ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話   作:冬に生まれたかも

1 / 19
『奪えば全部』さ

 

 

 

【機動戦士ガンダム 水星の魔女】このタイトルのテレビアニメをご存知だろうか?

 2023年に放送されたガンダムシリーズの作品であり、SNSで定期的にトレンドを獲得するなど大いに盛り上がりを見せたアニメだ。

 

 何故こんな話しを突然始めたのかと言えば、『アニメの世界への異世界転生』しかも『原作キャラへの成り代わり』をしたからだ。 

 気が付いたら自分の体が見知らぬ少年に変わっており、小惑星を基部に建造されたフロントと呼ばれる人工居住施設で生活していること。

 企業の宇宙進出により巨大な経済圏が宇宙に構築されていること、ベネリットグループと呼ばれるMS(モビルスーツ)製造産業の巨大複合企業が存在すること。

 そして、その中でも御三家と呼ばれる傘下に多数の企業を抱えているベネリットグループの中枢の1つであるペイル社のAIによって経営能力を評価され次期リーダー候補という明らかな主要人物らしいポジションに選ばれたこと。

 また、自身の姓が火星と木星の間の小惑星帯の準惑星の名であることからも主要人物らしいと思えること。

 数年前に起こった『ヴァナディース事変』と名付けられた事件によりガンダムという名のMSを開発した人物らが『魔女』と呼ばれていること。

 以上のことから自分が【機動戦士ガンダム 水星の魔女】というアニメに成り代わりと言う形で転生したと判断した。

 ところがぎっちょん、ここで大きな問題がある。ここまでの話しで気付いている人も多いかも知れないがオレは……

 

 

【機動戦士ガンダム 水星の魔女】を視聴していないのである。

 

 

 こう言えば怒る人間も一定数いるかも知れないが聞いて欲しい。

 膨大な数があるガンダムシリーズの作品を全て視聴している人間が一体どれ程いるのだろうか。当然何作かは見たことがあるし、どれも名作だとは理解しているが、世の中は数えきれない程の娯楽で溢れておりその中で歴史が長く続く作品の全てを見るには現代人には時間が足りないのである。そもそもオレはこう言った娯楽に関して言えばアニメよりも漫画や小説を好むタイプの人間だった。

 と、長々と聞き苦しい言い訳をしてしまったがこの世界に転生してくると知っていれば見ていれば良かったと後悔している。

 

 オレが所有している知識はある日SNSで見た『踊れば3つ』『奪えば全部』と言う2つの単語とOPソングの『祝福』の歌詞のみである。

 まともな情報が歌詞しか無いこの絶望は計り知れない。

 

 つまりオレには『原作知識』という名のある種の未来予知がほぼほぼ無いに等しいのである。

 あと因みにオレのMSの操縦能力は凡夫だそうだクソが。

 

 突然に今までの生活や得てきた物を全て奪われた挙句に何も知らないに等しい世界に1人きりで堕とされるのは納得がいかない。

 いくらこの世界の標準と比べて途轍もなく恵まれた立場に生まれ変わったとしても許せないことがある。それは、原作世界での自分がどの様な立ち回りをする人物だったのかの把握もできていないことだ。もし、自分が原作で悪役だった場合には所謂『物語の強制力』によって破滅させられるかもしれないのだ。

 つまりオレは未来が分からないという現実を生きながら、既に決められた物語を見極める。この世界を現実とアニメその両方であると受け止めてダブルスタンダードで生きて行くしか無いのだ。端的に言って辛い、試練だとしても苦しい。

 

 こんな状況でこんな事を言えば夢の見過ぎと言うかも知れないが…

 

 これは1人の男が陰謀渦巻く広大な銀河の中で頂点に立ち、全てを手に入れるまでの物語だ。  

 

 そう……この『エラン・ケレス』が……

 

 

 

 

 私が彼に出会ったのは自分自身が生き残るため、そしてGUNDフォーマットの未来のためにやむを得ずペイルテクノロジーズに降り強化人士計画を進めている頃だった。

 

 今日中にやるべき事も終わり、昼過ぎだが暇を持て余していると突然誰かが部屋に入ってきた。

 

「やぁ。貴女がベルメリア・ウィンストンかな?」

 

 そう声を掛けてノックも無しに扉を開けた少年はスタスタと足音を立てながらコチラに近づいてくる。着慣れているように見える汚れひとつ無いスーツと私の目を真っ直ぐに見つめ人好きのする微笑みを浮かべる表情には自分に自信がある人間特有の雰囲気が漂っていた。

 そして周りをサッと見渡し余った椅子が見当たらないことを確認すると私のすぐ近くの机に軽く腰を落とした。

 

「はじめまして。オレはエラン・ケレス、気軽にエランくんって呼んでくれても良いぜ?」

 

 その名前を聞いて彼が誰で有るのかが思い当たった。社内の人物の能力などを査定するAIである『ペイル・グレード』によって最優の次期後継者として選定された少年だ。

 

「え…ええ、はじめましてエラン様。そうね、私がベルメリア・ウィンストン。今日はどうしてここに?」

「暇つぶしだよ、暇つぶし。会社に居てもやる事が無いんだ」

「そうじゃ無くてなぜ私の元へ?」

「ああ、そういうこと。興味があったのさ、中途入社で入ってきて直ぐに我が社のMS開発部門で最新機(ファラクト)の開発を任される人物って言うのはどんな人なのか」

 

 そう言ってこちらを見つめる黄緑色の瞳はとても澄んでいて、まるで何を考えているか心を覗かれている様で少し恐ろしかった。

 ファラクトのこと、強化人士計画のこと、彼が何処まで知っているのか分からないが何も知らないのだとしたら──先ほどやる事が無いと話していたのだからCEO達からは何も知らされず飼い殺しにされているのだろう──自分の所業を暴かれるのは酷く恥ずかしい気がして、そして自分の今までと向き合うことが嫌で……

 

「私はまだ仕事が残っているの、だから暇つぶしはここまでにしてもらえないかしら」

 

 そう嘘をついて彼をここから追い出したくなった。

 

「そう、邪魔して悪かったね」

「いえ…別に…」

「今日は自己紹介もできたし、これで満足するよ、またね」

「またねって、またここに来る気なの?」

「ダメだった?」

「ええ…私は…暇じゃ無いの…だから、その…そちらの都合でこっちのペースを乱さないでちょうだい」

「冷たいねえ、将来は君のボスになる人間なんだぜオレは」

「それは…そうでしょうけど」

「冗談だよ。今日はありがとう楽しい時間だったよ」

「え…ええ、それじゃあさようなら」

「うん、じゃあね。でもやっぱりまた来るよベル」

 

 人好きのする笑顔を変えないまま彼は出て行った、入ってきた時と同じ様にスタスタと足音をたてながら、最後に私を馴れ馴れしく愛称で呼んで。ベル…そう呼ばれたのはいつ以来だろうかそう考えたところで、また会いに来ると言われたことに気付いて顔を手で覆った。

 

 それから再会する日がくるのは早かった。

「おはよう、ベルメリアさん」

「暇じゃないって言ったじゃない…」

 

 また数日経った後も

「やぁ。また来ちゃった」

「私のところに来ても大したことは聞けないわよ」

 

 それからまた数日後も

「調子はどうかな?ベルメリアさん」

「いつもと変わらないわよ」

 

 また数日後も

「今日は菓子折り持ってきたぜ、お高い羊羹」

「取引先への挨拶?」

 

 また後日

「今日はザウォートについて知りたいことがあるんだよね」

「それ位なら教えられるけれど…」

 

 気がつけばすっかりエラン・ケレスが週に一度くらいの間隔で遊びに来るのが日課になってしまった。もはや彼が来る日のために茶菓子を用意しておくことが日常になっており、会話を楽しんでいる自分もいて、初めて会った時には直ぐに追い出したなんて信じられないほどに。

 だけどその日はいつもと違った。

 

「今日も聞きたい事があるんだよね」

 

「はぁ、今日は何かしら」

「ファラクトについてさ」

「ファラクト?貴方に話せることなんて殆どないわよ?」

「あれの性能はザウォートと比べても高すぎる。ただの後継機としておくにはね」

「あ…貴方がどうやってファラクトの…」

「おいおい、オレはAIさまに選ばれた次期後継者だぜ。社内のことだったら何でも調べられるさ。ヴァナディース機関からやって来たベルちゃん」

「なっ…な…」

 

 そしてその後に放たれる言葉には確信の響きがあった。

 

「あれ、GUND-ARM(ガンダム)だろ」

 

 否定を許さない断言された言葉遣いには何をどう説明すればここを乗り越えられるのか。それを考えられる余裕を奪う力があった。

 

「そ…それは……」

 

 しかし彼が本当に聞きたかったことはこれでは無いらしい。

 

「その事について聞きたいんじゃないんだ。問題はそこじゃない。問題なのはデータを見る限りあれにパーメットの逆流を防ぐ措置はされていない、なのにパイロットが廃人化した記述がない。つまり……」

 

 この次に彼から聞こえてくるであろう台詞を想像するだけで手足は凍りそうになり、膝が震えだす。

 

「貴女、人の体をいじくってるだろ?」

 

 その視線からは何の感情も読み取ることもできず、自分の内面を覗かれているかの様な感覚に嫌でも自分の感情に向き合う様に強制される。

 

「し…仕方がなかったの。人間本来の中枢神経ではデータストームを耐えるなんて不可能なのよ。わ…私はGUNDフォーマットの未来のために…決して本意じゃ……」

 

 だがその後に続くのは予想に反しこの非人道的な行動に対する糾弾ではなかった。

 

「自分の努力をそういう風に言うもんじゃないぜ」

「へ?」

「いやあ、結構じゃ無いか改造人間!GAND医療の理念は知ってるさ。あれは人類を救う技術だ」

「………」

「?なんで黙るのさ」

 

 沈黙が場を支配する中ベルメリアはその場にうずくまる。

 

「違うの…私はGUNDの呪いを何も解決してないの」

「は?」

「私たちが作っている強化人士、彼らには欠点があるの」

「欠点?」

 

 すぐ近くにあったディスプレイの表示を変えるとそれを指差し目を通す様に訴える。

 

「強化人士2号のデータ…待て2号だって?」

「もう分かるでしょ、強化人士は数回のデータストームでは死ぬことはない。だけどそれは耐性が強いだけ。重ねてダメージを受け続ければ…」

「なら強化人士計画っていうのは居なくなっても困らない子供を集めて」

「やめて、その子達を集めたのは私じゃない。ウッ…ウゥ……ごめんなさい…あの時死んでいれば……ウゥ…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 静寂の中で嗚咽する音だけが響く。

 

「なあ、地球人(アーシアン)が成人まで生き残った上でマトモに就職できる確率はほとんど0%なんだぜ。だから気にするなよ」 

「ウゥ…へ?」

「まぁ戦争シェアリングの被害が強い地域に限った話しだけどな。大抵の死因は事故だったり、戦闘だったり、飢えだったり、病気だったり、薬物だったり、それを乗り越えて五体満足に育ったところで行き着く先は大半がテロリストさ。それと比べれば大企業でのモルモット扱いも大分マシな人生だろ」

「何を言っているの?」

「と言ってみても倫理的に許せるものじゃあ無いよな」

 

 数瞬だけ悩んだ素ぶりを見せるとエラン・ケラスはスタスタと背中を見せて足音をたてて数歩靴の音を響かせながら歩くとくるりと振り返り自信を滲ませた笑顔で宣言した。

 

「貴女に媚びを売ってファラクトの開発計画で社内起業しようと思ってたがやめた!」

 

 何を言っているのか理解できず声すら出せなくなる。

 

「こんな後ろ暗い厄ネタ満載の会社はさっさと抜けて後で買い叩いてやるさ」

 

 少し目を離した隙に何処からか取り出したペンで壁に文字を書き出す。

 

「これが事業計画書だ。まずは起業だ。会社を作る」

「はえ?」

「さっさと一部上場したら、そん次は買収だ。ガンガン吸収してって速攻でベネリットグループに参入する」

「え?は?え?」

「デカいオフィスを用意して一流の美人秘書を雇って、自社フロントだって幾つも抱えてやる。そしたら次はヴァナディース機関の再建だ。GUNDの理想ってやつを実現してやる」

「こんなのただの妄想じゃない」

 

 子どもが語る夢物語に似たロードマップを笑いながら書き進めて行く。

 

「あれ、もうスペースがなくなったな」

「大きく書きすぎなのよ」

「何言ってるんだ夢を描くなら大きくだろ?」

 

 壁一面に描かれた絵空事は汚れた目にはあまりにも綺麗に見えた。

 

「でも現段階の最終目標は書いときたいな」

 

 そう言うと隣の面の壁にGOALと書くとその隣に、デカデカとペンを振るった。

 

"ペイル・テクノロジーズを買収する"

 

「どう?これがオレたちの未来」

 

 満足そうに壁を見つめている彼が噛み締める様にそう呟いた。

 

「ちょっと待ってちょうだいっ、今たちって言わなかった!?たちって!」

「ああ、肝心な第一歩を書き忘れてたか危ない危ない」

 

 そしてスタート地点が書かれた場所まで戻ればどうにか隙間を見つけると狭い場所に無理矢理に何かを書き始めた。

 

"ベルメリア・ウィンストンを手に入れる"

 

「な…にを言っているの?」

「見たままの意味さ、オレと来いよ。過去の罪が怖いならオレが半分背負ってやる。命を狙われる恐怖からもオレが守ってやる。だから貴女が持ってるその技術はこれからはオレのために使え。精々人助けに活用してやるさ」

「そんなこと無理に決まってるじゃない。ペイルも私の罪も呪いも人一人でどうにかできる物じゃない…何でも手に入るだなんてそんなの思い上がりよ」

「それは違う、『奪えば全部』さ」

 

 ベルメリア・ウィンストンは息を呑みエラン・ケレスに圧倒されたがそれはこんな滅茶苦茶な言い分に納得した訳ではない。

 ただ向けられた澄んだ黄緑色の瞳のあんまりな真っ直ぐさに動けなくなり…

 

「もう一回言うぜ、オレと来いよベル」

 

 

 

 それが私と彼の出会い。こんなことを言えば夢の見過ぎと言うかも知れないけれど…

 

 これは1人の男が陰謀渦巻く広大な銀河の中で頂点に立ち、全てを手に入れるまでの物語

 

 そう……あの『エラン・ケレス』が……

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。
はい。初投稿です。
最終回も終わってしばらく経った今なら素人がこんなん書いても許されると思ったんです。甘やかしてください。
読者様は私の母親になってくれるかもしれなかった人だ。

あと作者はベルメリア・ウィンストンをヒロインにする予定は無いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。