ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話 作:冬に生まれたかも
生まれて初めて自分の力だけで手に入れたもの、それが今の社長という肩書きだ。
だからミオリネは、出社するための朝の時間が好きだった。
入社をしたあの日から、自宅からオフィスに行くまでの時間、風の音、乗り物の音、すれ違う人々の声、その全てが混ざり合い、重なって、その隙間から自分を祝福するような音楽が溢れる。そんな感覚を噛み締めるために、ゆっくりと歩く。
それが彼女のモーニングルーティンの1つとなっていた。
だけどそうも行かない日は有る。
その内の殆どが、ある意味自分の恩人でありながら、厄介事ばかりを起こし周囲に迷惑を撒き散らす癖に、いつもいつも人好きのする笑顔と要領の良さで、嫌われないでいる少年、エラン・ケレスが何かをやらかした時だ。
今日もそうだ。
昨日、気絶したエランをオフィスの真ん中に放り捨て、その近くに理由を説明せぬままに回収させられた、強化人士4号を拘束し、逃げられないようにして、その場は顔色の悪い彼を起こすのも躊躇われ、解散となった。
が、今日こそはきっちりと説教をしてやらねばならない。
そう思って足早に向かっていたのだが……
「うおおおおおおおあああああああああ」
扉ごしにエランの叫び声が聞こえてくる。
それを疑問に思い、様子を伺うこと無く勢いよく中へと入る。
そこに広がっていたのは奇妙な光景だった。
エランはどうやって用意したのか運動に向いていそうな、スポーティな格好に身を包み、また何処から用意したのか分からないヨガマットを下に敷き、その上で四つん這いに似た姿勢で上半身を両腕で支えており、素足では無く、靴下を履いている足はバタバタとまるで自転車を漕いでいる時のように、回転させるように動かしていた。
また、そんな彼を拘束されたままの4号は時計と交互に視線をやっていた。
「あと5秒……4……3……」
「うおおおおおああああああああ」
「2……1……20秒たったよ」
「ゼェ……ハァ……ハァ……」
どうやらエランはキツい運動中は叫ぶタイプだったらしいが、そんなことはどうでも良い。
「アンタ、なにやってんの?」
「ちょ……待って、今は休憩中だから……」
「10秒たったよ」
エランに声をかけるミオリネを無視して4号がエランに時間の経過を伝える。
「えっ、もうかよッ!うおおおおおおお」
「ちょっと!何やってんのよ!説明しなさいよ!」
「ああああああ日課のトレーニング中でぇぇぇぇぇええええす」
「日課って何日目よ?」
「しょにちぃぃぃいいいいい」
「それで日課って……図々しいわね」
最早、目の前の男から有益な情報収集は不可能と見切りをつけて、この状況を説明できそうな人物を探す。
そうすれば直ぐに目的の人物を見つけた。
自身のデスクに座り、面白そうにエランと4号を見つめるベルメリアだ。
「ちょっとベル、これは何が起きてるの?」
「彼がね、昨日の操縦で大分息が苦しかったみたいで、循環器機能を高める良いトレーニングは無いかって言うから、昔ながらの方法でHIITをおすすめしたの」
「その結果がこれ?」
「そう、マウンテンクライマーを8セット、20秒全力で運動して10秒の休憩、4分でできるお手軽な方法よ」
その言葉を聞いて視線を横に滑らせる。
「ハァ……今……ハァ……何セット終わった?」
「3セットだね」
「じゃあ……ハァ……あと1セットで終わりか」
「5セットだよ、10秒たったね」
「ああああちきしょおおおおおおお」
悲鳴に似た叫びと共にまた足を懸命に動かすエラン……
お手軽とは????
「まあ、辛そうだけど健康にも良いことだし大事よね運動」
なんて言い放つベルメリアをミオリネはギョッとした表情で見る。
ベルメリアの体型を確認する。
え?これ冗談?つっこんで良いやつ?
そして必死に足を動かすエランに、それを面白そうに見るベルメリアが話しかける。
「貴方が得意な投資よ、投資。健康って資産なんだから。老後にそなえて健康は大事にしなさいよ」
「ギャグで言ってるぅぅううう!?」
「もう、私は真面目な話しをしてるのよ」
「本気でっ言ってるよこの人おおおおおお」
ニコニコして楽しそうにエランにちょっかいを出すベルメリアを見てその魂胆がミオリネには分かった。
彼女はこうして日頃の彼への不満を晴らして遊んでいるのだ。
そう思って、目を合わせてみればコクリとうなづかれた。
そうと分かれば自分も参加しない訳にはいかない。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
横から聞こえるのは資料で見た、GUNDフォーマットによってパーメットを流入された実験台にそっくりな悲鳴だ。
正直うるさい。
「あと5秒……4……3……2……1……0」
「オェ……し……死ぬってこれ……なぁ、4号もしかしたら数え間違えてるかもしれないから、オレと一緒に……確認しよう。ミオリネが来た時のセット数は3だったよな……?」
「そうだね」
「今のが4セット目だよな……?」
「そうだね」
「今、何時台だっけ……?」
「7時台だね」
古典的な方法で数を誤魔化そうとする。
「次何セット目だ?」
「8セッ」
「5セット目よ」
成功しかけたが、割り込んできた声に妨害される。
「ミオリネ……レンブラン!」
「10秒たったわよ」
「まっ……待ってくれ」
「はい、よーいスタート」
「オレは……オレは……動きたくなんかないのにぃぃぃいいい」
うだうだ言いながらも結局はやる人間なのだから、変な抵抗で声を出さずにちゃんと休憩で呼吸を整えれば良いのに、と思うがそれは言ってやらない。
「4号、タイムキーパー交代するわよ」
「そう、分かった」
「4号のままでお願いしまああああす」
「ダメよ、社長命令だから」
「オワったあああああああああああ」
結局、8セット全てをやり切って息も絶え絶えのエランが問いを投げかける。
「なぁベル、この運動でどれくらいのカロリー消費になるんだ?」
「そうね、大体お茶碗一杯のご飯を食べた分くらいかしら」
それを聞いたエランは顔を絶望に染める。
「こんなにキツいのに?もう二度とやらないぞこれ」
それを隣で聞いていたミオリネは、普段インスタント食品ばかりの食生活でも体型が崩れることの無い、ダイエットの必要がない自分の体質に深く感謝を覚えていた。
「で、アンタはなんで4号を私たちに回収させたのよ」
エランの呼吸が十分に整ったところでミオリネは、説教をしてやると思っていた心持ちを忘れて、疑問を切り出す。
「ああ、彼にはウチの社員になって貰おうと思ってね」
「聞いてないわよ」
「私もね」
「僕も聞いてないよ」
全員から了承を得てなかった。本人からすらも。
だけれども、それはいつも通りのことだから2人は冷静に対処できた。
「そもそも、なんで助けだしたのか、から説明しなさいよ」
「理由は4つある」
そう言って、自信満々といった表情を浮かべて、顔の前に手を持って行き指を4本、上に突き出す。
「1つは、優秀なパイロットの確保だ。いつまでもシャディク頼りってわけにはいかないだろ?そろそろシャディクもアスティカシアに入学する時期だし。それにオレはもう二度と操縦なんてしたく無い」
なんとも情け無いないことを堂々と言い出すが、言ってることは一理ある。
優秀なパイロットはMSの開発を進める上で欠かせないのは事実だ。
「2つ目は、彼が強化人士であることだね。『呪い』の無い
「ペイルのように人体実験を行うって言いたいの?」
「そこはベルの腕を信じろよ。命に関わることなんて絶対にさせないし、カテドラルの協約にも人権にも当然、配慮するさ」
納得しきれるものでは無いが、一旦は黙って次の理由を話すように促す。
「3つ目は、ペイルへの嫌がらせだよ。今から証拠隠滅を謀ったところで4号と5号を、オレたちとヴィムさんで確保してるんだ。どうにもならないよ。あんな胸糞悪いことをしたんだ。その報いはきちんと受けてもらうさ」
「それはそうね。で、4つ目は?」
その問いに、これまで答える度に突き立てた指を折り曲げていたために、1本だけ伸びたままになっている小指を全員が見つめる。
「4つ目は、あれ?なんだっけ?ごめん、ミスった。理由は3つだよ」
今まで保っていた緊張感を裏切られ、ベルメリアとミオリネがずっこける。
「まあ、分かったわよ。ええ……彼の入社を認めてあげるわよ。4号もそれで良いわね」
「なんでも良いよ。僕がどうなろうと興味がないから」
なんでも受け入れるが如き返事だが、その実誰にも心を開いていない返答に一抹の不安と不満を覚えたが、彼の今までの境遇を思い、なにも追求しないことにする。
「それで、これからどうする予定なのかもサッサと言いなさいよ」
これ以上勝手な真似は許さないと言うように圧をかけてエランの横暴を事前に止めようとする。
「よくぞ聞いてくれた!オレたちはこれから──
「イヤッッホォォォオオォオウ」
目の前に広がる広大な海、青い空、白い雲。
浜辺でエランが1人ではしゃいでいる。
正確には、パラソルの中にミオリネとベルメリアを残して、靴を脱ぎ去って、ズボンの裾をまくり、4号と2人で波打ち際で遊んでいるのだが、もう1人の方はいつも通り無表情だ。
同じ顔、声、身長なのにこうも違うと見ているこっち頭がおかしくなりそうだ。
無反応の4号に飽きたのか、今は砂浜で遊んでいる。
「砂浜にデッカい城たてようぜ」
「私も混ぜなさいよ」
拝啓 クソ親父
この喧しい声が聞こえますか?
私は今、自分の会社の面々と地球、オーストラリア大陸にまで来ています。
貴方は何度も私の地球行きを邪魔してくれましたね。
ざまあみろ。
非常に楽しそうな一行だが、当然遊びに、社員旅行にやってきたのでは無い。
非常に楽しそうに砂のお城を建設中だがそんなことは無い。
海が目当てでオーストラリアにやってきたのでは無いのだ。
エランは遠くで波に乗るサーファーたちを羨ましそうに眺めているが、遊びにきたわけでは無いのだ。
彼ら彼女らは目的があってオーストラリアに来たのだ。
そう、地球最大の鉱業の規模を誇るオーストラリアに。
何故に鉱業が盛んな地域に?
それはもちろん言われなくても分かるだろう。
モビルクラフトを扱う採掘業で不慮の事故にあってしまった方々にGUND義肢を売るためだ。
そもそもGUND技術は安価であることが利点の1つにあるから、こういった人々を相手に商売することに向いている。
幸いなことにベルメリア・テクノロジーズが抱えていた弱点、技術者の不足──ベルメリア1人しかいなかった──も不思議なことに、ベネリットグループの最大手の1つの会社のピンチによって
条件が揃ってしまえば早く動き出すにこしたことは無いと、持ち前のフットワークの軽さで、鉱山を運営する企業と契約を取りにやってきたのだ。
4人は遊びに来たのでは無いのだ。
今は城の周りに外壁と門を建設中だが、遊びに来たわけでは無いのだ。