メダロットSAGA   作:正気山脈

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「ウム、なるほど。見れば見るほど面白い能力だ」

 ESCのククリを退けた翌日。
 アスカとフリントは、手に入れたメダフォースの詳細な効力を調べるため、ヒロシとエナに協力を仰ぎ砂浜で何度か実験を行っていた。
 フリントに目覚めたメダフォースは、敵全体が受けているプラス症状だけでなくプラントをも全て解除でき、さらに味方全体が受けたマイナス症状とトラップも解除できる。
 そしてその全解除効果が発動された後、自身の脚部特性をマスターピースへと変更する。この時、エナから借りたメダチェンジ機体でも検証した結果、メダチェンジを行うことによってマスターピースは解除されてしまう事も分かった。

「すごいわ、こんなメダフォース見たことない!」
「私にとっても全く未知の力だ。名前は考えたかね、アスカくん」

 未だに謎の多いメダフォースに名前を付ける事ができるのは、大きな栄誉である。
 アスカはフリントと顔を見合わせ、二人で考えた名前を口に出す。

「ピースメーカー、が良いかなって思ってます」
「ホウ。よし、ではそれで登録しておこう。今後も何かあれば検証させて欲しい。良いかな?」
「もちろんですよ!」

 しっかりとした返事に、ヒロシもエナも思わず笑みをこぼす。
 直後、背後の遠くからホムラの呼び声が聞こえて来る。

「おーい、早く来いよアスカ!」
「あ、うん! 今行く!」

 アスカはそう返し、改めてヒロシたちに一礼してフリントと共に走り出した。

※ ※ ※ ※ ※

 それから時間が経ち、夕方。

「もうすぐ帰っちゃうのネ、みんな」

 再び温泉で集まった女子たちは、少し早くヴァネッサに別れの挨拶をしていた。
 そしてメイは、一度深呼吸した後、真っ直ぐと彼女に向き合う。

「ヴァネッサさん!」
「ン?」
「この前の温泉でのお話、その……私、負けませんからっ」

 視線と視線が合い、少しばかり互いに沈黙する。
 やがてヴァネッサはフッと微笑み、メイの頬を掌で撫でた。

「フフッ、そう。まぁワタシはあなたのコトも気に入ってるんだけどネ♡」
「へっ!?」

 途端に赤くなるメイの顔。それを見て、ヴァネッサはまたクスクスと笑い始める。

「じゃ、また会いまショ。今度はきっと……アスカくんと一緒に、地方統一戦でネ」
「……はい!」


FIGHT.17[猛虎現る!?]

 エノシガイオスでの騒動が収まり、二泊三日の滞在も終わりを告げる。

 ホテルを出てヒロシの車で走り続け、一行は昼頃にようやくサイオウ市の駅のロータリーまで戻って来ていた。

 

「無事帰って来れたな。ここで昼食がてら一休みしたら、寮まで送ってあげよう」

「ありがとうございます、博士! エナさんも!」

 

 保護者役と車の運転をしてくれた二人にアスカが感謝の言葉を述べ、ホムラたちもそれに続く。

 フードコートを目指して駅内のショッピングモールを歩きながら、メイは嬉しそうに笑ってアスカに語りかける。

 

「またみんなで海に行きたいねぇ~」

「ふふっ、そうだね。次はESCがいないと良いけど」

 

 アスカが同意して微笑みを返し、ホムラやリオ、ユメたちも頷いた。

 そうして談笑しながら歩いていると、八人の前に三つの影が立ち塞がる。

 

「あらあらぁ、お揃いみたいねぇ!」

 

 見れば、そこにいたのはタマキとキイチとケンスケ、いつもの三人組(トライクロウズ)だった。

 

「よ! お前ら海行ってきたんだってな?」

「お土産あるんだろ! よこせー!」

 

 早速、ふざけ半分で笑いながらケンスケとキイチが詰め寄ると、すかさずタマキが二人の股間を両手でギュッと握る。

 

『はぅっ!?』

「そうじゃないでしょーがおバカさん! 姫はロボトルしに来たの!」

『ゆ、許して下さい姫ぇぇぇー!』

 

 プリプリと怒りつつも、悶えながら謝るケンスケたちから手を離すと、タマキはメダロッチを構え改めて問いかけた。

 

「で、どうするぅ? ロボトル、受けるでしょ?」

「メシ食って荷物を置いて来てからな」

 

 先んじて答えたのはホムラだった。

 実際、たった今帰って来たばかりなのでアスカも休む時間が欲しいところなのだ。

 タマキは渋々同意し、今日はアスカたちとのロボトルを諦めつつも、せっかくなので昼食は共にすることにした。

 夏休みということもあって、フードコートはそれなりに大勢の人が並んでいる。

 しばらくの後、テーブルを囲んで各々注文した食事を食べ進めていると。

 

「ん?」

 

 不意に、アスカの視界に帽子を被った一人の若者の姿が映る。

 うなじの辺りで一つに束ねている黒のインナーカラーが入った白い長髪に、黄色い瞳のタレ目。

 歳の頃はアスカたちと同じくらいで、身長はホムラやメイより低いがアスカより高いといった具合だ。

 

「よっ」

「……え」

 

 ニカッと笑って自分に語りかけるその人物を見て、アスカは思わず立ち上がり、駆け寄って手を取り合う。

 

「もしかしてリョウちゃん!? リョウちゃんだよね!?」

「久し振りやなアスカ」

「ほんとだよ~、どうしてここに!?」

 

 快活に笑むリョウと呼ばれた若者と、嬉しそうな満面の笑顔を見せるアスカ。

 

「アスカくん、その子は誰なの?」

 

 そんな彼らの様子を不思議に思い、メイは言った。

 

「俺の幼馴染だよ」

 

 直後、一同はそれぞれ異なった反応を見せる。

 ホムラとリオはやや険しい目つきに、ユメは戸惑い慌てふためき、メイは目を丸くして首を傾げた。

 さらにアスカのメダロッチからは、フリントは無反応であったがアオカゲの威嚇するような唸り声が聞こえて来る。

 一方で、ヒロシとエナとマリン、そしてトライクロウズの三人組は状況が飲み込めておらず、メイ同様怪訝そうな顔をしていた。

 

「あ、違う違う誤解しないで! この子は違うんだよ!」

『どういうこった?』

「幼馴染って言っても、例の件に関しては味方になってくれた子なんだ!」

 

 アスカがフリントからの問いに答えると、リョウはメイたちにも同じく笑みを見せて元気良く右手を振って挨拶する。

 

「ども! 重永(エナガ) リョウ言います、さっきアスカが言うてた通り当時家が隣同士の幼馴染で。学校は別々やったけど、よう一緒にサッカーしたり風呂入ったりとかで遊んでた仲なんですわ」

「懐かしいねぇ、ちょうどこのくらいの時期にビニールプール作って遊んだりもしたっけ」

「アハハ、なっつかしいなそれ! 両手に水鉄砲持ってメタビーごっことかやったよなぁ!」

「ふふ、あったあった」

 

 小学生時代を懐旧し、その場で穏やかな空気が流れる。

 その様子を見てようやく、ホムラもリオも警戒を解いた。

 

「どうやら、マジでただの友達みたいだな」

「あの事件のこと聞いてたからつい身構えたけど、杞憂だったわね」

 

 他の面々も同様、落ち着きを取り戻す。

 しかし、タマキだけはリョウを見つめてしきりに首を傾げている。

 

「……重永……? まさか……いや、別人よね多分……」

「姫? どうかしたんスか?」

「なんでもないわよ」

 

 ブツブツと何事かを呟いていたタマキは、ケンスケにそう問われて我に返り、首を左右に振った。

 そして話題は、アスカの過去の一件に移っていく。

 

「ってか、もしかしてあの事件のこと話したんか?」

「うん。あっ、でも博士や國丸さんたちには話してなかったよね」

 

 アスカ自身の口から詳細に語られる、幼少期に遭った事件の概要。野良メダロットのヒパクリトに殺されかけたという、痛ましい記憶。

 一連の事情を聞いたタマキ率いる三人組は、驚きつつもどこか納得したように頷いている。

 

「暴走事件、って……マジかよ?」

「でもメダロットが人を襲うところは見ちまったもんなぁ、俺たち」

「姫は信じるわよぉ。ESCに襲われた時のこと、忘れてないもん」

 

 だがヒロシ・エナ・マリンはいまいちピンと来ていないのか、眉を寄せて訝しんでいた。

 アスカの話を信じていない、というワケではないようだが、聞いた話について納得し切れていない様子だ。

 それでもリョウたちは話は続け、自らの腕を組んで頷いている。

 

「ホンマはアスカの力になりたかったんやけどなぁ。小四ぐらいの頃に、親の仕事の都合で大阪に帰ることになってもーて」

「で、当時俺はメダロッチも持ってなかったし、お互いに連絡取り合えなかったんだよね」

「まぁ、親同士は連絡先知ってたみたいなんやけどな」

 

 ケラケラと笑い、リョウはフードコートの椅子に腰掛けた。

 直後に、メイが「あれっ?」と首を傾げる。

 

「重永くんはどうしてアスカくんがここにいるって分かったの?」

「あぁ、それな。ジャノメの配信見たんや。メダリオン学園の林間学校の時のヤツ」

 

 そこまで言ったところで、リョウはハッと目を見張ってアスカの方を向く。

 

「せやせや、昔話してて目的忘れるとこやった! ロボトルしようや、アスカ!」

「えっ!? リョウちゃんと!?」

「あの動画見て、速くアスカとヤりたいって思っとったんや! な、な! ええやろ!?」

 

 目を輝かせ、ズイッとアスカへ顔を寄せるリョウ。

 しかしながら、その要求はリオの口から断られることとなる。

 

「ちょっと落ち着いて……私たち、ついさっき神奈川から帰って来たばかりだから疲れちゃってるし、先に荷物をどうにかしたいのよ」

「なんや、そうやったんか。ほな後でええよ、ちょっとくらい待つわ」

 

 リョウはそう告げ、そしてすぐに「あ、そうや」と全員に再び声をかけた。

 

「この話もせんとアカンなぁ。実は一人で新幹線乗って来たから泊まるとこないねん、ここにおるまでの間はそっちの寮に泊めてくれへん?」

『えぇっ!?』

 

 その話を聞くと、一同は愕然とする。あまりにも無計画な行動だったからだ。

 

「それは流石に寮母さんに話してみないと分かんないっていうか……」

「いや、そもそも普通に断られるんじゃないかな?」

「いくらなんでも、なぁ」

 

 アスカとメイとホムラが言い、リオが無言で頷いてユメもどうするべきかとオロオロしている。

 だがリョウ本人は気楽なもので、ワッハッハと自信満々に笑いながら自らの親指を立てた。

 

「頼んでみんと分からんやろ? 多分大丈夫やで。一応聞くだけ聞いてみようや、な!」

 

 

 

「いやダメに決まってるでしょ」

『ですよね~』

 

 車で送って貰い、ヒロシ・エナ・マリンと別れ、寮に到着してすぐに寮母のユカコに尋ねたところ。

 予想通りの返答が来て、アスカたちは肩を落とした。

 が、泊まる場所のないリョウは、それでも引き下がらない。

 

「何を言うとんねんお姉さん、こっちはアスカの幼馴染なんやで? ちょっとくらいええやんか」

「ダメなものはダメ。ここの規則なんだから」

「うーん、せっかく久々にアスカと一緒に寝れると思ったんやけどなぁ~」

 

 むぅ、とリョウは唇を尖らせる。すると話を聞いていたアスカはギョッとして声を上げる。

 

「って俺の部屋に泊まる気だったの!? 尚更ダメだよそれ!!」

「えぇー?」

「昔は俺も気にしなかったかも知れないけど……リョウちゃん、()()()()()()()()さぁ!!」

 

 束の間の沈黙。

 そしてすぐにアスカとリョウ以外の面々が「えええええ!?」と絶叫し、目を剥いた。

 一方のリョウは、彼らの反応を見て怪訝そうにしている。

 

「ありゃっ? なんやなんや。みんな、こんな超絶可愛いド級の美少女捕まえといて、()()のこと男や思うてたんか?」

「いや、どっちかというとイケメンとか言われてそうな方だと思うんだけど……」

 

 困惑しているリオの言葉にユメが何度も頷いて同意。

 それを聞いて、リョウは納得せず不服そうに腕を組む。すると、先程まで全員気付かなかったが、メイのものほどではないものの確かな膨らみが見て取れた。

 

「この通り、ウチにはちゃんとおっぱい付いてるんやけどなー?」

「恥ずかしげもなくおっぱいとか言わない!」

「もちろんおチンとおタマは付いとらんで」

「やめなって!?」

 

 悪ふざけをして笑うリョウと、それに頬を染めながら突っ込むアスカ。

 瞬間、メイはハッと目を見張った。

 

「っていうかちょっと待って!? さ、さっき確か一緒にお風呂入ったとか寝たとかって!?」

 

 その言葉を聞き、ホムラたちもハッとしてアスカに視線を注ぐ。

 するとすぐに、彼自身がしどろもどろながらも弁明を始めた。

 

「あ、いや……俺もリョウちゃんもその頃は男の子と女の子の違いとかよく分かってないくらいの時期で……っていうか当時は俺も男の子だと思ってて……」

「そういえば、ウチも最初はアスカを女子や思ってたんよな。風呂入ってる時にアスカのおチンが気になって引っ張って、泣かしてもうたこととかあったっけなぁ。おまけに、よっぽど痛かったんかションベンも漏らして、ウチの顔に引っ掛けてもーたんよな」

「わぁぁぁっ!? 今はその話やめて!?」

「ウチはなんも気にしとらんで? 風呂ン中やったからすぐ洗えたし」

「そういうことじゃないよ!?」

 

 全くフォローになっていない発言でアスカは困惑し、話を聞く内にメイが「またライバル増えたぁ~」と呟いて表情を険しくしていく。

 ともかく、これではリョウは泊まる場所がなくなってしまう。流石に外に放り出したままにするワケにはいかず、それに関してはユカコも悩んでいた。

 が、その時。

 

「話は聞かせて貰ったぞ!」

「わっ!?」

 

 寮の扉を開いてそんなことを叫んだのは、アスカたちもよく知る二人の教師だった。

 

「奉五郎先生に槻地先生、どうしてここに?」

 

 保健体育の女教師である奉五郎 チトセ、生物学担当の槻地 サトル。

 二人ともコンビニのレジ袋を手に提げており、買い物から帰る途中だったことが窺える。

 

「もしかしてデート!?」

「ちちちちち違う!? ちょっとそこで、たまたま偶然槻地先生と会ってこうして一緒に話してただけだ!! そ、それよりも!!」

 

 慌てて否定しながらチトセはアスカに向かって指を差す。

 

「日晴くん! そんな、ふ……不純異性交遊だなんてイカンぞ!」

「先生?」

「君も健全な男子中学生であることは理解しているが、身体が未熟な中学生の内にそういうことをするものじゃない!」

「先生!?」

 

 何やら壮絶に誤解されている。

 しかしアスカが反論するより前に、リョウが疑問を投げかけた。

 

「ンでもウチはどないしたらええねん? 泊まるトコないんやけど?」

「うん! そこで私から提案がある! 君に真剣ロボトルを申し込む、それで勝ったら君の好きにすれば良し!」

「ロボトルで決めるんか?」

「ふふふ、簡単に勝てると思わないことだ。私はメダリオン学園でロボトル実習も担当している! 自分で言うのもなんだが、教師陣でも実力はかなり上の方だぞ!」

 

 チトセが勝手に話を進め始めてしまい、ユカコは横から口を出そうとするも、口を噤んだ。

 実際のところ、ロボトルで決着をつけるのが一番丸い解決方法なのは事実。教師側が自分の責任で勝手に言い出したことではあるし、ロボトルの結果なら誰も文句は言わないだろう。

 それにチトセも鬼ではない。手加減抜きで戦いリョウに勝ったとしても、教師二人の預かりで別の手段を用意できるはず。

 ユカコがそこまで考えたところで、リョウはポツリと呟いた。

 

「ふぅーん……ま、三人ってところやな」

 

 言葉の意図が一瞬理解できなかったものの、チトセはアスカたちを見て「あぁ」と思い至って補足する。

 

「彼らの内二人を味方として付けるということだな? それでも構わんが、こちらもメダロット三機を使わせて貰うぞ?」

「ちゃう。()()()()()()()()()()()()()()ってことや」

 

 それを聞くと、チトセは信じられないと言った様子で目を見張った後、眉を寄せて眦を釣り上げる。

 

「……私をからかっているのか?」

「ちゃうよ? でも、そのくらいせんとハンデにならんで。そこのメガネの先生と、寮母さんの三人で丁度ええんちゃうかな? こっちは一機、そっちは三人合わせて三機で。ホンマやったら三・九でもええくらいやけど」

 

 三・九とはつまりリョウ自身が三機のメダロットを使って、チトセ・サトル・ユカコの三人が扱う九機のメダロットを倒すということだ。

 一人のメダロッターが同時にメダロット三機へ指示を出し戦うのには相当に高い技量が必要であり、ホムラという例外を除けば、少なくとも今のアスカたちにできる芸当ではない。

 それをリョウは、三人の大人を相手に()()()と言ってのけた。さも当然の事実であるかのように。

 サトルは静かに眼鏡を指でかけ直し、ユカコも自身の唇をへの字に曲げる。

 

「私は奉五郎先生ほどロボトルする方ではないんだけど、こうも言われたら流石に火が点いてしまうなぁ」

「たまにロボトルの強い子供たちの遊び相手になってる身としては、今のは聞き捨てならないね」

 

 そのように言われても、リョウはどこ吹く風と言った様子でニッと笑う。

 もうロボトルは避けられない。四人がメダロッチを構えた、その瞬間。

 

「合意と見てよろしいですね!!」

 

 再び寮の扉が開け放たれ、手に機関銃を持ったオオルリがミニスカートのセーラー服姿で登場した。

 ホムラはそのスカートの下を覗き込もうとするが、即座に足払いをしたリオによって盛大に転んでしまう。

 

「ただ今より、重永 リョウ選手と奉五郎 チトセ選手・槻地 サトル選手・河須 ユカコ選手による一対三の真剣ロボトルを行います! 問題なければ各自メダロットを呼んで下さい!」

「……あ、スイマセン。外でやらせて貰って良いですか。寮を荒らしたくないんで」

「まぁ寮の中で暴れるのはアレですからね! 河須選手の進言があったのでお外へどうぞ!」

 

 

 

 気を取り直し、ギャラリーのアスカたちを含む一同はすぐ近くにある公園に移動。

 そして、リョウとチトセたちはメダロッチを操作する。

 

『メダロット、転送!』

 

 リョウの前に呼び出されたのは、満月をイメージしたような黄色い陣笠に、侍を彷彿とさせる袴や羽織に見えるパーツ。

 右腕には鋭く流麗な透き通った青い太刀、左腕には拳の部位にトゲの付いた籠手が装備されている。

 その機体を目にして、アスカは目を輝かせた。

 

「……もしかして『MDT-STG-NG01 モノノフティーガ』!? 新型だ!!」

 

 STG型はサーベルタイガーを元とした機体群で、ホムラの持つKLN型と対になる存在である。

 NGシリーズとして作られた今回は、武士の要素を取り入れているようであった。

 

「それだけじゃねぇ、先生方の方も見てみな」

 

 ホムラの言った通り、対する教師二人が使うのもまた、NGシリーズの機体。

 チトセは『MDT-ELF-NG01 ガイファント』。西洋の重装鎧とゾウを組み合わせた姿である他、ゾウの鼻に当たる部位には黒い鉄の球が装着されており、右腕の盾の表面に『(ガイ)』、左盾には『(ガイ)』の文字がプリントされているのが特徴的である。

 サトルの方は『MDT-BOK-NG01 プロフェセージ』。攻撃パーツを一切持たない学者型メダロットのドクタースタディのNG機で、頭部は黒い歯車のような形状の角帽で左目にモノクルを付け、両腕は羽ペンのような形状だ。

 残るユカコが使うのは、セーラー服を着た女子生徒をイメージしたメダロットの『MDT-SLR-01 セーラーマルチ』であった。

 

「うぅ~ん、どっちが勝つんだろう?」

 

 言いながらユメがリョウとチトセたちを交互に見ていると、自分の隣に立つタマキが険しい顔で考え込んでいることに気付く。

 不思議に思い、彼女は声をかけた。

 

「タマキちゃん? えっと、どうかしたの?」

「……あのリョウって子がもし姫の考えてる通りの人だとしたら、先生たちは勝てないかもね」

「ひゃっ!?」

 

 タマキの口から出た意外な言葉に、ユメだけでなくアスカたちも目を見張る。

 

「アスカー! ウチが勝つトコ、バッチリ見といてやー!」

 

 当のリョウは相変わらず人懐っこく笑い、能天気にアスカに向かって手を振っているというのに。

 

「準備できましたね? それでは! ロボトル、ファイトォッ!」

 

 そうこうしている内に、オオルリの口からロボトル開始の合図が出される、その瞬間。

 

「ほな! ――行くで」

『……!?』

 

 リョウは眼光鋭く教師陣のメダロットたちを睨み、モノノフティーガと共に疾走する。

 先程までとは打って変わって真剣そのものな彼女に驚き、チトセもサトルも反応が遅れてしまった。

 

「挨拶代わりや。ブレイド、ミカヅキムネチカで一騎打(いっきうち)

 

 指示に従い、ブレイドと呼ばれた彼女のメダロットは一直線にセーラーマルチに向かって太刀を振るって、左腕を斬り飛ばす。

 

「今のは!?」

「格闘パーツの新機能か!」

 

 一騎打。

 ターゲットへの攻撃が必ず命中する代わりに、ターゲットからの攻撃も必ず命中するというサブスキル。この時、ターゲットが別メダロットへの攻撃指示を実行した後でも、一騎打を発動したメダロットへ強制的に攻撃対象が変更される。

 また、攻撃の威力そのものに変化はなく、この攻撃では互いのガード系スキルの割り込みが無効となりトラップも発動しない。

 今回はセーラーマルチが左腕で攻撃しようとしていたため、事前に反撃を阻止することができた。

 

「腕をやられた……!」

「マズいですねぇ、攻撃パーツを全部失ったらこちらに勝ち目はないですよ」

 

 ユカコが眉をしかめ、サトルもプロフェセージに指示を出しつつ短く唸る。

 すると、チトセが頬を釣り上げ意気揚々と前に出た。

 

「私に任せて貰おうか! ガイファント、右腕(ライトガイン)!」

「オデが守る! ムオオオオオ!」

 

 ガイファントが叫び、垓と描かれた盾を構えて前に出ていく。

 対し、リョウもすぐに指示を送った。

 

「飛ばすで! ブレイド、オボロヅキノコテ!」

 

 同時に虎の武士がリョウの指示で左腕の籠手から稲光を放ち、キャスター付きの豪華な椅子型の脚部を持つ教授のメダロットに殴りかかる。

 この技はチャージスパーク。チャージゲージを消費する必要はあるが、一定時間まで全てのパーツの充填・冷却効率を引き上げ素早く行動できるようにする機能があるのだ。

 だが、振り抜いた攻撃は割り込んだガイファントに容易く受け止められた上、盾から飛び出した針によってブレイドは逆に負傷した。

 

「ニードルガードか」

「その通り! 一騎打に割り込みはできないが……それ以外は私のガイファントが、君の全ての攻撃を反射するぞ!」

「せやったら! ゲッカノジンガサ使え!」

 

 距離を取ったブレイドの頭部の陣笠が光を放ち、その背後に発光する球体が出現する。

 射撃攻撃に反応するトラップだ。これで、射撃武器しか持たないセーラーマルチは迂闊に攻撃に動けなくなってしまった。

 そんな戦闘の模様を見ていたホムラは、ポツリと呟く。

 

「あのブレイドってヤツ、全然喋らねぇな」

『あぁ、メダロッターの方が饒舌なのとは対象的だ』

 

 バレットが答え、その間にプロフェセージが動いた。

 先程のブレイド同様に右腕の羽ペンが輝き、球体を生む。

 これはトラップではなく味方に作用するプラント、それもリペアプラントのようであった。

 

「あの機体は設置技が主みたいね。ああいうの、結構厄介よ」

『特に今回は多人数ですからね。放置すればするほど、向こうが有利になります』

 

 リオとモーゼスがそのように話す中、リョウたちの戦いも進行する。

 

「ブレイド、もっかい一騎打や!」

「やらせないぞ! ガイファント、ストンプル!」

 

 真っ直ぐにガイファントに向かって突撃するブレイドに対し、ゾウの騎士は頭部の鉄球を向ける。

 これはジェットハンマーという格闘武器であり、従来のメガファントと違い、鎖を使わなくとも飛ばした鉄球をリモートコントロールして元の位置に戻せるようになっている。

 ガイファントはそれを叩き込まんと射出、遠隔操作で動く鉄球は、猛スピードでブレイド目掛けて向かっていく。

 しかし直後に虎の剣客は()()()、ガイファントの肩を踏んでさらに()()()()()()

 

「オデを踏み台にした!?」

「じゃあ狙いは……!?」

 

 一騎打の必中が適用されるのは、飽くまでも自分と指定のターゲットのみの話。つまり、最初からガイファントが対象ではなかったのだ。

 大上段に刀を構え向かう先は、彼の背後にいたプロフェセージであった。

 

「もろたで! やれ、ブレイドォ!」

 

 頭部を狙い、高所から一文字にミカヅキムネチカを振り下ろす。

 あっという間にプロフェセージは真っ二つになり、メダルを吐き出し倒れる。

 

「プロフェセージ自体がそれほど頑丈ではないとはいえ、一発……!?」

「今のはリーダー機やなかったみたいやな。まぁでも、残り二機やったらすぐ済むわ」

 

 サトルたちが残したリペアプラントはまだ持続しているものの、先程から使われているミカヅキムネチカは自身の脚部が未破壊なら威力が上がるパワーソード。

 下手をすれば一撃で即死しかねない破壊力である上に、一騎打の効力でミラーガードの割り込みを許されず確実に命中してしまう。チトセたちにとって非常に不利な状況である。

 しかし、決して勝機が失われたワケではない。

 リーダー機がチトセのガイファントであり、加えてそれをリョウたちがまだ知らないというアドバンテージがあるのだ。

 現状で勝ち筋は二つ。まず、一騎打をニードルガードで防ぎダメージを与え続けること。かなり地道な話で時間切れになる可能性もあるが、有効な手段と言える。

 そしてもう一つは、大人気ないがメダフォースを使うこと。極端な話だが、相手が一機である以上、高威力の攻撃系メダフォースで一気に押し込めばそれだけで終わりだ。

 いずれにせよ、今すぐ取るべき行動はひとつ。

 

「……押し切らせて貰うぞ! ライトガインだ!」

「セーラーマルチ、チャージだよ!」

 

 同じ結論に至ったユカコも、メダフォースを使うべく動き出す。

 だが。

 

「ブレイド。()()()()や」

『な……!?』

 

 獰猛に笑うリョウは、攻撃を選ばなかった。

 自身の愛機にチャージを命じたその意図と次の行動を、チトセもユカコも当然理解する。

 阻止しようにも、セーラーマルチは攻撃してもトラップを受けてしまう。ガイファントはそもそも攻撃のスピードが遅い。

 そうして、恐れていた事態は起きてしまった。

 

「メダフォース」

「――月牙一刀(げつがいっとう)

 

 その時、初めてブレイドが言葉を発したかと思うと。

 ガイファントもセーラーマルチも、コロリと上半身が地面に落ちて機能を停止。

 攻撃の瞬間は誰にも、メダロッチ内にいたとはいえフリントたちにも、レフェリーのオオルリでさえ確認できなかった。

 

「ありがとうございました」

 

 一礼の後、再びブレイドは沈黙する。

 あまりの早業を前にして呆けていたオオルリは、その言葉を聞いて自らの仕事を果たす。

 

「重永選手とブレイド選手の勝利!」

 

 それを聞いてリョウは表情を緩め、アスカに向かって快活にニッと笑いかけた。

 いつもの彼女だ。アスカは驚きつつもそう感じて、微笑んで首肯を返す。

 一方、タマキはわなわなと震えて息を呑む。

 

「……もう間違いないわ。あの子は近畿の地方統一戦の二年連続優勝者、天領杯でも大きな実績を残した、関西覇者の重永 リョウ本人……!」

 

 ケンスケとキイチが目を見張り、ホムラも戸惑いつつ質問を投げる。

 

「オイオイ、名前同じならなんで気付かなかったんだ?」

「写真で見たのと雰囲気が違いすぎるからよ! 実際、ロボトルに入ったらいきなりおふざけムードがなくなったしぃ!」

 

 ホムラたちもそこには同意した。豹変という言葉がまさにピッタリと当てはまるほど、ロボトル中のリョウは別人のようであったのだ。

 そんな彼女も今は表情を緩めており、二人の教師と寮母に対しても笑顔を向ける。

 

「ほな、これで文句ないな? アスカー、部屋案内してー」

「ま、待った! 流石に異性で同室はダメだ! 頼むからせめて同性にしてくれ!」

「えぇー……まー、しゃーないな。ここはセンセーの顔立てたるわ」

 

 結局リョウはアスカではなくメイの部屋に泊まるという形に落ち着き、今回の騒動は幕を下ろす。

 ちなみに最初は「この中で一番しっかりしていそうだから」とチトセとサトルはリオを指名していたが、本人は頑として辞退した。言葉にはしなかったが、単に『絶対面倒臭くなる』という理由で。

 

「ンじゃ、ちょっとの間だけよろしくな」

「うん! よろしくね、リョウちゃん!」

 

 人懐っこくリョウがメイに笑いかけ、握手を求める。

 思わぬ来訪者で強力なライバルではあるが、それでも仲良くなれそうな気がして、メイは元気に頷き手を握り返すのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 某日、夜。

 愛知県のとあるマンションの一室にて、数名の男女が集まって動画配信用の機材を調節していた。

 そして数刻の後、ストレートな黒い長髪で前髪をセンター分けにしている端正な顔立ちの美丈夫が、豪奢なソファーに座している男へ語りかける。

 

「御館様、配信の準備が整いました」

「よし」

 

 御館様と呼ばれたその人物は、カメラとマイクの前で足を組み、不敵に笑う。

 

「じゃあ本格的に始めるとするか。俺様の天下取り……これが、その第一手だ」

 

 男の名は鷹嶺 リクドウ。

 今、魔王と呼ばれた男が動き出す。




メダロット解説コーナー

[機体名]
モノノフティーガ

[型式番号]
MDT-STG-NG01

[性別]


[パーツ]
◆頭部:ゲッカノジンガサ(設置/射撃トラップ/なし/5回)
◆右腕:ミカヅキムネチカ(格闘/パワーソード/一騎打)
◆左腕:オボロヅキノコテ(格闘/チャージスパーク/がむしゃら)
◆脚部:ザンゲツノハカマ(二脚/クローズレンジ)

●HV:0/0/0 合計:0/1

[備考]
STG型のメダロット。モチーフは武士(サムライ)
歴代のSTG型のデータを元として新たに制作された、メダテックのニュージェネレーションズモデル。
高い機動力とチャージスパーク、クローズレンジの機能によって敵を翻弄しつつ、パワーソードの強力な一撃で斬り捨てる強力な機体。

サブスキルの一騎打は攻撃が必中になるため元より高威力のパワーソードと相性がよく、近距離であればクローズレンジの効果で威力がさらに上昇する。

本作品のオリジナルメダロット。
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