
「良いロボトルだったよ、しっかり録画したからね!」
「あはは……ありがとうございます」
照れ笑いしつつ、アスカはメイたちと共に次の試合を観る。
続く対戦カードはホムラ対ヴァネッサ。先頃の第三試合・第四試合でのスピード決着もあり、双方のメダロッターに注目が集まっていた。
「ジャノメさん、俺の方も撮って下さいねー!」
「オッケ~! ホムラくんもがんばってね!」
ジャノメに名を呼ばれて鼻の下を伸ばし、ホムラは奮起する。
相変わらずの様子にリオは唇をムッとさせ、アスカたちは苦笑した。
「一応言っておくけど、手加減はしないッスよ」
「もちろん。メダフォースが使えるあなたも、油断できない相手だからネ」
『メダロット、転送!』
アスレチックで位置についた二人は、同時に今回のロボトルで使用するメダロットを呼び出す。
そうして現れたバレットの右腕は、普段使っているリオンビアードのものではなく、肩にタイヤが付いた白い装甲の射撃装備だった。
「あっ、アレは『MDT-CAR-00 ランドモーター』のタイクーミサイル!」
「フェアパーリー対策のアンチエアかー! 彼もやるねぇ~……って、え!?」
ジャノメが目を見張り、指を差した先にあるのは、ヴァネッサのメダロット。
今回彼女が使っているのは、アンチエアが効く飛行メダロットのフェアパーリーではないのだ。
頭部にサンバイザーを付けたツインテールの少女のように見える、三角ビキニにローライズホットパンツ、さらに日焼けした肌のようなボディカラーという刺激的な容姿の機体。
両腕には大振りな射撃武装を持つそのメダロットは、名を『MDT-SWS-00 リーフィータン』という。
この機体はその特性故にホバリングの要領で浮遊できるが、脚部は潜水型である。
即ち――
「やられた……そう来るか!」
「ウフフッ! 残念、読み違えたみたいネ? 準備の時点でロボトルは始まってるのヨ」
「へっ、上等だぜ! まだ負けが決まったワケじゃねェんだ、勝ってやるさ!」
バシッ、と右拳を掌に打ち付け、気合を入れ直すホムラ。
準備を終えた両者へと、戦いの合図が響き渡る。
「それでは、ロボトルゥゥゥファイトォーッ!」
「バレット! ローグシューター、速射!」
「チャイカ! シードラグマズル!」
開戦と共に駆け出し、二人は己のメダロットに指示を出す。
先に充填を終えたのは速射を使ったバレット、高威力のマックスショットがチャイカの機体各部に命中する。
無視できないダメージを負ったものの、未だ機能停止せずパーツを維持している彼女は、充填完了と同時に粘質の水塊を右腕から吐き出した。
「やっぱそう来るよな……!」
その攻撃はバレットに命中し、泥のような粘液が全身に絡みつく。
すると、その動きが目に見えて遅くなってしまい、それを見たメイが声を上げた。
「わっ、私たちの時とほとんど同じ戦い方! あの技、何!?」
「マッドショットだね」
射撃スキル、マッドショット。
命中した敵機の充填・冷却効率や回避運動能力を下げた上で、潜水状態のメダロットと同様の性質にするというマイナス症状、マッドを与える技だ。
さらにリーフィータンは左腕にアンチシー攻撃のリーフフィンズを持っているため、一体でこのコンボを成立させる事ができる。
「フェアパーリーの方はトルネードと言って、突風を吹き付けて相手を無理矢理飛行状態にする技なんだ。そのせいでアンチエアが効くようになってしまう」
「なんでどっちもトルネードとアンチエア、マッドショットとアンチシーを同時に搭載してるんですか。ちょっと高性能すぎません?」
「それは……まぁ、開発スタッフが頑張ったんだろう。あの手の機体を妙に熱心に作るグループがあるからな……」
ヒロシは具体的に名前を出さなかったが、アスカとリオたちの頭には思い浮かぶ。
お友達ロボとしては明らかに必要のない膨らみを持ったメニーミルクや、正気を疑う程にしっかりと美しく作り込まれたスイマーメイツの尻などが。
「おおっとアンチシーがバレット選手に炸裂ー! これは勝負アリか……!?」
一同がそんな会話をしている間にも、試合は進行していた。
右腕は通用しないアンチエアで、頭部は攻撃パーツではない。これでもう勝負は決まった、と観ている誰もが思い、対戦相手であるヴァネッサも確信した。
だが。
「まだ終わっちゃいねェェェッ!」
「そうだ! 行くぞ、ホムラ!」
『メダフォース、獣王武神撃ィッ!!』
窮地に立たされた本人であるホムラとバレットはそれでも抗い、そしてアスカも諦めずじっと見据えていた。
最後まで戦いを諦めない、二人の背中。そのメダフォースの輝きを。
発動したメダフォースの弾丸は命中。
だが左腕が破損して不完全な状態で放たれたその一発は、チャイカの脚部と左腕を破壊したものの、頭部を砕くには至らなかった。
「今のは焦った……見事だったわヨ。でも、これでワタシの勝ちネ」
放たれるマッドショット、そして地に落ちるメダル。
決着がついて、喝采めいてゴングが鳴り渡る。
「勝者、ヴァネッサ・シーガル選手!」
両者に送られる歓声。ホムラは手を振ってそれに応えつつ、決勝戦に向かうアスカへとすれ違いざまに声をかけた。
「次は決勝だ。頑張れよ、アスカ」
「うん、行って来る」
ホムラに頷いてから真っ直ぐに歩いていき、アスカはヴァネッサと対峙する。
「やっと会えたわネ、キュートボーイ? さっきの彼よりワタシを楽しませてくれるカシラ?」
「楽しんで貰えるかどうかっていうのは分かりません。けど、俺たちはあなたに勝つために戦います」
そうして、アスカもヴァネッサも自らのメダロットを呼び出す。
今回のチャイカはフェアパーリー一式の装備。対するフリントは、いつものローンビートルだった。
「ふつーのフリントくん!?」
「た、対策なしで大丈夫なの、日晴くん……!?」
心配そうに状況を見守るメイとユメだが、一方でホムラとリオは冷静に動向を見守っている。
「いや、アレで良いだろ」
「そうね。フェアパーリーで来るかリーフィータンで来るか分からなかった以上、いっそ戦い慣れた装備で突っ切る方が勝ち目はある。日晴もそれが分かってたんだと思う」
後はアスカとフリントの力がどこまで彼女らに通用するか。
準備の完了を確認して、ウミウは大きく腕を振り上げた。
「それでは決勝戦! ロボトル――ファイトォッ!!」
「チャイカ! 早速プチョヘンザ、空にアゲちゃって!」
開始と共にヴァネッサからその指示が出て、チャイカはトルネード攻撃の充填を始める。
アスカの方はというと、その攻撃命令を耳にする前から既に走って移動しており、振り返って射線を確認して時折メダロッチ越しに何事かをフリントと話しながら逃げ続けていた。
チャイカは彼らの様子を見てカラカラと笑いつつ、空から追いかけ充填を終えた左腕を突き出す。
「逃げたってムダムダぁ~! あーしは飛んでんだからね~!」
「うわっ!?」
《脚部パーツに中度ダメージ》
上から戦況を見下ろして一方的に地上へ攻撃できるのが、射撃武装を持つ飛行メダロットの大きな強み。
そのアドバンテージを活用し、手に持った小瓶から烈風を解き放った。
さらに命中した事によりフリントの身体が風に吹かれて舞い上がり、決定的な隙を晒してしまう。
「次はこれ! キューアンプレイ、行くよ~!」
冷却・充填を終え、右腕のパッドの操作によって対空砲が発射、それがフリントの左腕のやや上に命中する。
ただそれだけでラピッドバルカンが砕けるが、他のパーツへの余波は軽度で済んだ。
「ありゃ、耐えたね?」
「かすっただけみたいネ。でも、次で一気に追い込みめばいいのヨ」
「それもそっか。とりあえずもっかいプチョヘンザだ~!」
再び充填が始まり、チャイカは小瓶の照準をフリントに合わせる。
だが二人はその瞬間、屋根のある滑り台に潜り込む。
結果、風の攻撃はバルーンによって阻まれ、フリントは無傷で場を凌いだ。
「えっ!?」
「アスレチックの屋根が……!?」
水上アスレチックのバルーンは、メダロットの攻撃を通さない特殊素材でできている。
アスカたちもまた、アスレチック上を駆けるという点を自らのアドバンテージに変えて戦っているのだ。
しかし、なぜか反撃はない。その状況に奇妙な引っ掛かりを感じつつも、ヴァネッサは攻撃を継続させる。
「あぁ~んもぉ! そこに籠もられたらトルネード当たんないじゃん!」
チャイカは先程から、攻撃の度にライフルやガトリングの射程距離外へ飛ぶヒット・アンド・アウェイ戦法で攻めていた。
だが何度も攻撃を遊具で防ぐフリントに痺れを切らし、途中で高度を下げてしまう。
「へへっ、そこだ!」
その行動が仇となった。
夢中になって攻撃を当てようとするあまり、フリントの
《左腕パーツに中度ダメージ》
「やっば……!」
「あの子たち、中々考えてるじゃなイ。でも
見れば攻撃を一回当てただけでアスカたちはまた滑り台の屋根の下に引っ込んでおり、追撃が飛んで来ない。
ヴァネッサはフッと笑うと、愛機に新たな指示を送る。
「チャイカ、冷却終わったらサマーアンセムで行くヨ!」
「おけまる~!」
ここに来て、頭部パーツの使用。
自分たちとの試合では発動しなかったため、メイが首を傾げていると、ヒロシがそこで補足を加えた。
「確か、あの機体の頭部機能はプレコグニションだったはずだ」
「どんな技なんですか?」
「パーツ内のナノマシンを活性化させ、三種類のプラス症状を自チームに与える。ただ、精密にコントロールして実行するワケではないのでどれを発症するかは分からない。例えばファイトブーストや妨害クリアのような、彼女にとって意味のないものに変化する可能性もある」
逆に言えば、その二つ以外なら何が出てもチャイカは強化された状態で立ち回れるという事だ。
さらにこの機体の発動するプレコグニションは充填効率が速めに調整されており、発動に然程時間がかからない。
これで一気に追い込めるはず。ヴァネッサとチャイカがそう考えた、次の瞬間。
「フリント! 今だ!」
「ああ!」
『メダフォース発動、一斉射撃!』
既に指示を出し充填を終えていたらしいアスカとフリントが、同時に叫んで滑り台から勢い良く飛び出す。
そしてその言葉を聞いて、チャイカは即座に自分の身を守った。
先程の一戦でホムラ・バレットのペアがメダフォースを使ったため、元より警戒はしていた。ヴァネッサもまた、アスカもメダフォースを扱える可能性を考慮していつでもガードできるようにしておくよう、試合前に打ち合わせていたのだ。
実際、今回の試合でアスカは攻撃の指示が遅れていたので、ヴァネッサは彼がフリントにチャージを指示しているのだろうと考えていた。
「……あれっ?」
「しまった!」
二人はアスカの仕掛けたブラフに引っかかってしまい、何も起きていない事に気付かず防御に移った事で、彼らを見失ってしまった。
「ギャッ!?」
《左腕パーツ、機能停止。頭部・右腕・脚部に中度ダメージ》
気付いた時には背後から飛んで来たミサイルに焼かれ、左腕が全壊。
これによりもうトルネードを使えなくなり、バレット同様アンチエアのみで戦う事になる。
「やっ……た、なぁぁぁ~!!」
さらに騙し討ちと不意打ちによる弊害はそれだけに留まらず、チャイカの冷静さをも失わせた。
先程ヴァネッサと話し合った内容も忘れ、あろうことか武器を使わず突進していく。
「ちょっ、チャイカ落ち着い――オゥッ!?」
しかし普通にフリントに蹴りで返された挙げ句に、自分のマスターであるヴァネッサと衝突してしまい、両方とも海に落ちていった。
瞬間、二人の落ちた海面を見やったアスカは、ハッとその目を見開いた。
「よっしゃチャンス! 一気にトドメを……」
「フリント、ストップ!」
返事を待たずに大慌てで海に飛び込むと、アスカは白い布のようなものを持ってそれをヴァネッサに手渡す。
アスカもヴァネッサも、顔は真っ赤になっていた。
「……どうぞ」
「……アリガト」
受け取ったヴァネッサの方は、自らの胸を左腕で隠しながら遊具の陰に移動。その背中を守るように、アスカが立ち塞がる。
それを見て、会場内の全員が理解した。
先程チャイカと激突したせいで、ビキニが取れてしまったのだと。
フリントとチャイカは、指示が出るまでは動かずにいる。フリントは卑怯な真似をしたくないという理由から、チャイカはヴァネッサに恥をかかせたくないがために。
やがて水着を付け直すと、二人は海から上がってアスレチックに上り、再び対峙した。
「待ってくれた事には感謝するケド、手は抜かないワ」
「分かってます。俺も負けません」
ロボトルの再開。
仕切り直しとなったこの場において、どちらも有利に立っているとは言えなくなっていた。
チャイカは結局プレコグニションを発動し損なったため、トルネードもシュートブーストもなしでのアンチエアに頼らざるを得ない。
一方のフリントも、左腕を失い先程のトルネード&アンチエアのコンボで頭部に傷を負っている。何より、メダフォースのブラフで得た精神的優位というアドバンテージも失われているのだ。
果たしてどちらが勝つのか。観客たちが固唾を呑んで見守る中、二人と二機は勝利を目指して動き出す。
「チャイカ、キューアンプレイ!」
「行くよフリント! バスターマグナム!」
充填が始まり、一斉に駆ける。
先に攻撃したのは、チャイカだった。
発するのが非飛行機体へのアンチエアと言えども、中破している頭部に命中し破壊えさできれば勝利となる。ならば、そのワンチャンスに賭けるしかない。
砲弾は真っ直ぐにフリントを目指して飛び、そして命中する。
ただし、直前でバックステップしたフリントの
「外れた!?」
「ぐっ……!!」
《脚部パーツ、機能停止》
当たりどころが悪く両足が砕けるものの、フリントは飛びながら射撃姿勢を維持して狙いを定め。
「
そして、撃ち抜く。
狙い通り、チャイカの額を。
《頭部パーツ、機能停止》
銃弾に貫かれた事によって背のハッチが開き、ウミネコメダルが飛び出す。
それを視認して、ウミウは腕を振り上げた。
「そこまで! 優勝は、日晴 アスカ選手とフリント選手!」
レフェリーからの宣言により、場内は歓声で溢れ返り、両者の健闘を称える。
メイとジャノメはぴょんぴょんと跳ね、ユメとエナとマリンは目一杯の拍手で、ホムラも拳を掲げて満面の笑みで叫ぶなど、友の勝利に喜びを表す。
当のアスカはと言うと、初めてのロボトル大会での優勝で喜びと戸惑いが入り混じりつつも、フリントに背を押され声援に応え手を振りながら砂浜に戻っていた。
そうしていると、同じく声援に投げキッスやウィンクを送っていたヴァネッサが彼の隣に寄って行く。
「やるじゃなイ、キュートボーイ……うぅん、アスカ」
「ヴァネッサさんこそ。本当、紙一重でした」
ありがとうございました、と改めて頭を下げるアスカ。
すると、ヴァネッサは少年の肩をそっと抱き寄せ、その頬にチュッと口付ける。
「あ……えっ!? へ、えぇっ!?」
「ウフッ♡今のは私からの優勝祝いヨ♡」
アスカの顔が、沸騰して湯気でも出るのではないかという程に赤く染まり、それを見たヴァネッサは妖艶に微笑んで彼の唇を指で撫でた。
「もし
耳元にそんな囁きを残して、ヴァネッサは去っていく。
真っ赤なままガチガチに固まり、思わずその場で立ち尽くしてしまうアスカ。
そんな折、頬を大きく膨らませたメイが飛び出し、アスカの背を叩く。
「むー! むうううぅぅぅ!」
「痛ぁっ!? ちょ、痛い痛いって!? なっ、なんで怒ってるの十々喜さん!?」
――こうして、エノシガイオスで開催されたオーシャンパーク・ロボトル大会は幕を閉じるのであった。
※ ※ ※ ※ ※
同日、真夜中。
「
大会でホムラと対戦していたフロントライン使いのアメリカ人メダロッターが、悪態をつきながら浜辺で一人海を眺め、酒を呷っていた。
あの大会では、優勝者に賞品としてトロフィーとメダルが贈られる事になっており、今それはアスカが手にしている。
男は優勝してメダルを入手するよう依頼され、その報酬として多額の金を貰う手筈だったのだ。
「失敗したな」
「
突然後ろから声をかけられ、男は慌ててウィスキーのビンを落としそうになる。
振り返れば、そこにはノースリーブの黒いシャツに赤い長ズボンを履いた、羊の角が付いている黒いガスマスクを被った女が立っていた。
面食らいつつも男はホッと息をつき、改めて彼女と向かい合った。
「なんだ『ククリ』さん、YOUかよ……その仮面怖いからいきなり後ろに立たないでくれよ」
「……」
「悪いがまぁそういう事だ、仕事は果たせなかった。貸してくれたビーストマスターのパーツは返す」
メダロッチの操作でパーツを送信し、男はククリと呼んだ女の真横を通って帰ろうとする。
だが。
「
「……
気付けば周囲には黒羊の覆面を被った者たちが集まっており、彼らの操る無数のマジカルピエロやボロゴブリン、アインラートなどのメダロットも現れていた。
ESCだ。さらにククリ自身も、赤い馬のような形状のバイクに跨る武将と、馬に乗った青い鎧の騎士、そして全身に刃を持つ緑のボディのメダロットを呼び出す。
「う、うわあああ!?」
凄まじい殺気を感じて男は思わずフロントライン三機を転送するも、彼女のメダロットたちによって瞬く間に全員斬り伏せられ、機能停止してしまう。
「どいつもこいつも、目障りな事しやがって……全部纏めてブッ壊すぞォッ!!」
ククリの叫びにESCの団員たちが応じて声を上げ、彼らはアスカたちのいるホテルを襲撃すべく進行するのであった。
メダロット解説コーナー
[機体名]
フロントライン
[型式番号]
KKR-FRL-00
[性別]
男
[パーツ]
◆頭部:チャージメット(補助/ステルス/なし/2回)
◆右腕:サプライズナイフ(格闘/ハイドブロー/なし)
◆左腕:アンブッシュガン(射撃/ガトリング/狙い撃ち)
◆脚部:フロントデュエル(二脚/フォレストアップ)
●HV:0/0/1 合計:1/1
[備考]
陸軍兵士をモデルとしたミリタリー型メダロット。
右腕にコンバットナイフ、左腕にはマシンガンを装備しており、頭部はヘルメットに脚部は迷彩色でカラーリングされている。
実戦さながらのリアルさを追求する黒龍重工の機体の定番商品で、ロボトル初心者からベテランまで幅広く使われており、デザインも含めてメダテックのDOG系のように高い人気を誇る名機。
原作の『FRL00 フロントライン』の仕様変更版。