1-3の教室の教壇に立ってそう言ったのは、白衣を纏う若い男の教師だった。
跳ね返り気味な紫黒色の髪を気にも留めず、銀縁の眼鏡を指先でかけ直し、にこやかな表情で生徒たちを見つめている。
生徒たちの揃った返事を聞いて頷きつつ、サトルは授業を始めた。
「さて。みなさんはひょっとしたら『メダロットと生物って何の関係があるんだ?』と思っているかも知れませんね。まぁ元々メダリオン学園では、メダロット関連の授業だけではなく普通の学校でも教えるような事もお話するんですが……」
目を輝かせながら、ホワイトボードの前に立つサトルは熱意の込められた声で熱弁する。
「実はメダロット、生物学と深い繋がりがあるんですよ! 今回はその辺りの事についてお勉強しましょうね!」
そう言って彼は青と赤のペンを取ると、それぞれの色で二種類の人型の機械の姿を描いていき、下に『ティンペット』の文字と性別を表記した。
「まずティンペット。メダロットたちにとっては神経のような役割を果たし、性別が分けられているという点でも生物的なのは言わずもがなですよね」
次に、サトルは自身の紫色のメダロッチを操作してホログラムスクリーンを投影、シアンドッグの姿を映像で見せる。
「次にパーツ! これは面白いですよ。パーツの内部にはナノマシンが内蔵されており、非戦闘時に限りますがオートで損傷を直してくれます。ロボトルでボロボロになっても、ある程度時間を置くと元通りになっているのはこういう事なんですよ。さて、この自動修復機能の名を『スラフシステム』と呼ぶのですが……ここで問題!」
室内の生徒たちの中から、サトルは一人の男子生徒、アスカに目をつけた。
「じゃあ日晴くん、君はこの『スラフ』の意味を知っていますか?」
すると立ち上がったアスカはやや考えた後、答えを提示する。
「『脱皮』です。確か、メダロットの構造が虫のような節足動物を参考にしている事に由来すると」
「おおっ、正解! よく勉強していますね! そう、メダロットは人体や他の哺乳類よりも、むしろ外骨格を持つ昆虫などに近い構造なんです!」
機嫌良さそうに笑うサトルは、さらに補足を続けた。
曰く、パーツに仕込まれたナノマシンには他にも役割が与えられており、ロボトル中でも両腕の射撃パーツが弾切れを起こさないのはこのナノマシンの影響である。頭部は他に重要な機能が多いため弾数制限が設けられているが、ロボトルが終わって非アクティブ状態になればこれも自動で補給されるのだ。
さらに、治療系のパーツには戦闘時でも他のナノマシンの機能を活性化させる作用があったり、設置系のパーツはナノマシンを散布する事によってトラップやプラントや支援攻撃用のドローンまでも生み出しているという。
ただしスラフシステムでも直し切れないような損傷・故障も発生する可能性があり、そういった場合はメダテックや修理業者へ修理依頼を出す必要がある。そして、そうならないような予防策として、メダロッター自身も定期的に機体をメンテナンスする必要がある。
「最後はメダルについてお話しましょう。皆さんは既にこの六角形のメダルをそれぞれ所有している事と思いますが、どこで見つかったものなのか、というのはご存知ない方もいるかも知れませんね? まぁ、詳しい部分は歴史担当の翡翠先生に譲りますが……」
サトルは自身の持つサイエンティストメダルを見せつつ、再びメダロッチを操作し、ホログラムの資料を切り替えた。
画像の資料には、古墳の中に安置されたシェルメダルや、日本製の漆の箱の中に入ったサムライメダル、西洋の城の円卓の上に並べられたナイトメダルなどが写っている。
「多くのメダルは地球上のあらゆる古代の遺跡などから発掘されたり、日本であれば大名や武士が家宝として貯蔵していたものなどで、これに関する研究は長らく続けられて来ました。こうしたいわゆる天然モノのメダルを『レアメダル』と呼びます。そのレアメダルを元にメダテックが量産した市販品は『コモンメダル』ですね」
サイエンティストメダルを指して「こちらはコモンメダルです」とサトルは言い、その上でさらに話を続けた。
「しかし、この二種類のメダルの間に大きな差はありません。どちらも自我を持ち、知性があり……私やみなさんと同じように、笑ったり怒ったり悲しんだりする。生き物と同じなんです。そしてメダルは生物同様に成長します。その結果……」
メダロッチが再び操作され、小さな蜘蛛が描かれたメダルが映像の中に表示される。
そしてサトルがまた画面を動かすと、クモメダルの図柄が大きな蜘蛛のものに変化した。
「このようにメダルの表面に刻印された図柄が変化する場合があります。虫のメダルなら幼虫からサナギになったり、獣の幼体から成体へ育ったり、ちゃんと段階を踏んでいるんですよね。この進化現象は『メダルトランスフォームシステム』と呼ばれています。この通り、メダルにも生物学的な要素があるんですね」
「先生、そのメダルの進化ってどのくらい数があるんですか?」
「良い質問ですね。具体的にひとつのメダルに何種類の進化があるのか、なぜコモンメダルも同じように絵が変化するのか、全てのメダルが進化可能なのか……という点は不明です。メダルに関しては特に謎が多く、研究は未だ続けられていますので。奥深いでしょう?」
女子生徒の質問に答え、その後もサトルの授業は続いていき。
やがて、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「では、本日の授業はここまで」
「起立! 気を付け!」
『ありがとうございました!』
それから時間は過ぎ、放課後のメダリオン学園にて。
中等部に入って初めての授業が終わり、アスカは息をついて帰り支度を整えていた。
逢留博士から指定された回数の真剣ロボトルをできなければ、貰ったパーツやティンペットは返却しなければならない。よってアスカは、今日もフリントと共にロボトルをしに行く予定である。
残りは9回。今回はどこに行こうか、ホムラも誘ってみようかなどと考えながら手を動かす。
「日晴くん!」
そうして席を立とうとしたところ、教室の入口の方から名を呼ぶ声が聞こえて来る。
見れば、そこにいるのは先日妙な二人組に絡まれていた、元気一杯な笑顔の女子生徒、メイだ。
「あ、十々喜さん。おつかれ」
「おつかれ! 一緒に遊びに行こうよ!」
「それは良いけど……え? 十々喜さんって隣のクラス、1-2なんだよね。そっちの子と遊ばなくて良いの?」
「ん? だからみんなで一緒にってこと」
キョトンとしながら互いの顔を見合う二人。
すると、彼女の後ろに続いて二人の女子生徒が入室して来た。
「メイちゃぁ~ん、堂々と他の教室に入りすぎだよぉ~」
「というか、なんでもう別のクラスの子と仲良くなってるワケ? しかも男子とか……」
片方は、黒髪ツインテールが特徴的な、色白で小柄な大人しい雰囲気の少女。もう一人は、赤毛のボブカットで口と鼻を黒いマスクで覆った、涼し気なタレ目の淡い褐色肌の少女。
メイも含めていずれも整った顔立ちで、彼女らがアスカの元に集ったため、自然と注目されてしまう。
「えっと、こんにちは……? 君たちは?」
恐らくメイと同じクラスの女子なのだろうと思いつつも、アスカは尋ねてみる。
それを受けて、メイは照れ笑いを浮かべつつ「まずは紹介からだよね」と言って二人に自己紹介を促す。
黒髪の女子生徒は緊張した様子で、マスクの女子の方は仕方なさそうに、アスカに向かって挨拶をする。
「ま、
「
「……リ、リオちゃん? ほら、もうちょっと何か……」
「やだけど」
あまりにも素っ気ない態度を取るリオという少女に苦笑いしつつ、アスカは「よろしく」と返した。
直後、そこにホムラの姿も加わる。
「なんか面白い事になってんなぁ、日晴。俺も女子と絡ませてくれよ」
「あ、狩兼」
帰り支度を既に済ませたホムラは、アスカの肩に手を乗せつつ自己紹介しようとした。
だがそれは、眉をしかめたリオによって阻まれる。
「いきなり出て来て何なのあんた、鬱陶しいんだけど」
「あ?」
「は?」
「……愛想のねぇマスク女だな」
「別にあんたなんかに愛想良くする必要ないし」
「あぁ?」
「はぁ?」
睨み合い、視線で火花を散らし合う二人。
ユメは険悪なホムラとリオの様子に慌てふためき、メイも彼らに喧嘩をしないよう呼びかけるが、二人とも応答しない。
このままでは良くないと思い、アスカは空気を変えるためにひとつ話を切り出した。
「えっと、俺はこれからどこかでロボトルしに行こうと思ってたんだけど……みんなはこれから予定とかあるの?」
メイはその話題に対し、小さく手を挙げる。
「実は日晴くんにその事で相談があって……私もまだ全然ロボトルできてないから、付き合ってくれないかな」
「わ、私もお願いしたいです! リオちゃんも言ってたよね!」
ユメに問われると、リオはホムラから視線を外して頷く。
「確かに言った。でもそれ、アタシはメイとユメだけだと思ってたんだけど」
「え~。良いじゃん、人数多い方が楽しいよ」
「はぁ……嫌なものは嫌だって――」
リオが不満を口に出そうとした、その時。
彼女のメダロッチから、諫める声が聞こえて来る。
『また喧嘩ですか?』
「う」
『友達にそんな態度でいてはいけません。父上にもしかられたでしょう、お嬢様』
「ちょ……! モーゼス、変な勘違いされるから学校でその呼び方すんなっていつも言ってるでしょ……!」
『失礼、マスター』
恥ずかしそうに赤くなった顔を押さえ、咳払いするリオ。
そしてアスカたちの方を振り返ると、溜め息混じりに頷いた。
「……ま、ロボトル経験者がアタシだけじゃ確かに教えるのは難しいよね」
「やった!」
無邪気に笑い、メイはガッツポーズを取る。その姿を見て、四人とも自然と頬をほころばせる。
傍で聞いていたホムラも、その意見に賛成した。
「よっし、そんじゃ俺も付き合ってやるよ」
「は? 頼んでないけど」
「あ?」
「は?」
再び二人が睨み合う。
このままではまた振り出しに戻ってしまうので、アスカはまた何か話題を探そうと考えるが、そこでメイが思いついたように提案を投げる。
「せっかくだからさ、紹介がてらメダロットを連れ歩いて行こうよ!」
「あ、それ賛成!」
アスカもその案に乗り、ユメも承諾。
リオとホムラもこれに同意し、一行はひとまず教室を出て校舎の外へと歩いて行った。
そんな五人の後ろ姿を、こっそりと見つめる影が三つ。
「見えましたか? あいつらです」
「あそこの男子です! 俺からパーツを取ったんですよ、姫!」
その内の二人は、先日メイにロボトルを吹っかけてアスカに撃退された、キイチとケンスケであった。
彼らの背後にいるのは、とても小柄で小学生のようにも見える少女。
しかし『姫』と呼ばれた彼女は、自分よりも体格の大きな二人にも物怖じせず、堂々とした佇まいで腰に両手を当てて鼻を鳴らした。
「あんなザコっちそうなのにやられちゃったワケェ? 姫、ガッカリかも」
「め、面目ないッス……」
「弱い者いじめは嫌いじゃないけど、退屈なのは大嫌いなの。分かってるわよね、二人とも。つまんなかったらおしおきの『悶絶電気按摩無限地獄の刑』だよぉ」
そう言って少女がカカトを床で蹴って鳴らすと、ケンスケとキイチは短い悲鳴を発して内股になって股間を両手で押さえる。
少女は彼らの様子を見て可笑しそうに口角を釣り上げ、自身の唇に人差し指をツンと当てた。
「このトライクロウズにちょっかいを出した以上、ザコザコちゃんたちにはたっぷり礼をしてあげないと……ね」
※ ※ ※ ※ ※
アスカたちが校舎を出て、約十数分後。
彼らはサイオウ市の駅前広場に集合して、それぞれメダロッチを操作して自分の機体を呼び出していた。
「じゃあ改めて。これが俺の相棒、フリントだよ。機体はローンビートルっていうんだ」
「よう! どいつがオレとロボトルするんだ! いつでも準備万端だからよ!」
「あはは、今はそういう時間じゃないよ」
隣に立ったフリントが首を傾げ、アスカはくすくすと笑う。
ユメはそんなフリントの姿をまじまじと見つめ、疑問を口に出す。
「その子のパーツ、初めて見ます……ローンビートルって名前も聞いたことがないような?」
「実はある人からこのパーツのテストを頼まれて。5月までに真剣ロボトル10戦を達成したら、貰える事になってるんだ」
「わぁ……!」
新型という言葉にユメは引かれたのか、つぶらな目を輝かせてフリントのボディに見入っていた。
それに続いて、今度はホムラが自分の相棒を見せる。
「こいつはライオンメダルのバレット、機体はマスケティアードだ」
「以後よろしく。ホムラが迷惑をかけていなければいいが」
「お前なぁ……」
尊大なバレットの口振りにやや肩を落とし、呆れ顔になるホムラ。
次は、メイが「はいはいはーい!」と挙手をした。
彼女の傍にいるのは、金色のツインテールの髪を模したような大きな頭部が特徴的な、女の子の姿をしたメダロットだ。右腕は赤いギター型の剣で、左腕も同じくギターのペグのような形状になっている。
「この子はハクビシンメダルのリリーだよ!」
「こんにちは、リリーです!」
元気良く挨拶をするリリーと、彼女に後ろから抱きつくメイ。
二人の笑い合う姿を眺めつつ、アスカは使用されているパーツを見て頷く。
「頭部と脚部が色を変えた『MDT-BLZ-00 ブレザーメイツ』で両腕は『MDL-GBG-00 フレットビート』か、なるほどね」
MDLとは、音楽・芸能会社にしてメダテックの関連企業『メダライブ』の企業番号のこと。
楽器をモチーフとした機体の『MDT-SNG-00 ボリュームテン』を開発したグループがメダロット製造に携わっており、ロボトルに運用するだけではなく『魅せる』ことを目的とした、アイドル型の機体やガールズバンド型の機体などを生み出している。
数々の芸能人を抱える会社でもあり、動画配信サイト『M-Tube』の配信者も所属している。ホムラが好むジャノメもこの会社の配信者で、さらにメダロッターだけではなくここで開発された一部のメダロットも――正式販売前のテストも兼ねて――動画配信者として活動しているのだ。
「ほんとはシュシュポップちゃんとかリアリラちゃんとかのパーツも使ってみたいんだけどねー、高いんだよねあの辺は」
「中学生が買うには厳しいよねぇ……しかも中々売ってない。流石、配信者メダロットのパーツだよ」
リリーを抱きしめながら、メイはアスカと共に苦笑する。
続いて機体を紹介するのは、ユメだ。
「え、えっと……私のはドリームメダルのベアちゃん、使ってるのはアレクベアのパーツです!」
「どうもクマ~」
そう言って両手を緩やかに振るのは、ピンク色のテディベア型のメダロット『MDT-BER-01 アレクベア』だった。
最後に残ったのはリオの機体。斧と盾を持つ、牛角のメダロット。
「はい、自己紹介」
「ウシメダルのモーゼスと申します。機体としては『MDT-MTR-00 アステリオス』のパーツをお嬢様から頂いております、今後ともどうぞよろしく」
「だからお嬢様って呼ぶのやめなさいよ……」
ぼやきながら、リオは呆れ顔で頭を押さえる。そして、まるで罪を釈明するかのように、アスカたちへ説明を始めた。
「別に良い家柄とかそういうんじゃないから、アタシん家。こいつが変に礼儀正しいだけだから。勘違いしないで、マジで」
「お、おう」
ホムラもモーゼスの態度にやや困惑気味になりつつ、パンパンと手を叩いて注目を集める。
「じゃあ俺が審判するからよ、チームロボトルの練習でもしてみるか?」
『チームロボトル?』
ユメとメイが声を揃え、小首を傾げた。彼女らのメダロットたちも同様だ。
そこで真っ先に解説を行うのは、アスカだった。
「複数のマスターとメダロットで行うロボトルのレギュレーションだね。マスター一人につき使うメダロットは一体まで、それで最大3vs3のロボトルをするんだ」
「一人で自分のメダロット三体に指示をしない分、マスターにかかる負担は少ない。が、チームメイトのメダロットにはそれぞれ直接的な指示を出せないから、連携の難易度はどうしても上がっちまう」
「だから、具体的な事を言わず如何に味方と息を合わせられるかが重要になってくるんだ」
なるほど、とメイたちが納得の声を上げる。
そして、ホムラは再び彼らに問いかけた。
「というワケで……誰と誰が組むよ?」
すると即座に挙手したのは、眉間にシワを寄せたリオだ。
「アタシは男子と組むの嫌だから」
「じゃあ日晴くん、私と組もー!」
「ならユメはアタシとね」
アスカ&フリントとメイ&リリー、リオ&モーゼスとユメ&ベアの二つのチームが作られ、彼らは対戦相手の方に向かい合う。
ひとまず対戦準備は整った。ホムラがレフェリーの代わりに間に立ち、試合開始の合図を出そうとした、その時。
「ちょっと待った!」
何者かによって、その練習ロボトルに制止がかけられる。
見れば、そこにいたのは一行と同じくメダリオン学園中等部一年生の制服を纏う生徒たち三人。しかも、その内の二人は先日アスカたちが出会った宮間 ケンスケと橋太 キイチである。
「そのロボトル、姫が介入しちゃうわよぉ」
だが声を掛けたのはその二人ではなく、彼らの間に立つ少女だった。
長い髪はオレンジ色で猫耳のような形状にアレンジされており、瞳は赤で目の形はアーモンド型。女子中学生としてはやや身長の低いユメよりもさらに小さく、小学生と言われても納得してしまいそうな華奢で可愛らしい容姿だ。
彼女は自身に満ち溢れた表情で笑みを浮かべ、アスカたちを見つめている。
そんな少女を見て、フリントは首を傾げた。
「なんだ? このチビは」
「こら! 姫に向かってチビとはなんだ!」
「いやンな事言われてもこいつの事知らねぇし」
「こいつと呼ぶのも禁止!」
ビシッ、とケンスケが一行を指で差す。
さらにキイチは隣で地に膝を付き、ケンスケと共にポーズを決めて少女を紹介した。
「こちらの御方は
その紹介を受けた少女、タマキは自らの腕を組んで不敵に笑う。
だが、それを見ていた五人と五機、特にリオの反応は冷ややかなものだった。
「最強って……その割に全然聞いたことないわよそのチーム名、自称最強でしょ絶対に」
「あ~ら、そうでもないわよぉ? 姫、実績は上げてる方だし~。ま、そっちの『あなた』に比べればそれほどでもないかも知れないけどぉ」
そう言ってタマキが人差し指を突きつけた相手、それはホムラだ。
アスカやメイたちは、その意味を理解できず顔を見合わせる。一方で、本人であるホムラは目を細めていた。
「あらららら、もしかして知らないでその子の取り巻きになってたのぉ? やっば! 情報戦ザコザコちゃんじゃ~ん!」
「笑えますねぇ!」
「じゃあ教えてあげる。彼は『百発百獣』の狩兼 ホムラ。愛知県出身で、中部の方だとそこそこ有名なメダロッターよ。まぁ、あの辺は元々結構な強豪揃いだけど~」
そこまで聞いてホムラは面倒臭そうに鼻を鳴らし、舌打ちする。
「まさか俺の事を知ってるヤツがいるとはな」
「フフン! 姫の情報網を甘く見ないでよね」
「で? 用件は何だよ、結局よ」
タマキは首を左右に振り、笑いながら人差し指を自身の唇に押し当てた。
「実を言うと本当に用があるのは、そっちの子のローンビートルってメダロットの方」
「あぁ? オレかぁ?」
「姫の下僕に恥をかかせてくれたみたいじゃない? だから、その埋め合わせにあなたのパーツを貰う事にした……チームロボトルでね!」
言って、トライクロウズの三人は各々自分のメダロットを呼び出す。
キイチはミドリガメ型の『MDT-TOT-04 クロムトータス』で、タマキの方は左右で腕の形状が異なる赤いネコメダロットの『MDT-CAT-03 デンキャット』。その二機の後ろに隠れるようにして、ケンスケの
「フン、なるほどなぁ。どうやらこいつら、相当根に持ってるみたいだぜ。どうするよお前ら?」
やる気に満ちたトライクロウズの面々を前に、ホムラがアスカとフリントを振り向いて問いかけた。
だが聞かれるまでもなく、彼らも既に戦意を滾らせている。
「……やるよ、フリント!」
「おうよ!」
意気込んでホムラの隣に並ぶ二人、そこにさらにもう二人加わった。
「よーし! じゃあ今回は私とリリーも一緒に戦うよ!」
メイとリリーだ。アスカとフリントのペアの横に立ち、無邪気に笑顔を見せている。
即席チームとトライクロウズの戦意がぶつかり合って火花を散らす、その時。
「合意と見てよろしいですね!?」
モモンガのように颯爽と上空から降りて来たのは、レフェリーのMs.オオルリだ。
ピッタリとしたウイングスーツに身を包んでおり、魅惑的なボディラインが強調されているため、ホムラだけでなくアスカも思わず目を奪われていた。
しかしその視線を意に介する事なく、オオルリは話を続ける。
「今回は三対三のチームロボトルになります! 双方、リーダー機を決めて準備を終えて下さい!」
六人とも頷き、メダロッチを構える。
残ったユメとリオ、そしてベアとモーゼスがアスカチームの応援に入り、オオルリは片手を大きく挙げた。
「それでは! ロボトル――ファイトォーッ!!」
腕が振り下ろされた瞬間、即座にホムラが行動に移る。
「バレット、パターンA開始」
「了解」
短いやり取りの後に充填が終わり、ハットを被ったような形状の獅子の頭部から、薄い青色の光の粒が放たれる。
そしてその粒子が浮遊し発光する球体を作り出し、その場からゆっくりと漂い始めた。
「マスケティアードの
「チェッ、厄介ですね!」
トラップとは、メダロットがナノマシンを散布して形成する、特定の行動に反応して作動する設置物の事である。
基本的に敵機にダメージを与えるか行動を妨害する機能を持ち、この脚部トラップは全てのパーツ使用に対して発動して脚部へ損傷を与えるのだ。
ただし、このトラップのような設置行動には欠点もある。
「オイラに任せて下さい! やれガメス!」
「んんんんん!! うおぉぉぉぉぉ!!」
そう叫ぶなり、キイチの相棒であるガメスが右腕からレーザーを放つ。
対象はメダロットたちではなく、設置された光球だ。
光線は容易くトラップを撃ち抜いて破壊するが、その攻撃行動によってガメスの脚部も火花を噴く。
「フン、トラップなんて破壊して解除しちまえば問題ないぜ。戦車脚部は頑丈だからオイラから動けば損害もほとんどない。今ですぜ姫! ケンスケ!」
言うが早いか、二人は各々メダロットへ指示を送った。
「ヴァヴァ! エイムライフルをお見舞いしてやれ!」
「チャッタちゃん! ヨコガキーがむしゃらでやっちゃって!」
ブルースドッグとデンキャットが、それぞれ右腕の銃と左腕の電撃でバレットへと仕掛けに行く。
一番実力が高いと思われる彼がリーダーと見ての行動である。だがそこへ、二つの機影が割り込んだ。
言うまでもなく、フリントとリリーだった。
「これがチーム戦だってこと、忘れてないよね?」
「喰らいな!」
《ビリーザハット、充填完了》
「リリー! ゴーゴー!」
「いっきますよぉ!」
《CG20%消費。ギターソード、充填完了》
疾走するリリーの背後にミサイルが飛来し、彼女の跳躍と同時に弾はチャッタへと向かう。
攻撃を一時中断して雷撃によってミサイルを打ち落とすものの、爆風は近くにいたヴァヴァごと機体の装甲を焼いた。
さらにリリーは右腕のビームを纏うギター型の剣を、遠距離から射撃していたガメスに向けて落下しながら突き出す。
斬撃はミドリガメの脚部に少なくない傷を追わせ、中破させた。
続いてバレットの左腕の銃撃がチャッタを襲うものの、これは素早い身のこなしで回避されてしまい、代わりにガメスが受ける。
「ふふん、足手まといのクセに即席コンビネーションなんて……やるじゃない」
タマキは余裕を装ってそう言いつつ、自機と味方機の損傷を手早く確認した後、ケンスケへと目配せする。
それに頷くと、ケンスケはニヤリと唇を釣り上げて指示を送った。
「やるぞヴァヴァ! 左腕パーツ使用!」
「OKマスター、今こそリベンジの時!」
瞬間、ブルースドッグの姿が消失。残る二機も、同じように見えなくなっていく。
当然それを見たアスカチームは、大いに動揺していた。
「えっ!? どうなったの!?」
「消えた!? まさかコンシール!?」
「ンなバカな! ブルースドッグにそんなパーツ……!」
そこまで口走った直後、ホムラはハッと目を見開く。
「そうか……アイツの左腕! 別の機体のパーツを使ってんのか!」
「御名答、セブンカラーズのインビジアームさ。形状も似てるし、色も変えちまえば遠目に見ても分からないだろうからなぁ……」
「言われてみりゃ、さっきから目立たないように立ち回ったり遠距離から撃ってやがったな……全部パーツを隠すためか! クソッ、見落とした!」
完全に姿が消えたワケではなく、やや半透明なので視覚的に形を捉える事はできる。しかしレーダーにも反応しなくなっているため、狙いをつけるのは困難だ。
そして、向こう側は当然攻撃を仕掛ける事ができる。タンッ、という跳躍音と共に、電光がフリントの背に叩き込まれた。
「ぐああああ!!」
《ローンビートル、脚部・左腕・右腕・頭部パーツに中度ダメージ》
「フリント! これはマズい……!」
電撃を放つチャッタを振り解こうと撃ちながらもがくフリント、しかし相手側もすぐに彼の身体を蹴って逃げたため、攻撃は命中せずに終わる。
コンシールの効果時間は然程長くはないが、手をこまねいていては先に敗北するのは間違いなくアスカチームの方だ。
そう考えたホムラは、すぐにメダロッチで指令を出す。
「バレット、もういっぺんパターンAだ!」
「了解!」
再度光粒子がマスケティアードの頭部から散布され、光球が生み出された。
キイチはそれを見て、嘲るように鼻を鳴らす。
「なるほど。確かにトラップならコンシールでもダメージは出るが……意味ねぇって言ったろ! ガメス!」
「うおおおおおおお!!」
彼らの目にはハッキリと位置が見えていないが、ガメスの右腕にレーザーが充填され、光球に照準が向けられる。
瞬間、ホムラはニィッと笑い、タマキが背筋を震わせた。
「バカ! やめなさいキイチ!」
「もう遅ぇよ」
そして、レーザーが放たれた。
光球は砕かれ、ガメスの脚部にまたも火花が散る。
キイチは何も問題など起こるはずはない、と考えていた。なぜなら、ガメスは常に移動しながら攻撃しており、パーツ冷却中の今も居場所を悟られないよう発射地点から動いているからだ。
だが。そんなガメスの目前に、バレットは右腕のロレンツバレルを突きつけて立ち塞がっていた。
「え」
愕然とするキイチとガメス。
充填完了のアナウンスがメダロッチから聞こえ、ホムラは告げる。
「バレット、ターゲット・ロック」
「シュート!」
電磁加速によって撃ち出された銃弾が、咄嗟に身構えたガメスの防御を無視して頭部を貫く。
《右腕・頭部パーツに重度ダメージ。機能停止》
「そ、そんな……なんで!?」
「ヘッ、そいつの脚をよく見てみな」
言われるまま、キイチはガメスの脚部に目をやる。
そして、ハッと顔を強張らせた。
ガメスの脚からは黒い煙が出ている。頑丈な戦車パーツと言えど、度重なる被弾とトラップのダメージで内部に異常が起きたのだろう。これによって、コンシールの発動下であっても位置を把握されてしまったのだ。
「し、しまった……!」
「よし、あと二体だぜ」
ホムラはチームメイトの二人を振り返りながらそう言って、サムズアップする。
対して、トライクロウズのリーダーたるタマキは怒り心頭といった様子で、饅頭でも詰めているのかという程に頬を膨らませていた。
「姫が優しく嬲ってたら調子に乗ってぇ!! チャッタちゃん、ライオンの方を集中攻撃!!」
「うんっ!」
「それとキイチは後でお仕置き決定!! 金的10発!!」
「ひぃぃぃ!?」
キイチが手で股間を押さえて悲鳴を上げ、ケンスケも同じく恐怖で震え上がる。
直後、バレットの背後で右手のコンセント状のパーツに電気を溜めてチャッタの姿が、全員の目に晒された。
「コンシールが解けた! 今なら!」
「させるかよ!」
そう叫んだのはヴァヴァだ。事前にケンスケから受けた指示で、充填完了したインビジアームを即座に起動する。
これによって再びコンシールが発動、反撃しようとしていたバレットの銃撃も外れてしまい、電流が身体に流し込まれた。
しかしそれだけでは終わらず、バレットのバイザーがブラックアウトし、その場で動きが止まってしまう。
「マズい、サンダー攻撃の停止症状……!」
「ふふ~ん! これで、リーダー機は無防備ねぇ?」
姿も見えず、攻撃を受けると一時的に動きを止められてしまう機能を持つパーツを使う素早い敵。
この難所をどうやって脱するか。アスカは悩み、額から汗を垂らす。
「えーとえーと……そうだ、確かリリーの使ってるパーツなら!」
ふと、メイがそんな声を上げてパートナーへと指示を送った。
するとリリーの頭部パーツであるベストのツインテール部が展開し、巨大なレーダーに変形する。
瞬間、ヴァヴァたちのコンシールが解除されると同時に、今度はフリントたちの方の姿が消失した。
「え!?」
「そうか、サイバーコア!」
メダロットの持つ補助技、サイバーコア。
コンシールの機能に加え、敵機のステルスやコンシールを無力化して自軍の攻撃の命中精度を引き上げるレーダーサイトを複合したものである。
これによって、逆にチャッタたちの方がアスカチームの機体を見失う羽目になった。
「ひ、姫ぇ!? どうします!?」
「んみゃ、みゃみゃみゃみゃみゃ……」
慌てふためくケンスケとタマキ。チャッタとヴァヴァも、困惑して攻撃ができないでいる。
その間に態勢を立て直したアスカチームは、一斉に自分のメダロットへ攻撃を指示した。
「バレット、ターゲット・ロック!」
「いっけーリリー!」
「フリント! ここで決めるんだ!」
フリントのラピッドバルカン、リリーのギターソード、バレットのホルンシューターによる総攻撃で、チャッタとヴァヴァは大破。
あっという間に二機とも頭部を砕かれ、メダルを吐き出す結果となった。
「機能停止ー! 勝者、日晴 アスカチーム!」
オオルリの宣言により試合は終了し、タマキは地に膝をつく。
敗北がよほどショックだったのか、その目には涙が溜まっていた。
「姫、負けるのヤなのに……ヤなのにぃぃぃ!!」
「あわわ……ひ、姫がご立腹……」
「覚えてなさいよ!! この屈辱は絶対晴らしてやるんだからぁ!!」
指を突きつけて叫び散らし、タマキは大きな足音を立てながら去っていく。
途中でケンスケとキイチが慰めようとするが、タマキによって股間を蹴り上げられ、二人ともその場で跳ねて悶絶していた。
そんな彼らの後ろ姿を苦笑いしながら眺めていると、フリントがアスカを見上げて声をかける。
「なぁ、対戦相手の人数を数えるなら、今ので一気に二人分で計算されるんじゃねぇか?」
「そっか! じゃあ残りは7回だね!」
「このまま一気にロボトルして行こうぜ!」
二人は意気込み、互いの腕と腕でタッチし合う。
そしてそのまま、街のメダロッターたちへロボトルを挑みに向かうのであった。
アスカチームとタマキチームのロボトルが終わった後。
一人の銀髪の少年が、彼らの様子を遠巻きに眺めていた。
「例のカブトメダルとローンビートル……マスターが見つかったんだね」
そう呟いた少年の傍らには、頭部に二本の青いツノが付いた白いメダロットが一機。
忍者装束を思わせるようなシルエットで、右腕には苦無のような形状の刃、左腕には六角形の分銅のようなものを装備し、首には赤いマフラーを巻いている。
「帰ろうか、キバマル。今日のところは彼に用事はない」
「御意」
短く返答し、キバマルと呼ばれたそのメダロットは少年の後に続いて歩いていく。