メダロットSAGA   作:正気山脈

21 / 26
「なるほど、そんなことがあったのか」

 七夕祭りが終わり、十々喜家のリビングにて。
 ミノルが警察であると聞いていたアスカは、かつて自分が被害を受けたメダロット暴走事件について話していた。
 アスカからの話をミノルは真剣に聞き、決して嘘偽りがないことを確信した上で、ひとつ尋ねる。

「心当たりとかではないんだが、ちょっと引っかかることがあるな。()()()()()()()()()()()のは間違いないのか?」
「それは、はい。見間違いとかはしてないです」
「パーツ構成も既製品と全く同じ? 別の機体のものが使われているワケじゃなく?」
「ええ、間違いないですけど……どうしてそんなことを?」

 キョトンと首を傾げていると、ミノルは唸りながら再び質問を投げた。

「逆に聞くが、君はおかしいと感じなかったのか?」
「えっ……?」
「なんで野良メダロットが()()のパーツ構成のままでいられる?」

 そこまで聞いて、アスカはハッと目を見開く。
 今まで気付かなかった違和感が、彼の言葉で認識できるようになったのだ。

「そうか……野良の場合って大抵は負けすぎたメダロッターがそのまま捨てたせいで滅茶苦茶な状態になってたり、捨てられた後に他の野良やメダロッターからパーツを奪ってるからちぐはぐになっていることの方が多いんだ!」
「ああ、そこが妙だ。そいつは本当に野良メダロットだったのか? あるいは……君は()()()()()()()()()()()()んじゃないか?」

 当時の警察官が言った、ショックによる記憶の歪曲。
 ヒパクリトに襲われたのは事実だし証拠もあるが、何か別の要因で、もっと決定的な何かの記憶を失っているのかも知れない。
 簡単な相談のつもりのはずが、思いも寄らない情報を得て、アスカは息を呑む。
 そんなやや深刻な面持ちをする少年を見て、ミノルは咳払いしつつ「まぁなんだ」と話を続けた。

「もし気になるなら……嫌じゃなければ君の地元、さっきの話だと確か千葉の方だったか? そこでちょっと調べてみれば良いんじゃないか。今の視点で見れば、分かることがあるかも知れないしな」
「そう、ですね……ありがとうございます」

 いずれ一旦実家にも帰省するつもりでいたので、アスカは頷き、ひとまず話を終える。
 そのタイミングで、廊下からサクが声をかけてきた。

「お風呂入って良いよ~」
「あ、じゃあ行ってきます」

 改めてミノルにも礼をしつつ、アスカは客間で着替えを取り、脱衣所に足を運ぶ。
 すると。
 そこには、服を全て脱ぎ終わり今まさに浴室に向かおうとしているメイの姿があった。

「……」
「……」

 目と目が合い、束の間の沈黙。
 しかし、それはすぐに扉を破らんばかりの絶叫に変わる。

『わあああああぁぁぁぁぁーっ!?』
「あ、先にメイにも声かけてたんだった」


FIGHT.21[第六天魔王]

 サイオウ市の夏祭り中、ホムラたちの前に現れたリクドウ組からの刺客、常盤 ミツヒデ。

 ホムラに向けて彼が口から出した言葉は、自陣営への勧誘だった。

 当事者の二人以外の全員が耳を疑い、眉をひそめる中、ホムラは冷静に問いを投げる。

 

「俺にテメェらの仲間になれってのか?」

「そうだ。リクドウ組には君のような猛者こそ必要なのだよ」

 

 必要。

 その言葉を耳にしてリオはますます不服そうに表情を歪め、ホムラの裾を引っ張って小声で注意を促す。

 

「騙されないでよ。なんか胡散臭い、ソイツ」

「分かってるっての、お前に言われるまでもねぇ。そもそも俺はそのリクドウをブッ倒してェんだよ」

 

 言いながら、ホムラはあくまでも強気に言い放つ。

 対するミツヒデは冷静で、その言葉を受け止め頷きつつ、それでも諭すように語り続ける。

 

「こちらとしても過去のことを水に流せとは言わない、御館様が君にしたことは私も知っている。しかし、君のような才ある強者が()()されるのは忍びないのだ」

「淘汰? 何の話だ?」

「あのお方は日本のプロメダロッター界やロボトルの行く末を憂いておられる」

 

 神を崇めるような所作で天を仰ぎ、恍惚とした顔でミツヒデは説く。

 

「君たちも知っているだろう、あの白藤 ハジメと百舌鳥 ユウトを。彼らは偉大なる先人、世界の頂点に君臨する絶対なる強者……だが、それは『日本が強い』ということではない。()()()()が強いのだ」

「……何が言いてぇ?」

「彼らは後進の育成に然程熱心ではないのだよ。全てをメダロッター育成の機関、つまりはメダリオン学園に丸投げしている。結果、有名なのはあの二人ばかりで他の日本のプロが目立たなくなってしまった」

「でも、そりゃ本人たちの実力不足じゃねェのか」

「だからこそ問題なのだ。白藤選手・百舌鳥選手の手解きさえあれば、日本のメダロッターはもっと強くなれるはずなのに。挙げ句勘違いした負け犬どもは、敗北の理由をメダルやパーツのせいにして野良メダロットを生み出す。酷い悪循環だ」

 

 ミツヒデが語った野良メダロット問題は度々議論されている内容であり、原因についても的を射ている。

 さらに日本のプロメダロッターが例の二人を除いて強いとは言い切れないのも事実。近くで聞いていたタマキやケンスケらも思わず頷いてしまいそうになるほど、彼の話術は巧みだった。

 

「故に我らリクドウ組がそのふざけた連鎖を断つ。甘え弛み切った日本プロメダロッターの地力を底上げし、我らから生き残れる強者のみを選りすぐる! そして世界に日本の、御館様の名を轟かせる! それこそが天下布武の真なる目的である!」

「……なるほどね」

「いずれ我らが日本の、行く行くは日本が真の世界の頂点に立つ。御館様がそれを可能にする。どうだ、乗り遅れる前に手を組まないか? 傍にいれば御館様に挑む機会も訪れるぞ?」

 

 歩み出て右手を差し出すミツヒデ。

 リオとユメが固唾を呑んで見守る中、ホムラはその手を――。

 

「断る」

 

 取らなかった。

 一瞬、ミツヒデはピクッと眉をしかめるも、すぐに穏やかな微笑を浮かべ問いかける。

 

「理由を聞かせて貰っても良いかな? この提案、君にとって非常に有益だったと思うが?」

「お前の案を受け入れてリクドウ組に入りゃ、戦うにはそれが一番手っ取り早いんだろうよ。実力もついて良いとこ尽くめだ。()()()()()()()()()

 

 グッと硬く拳を握り込み、ホムラは言葉を続けた。

 

「ヤツは俺に才能がないなら引っ込んでろと言いやがった。別に自分が天才だとは思っちゃいねェし、負けたのは俺が弱かったせいだ。だが……ナメられたままあの野郎のための下働きになるってのは、その言葉を受け入れてンのと同じだろうが。ふざけんなよカルトデコ野郎」

「なっ……」

「俺は俺の力でリクドウの前に立って、そしてブッ倒す。天下布武もどうでも良い、邪魔するならテメェらどころか日本中纏めて相手してやらァ」

 

 気圧されるミツヒデに、さらに握った拳を前に突き出して、ホムラは堂々と宣言する。

 

「俺は!! リクドウを超える、世界最強のメダロッターになるんだよ!!」

 

 それを聞いてミツヒデは一瞬押し黙った後、額に青筋を立てながら歯を軋ませ、口を開く。

 しかしそこに、先にリョウが割り込んだ。

 

「聞き捨てならんでホムラ。アンタが世界最強なら、ウチは銀河最強や」

 

 ビキィッ、と実際に音が鳴ったのではないかと錯覚するほどの怒りの形相になり、ミツヒデはホムラたちを睨む。

 

「どいつもこいつも……御館様を差し置いて最強を語り、憚りなしに愚弄するなど……!!」

「なんだ? 文句あんのか? だったら、()るか?」

 

 ホムラは挑発の笑みを浮かべ、メダロッチを構えた。

 するとミツヒデは、両手の拳を強く握りこんだ後にそれを解き、頭を振る。

 

「やめておこう……近々日本各地で地方統一戦が始まる、余計な情報を与える必要はない。だが覚えておけ、貴様はこの私が倒す……御館様に優勝を捧げる、その礎となるのだ」

「じゃあ覚えといてやるよ、返り討ちに遭うのお前のマヌケ面の方をな」

 

 ミツヒデは何も言わずにその場を立ち去り、ホムラたちはその背中を見送る。

 そして、気持ちを切り替えて一同は再び祭りを楽しむのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 翌日。

 愛知はミカラ市、その繁華街にて。

 ネコマタ型メダロットの『MDT-CAT-04M ツインテキャット』の背部ハッチからメダルを排出する音が響き渡り、一人の少年が膝から崩れ落ちる。

 

「勝者は鷹峰 リクドウ選手とハジュン選手!」

 

 少年の前にいるのは、魔王と呼ばれた高校生のメダロッター、鷹峰 リクドウ。

 勝敗が決してすぐに自身の機体を転送し、溜め息を吐く。

 

「俺様に挑むには速すぎたな。鍛え直せ、話にならん」

「クソォッ!」

 

 少年は目に涙を溜めて走り去り、レフェリーの女が呼び止めようとするが、もうその背中は見えなくなっていた。

 リクドウは再び短く息をつき、家路に戻っていく。

 そうして到着したのは、豪奢な和建築の邸宅。丁寧に挨拶する執事やメイドたちに適当に手を振りつつ、自室へ向かう。

 すると、部屋の中で彼と同年代の少女が正座して待っていることに気付いた。

 目鼻立ちの整った黒髪ロングに姫カット、それに白いカチューシャという出で立ちで、見た目麗しいだけでなく清楚な雰囲気を醸し出している。

 リクドウは目を丸くしつつ、その彼女へ声を掛けに向かう。

 

「シノハ、来ていたのか」

 

 少女、帯尾(オビオ) シノハは花の咲くような淑やかな笑みを見せ、丁寧に一礼する。

 

「お待ちしておりましたわ、リクドウ様。一度連絡しようとも思ったのですが、イチカさんがこうした方が面白いサプライズになると」

「まったくあいつめ……まぁ、とにかく適当にくつろいでいてくれ。すぐ使用人たちに茶を淹れさせよう」

 

 呆れたように、しかしロボトル中とは打って変わって穏やかに笑いかけ、彼女の隣に座った。

 シノハの方は頬をほのかに赤らめ、そのリクドウに寄り添う。

 直後、ノックの音の後に静かに戸が開かれた。

 現れたのは、二人よりもやや小柄な少女。リクドウと違い人当たりの良さそうな、というよりものほほんとした顔立ちだ。

 彼女は鷹峰 イチカ。リクドウの一つ年下の妹であり、別の高校の一年生である。

 

「うふふ、お帰りなさいお兄様」

「ああ。有名人は大変だ、帰宅するのにもお前たちと足並みが揃わなくなってしまう」

「私もたまにはシノハお姉様だけじゃなくてお兄様とも一緒に帰りたいですね~……あ、そうだ」

 

 僅かに声を潜め、イチカは彼の耳元で話す。

 

「ランマルくんから連絡です。滋賀出身と見られるメダロッターたちがここ愛知まで遠征、リクドウ組への誹謗中傷などで不穏な動きを見せている、とか」

「ほう……まだ俺様に楯突く気概のある者がいるか」

 

 それを聞いたリクドウは、獰猛で容赦のない『魔王』の如き笑みを見せ、数度頷く。

 

「そいつらの詳細を調査させろ。近日中に俺様が直接『挨拶』に向かう。それと、()()()を同時に進めることにする。彼女に連絡を取っておけ」

「じゃあそう伝えておきますね」

「お前もそれで良いな、ハジュン」

 

 メダロッチに向かって語りかけると、そこから尊大な声が帰って来る。

 

『ここ最近弱き者の相手ばかりで退屈していたところだ、次の相手は我もお主も楽しめれば良いな?』

「フッ、そうだな」

 

 自身の相棒にそう言いつつ、リクドウはシノハとイチカの方に向き直り、三人で談笑を始めるのであった。

 

 

 

 その翌日、リクドウはチームに所属する部下たちから情報を得て、早速行動を開始。

 近所のメダロット用パーツを販売している家電量販店で発見報告があり、青緑色の僧衣めいたユニフォームが特徴だ。

 当該の敵チームは八名ほどで、現場に駆けつけたリクドウは、彼らへ威圧感を込めて声を掛ける。

 

「見つけたぞ。確か延暦衆(えんりゃくしゅう)とか言ったな、お前ら」

 

 滋賀に集うメダロッターチーム、延暦衆。

 天下布武宣言の動画配信以前からリクドウ組を目の敵にしている集団であり、まとめ動画と称してリクドウ組やそれ以外の気に入らないチームの動向を批判的な目線で編集し自分たちのチャンネルで流したり、捏造のネット記事を投稿している。

 その上で、自分たちのことは真っ当なメダロッターであるかのように印象操作し、悪人と決めつけた相手を制裁と称してアウェーな状況を作り出して打ち負かすようなことも。しかも、どれもこれも視聴者からの支援金(投げ銭)目当てで。

 詳しい事情を知る者にとっては厄介者だが、何も知らない者からは英雄視されており、良くも悪くも注目を集めているのだ。

 延暦衆のボスらしい側頭部に入れ墨の入った坊主頭の大柄な男は、リクドウの声を聞くと前に出て来てニヤリと笑い、わざとらしく大きな声で言う。

 

「出たな、リクドウ! この極悪人が! いつまでもデカいツラできると思うなよ! 今日ここでお前をギャフンと言わせてやる!」

「フン……良い度胸だと褒めてやりたいところだが、お前たちでは実力が足らん。三人がかりでも負けるのは分かっているだろう」

「良い気になれるのも今の内だけだ! こっちはなぁ、強力な助っ人を呼んであるんだよ!」

 

 配下たちが撮影しているのを横目に見ながら、ボスは背後に向かって叫ぶ。

 

「先生、ナガマサ先生ぇ~! 出番です!」

「ウムッ」

 

 力強い返事と共に、人混みを掻き分けて一人の少年が姿を現す。

 年齢は中学生ほどで身長は160cm台。白いメッシュの入ったハネっ気のある燃え滾るような赤い髪に、同じく赤いシャツと黒いズボン。

 そして左腕には、特撮の戦隊ヒーローを思わせる変身アイテムのようなゴテゴテとした装飾がされた、赤いメダロッチを装着している。

 

「私は正義のヒーロー、筒木(ツツキ) ナガマサッ! 魔王リクドウ! 今日はお前を倒しにここへ参上したァッ! いざッ! 尋常にロボトルだッ!」

「……まぁ、やるのは良いんだが」

 

 異様に威勢と力に満ち溢れた声を張り上げるナガマサ少年を前に、リクドウは困惑しつつも延暦衆のボスの方に目を向けた。

 

「お前ら、こんなずっと年下のメダロッターを騙して頼らないと俺様と戦えないなんて、恥ずかしくないのか?」

「おぉっと! このお方をただの中学生と思って甘く見るなよ、何しろ近畿地方統一戦の優勝候補者の一人なんだからなぁ!」

「ほぉ?」

 

 それを聞くと、リクドウの唇が釣り上がる。

 強い相手ならば歓迎だ、とギラリとした目が語っていた。

 

「では少し遊んでやろうか。行くぞ、ハジュン」

「正義は決して負けないのだッ! 共に立ち向かおう、レッドッ!」

『メダロット転送!』

 

 延暦衆のボスと配下も加わり、四人のメダロットが呼び出されていく。

 ナガマサの前に現れたのは、メダライブが作った男性アイドル型メダロットの『MDL-IDL-05 ブレイブマン』で、両腕はアポロン型の『MDT-APN-00 イリアコフォース』のものになっている。

 さらにボスは一ツ目入道をモチーフとする『MDT-HMN-00 メガワンニュード』を、配下の小坊主は兵隊アリ型メダロット『MDT-WAT-00 アンタッカー』を出陣させた。

 一方、リクドウが転送したのは、頭部にU字型の角があり金縁に漆黒の装甲を持つ日本甲冑めいた姿の機体。右腕には日本刀を持ち、左手甲からは一本の銃口が伸びている。

 バイザーの下で赤いアイカメラを輝かせるそれを見て、延暦衆のボスは思わず後退りした。

 

「あの機体、新型か!?」

「紹介してやろう。こいつは『MDT-ODA-00 ロードオブヘクス』……まだ正式実装されていない、俺様用にとメダテックが用意した試供品だ。使用許可は降りているから安心しろ」

 

 ロードオブヘクスに宿ったメダル、ハジュンはくつくつと笑いながら刀を肩で担ぐ。

 ナガマサ以外の敵陣営は既に全員気圧され、雰囲気に呑まれてしまっていた。

 そこへ追い打ちをかけるかのように、一人の女がその戦場に駆けつける。

 

「おぉ~! 早速面白いことになったねみんな!」

 

 カメラを構え、愛機であるファンシーアールのヴィオラと動画撮影をしているジャノメだ。

 

「ま、まじかる☆ジャノメ!? あの有名配信者の!?」

「ちょうど少し前から取材を頼まれていたし、小細工をされてはつまらんからなぁ。呼んでおいた。そして()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり、先程の啖呵も怯える姿も全部視聴者に見られている。

 ここで逃げ出せばさらに醜態を晒されることになる、それではただの笑い者だ。

 レフェリーの女性も到着したことで、延暦衆の面々はいよいよ覚悟を決め、メダロッチを構え直した。

 

「それでは! ロボトル~~~ファイトォッ!!」

 

 その合図と共に、即座に四人は動き出す。

 

「レッドッ! チャージ開始ッ!」

「まずは小手調べだ。ハジュン、テッポウサンダン速射」

「メガワンニュードはコブシデリッスル、アンタッカーは距離を取ってどれでも良いからミサイルで援護しろ!」

 

 一ツ目の怪僧が拳を握り、アリの兵士が右腕でハジュンを狙う。

 直後、充填を終えたロードオブヘクスの左腕、テッポウサンダンが火を噴いた。

 

「はっや!?」

 

 ギョッと目を剥いて叫ぶジャノメ、そして被弾するアンタッカー。

 しかし命中した右腕は破壊されることなく、軽傷に留まった。

 

「そいつ無事か!?」

「大丈夫、速射だからあんまりダメージないみたいッスよ! これなら楽勝……」

 

 延暦衆のメダロッター二人がそんな会話をしている中。

 冷却開始と同時にハジュンの左腕についた銃口が内側に格納されると同時にその装甲部がクルリと180度回転し、そこから別の銃口が伸び出た。

 

『は!?』

「冷却完了」

 

 その尋常ならざる冷却速度に、ジャノメや対戦相手を含め全員が度肝を抜かれる。

 ロードオブヘクスの左腕、その機能はスピードライフル。貫通性能を持つ他、脚部が未破壊の場合に充填・冷却速度が大きく向上する使い勝手の良い射撃武器である。

 それに加えてテッポウサンダンの場合は速射を持ち合わせるため、威力が抑えられるとはいえ超高速の連続射撃攻撃が可能となるのだ。

 

「よし次、ヘシキリセイバーで行け」

 

 続いてハジュンは右手の刀を構え、アンタッカーに飛びかかっていく。

 先程の奇襲が効いたためかアリ兵はミサイルを外してしまい、続くメガワンニュードの攻撃も避けられてしまう。

 ヘシキリセイバーのパーツ機能はレンジゴースト。自身と敵機の距離に応じて性能が変化し、さらに敵の守りを無視した上で自身のチャージゲージの現在値に応じて威力が増す強力無比な技だ。

 これによってアンタッカーを容易く斬り伏せ、背中からメダルを吐き出させる。

 

「ぐぅ!?」

「どうした? もう諦めるのか?」

「く、ふざけんじゃねぇ! このクソ野郎! そのメダロット、絶対メダルごとブッ壊してやる!」

 

 メガワンニュードが再び戦車の足を走らせ、左拳(パワーハンマー)を握る。

 だがそこで、ナガマサが口を挟んだ。

 

「待ってくれッ! 今の発言は良くないぞッ! 我々は正義のためにこのロボトルをやっている、撤回してくれッ!」

「うるせぇよこのガキ! あのスカしたリクドウの野郎をブッ倒すために呼んだんだからさっさと働けや!」

 

 その瞬間。

 メガワンニュードの首裏の装甲の隙間に、レッドの左腕の剣が滑り込む。

 

「なっ!?」

「度重なる暴言、善性を感じられない行動の数々。間違いなく君たちは悪党だ」

 

 言いながら、ナガマサは右腕を天に掲げてヒーローのように決めポーズを魅せる。

 

「悪党は私とレッドの敵ッ! 今この場で排除させて貰ったぞッ!」

「い、イカレてんのかテメェ!? 裏切りやがって!」

「否ッ! 私は常に『正義の味方』なのだッ! つまり私を騙して正義に背く行いを取った君たちこそが裏切り者であり、許されざる悪であるッ!」

 

 再びレッドのパワーソードが頭部を貫き、メガワンニュードは完全に機能を停止した。

 一部始終を見ていたリクドウは、あまりの出来事に噴き出し、拍手さえ送って大いに笑い出す。

 

「なんだなんだ、意外と面白いヤツじゃないか!」

「勘違いしないでくれッ! リクドウ、君とのロボトルは継続しているぞッ!」

「分かってる、分かってるよ。ただ、俺様は面白いことが好きなんでね……少しお前のことが気に入りそうだ」

 

 ニィッと牙を剥いて笑い、その姿を見たナガマサは警戒心をあらわにしてメダロッチを構え、リクドウも同じく左腕を掲げる。

 大技と大技のぶつかり合う予感。観戦者たちはどよめきつつも、期待に胸を膨らませた。

 それと同時に、延暦衆の動画撮影班もカメラを構え直す。

 ここでリクドウの手の内を知ることができれば、大きなアドバンテージになるからだ。

 

「行くぞレッドッ! メダフォースを使うッ!」

「任せてくれナガマサくん!」

『うおおおおおおおおおおッ!! 今!! 愛と、勇気と、希望をひとつに束ねッ!! 最強の一振りをここに呼ぶッ!!』

 

 先に動いたのは、ナガマサとレッドだった。

 両腕のパーツが一体化して一筋の光の柱が立ち昇り、刃の形を成していく。

 

「派手な技じゃないか、面白いぞ。アレを食らうのはヤバそうだが」

「ではどうする、リクドウ」

「相手がメダフォースを抜くならば、是非もない。こちらも……」

『メダフォース発動』

 

 その言葉の直後、リクドウとハジュンの背後に六色の光の球体が浮かび上がり、六芒星を描いた後に周囲に散らばる。

 と同時に、レッドの光の剣も完成した。

 

「喰らえ魔王ッ!! 必殺ッ!! ジャアアアアアァァァァァスティスッ!! メダ!! スラアアアアアァァァァァッ――」

 

 赤く煌めく極光が、ハジュンに向かって振り下ろされる。

 

 そして、レッドは背中からメダルを吐き出して倒れ付した。

 

「……え?」

 

 誰もが何度も目を瞬かせ、呆然とする。

 

「なっ……ロボトルが終わってやがる!? なんで!?」

「ええ!? 今のちゃんと撮れてたよね!?」

 

 今、何が起きた?

 その場に集まった全員の頭にその疑問が浮かび、理解を超えた出来事に混乱する。

 落ち着いているのはリクドウとハジュンくらいで、二人は未だ困惑しているレフェリーに声をかけた。

 

「見ての通り決着はついたぞ」

「判決を下すのだ、審判」

 

 そこでようやくレフェリーは我に返り、右腕を上げて宣言する。

 

「しょ、勝者、鷹峰 リクドウ選手とハジュン選手!」

 

 レフェリーのその一言で、どよめいていたその場の空気は再び一つに纏まり、リクドウに対し拍手と歓声が送られるのであった。

 リクドウ自身は愉快げにフッと笑ってハジュンを再転送、眼を丸くしているジャノメへ声をかける。

 

「では用事も済んだことだし、取材とやらに応じるとしよう。近くのファミレスでいいか?」

「え、あ、はい」

 

 だが、そこで彼らを呼び止める者たちがいた。

 

「待てェい! リクドウ! 今の勝負、イカサマだろ!?」

 

 延暦衆である。特に味方だったはずのナガマサに呆気なくやられたボスの方は怒り心頭で、目を血走らせてリクドウを睨みつけている。

 

「言いがかりは止めろ。俺様はメダフォースを使っただけだ、そこまではお前らも見ていたはずだが?」

「それにもし現場のレフェリーでも分からないような不正があったら、ロボトル監視衛星からメダロッチに警告が出るはずでしょ? でも何も起きてないじゃん」

 

 リクドウとジャノメの指摘にボスは言葉を詰まらせ、レフェリーも問題なしと判断し、黙して頷く。

 

「そこまでにしろ、延暦衆。これ以上無様を晒して滋賀メダロッターの格を下げるな」

「ぐ……」

「まだ駄々をこねるつもりなら……私が正義の裁きを下すぞ」

 

 ナガマサから追い打ちされ、加えて観戦していた者たちからの非難の声も加わって、延暦衆は完全にアウェーとなった。

 さらに続いて、ジャノメがスマートフォンを操作して画面を見せる。

 

「っていうかもう裁き下ってるよ」

「え?」

「アンタらの動画とSNSのアカウント、絶賛大炎上中」

 

 それを聞いて延暦衆のボスは配下たちへ即座に呼びかけ、自身も急いで端末で状態を確認。

 すると、ジャノメの生配信を見た視聴者たちからのクレームが殺到している他、ネット上で今回の件だけでなく過去の行いまでもが暴露・拡散されていることが明らかになった。

 同時に突き刺さって来る、周囲からの鋭い視線。

 

「お、覚えてやがれぇぇぇ~っ!!」

 

 延暦衆のボスはそんな捨て台詞と共に、その場を走り去っていく。

 ――後にこの大炎上騒動は『延暦衆焼き討ち事件』として、リクドウ組の名をさらに広める要因となった。

 

「リクドウッ! 今回は力及ばず敗れてしまったが、次はこうはいかないッ! また会おうッ!」

 

 ナガマサもそう言い残し、堂々と歩いてその場を後にする。

 延暦衆の時と違い、彼を非難したり咎める者はいない。

 

『ヤツとはまた会いそうだな』

 

 ハジュンの言葉に首肯しつつ、リクドウもまたジャノメと共に去るのであった。

 

 

 

 十数分後。

 

「きゃっ」

「おっと、すまないッ! 怪我はないだろうかッ!」

 

 駅の方まで歩くその途中、ナガマサは一人の少女とぶつかってしまう。

 鷹峰 イチカ。ナガマサは預かり知らぬことだが、リクドウの妹だ。

 

「いえ、こちらこそ。大丈夫ですか?」

 

 自分より小柄ながら、穏やかな雰囲気と柔らかく気品のある物腰で、何より麗しい。

 そんな彼女の姿に、ナガマサが頬をほのかに赤く染めて見惚れてしまっていた。

 

「あの?」

「……可憐だッ……!!」

 

 そんな一言を漏らした後、ナガマサは愛知への滞在期間を伸ばすことを決意する。

 




メダロット解説コーナー

[機体名]
ロードオブヘクス

[型式番号]
MDT-ODA-00

[性別]


[パーツ]
◆頭部:ラクイチラクザ(補助/チャージゲージアッパー/なし/3回)
◆右腕:ヘシキリセイバー(格闘/レンジゴースト/なし)
◆左腕:テッポウサンダン(射撃/スピードライフル/速射)
◆脚部:コンイトオドシ(二脚/オートチャージ)

●HV:0/0/0 合計:0/2

[備考]
戦国武将、織田 信長をモデルとするメダテックの新型。
チャージゲージを利用した戦術に長けており、行動後に自動でエネルギー蓄積を行う性質を持つ脚部のオートチャージと、充填・冷却効率が高いスピードライフルの速射の組み合わせによって容易く溜め込むことができる。
さらにレンジゴーストは相手が近いほど命中精度成功が向上して貫通特性となり、相手が遠い場合は威力が増して全パーツ攻撃特性になる。さらにチャージゲージの現在値に応じて威力に増し、防御を無力化する特徴を持つ。
それに加え頭部にはチャージゲージアッパーを持ち、僚機にもチャージゲージ利用の技を組み込めばより凶悪な布陣を敷くことも可能である。

この機体には、まだ大きな秘密がある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。