メダロットSAGA   作:正気山脈

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「はぁい、みんなこんメダ~! 初見さんははじメダぁ~! ロボトル大好きみんなのアイドル、まじかる☆ジャノメだよ~!」

 紫色のファンシーエールが持つカメラの前で、M-Tuberのジャノメは明るく笑顔を振りまく。
 背景はいつものピンク色で敷き詰められた部屋ではなく、快晴の空の下、商店街を歩いている。

「今日は特別にね、外からライブ配信でお送りしてます! その理由はね~、私が激推してるプロメダロッターの方とのコラボ配信が実現しちゃったからなんですよね~! どんどんぱふぱふ~!」

 効果音を自分の口で発しながら、鼻歌交じりに目的地までスキップするジャノメ。
 そして家電量販店の前まで来ると、再びカメラに振り返って笑って見せる。

「分かる人にはもう分かっちゃうかな~? そう、ここは強豪メダロッターが多く集う中部地方! お米と海産物の美味しい新潟! じゃあ今回のゲスト様、かも~ん!」

 ウィーン、という音と共に店の自動ドアが開くと、そこから女性がひとり姿を現す。
 艷やかな黒髪を腰まで真っ直ぐに伸ばし、理知的な雰囲気を漂わせる切れ長の眼が特徴的で、肌は白く滑らか。服装は白いジャケットに青のシャツ、そしてジーンズという男性的なスタイルだ。
 キリッと整った眉や形の良いピンク色の唇は、異性だけでなくむしろ同性の目を主に惹き付けるような魅力に溢れている。
 カメラの方に気づくと、その女はそちらに向かって深くお辞儀をした。

「初めまして。私の名は姫鶴(ヒメヅル) テルコ、20歳だ。ここ新潟でプロメダロッターとして活動している。今回はよろしく頼む」
「よろしくですぅ! いやぁマジ感激ですよー! メダロッター界隈屈指のイケ女とこうして共演できるなんて夢みたい!」

 まるで武士のような佇まいをしていたテルコだが、その言葉を聞くとクスリと微笑み、そっとジャノメの耳に口を近づける。

「そういう君も、美しいよ。こちらこそ嬉しい限りだ」
「ンァオゥッ……!?」

 テルコの囁き声を聞いてジャノメは耳まで真っ赤になって悶え、ヨダレを垂らしながら「最高のファンサありがとうございます! ありがとうございます!」と何度も繰り返し礼を口走った。

「さ、さて! みんなはプロメダロッターがどんな事をしてるかってもちろん知ってるよね! ロボトルの試合自体を職業としてお金を稼いでる人たちで、全日本ロボトルリーグみたいな大きな大会にも出てるよ!」
「うむ。トレーニングと体調管理も仕事の内、たまに取材を受けたりもするな。世界大会にはまだ出場した事はないが……いつか国外の英傑たちと戦ってみたいものだ」

 腕を組み、口元にフッと笑みを見せて空を見上げるテルコ。

「寝言を抜かすな。世界を穫るのはこの俺だ」

 その直後に、彼女の背後から身長2mを超える筋肉質な体躯の男が現れた。
 髪は茶色で短く、桜の柄が入った藍色のシャツの上にカーキグリーンの上着を肩にかけ、黒いズボンを履いている。
 精悍な顔立ちで如何にも漢らしい出で立ちのその人物を見ると、ジャノメは目を丸くした。

「こ、この方は……姫鶴選手の永遠のライバル! 新潟の『龍』に対する山梨の『虎』! 甲斐頭(カイツブリ) ハルノブ選手ぅ!?」

 ハルノブと呼ばれた男を見るなり、先程までの涼し気な態度から一変して、テルコは露骨に眉をしかめる。

「デカブツめ。さっさと帰れ、貴様がいると画面がむさ苦しくなる。というかなぜここにいる」
「親戚へ挨拶に来た、ただの偶然だ……それよりお嬢さん、コラボなら俺としないか。誰でも理解できるようなロボトルの戦略・戦術講座をしよう」
「フン! 先日私に負けたクセに、よくもそんな事を言えたものだな。それだけ体がデカいと頭が悪くなるのか?」
「過去の事を掘り返す余裕があるとは驚きだ、新潟の龍殿はたった一度の勝利にあぐらを掻くのが得意らしい。こんな女の話など聞く必要はない、視聴者もそう思っているだろう」

 ジャノメを挟んで罵りあった後、睨み合う二人。
 次の瞬間、同時にメダロットを転送し、一瞬の内にロボトルの準備を始める。
 テルコの方は毘沙門天をモデルとしている、ムカデに跨る戦車脚部メダロットの『MDT-SFJ-04 ビシャモクベーラ』。
 ハルノブが操るのは、両腕を『MDT-SAM-00 サムライ』のものに変更して武士のような装いにしているサーベルタイガー型メダロット『MDT-STG-04 セイヴァタリス』だ。

「黙らんのならその口を閉ざしてやる、ウドの大木が!」
「やれるものならやってみろ、ド貧乳め!」
「それはセクハラだぞ! セクハラジジイ!」
「同い年だろうが! 俺をジジイと呼ぶのなら貴様はババアだ!」
「……言ったな貴様ァ!」
「自分で吐いたセリフだマヌケ!」

 そうして始まる、ライバル同士の激しいロボトル。
 ――この日のジャノメのライブ配信は、内容だけでなく視聴者数なども含め、色々な意味で『伝説』となった……。


FIGHT.06[怪奇! メダロットサーカス!]

 アスカたちがメダテックの研究所でマリンとロボトルした、その翌日の昼休み。

 今までの元気を取り戻した彼を見て、すぐさま大型犬のように彼に飛びついたのはメイだ。

 

「日晴く~んっ!」

「わぷっ!?」

 

 昼食後に会うなり、人目も気にせず突然の抱擁。

 周りからは奇異の視線が送られるが、彼女はそれも構わず力強くアスカを抱きしめ、頭頂に頬を擦りつける。

 

「えへへ~、元気になってくれてほんとに良かった~!」

「ちょ、ちょっと……十々喜さん、苦しいし恥ずかしいよ……!」

 

 かぁっと耳まで顔が赤くなるのを自分でも感じながら、彼女の腕を外そうと藻掻くが、ガッチリ固められて全く剥がれない。

 そんなメイから逃さないとばかりに完全にホールドされているアスカの姿を眺めながら、ユメとリオは生暖かい視線を送っている。

 

「良かったねメイちゃん、ずっと心配してたもんね」

「でもあんたが元気になってどうすんの……」

 

 ただし、リオはやや呆れ顔であったが。

 ホムラはというと、助け舟を出すかのようにメイへ落ち着くよう促し、拘束から解かれたアスカへ問いかけた。

 

「次は勝てそうか? アイツに」

「それはまだ分からないよ。でも、勝ちたいと思ってる」

「上等だ」

 

 フッと安心したような笑みを見せ、ホムラは彼の肩にポンと手を乗せる。

 またみんなで楽しく話せるのだ。そう思うと、アスカ自身も気分が弾むようであった。

 彼らはしばらく他愛のない雑談をして、その途中でふとアスカは質問を投げる。

 

「そういえば、みんなメダルは全部でいくつ持ってるの?」

「私は1枚だけだよ!」

 

 手を挙げたメイが真っ先に言って、その後順番にユメ・リオ・ホムラが答えていく。

 

「わ、私も」

「2枚」

「俺は5枚だな」

 

 一人だけ、ホムラだけ明らかに数が違う。

 そう思って目を丸くしつつも、再びアスカは尋ねた。

 

「じゃあ狩兼と久稲さん、二人はどうやってメダルを手に入れたの? 高かったり目当てのものが売ってなかったりするんだけど……」

「別に。モーゼスのメダル以外は、店に寄ったら普通にあったから買っただけ」

 

 リオがマスクの内の表情を変えず素っ気なく応える一方、ホムラは腕を組んで思い出そうとしているように虚空を見上げている。

 

「俺のは大会の優勝賞品だなぁ」

「大会!? 優勝!?」

「そう驚くほど大したモンじゃねぇよ、地元のちょっとしたロボトル大会だ。天山(てんさん)杯や天領杯とは違う」

 

 天山杯とは、夏季全日本ロボトルリーグを指す名称である。

 冬季に開催される天領杯と違って、こちらの形式はマスター一人につき一機のメダロットで戦うチームロボトル。しかも通常の3対3ではなく、5対5という大規模な特殊レギュレーションで行われるのだ。

 

「メダルって大会の賞品にもなってるんだ」

「大抵はパーツだけど、たまにな。でもどうしたんだ、いきなりメダルの話するってのは」

「実は色々あって女型のティンペットとパーツが手に入ったから、メダルも欲しいな~って」

 

 パーツと相性が良いメダルであるのが望ましいが、簡単に目当てのものが手に入るとは限らないというのはアスカ自身が身を以て知っている。

 ホムラはそれを聞いた後で、ふと顔を上げて「そういえば」と続けた。

 

「今度駅のショッピングモールで開催する大会の優勝賞品がメダルだったな」

「え、そうなの!?」

「ああ。レギュレーションはマスター一人にメダロット一機の1on1、お前にとっちゃうってつけの条件だし、参加してみねぇか?」

 

 ひょっとしたら求めているメダルが手に入るかも知れない。

 そう考えたアスカは、ホムラの提案に頷く。

 

「ありがとう。やってみるよ、狩兼」

「ヘヘッ、そう来ねぇとな。放課後になったら申請しに行こうぜ」

 

 その後チャイムが鳴る前にその場は解散となり、メイたちは教室を去って行った。

 部屋の外で、三人の生徒が聞き耳を立てていた事にも気づかずに。

 

「姫、聞きました? あいつら大会に出るらしいですよ!」

「俺たちも参加して打ち負かして、ついでにメダルもゲットしちゃいましょうよ!」

 

 ケンスケとキイチ、そしてリーダーのタマキ、チームトライクロウズだ。

 タマキは唇を釣り上げ、大きく首肯した。

 

「良いじゃない。ここらで雪辱を晴らしちゃうわよぉ」

『おぉー!』

 

 意気揚々と拳を掲げる三人。

 こうして各々思惑を胸に秘め、時間は過ぎ……。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 数日後、大会当日。

 

「えっ、狩兼も出場するの!?」

 

 会場となった遊具のあるショッピングモール屋上の選手待機用ベンチで、アスカはそんな声を発する。

 その場にはホムラやメイ、リオとユメの姿があり、しかも応援ではなく選手登録を済ませて参上していた。

 

「言わなかったか? じゃあ今から言っとくが、当たっても手加減はしないぜ?」

「私もユメちゃんもリオちゃんも出るよ~!」

「十々喜さんたちも!?」

『こりゃうかうかしてらんねぇなぁ!』

 

 メダロッチから聞こえてくるフリントの声に唸りつつも、アスカは諦めたように溜め息を吐く。

 

「まぁ、いつかは狩兼と真剣にロボトルしたいなって思ってたんだ。これは良い機会かも知れないね」

「そういうこった。んじゃ、俺と当たるまで負けんなよ」

 

 ホムラはそう言って背中越しに手を振り、待機する。

 集まった参加者は、自分たちを含めて16人。

 アスカは自分たち五人以外にもトライクロウズの姿と、スーツ姿の男が三人、残りは男子小学生や女子高生、大人だけでなく老齢の男も混じっている。

 

「……あれ?」

 

 その参加者の大人たちの中の一人、灰色の髪の大男を見つけて、アスカは首を傾げた。

 どこかで見たような――。

 

『アスカ、そろそろ始まるぜ』

「あ、うん!」

 

 疑問を一度頭の片隅に置いて、アスカは屋上のロボトルコートの方に視線をやる。

 そこには、いつものレフェリー衣装を身に纏うオオルリがいた。

 

「皆さんお待ちかねぇ! これより、ショップロボトルトーナメント 春の部を開催します! お集まりいただいた16名の参加者の皆様、正々堂々スポーツマンシップに則ってロボトルしましょう!」

 

 ワイシャツのボタンがはち切れそうな程に胸を反らし、彼女は宣言を行う。

 そして、最初の対戦カードがオオルリの口から発表された。

 選ばれたメダロッターはアスカとタマキ。

 二人は早速ステージへ歩き、対峙する形で立つタマキはくすくすと笑みを見せ、右手の指でアスカを差す。

 

「じゃっじゃ~ん、驚いたでしょ? メダルゲットを邪魔しに来たわよぉ」

「いや、参加者の中にいるのは分かってたから特に驚きはしなかったけど……」

「……生意気ぃ!! 絶対けちょんけちょんにしてやるんだからぁ!!」

 

 これでもかとばかりに頬を膨らませたタマキが自らのメダロッチを構え、同じくアスカも叫ぶ。

 

『メダロット、転送!』

 

 音声入力によって二人のメダロットが呼び出され、役者は揃う。

 

「行くよ、フリント!」

「おう!」

「チャッタちゃん、やっつけちゃって!」

「はいです!」

 

 今回、フリントの左腕には『MDT-BAN-00 バンカラン』のスエットクロークが、チャッタには『MDT-CAT-04F ルージュカッツェ』の右腕パーツであるエクレールが装備されている。

 パーツ構成も含めた準備の完了を確認し、オオルリは勢いよく右腕を振り上げた。

 

「それでは! ロボトルゥゥゥゥゥファイ……」

『キキィーッ!』

 

 だが戦闘開始の宣言をする直前、コートの()から奇声と共に転送音が聞こえ、複数種のメダロットが何体も飛び出して来る。

 欠けたデザインの剣や盾を装備している緑の鬼に、両腕がペダルで脚部が一輪車となっているオレンジ色の機体、さらにコウモリを彷彿とさせる飛行パーツを付けている道化師のメダロットだ。

 それぞれ『MDT-GOB-00 ボロゴブリン』と『MDT-BIC-00 ワンホイール』に、脚部のみ『MDT-BAT-01 ゴーフバレット』のグレイブとなっている『MDT-PIE-00 マジカルピエロ』であった。

 

「えっ!?」

「なによこいつら!?」

 

 突然の事態にアスカもタマキも困惑し、会場も騒然となる。

 そのタイミングを見計らって、参加者の中にいたスーツ姿の男たちと、女性を含む一部の観客が自らの羽織るジャケットをガバッと脱ぎ捨てた。

 するとその姿は、サーカス団員を思わせる奇抜なメイクを施された黒羊の覆面と、派手な衣装で着飾った怪人物へと瞬く間に変貌を果たす。

 

「ヒイィィィッヤッホォォォウウウウウーッ!」

「この大会は俺たち『エスケイプ』がジャックした!」

「大会の景品と参加者のメダロット、纏めて全部私たちが頂いて行くわよ!」

 

 言いながら異様な集団はメダロットたちに指示を送り、会場を滅茶苦茶に破壊し始める。

 たちまち観客たちは大混乱を起こし、大人も子供も全員が慄くまま逃げ出したり、逆にあまりの事態からその場で固まってしまう。

 彼らの衣装の胸や背中には『ESC』という文字と共に『電流で血の涙を流す黒焦げの羊』のエンブレムがあり、それも人々の恐怖を駆り立てた。

 

「な、なんだ……どうなってるんだ!? こいつらなんなんだ!?」

「ケンスケ!? キイチ!? ど、どこ行ったのよぉ!!」

 

 動揺しているのはアスカも同じ。タマキも逃げ遅れてしまい、おろおろと今にも泣き出しそうに周囲を見回している。

 

「ひえぇ~! ど、どうしてメダロット三原則が機能してないの!? 監視衛星は何をしてるの!?」

 

 さらにオオルリも頭を抱えてその場で伏せ、目を回していた。レフェリーとしても、この事態は完全にイレギュラーなのだ。

 そんな折、ボロゴブリンとワンホイール、マジカルピエロが二体ずつ、ロボトルのルールなど無視して徒党を組んでフリントへ襲いかかって来る。

 

「アスカ、来るぜ!」

「1対6なんて何の冗談だよ!?」

 

 フリントが身構え、アスカも慌てて迎撃態勢に移る。

 その時だった。

 赤い機影がフリントとメダロット軍団の前に割って入り、腕からレーザーを放ってボロゴブリンを撃ち抜く。

 

「誰だ!?」

「あのロールスター……まさか!」

 

 見れば、選手として控えていた灰色の髪の男が、ロールスターに指示を飛ばして敵機を攻撃していた。

 彼の腕には、いつの間にかS.E.L.E.C.T.SQUADの腕章が付いている。

 さらに観客に紛れ同じくセレクト所属の隊員たちが姿を見せ、プロポリスやコバルトセッターといったメダロットを呼び出した。

 

「そこまでだサーカス野郎。総員、民間人とメダロットの避難を最優先にしつつ迎撃に当たれ! この場は俺が食い止める!」

「チッ、セレクトの八熊(ハチクマ) ダイゴか! 怯むんじゃないぞ、数の上ではこっちが圧倒的に有利だ!」

 

 その言葉に呼応するように、怪奇集団の操るボロゴブリンらは一気呵成に攻撃を仕掛け、セレクトのメダロットたちも入り乱れた戦いが始まる。

 もはや大会どころではないため、アスカはタマキの手を取って相棒を呼ぶ。

 

「フリント、ここはセレクトに任せて俺たちも避難しよう!」

「……アスカ、そうも行かなさそうだぜ」

「え?」

 

 見れば、プロポリス部隊を跳ね除けて、また新たにボロゴブリン・ワンホイール・マジカルピエロが二機ずつアスカたちを取り囲んでいた。

 

「な、なんで俺たちを……!?」

「ちょっとぉ! な、なんとかしてよぉ!」

「なんとかって言われても……!」

 

 じりじり、と詰め寄って来るボロゴブリンたち。

 そんな追い込まれた状況の中で、アスカはハッと目を見張る。

 ――なぜ今、自分は怯えているのか。

 メダロットがルールを無視して襲いかかって来るから? 相手が多勢だから? あの犯人たちの異様な姿に惑わされたのか? 突然放り込まれた事態に心が追いつかなかったのか?

 ()()()()()()()()()()()()()()、とアスカは思い直して落ち着きを取り戻す。

 なぜなら。フリントと出会った時に既に一度、同じ状況を経験したのだから。それを思い出すと、自然と少しずつ心が平静になって行った。

 

「戦おうフリント! やるしかない、こんな時にビクビクする方がどうかしてた!」

「だな。切り抜けるには、やっぱそれだよなぁ!」

 

 フリントは楽しそうに笑い、目の前の軍勢に立ち向かう。

 対して、タマキはまだ涙目で怯えていた。

 

「うぅぅぅうぅ……ちゃ、チャッタちゃん……」

「大丈夫です! 私が姫をお守りします!」

 

 パートナーからの一言を聞くと、ようやく目元を拭い、チャッタへフリントの隣に並ぶよう指示を出す。

 

「ありがとう國丸さん、心強いよ」

「言っとくけど! これで逃げ切れなかったらタマタマ蹴っ飛ばすわよぉ!」

「そ、それは怖いな……」

 

 苦笑を漏らしつつ、アスカはすぐに気を引き締める。

 そうしてレフェリーからの合図もなく、ルール無用の乱戦ロボトルは始まった。

 

「フリント、ボロゴブリンを良く見ておいて! いつでも使()()()ように!」

「おう!」

「チャッタちゃん、頭部のキャットイヤーを使って! その後、プレスが厄介だからワンホイールから潰すのよぉ!」

「はいです!」

 

 返事と同時に、二機は行動に移る。

 まずチャッタがジグザグに走り込んで撹乱しつつ、ヨコガキーの充填を終え、がむしゃらのサンダー攻撃をワンホイールへ浴びせようと疾走していく。

 一輪車型のワンホイールは縦方向に素早く動けるが、側面からの攻撃への対処は容易ではない。

 身軽なチャッタの一撃を避けきれず、転倒と同時に機能停止した。

 

「キキィーッ!!」

 

 そしてパーツ冷却が始まったその隙に、二体のボロゴブリンたちが右腕のボロブレードで奇襲をかける。

 がむしゃら攻撃の後は大きな隙が生まれてしまうため、今度はチャッタの方が攻撃を食らって機能停止する事になってしまう。

 だが、そこへ左腕の充填を終えたフリントが割り込んだ。

 

「どぉら、っしゃあああああ!!」

 

 フリントは小鬼型メダロットらの攻撃を左腕一本で受け止めると、そんな掛け声を上げて全て薙ぎ払う。

 バンカランの左腕パーツの機能、カウンターガードである。

 格闘攻撃を無力化し、逆に相手メダロットへダメージを跳ね返す強力なパーツだ。

 ただしその特性上射撃攻撃は防げず、バンカランの場合はHVパーツであるため、ワンホイールのような重力射撃攻撃系の武装には非常に弱い。

 故にフリントたちはボロゴブリンを一掃した後、そのワンホイールへ注意を払った。

 

「やべぇ、来る!」

 

 すると案の定というべきか、生き残っているワンホイールは充填しながら接近し、フリントとチャッタへプレス攻撃を行おうと目論んでいる。

 チャッタのヨコガキーも重量パーツ。被弾すれば、少なくとも彼女は機能停止に追い込まれてしまう。

 さらに上空からは、マジカルピエロがミサイルによる絨毯爆撃を実行しようとしていた。

 

「んみゃ、みゃみゃ……ど、どうしよ……」

「……フリント! 一か八かだ、ワンホイールに突っ込んで! 冷却が終わったらビリーザハット充填!」

 

 言うが速いか、フリントは頷いて疾走する。先程チャッタがやったのと同じように、真横から突撃する形で。

 それを見て、タマキは戸惑いながらも尋ねた。

 

「ど、どうする気!?」

「一発だけなら……プレス攻撃を受けてもフリントの装甲なら耐えられる。敵の攻撃の直後、その一瞬の隙を狙うんだ!」

「無茶でしょそんなの!? 大体、防ぎ切ってもミサイルが来るのよぉ!?」

「それでも、やるしかない!」

 

 強い決意に満ちたアスカの眼差しに押されたタマキは、それ以上何も言えなくなってしまう。

 そして万が一の状況に備え、チャッタへエクレールの充填指示を出した。

 

「オレはアスカを信じるぜ!!」

 

 言いながら突っ込んでいくフリントだが、チャッタと違いスピードに劣るため、ワンホイールのバック走によって距離を取られてしまう。

 しかし、それが好機を呼ぶ。

 完全に油断していたワンホイールは足元に倒れたボロゴブリンがいる事に気づかず、盾に乗り上げ転んでしまったのだ。

 

「今だ! そのままそいつを上に投げろーっ!」

「おっしゃあ!」

 

 上体を起こそうとするワンホイールに対し、フリントは勢いのまま角を腹の下に突っ込んで、空で充填していたマジカルピエロの方へ吹き飛ばした。

 直後にピエロたちとフリント自身のミサイルが発射され、三体の敵メダロットが空中で大爆発、地面に墜落する。

 辛うじて生き残ったマジカルピエロの一体も、チャッタのサンダーショットを受けるとそのまま機能停止した。

 

「や、やった……!」

「よし、みんな今のうちに逃げ――」

 

 アスカが一人と二機に声をかけて逃げようとするが、直後に銃声が響き渡ってフリントの左腕とチャッタの脚部が撃ち抜かれる。

 見れば、そこには増援のボロゴブリンが五体おり、頭部パーツのボロカブトでガトリング攻撃を行ったようであった。

 

「そ……そんな!?」

 

 なぜここまで執拗に自分たちを攻撃してくるのか。理解が追いつかないまま、再びじりじりと追い詰められていく。

 もうスエットクロークは破壊されて使い物にならない。チャッタも、脚部が破壊されて逃げられなくなった。

 まさに絶体絶命の状況。そこへさらなる絶望を叩き込もうとするように、新たに三体のボロゴブリンが剣を振り上げやってくる。

 だが、その追撃は一条の光によって阻まれた。

 見れば、フリントたちを発見したロールスターが自身のパーツのレーザーで狙い撃ったようだ。既に最初の敵部隊はセレクトによって鎮圧されたようで、隊長のダイゴがアスカへと駆け寄って来る。

 

「おいボウズ、大丈夫か」

「た、助かった……ありがとうございます!」

「まったく、こいつらなんで今日に限ってこんなにしつこいんだ? ドゥカティ、おっかけレーザー狙い撃ち!」

 

 疑問を浮かべながら、ダイゴは自身のロールスターと隊員たちに指示を飛ばす。

 コバルトセッターの精密射撃で敵の脚を止めつつ、プロポリスが接近し針でバグ症状を与え、一気に畳み掛ける。

 そのコンビネーションにより、敵機の数はどんどん減っていく。

 さらに、セレクトたちのメダロットとは別に戦闘音が響くのを聞き取り、アスカはそちらに目を向ける。

 

「無事か日晴!」

「狩兼!?」

 

 そこにいたのは、ホムラを先頭とする同級生たちとパートナーメダロットの集団。

 バレットのロレンツバレルとリリーのギターソードでボロゴブリンを蹴散らしつつ、メイは息を切らしながらアスカの前まで駆ける。

 

「ごめんね、人混みをかき分けるのが大変で……今ようやく見つけたの! 本当に無事で良かった!」

「十々喜さん、みんな……」

 

 続いてモーゼスとベアが動けないチャッタを護衛に回って、リオとユメもアスカに合流した。

 

「私はやめといた方が良いって言ったんだけどね」

「でもリオちゃん、すぐモーゼスさん出してくれたんだよ!」

「……ふん。モーゼス、射撃トラップ設置。あいつらに何もさせないで」

 

 リオはマスクの下で鼻を鳴らしながら指示を出し、バレットとモーゼスの連携で敵機を薙ぎ倒す。

 そして、もう一組。

 タマキとケンスケとキイチ、チームトライクロウズも合流を果たした。

 

「姫! ご無事ですか!」

「俺たちが来たからにはもう安心ですぜ!」

「おっそぉい! 危ないところだったんだからね!」

 

 腹を立てながらも目尻に涙を浮かべ、三人も戦線に参加。

 サーカス集団の劣勢が浮き彫りとなっていき、メダロッター側も指令に乱れが出始める。

 そんな時だった。

 ショッピングモール屋上に、新たな一体のメダロットが降り立ったのは。

 

「なんだ? あいつ、他のメダロットと何か雰囲気が違うな」

 

 ホムラがそう言った機体は、不気味という言葉で形容するに相応しい、異様な姿であった。

 全体のカラーリングは紫系で統一されており、下半身が四本脚で馬の頭が伸びており、頭部に当たる部位には何もない。

 代わりに左手に緑色のセンサーアイがついた頭のようなものを持ち、右腕には剣を装備している。

 恐ろしい容姿にたじろぎつつも、アスカはそのメダロットの正体を口に出す。

 

「アレは確か『MDT-DHN-00 デュラホース』……首無し騎士(デュラハン)型のメダロットだ。でも大丈夫、単騎でこの数のセレクトのメダロットを倒せるはずが――!?」

 

 その言葉に逆らうように、紫の騎士は戦場を素早く駆け抜け、右腕のゾリゾンでプロポリス部隊を斬り刻む。

 無論ただそれだけでセレクトが壊滅するはずもないが、その一瞬の隙を突いて、ボロゴブリンが景品のメダルを奪取してしまった。

 デュラホースはそれを確認すると、アスカたちの方を振り返り言葉を発する。

 

『景品ノれあめだるダケハ頂イテ行ク。デモ次ニ会ッタ時ハめだろっとタチモ貰ウヨ、必ズネ』

 

 それは、異様な高音と低音が入り混じったノイズがかった声。

 正確にはデュラホースではなく、それを操るメダロッターがボイスチェンジャーを使って話す声だった。

 サーカス団は各々倒されたものも生き残ったものも全てメダロットを回収し、煙幕と共に去っていく。

 その殿(しんがり)を、デュラホースが務めていた。

 

「逃がすワケねぇだろうが。ドゥカティ! メダフォース行くぞ!」

「ラジャー!」

 

 ダイゴが言うと同時に、ロールスターの全身が赤く発光する。

 瞬間、デュラホースの方も紫色のメダフォースの輝きを帯びた。

 

一斉射撃(いっせいしゃげき)!」

『オロゲニー』

 

 そして、炸裂する。

 同時に発動された二つのメダフォース。ドゥカティは全身に装備した射撃パーツからレーザーを照射し、眼前の敵を撃ち抜かんとする。

 対するデュラホースは、地面に剣を突き刺してエネルギーを解放。すると、地面が隆起してデコボコな山岳地帯を作り出し、周囲のセレクトのメダロット全てを吹き飛ばす。

 

「地形が変わった……!」

「こんなメダフォースもあるのか!?」

 

 しばしの後、デュラホースが戦場から完全に離脱した事で、変動した地形も元通りに戻った。

 襲撃による混乱もひとまずは収まったものの、来場客たちの動揺は消えていない。

 

「今回の大会は中止です。皆さん、誠に申し訳ありません! ロボトル監視衛星が機能しなかった理由につきましても、必ず調査し真相を突き止めますので!」

 

 オオルリは深々と頭を下げてそう締め括り、セレクトの面々と共に周辺の調査を始める。

 彼女の言葉を聞いたメダロッターたちがまばらに解散していく中、アスカはひとり小さく呟く。

 

「あのサーカス団、エスケイプって……一体何者だったんだろう……?」




メダロット解説コーナー

[機体名]
マジカルピエロ

[型式番号]
MDT-PIE-00

[性別]


[パーツ]
◆頭部:フィナーレ(治療/妨害クリア/なし/5回)
◆右腕:カーニバル(射撃/ミサイル/なし)
◆左腕:フェスティバル(射撃/ミサイル/狙い撃ち)
◆脚部:ターマノリー(車両/ボマー)

●HV:0/0/0 合計:0/2

[備考]
玉乗りをするピエロがモチーフの車両機体。
両腕は人形のメリーゴーランドのように見えるが、これらは内部に火薬が仕込まれており、発射してミサイルとして攻撃する。通称トイソルジャー。
コミカルな見た目に反してなかなか強力な機体であり、特に脚部のターマノリーは高い機動力に加えて火薬属性の攻撃の威力を上げるため、両腕との相性が良い。

原作の『PIE00 マジカルピエロ』の仕様変更版。
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