メダロットSAGA   作:正気山脈

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 ある夜。
 日本で最も有名な古代遺跡、アガタ遺跡の入口にて。

「なんだよ……なんなんだよぉ、コイツ!」

 石造りの地の上、何体ものメダロットがそこに倒れていた。
 持ち主であるメダロッターの男たちは、動画投稿サイトの配信者集団。カメラとピッケルを持って、遺跡の様子を撮影しようとしていたのだ。
 それも、無断で。
 すると入口まで来たところで、目の前にいる人物――表情のない無機質な仮面と黒いマントによって正体を隠す謎のメダロッターによって、不法侵入と遺跡盗掘を阻まれたのである。

「去レ」
「ひっ!?」

 有無を言わさぬ威圧的な雰囲気と口調で、謎のメダロッターは言う。
 傍らには、頭に二本の角が付いたメダロットが一機、腕を組んで立っていた。

「コノ遺跡ハオ前タチノモノデハナイ……今スグ立チ去レ、ソシテ二度ト現レルナ。クズドモガ」

 男たちを見下ろしながら言うが、彼らは恐怖からかその場を動けずにいる。
 すると、痺れを切らしたのか再び謎のメダロッターが、今度は半ば怒鳴るように言い放つ。

「去レ!!」
「う、うわあああああ!!」

 直後、ようやく状況を理解したように、蜘蛛の子を散らすかの如く配信者たちはカメラを置いて逃げ出した。
 謎のメダロッターは溜め息と共に、カメラを片付けて遺跡の中へと足を運んでいく。
 その後は何事もなく、アガタ遺跡は静寂に包まれた――。


FIGHT.08[山と川とメダロット(前編)]

「ね! もうすぐ林間学校だよね!」

 

 とある放課後、アスカらいつもの五人の面々が集うなり、メイはそう言った。

 

「えっと、十々喜さんどうしたの急に?」

「言っとくが、俺らはクラス違うんだから同じグループにゃなれねぇハズだぜ」

 

 ホムラが呆れた様子でメイに指摘した直後、フリントがメダロッチから声を上げる。

 

『リンカンガッコーってなんだぁ?』

「ハイキングとか登山とか、お泊りしながら学校の外で色んな事を勉強する事……かな?」

『ふぅ~ん、遊びじゃねぇのか』

「あくまでも学習だから」

 

 アスカが答えていると、今度はリオがメイに問いかけた。

 

「で、それがどうしたのよ」

「いやぁ、せっかくだから自由行動の時間にみんなで遊べないかな~って。川にも行くんでしょ? 川遊びもできそうじゃん!」

 

 楽しみだなー、と目を輝かせてメイが言うが、そこでユメがハッと赤くなった顔を上げる。

 

「そ、それって……水着になるってことなの!?」

 

 ユメはそう言って、恥ずかしそうな様子で両手で自分の顔を覆う。

 するとホムラはまたも呆れ顔になり、頭を振った。

 

「別にガキの水着姿なんて騒ぐようなモンでもねぇだろ、どうせ色気のないスク水だしよぉ。俺はもっとセクシーなオトナの女の水着をだな」

「キッモ……」

「あぁ?」

「はぁ?」

 

 いつものようにホムラとリオが険悪な雰囲気になり、互いに眉間に皺を寄せて睨み合いを始める。

 それを仲裁するかのように、アスカは慌てて割って入った。

 

「と、とにかく! そういう事なら自由時間の時は集まろっか!」

「うん! えへへ、楽しみだね~!」

 

 今にも殴り合いの喧嘩をしそうな二人をスルーし、メイは目を輝かせながらそう呟く。

 その後、五人は雑談をしながら校舎の外まで歩いて行き、途中でホムラは思い出したように「あっ」と声を発する。

 

「例の林間学校だけどよ、向こうでロボトルの授業もあるって話だぜ」

「え、そうなの?」

「ああ。地形について学ぶとかで、川ン中だったりゴツゴツした不安定な足場とかでロボトルするかも知れねぇな」

「そっか、だったら色々と準備しないといけないかな。潜水パーツとか多脚パーツとか」

 

 今までに手に入れたパーツの事を頭に思い浮かべながら歩き、アスカは言う。

 それを聞いて、またしてもユメが手を挙げた。

 

「あの、それなら最近少し気になる噂を聞いたんだけど……なんでも、中古のパーツを売ってるジャンクショップがどうとか」

『ジャンクショップ?』

 

 彼女の言葉にアスカとホムラとメイが首を傾げる中、リオは思い当たるものがあったようでユメの話に頷く。

 

「最近通学路の辺りをうろついてるってヤツでしょ、車で移動しながら」

「ちょっと気になるね、どの辺りなの?」

 

 ホムラに尋ねられると、ユメは彼らを案内すべく目的地へ歩き出す。

 そうしてしばらくの後に、一行は目的の店を公園で発見した。

 キャンピングカーに似た車両で、アスカたちと同じメダリオン学園の生徒が数名集まっているのが見て取れる。

 

「へぇ、本当にあるじゃねぇか」

「……ん? っていうかあそこにいるのって……」

 

 リオがキャンピングカーの前で、見覚えのある大柄な赤茶色の髪の青年に目を凝らす。

 制服の上に青いエプロンを纏った小柄な緑髪の女子生徒と話しており、豪快に笑っている。

 それを見てアスカとホムラもその正体に気付き、近づいて行った。

 

「社森先輩!」

「お?」

 

 声をかけられた青年、社森 ジュウゾウは声を聞いて振り返ると、ニッと人の良さそうな笑顔を見える。

 

「よぉ、お前ら来たのか!」

「ジャンク屋がこの辺りにあるって噂を聞いたので……そちらの方は?」

 

 アスカが視線を向けたのは、エプロンを付けている少女。

 肩まで伸びた緑髪に釣り上がった目と緑の瞳、そして口に棒付きのアメを咥えた彼女は、舌でアメを転がしながら小さく手を振る。

 

「はじめましてッスね。自分は高等部1年の椿黒(ツバクロ) ソラ、ここでバイト中。よろしくッス、後輩くんたち」

「よ、よろしくお願いします」

「ちゃんと挨拶できてエラいッスね。ほら、アメあげる」

 

 そう言いながらソラはエプロンのポケットから棒付きアメを取り出し、それを渡して背伸びしながらアスカの頭を撫でた。

 撫でられたアスカは気恥ずかしそうに頬を染め、受け取ったアメをポケットに仕舞う。

 

「先輩、この子たちッスよね? コテンパンに負かされた相手って」

「おうそうだ! こいつらなかなか将来有望そうだぜ、ダッハハハ!」

「ふぅ~ん」

「お前もロボトルしてみるか!?」

 

 ワクワクとした眼差しをソラに向けるジュウゾウ。

 だが、彼女はすぐに頭を振った。

 

「今日はやめとくッス、この子ら店に用があるんでしょ」

「それもそうだな! ほら、こっちだぜ!」

 

 ジュウゾウは意気揚々とアスカたちを先導し、車の前でパーツの整備をしている女性の前へ連れて行く。

 そこにいるのは、カーキグリーンの作業着の上に青いエプロンを着けている細身の女性だった。首にはペンダントを下げているのも見て取れる。

 年齢は20代前半で、滑らかな黒髪と青い瞳、そして目を引くような白い肌が特徴的だ。

 その華のような可憐さは、作業着で顔に僅かに汚れが付いていると言うのに、どこかの令嬢であるようにすら感じさせる。

 

「あら? 初めての子かしら?」

 

 そんな彼女はアスカたちの姿を見つけるなり、汗を拭いながらにこやかに応対する。

 

「こんにちは、かわいいお客さんたち。パーツショップへようこそ。私は逢留(アウル) エナ、店長よ」

「えっ、逢留って……博士の親戚の方なんですか?」

「あらら? おじいちゃんの事を知ってるって事は……」

 

 エナと名乗った女性はそう言って、ズイッとアスカの方に顔を近付けた。

 

「もしかして例のカブトメダルをゲットしたのはキミ? へぇ、こんなにかわいい子だったんだ!」

「あ、あの……?」

「見せてくれないかしら、キミのパートナー!」

「えっと、は、はい……」

 

 至近距離でじっと見つめられ、さらにジッパーの開いた上着と黒いタンクトップからチラリと覗く胸元に、アスカは思わずリンゴのように顔を赤らめてしまう。

 そして照れながらも、言われた通りに自分のメダロットを転送する。

 呼び出された途端、いざロボトルかと思い意気込んでいたフリントは、突然に軍手越しにパーツを隅々まで触られて驚愕した。

 

「な、なんだぁ!?」

「おー、ちゃんとサボらず整備してあるのねぇ。これなら私がする事は何もなさそうだわ」

「おいアスカァ!? どーなってんだよ!?」

 

 戦う相手も見当たらず、ただ困惑するフリント。

 しばしの後、パーツ周りのチェックが終わってから、エナは「それで」と切り出した。

 

「今日は何の用事かな?」

「えっと、脚部パーツが欲しいです。水辺とか山とかでも動けるような」

「なるほどね。カブトメダルと適性が合うものなら……戦車脚部のブロックブルームなんてどうかしら? 射撃武器とも相性が良いし」

「『MDT-HDG-00 ソニックタンク』のですね! 確かに戦車なら場所を問わず使えるし、アリですね!」

「ふふ、他にも色んなパーツがあるわよ。相性を考えないなら潜水や多脚の選択肢もあるし。ゆっくり見て行って」

「ありがとうございます! あっ、これ『MDT-DRA-01 ジ・エンシェント』だ! あんまりコンビニとかおもちゃ屋でも見かけないヤツ! でも一式だと流石にちょっと高いなぁ、他にも良さそうなパーツは……わ、これも良いパーツ……」

 

 目を輝かせながら、アスカ置いてあるパーツを眺めじっくり吟味する。

 

「うふふ、かわいい子ね……」

 

 そんなアスカを、エナが頬を上気させながらじっとりと眺め、呟いた。

 彼女の様子に言い表せないような危機感を覚えたメイは、困惑しつつも質問を投げかける。

 

「え、エナさんってどうしてジャンク屋をやってるんですか?」

 

 するとその言葉にハッと反応して振り返り、エナは元の穏やかな笑みで答えた。

 

「元々はメダテックの研究員を目指していたんだけどね。色々あって、やめちゃったの。今は別の夢を追っているのよ」

「別の夢って?」

「ふふっ。それはナイショ」

 

 イタズラっぽい笑顔を見せ、エナは唇に指を当てウィンクする。

 その仕草に何やらときめいたようで、ホムラは左胸を押さえて「キュン!」と奇妙なリアクションを見せた。

 瞬間、リオは眉間にシワを寄せる。

 

「うわキッモ」

「あぁ!?」

「いや、今のは俺もちょっとどうかと思うよ……」

 

 苦笑しながら言いつつも、アスカはホムラを宥めるように肩に手を乗せる。

 だが、ホムラは恨めしそうにジトッとした目付きでアスカを睨んだ。

 

「くっそ~、お前ばっか大人のオンナに好かれやがって! ズルいぞチクショウ!」

「いや言い方ダメでしょそれ……ともかく、ブロックブルームと……これを買います」

 

 指定の金額を渡すと、エナは「まいど~」と笑って再びウィンクした。

 ホムラはその姿を見てますますデレデレとだらしなく頬を緩め、苛立ったリオに後頭部を叩かれる。

 再び二人の喧嘩が始まり、残る三人はそれを諌めつつ、寮に戻るのであった。

 

「……私もあんな頃があったなぁ」

 

 一行を見送った後、エナは首から下げたペンダントのロケットを開く。

 その中の写真に写っているのは、四人の子供たち。

 一人は小学生時代のエナ自身、残りは男子が二人で女子が一人。

 それぞれ、全日本ロボトルリーグの決勝戦に出場していた白藤 ハジメと百舌鳥 ユウト、そして現在メダリオン学園に教師として勤務している翡翠 キリエだ。

 エナは写真の中の自分と幼馴染の姿を見て、薄く笑みを浮かべてロケットを閉じ、仕事に戻るのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 それから時は流れ、6月の林間学校当日。

 バスで移動して郊外の山に辿り着き、教師と生徒たちは宿泊施設(コテージ)に荷物を置いた後、簡単な挨拶を行ってその日は食事・風呂以外は自由行動となる。

 ただし施設の周りから離れる事は許されておらず、あくまでも翌日以降に備えて休憩するよう念押しされていた。

 実際生徒の中は子供と言えど移動だけで疲労している者が――特に車酔いが原因で――おり、各自気の合う友達と話すなり、部屋で寝転がって疲れを癒やすなりで思い思いに休んでいる。

 だが、当然元気の有り余った生徒たちもいる。その代表とも言えるのが、タマキたちトライクロウズだ。

 

「ふっふーん! 自由行動と来たら当然ロボトルよね、早速姫がパーツをぶんどっちゃうわよ~!」

「流石ですぜ姫ェ! さぁ遅れんなよキイチ……ん、キイチ?」

 

 友人の返事が聞こえないので振り向くと、ケンスケは椅子の上で項垂れているキイチを発見する。

 

「うぷ……すんません今日無理っす……」

「おいおい……酔い止め飲んどけって言っといたろ?」

「それが、間違えて風邪薬持って来ちまって……」

 

 青褪めた顔で深く溜め息を吐き出すキイチ。タマキもケンスケも、仕方がないので彼が回復するまで付き添う事になった。

 そんな三人の様子を眺めてから、アスカはホムラを探して歩き出す。

 幸いにも、彼はすぐに見つかった。

 他の生徒たちを募り、ポーカーに興じているのだ。

 

「へへ、Aのフォーカード。俺の勝ち」

「だぁ~! ホムラ運強すぎだってぇ!」

「こりゃゴッソリと頂けそうだな? さぁ、まだ賭けを続けるか?」

 

 どうやら持ち込んだお菓子を賭け合って勝負しているらしい。

 このままでは自分も巻き込まれそうだと思ったので、アスカはそそくさと立ち去った。

 

「ねぇ」

 

 外に出ると、ふと聞き覚えのある声が耳を掠めた。

 驚きつつもその方向を見ると、そこには新型KWGであるオニハヤテを使っていた早総 ノアの姿がある。

 

「早総くん? どうしたの?」

「噂で聞いたんだけど、この前大会に出たんだろう」

「うん。まぁ、変な人たちのせいでちゃんと開催されなかったんだけど……」

「メダロットは無事?」

 

 なぜ彼がそんな心配をするんだろう。

 そう思ったアスカが怪訝そうにしていると、メダロッチ内のフリントが大きな声を発する。

 

『ヘッ! オレがあんなヤツらにやられるかよ!』

「この通り、すごく元気だよ」

「そう」

 

 ノアは周囲に目を配った後、アスカの腕を引っ張って人目のつかない物陰まで連れ出し、正面から壁に手を当て息のかかる程の距離まで、少女のような美しいその顔を近づけた。

 

「ちょ、ちょっと……?」

「そのカブトメダルが大事なら目立つような事はするな」

「えっ?」

「君の実力では、いつか奪われる。忘れるなよ」

 

 長い睫毛の下にある青い瞳は、品定めするようにじっとアスカを見つめている。

 緊張で頬を紅潮させつつも、アスカはその言葉にこくこくと頷く。

 すると、ノアはしばしの後に顔を離した。

 

「早総、くん……?」

「話はそれだけ。じゃ」

 

 返事を聞かず、ノアは去っていく。

 そのすぐ後ろを、いつの間にやらマリンが付いて行った。

 何が何やら分からないまま、アスカも静かにその場を後にする。

 

「どうしようかな……」

「あっ、いたいた! 日晴く~ん!」

 

 別人の声に再び呼びかけられ、振り返る――前に、アスカはその人物に背中から抱きつかれた。

 顔を見なくとも、彼にはその人物の正体がすぐに分かる。このような事をする元気な少女はメイしかいない。

 どうやら風呂から上がったばかりのようで、ほのかな石鹸の香りと体温が、薄着のメイの柔らかな肢体から伝わってくる。

 たちまち、アスカは顔がボッと赤く染まった。

 

「あ、あの十々喜さん!? 男子相手にマズいよそういうの!?」

「んぇ?」

 

 キョトンとした後、メイは首を傾げて一度離れる。

 本当にただの軽いスキンシップのつもりだったようで、ショートパンツとキャミソールのようなパジャマの上にジャージの上着を羽織った姿で、無邪気な笑顔を見せていた。

 同い年ながら無自覚な色気を放つ彼女に胸をドキドキとさせつつ、アスカは「一体どうしたの?」と尋ねる。

 

「実はね~、リオちゃんたちと一緒に部屋で女子会やってるの! 日晴くんも来ない?」

「いや、男子が女子部屋に入っちゃダメでしょ……」

「え~」

 

 唇を尖らせるメイを見て、ひょっとして自分は男子と思われていないのだろうかという不安を抱きつつも、アスカは「え~、じゃないでしょ」と苦笑した。

 

「じゃあさ、ちょっと散歩しながらお話でもしようよ」

「久稲さんたちは良いの?」

「それは……後で理由を話せば大丈夫! たぶん!」

 

 根拠のない自信たっぷりな顔で、メイはそう答える。

 アスカはアスカで、そこまで言うなら本当に大丈夫なのだろうと思い、散歩に付き合う事となった。

 とはいえあまり遠くまでは出て行けないので、施設から離れすぎない程度の距離を歩くだけなのだが。

 

「ね、日晴くんさ」

「ん?」

「学園に来て、色んな人たちやメダロットに会ったり、新しいことがいっぱいあったと思うけど。どうかな? もう慣れて来た?」

「……なんか親か兄弟みたいな質問だなぁ、それ」

 

 どこか呆れたような曖昧な笑顔をしつつも、頷くアスカ。

 

「慣れてはいないよ、まだ新鮮な事だらけだからね。でもこうして友達と過ごすのは楽しいかな」

「そっか!」

「嬉しそうだね?」

「そりゃそうだよ! 日晴くんは私の友達だもん、友達が楽しんでるなら私も嬉しいよ!」

 

 えへへ、とメイは可愛らしく照れ笑いする。

 直後、二人のメダロッチからひそひそと話す声が聴こえて来た。

 

『なんか良い雰囲気だね~』

『隅に置けねぇよなぁ』

「……ふたりとも、聞こえてるんだけど」

 

 呆れたようにそう言った後、アスカは夜空を見上げてぽつりと言葉を紡ぎ出す。

 

「今は本当に楽しいよ。昔住んでたところではね、少し嫌な思い出もあったから」

「……何かあったの? ケンカとか?」

「いや、人に何かをされたってワケじゃないんだよ。ただ……」

 

 曖昧な笑顔を見せるアスカの唇が動き、その内容を聞いたメイは目を丸くする。

 直後、彼らの声を掻き消すようにアスカの後ろから大きな声がかかった。

 

「お~いふたりとも!」

「奉五郎先生?」

「青春するのは良いが、そろそろ自分の部屋に戻りなさい。明日は早いからな!」

 

 相変わらずジャージ姿でいる女教師はそう言って、ビシッと腕を掲げる。

 その姿にクスリと笑みを見せた後、アスカはメイに小さく手を振った。

 

「じゃあね、また明日」

「う、うん」

 

 アスカは普段と変わらない笑顔を見せている。

 しかし、メイの胸中は穏やかではなかった。

 

()()、どういう意味だったんだろう……」

 

 アスカが最後に小さな声で伝えた、ある言葉。

 ――()()()()()()

 その言葉の意図が分からず頭に引っかかったまま、メイは部屋に戻って行った。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 翌日。

 生徒たちを外の開けた場所に集め、チトセが宣言する。

 

「快晴だな! 本日のロボトル実習は予定通り山の中で行うぞ!」

 

 チトセは至極楽しそうに大声で言い放つと、まだ眠そうな生徒もいる中で説明を始めた。

 

「ルールは簡単! 山の中の各地点に私を含む講師陣が待ち構えているので、その目的地まで分かれて移動し、ロボトルを挑むんだ! 真剣ロボトルではないからパーツを取り合う事はないが、代わりに食材が書かれたカードを賭けて戦う事になる!」

「食材ですか?」

「うむ! 講師一人に対して生徒諸君は最大三人で挑む事になるが、当然集まるのは別々の班のメンバー! 最後に講師のメダロットを倒した者だけが勝者だ、時間までに倒せなかった場合は最もダメージを与えた者が勝者になる!」

 

 つまり、カードを勝ち取るためには別の班のメンバーとある程度()()()()()、最後のトドメを刺す際などに()()()()あるいはパーツ破壊による()()をする必要があるという事である。

 要するにこれは生徒と講師によるバトルロイヤル――否、ロボトルロイヤルだ。

 

「そして! 勝者には食材、即ちカレーのトッピングカードが与えられる! 全勝すればおいしいカレーを華やかに彩る事ができるぞ! ちなみに全員負けた場合はトッピングなしだ! がんばりたまえ!」

 

 ひそひそと集まった生徒たちが、どこか安心した様子で私語を始める。

 食材というから心配したが、別にカレーが作れなくなるワケではないのなら勝とうと負けようと関係ない。トッピングくらい、他人に譲ったって良いだろう。どうせそんなもの、福神漬やらっきょうくらいだろうし。

 話しているのは概ねそのような内容で、しかしそれを想定通りだとでも言うように、チトセは口角を上げて「ちなみに!」ともう一度声を張り上げた。

 

「今回集まった講師の内二人は『特別講師』で、とても豪華なトッピングを持っているぞ!! 具体的には……『ロースカツ』と『パリパリチキン』だ!!」

 

 瞬間、ザワッと生徒たちの空気が変わるのをアスカは感じていた。

 他の班のメンバーから感じる、殺意に近い気迫。全員、先程とは別の意味で意見が一致しているのだ。

 必ずこいつらを出し抜いてトンカツとチキンを手に入れてやる、と。

 

「やる気十分だな! 特別枠にはその分本当にすごい人が来ているから、覚悟して挑むように! 以上!」

 

 こうして、波乱に満ちた野外ロボトルの幕が上がるのであった。

 

 

 

「えっと、講師の人がいるのはこの辺りで合ってるのかな……?」

 

 時は流れ、ホムラ他三人と同じ班に所属しているアスカは、川の方を歩き周囲を見回していた。

 メダロッチに送信された山のマップデータに表示されている、講師の待機地点を目指しているのだ。

 しばし歩いて、彼はある生徒と邂逅する。

 

「げえっ! 日晴!」

「宮間! 君もここに来たのか!」

 

 昨日ロボトルできずにキイチの看病をしていた、ケンスケである。

 

「クッソ~、ツイてねぇぜ! 俺は確実に姫に美味いカレーを食べさせてやりたかったのによ! 他のヤツならともかく、お前がいたら勝てるかどうか分からなくなるじゃねーか!」

「トッピング一つで大袈裟だなぁ……」

「大袈裟にもなるだろ! 肉だぞ肉ゥ!」

 

 両拳を握り込んで上下に動かし、ふんふんと鼻息荒く力説するケンスケ。

 そこまで必死にならなくても、と思いつつ、アスカは再び周囲に視線をやる。

 

「……ところで、講師の人ってどこだろうね?」

「見当たらねぇなぁ。ま、どの道もうひとり来ない事には始まんねぇんだけど」

「そうだね……ん?」

 

 ふと、アスカの目があるものに留まる。

 川から向こう岸のやや離れた場所にある、紫色のサンシェードテント。その下にシートを引いて、黄色いビキニ姿でぐったりと寝転がっている女性が一人。

 

「もしかしてあの人なのかな、特別講師って」

「明らかに先生じゃねぇしなぁ。っつーか、どっかで見た事あるような気がする」

「あ、俺も思った」

 

 二人はそんな会話を交わし、歩いて近づきながら様子を窺う。

 女性は帽子にサングラスを着用し、スマートフォンをいじってブツブツと独り言をボヤいている。

 

「はぁ~……大丈夫かなぁ、キラキラした中学生の子とロボトルとか緊張する……あっさり勝ったら大人気なく見えるだろうし、かといって簡単に負けたら動画映えしないし……っていうか暑いし眩しいし……帰ってクーラーの効いた部屋でゴロゴロしたぁ~い……」

 

 その詳しい内容をアスカもケンスケも聞き取る事はできなかったが、アスカはその小柄な紫髪の女に話しかけた。

 

「あの、すいません」

「え?」

 

 声を耳にして、キョトンとしながらサングラスを外してアスカを振り返る。

 その顔を見た二人は、思わず「あっ!?」と声を上げた。

 

「もしかしてまじかる☆ジャノメ!? メダライブの!?」

「マジかよ!?」

 

 直後、ジャノメもハッと目を見開いて即座にサンシェードから出るなり、先程の陰気な様子とは打って変わってテンション高くウィンクしながらキメポーズを取る。

 

「はぁ~い! みんな、こんメダ! まじかる☆ジャノメだよ! 今日はメダリオン学園さんに、特別講師として呼ばれました! よろしくね~!」

 

 普段の彼女はフリフリとした衣装なのであまり目立たないが、小柄で腹回りはスッキリとしていながら出るところは揺れる程度に出ており、男子二人を魅了するには十分な色気の持ち主だ。

 そして同時にアスカは、特別講師として現れたジャノメとの激戦を予感するのであった。

 

「……ちなみに、これって撮影してもいいのかな?」

 

 

 

 一方、ホムラはデコボコとした山道を歩いた末、ある少年と正面から対峙する。

 

「おいおいマジかよ。お前もここだったとはな」

 

 彼の前に立ちはだかったのは、銀髪に褐色肌の美しい少年。天才と称され、そう呼ばれるに相応しい実力を持つ人物。

 

「早総 ノア!」

「君は狩兼 ホムラ……だったっけ。まぁ、こんな勝負どうでも良いけど」

 

 ノアはそう言い、ホムラに全く関心を見せずに目的地へ歩き出す。

 

「待てよ! どうでも良いとはどういう了見だ、てめぇ」

「別に。トッピングを賭けて争うなんてボクにとっては興味のない事だってだけさ、気に障ったなら謝るけど」

「……スカしやがって、気に入らねぇ」

「そうか。だったらいちいち暑苦しく突っかかって来ないでくれないかな、邪魔だよ」

 

 額に青筋を立て、ホムラは歯を軋ませる。

 アスカの時以上に、ノアは自分に対して興味を持っていない。相手にすらならないと思っているのだろう。

 その事実を突きつけられているようで、苛立っているのだ。

 別に好きになって欲しいというワケではなく、ただ自分が侮られているような気がして、ホムラはどうにも気に入らなかった。

 

「ツレない事言うなよな、ノア」

『!?』

 

 そんな剣呑な空気の中で、何者かの声が二人の耳に届く。

 

「このロボトルに興味ないってぇ? 俺が相手でも、か?」

 

 直後に姿を現したのは、20代前半の長身の青年。

 目鼻立ちはくっきりと整っており、髪は茶色いウルフカット、涼し気ながらも鋭い目つきで瞳は青い。

 

「う、ウソだろ……アンタは!?」

 

 その姿を見てホムラは瞠目し、男の名を口にした。

 

「百舌鳥 ユウト……日本のプロメダロッター、世界大会の常連、最強のKWG使い……!!」

 

 本当にすごい人を呼んだ。

 チトセのその言葉に何の偽りもなかった、と身を震わせつつ、ホムラは拳を握り込む。

 戦える。()()()()()()()()()()()と。

 ただそれだけで、先程まで渦巻いていた苛立ちは、綺麗サッパリと吹き飛んでいた。

 

「し……」

 

 一方で、ノアの方は別の理由で震えていた。

 

「師匠、なんでここに……!?」

 

 彼の口から出て来た、意外な関係性。

 それを耳にしたホムラは、再び目を見開く事となった。

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