ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話 作:冬に生まれたかも
気を張って交渉へと向かって行ったミオリネは、拍子抜けをしていた。
資金に悩まされる試掘専門の中小企業が数多く存在するために、安価での義肢の提供ができる契約を結びたいと言う相手が多数存在したことでトントン拍子に、目的を達成してしまったのである。
ここまでくると、何故ヴァナディース機関が資金難に陥ったのか分からないくらいだ。
顧客層の把握を間違えたのだろうか?
アーシアン相手ではなく、スペーシアン相手に限定して技術を売りたかったのだろうか。
ヴァナディース機関が、カルド・ナボ博士が世間へと向けたスピーチを振り返る。
彼女の言葉はスペーシアンへの挨拶から始まり、GUNDが生まれてきた意義は人体の宇宙における脆弱性を解決するものだと語っていた。
そして、GUNDは地球と宇宙の双方の分断と格差を融和するとも。
ならば、MSの製造業と手を組んだのは、資金難によってでは無く、GUND技術そのものにスペーシアンの関心を集めることが目的だった。
そう考える。
カルド・ナボ、彼女の年齢を考えれば理想の実現に焦る気持ちも分からなくは無い。
しかし、それではアーシアンのMSメーカーである『オックス・アース・コーポレーション』を頼った理由が分からない。
ならば、オックスアースによる敵対的買収と考えるのはどうだろうか。
ヴァナディースのテストパイロットとオックスアースから出向してきた社員が結婚している。
敵対的な関係にある両者を、落ち着かせるために会社の顔同士を結婚させる。
よくある手だ。
しかし、彼ら彼女らの夫婦仲は良好であったらしく、子供にも恵まれている。
ベルが言うには毎年、子供の誕生日には家族揃ってパーティーまで開いていたそうだ。
ビジネスで繋がった家族がここまで仲睦まじいものなのか。一緒に過ごすうちに愛情も育まれたとも考えられるが、そんな可能性は当然低いだろう。
ヴァナディース機関とオックスアースの仲は最初から良好だったと仮定する方が納得しやすい。
いくら考えても過去のヴァナディースの軌跡を辿ってもその破滅の真相に迫ることができない。
多分、答えを解くのに必要な情報を持っていない、足りていないのだ。
そこまで考えてエランは無駄な思考時間だったと、今はタイミングでは無かったと、この疑問を頭から投げ捨てた。
理由は単純だ。
目の前で焼いている肉に集中するためだ。
遊びに来たわけでは無いのだが、オーストラリアに来ているのだ。
なのに、それが無いなんて考えられない。
それとは何か?言うまでも無い。
BBQだ。現地風に言うのならば
やっぱり遊んでいるじゃあ無いかって?
それは違う。現地人との親交を深めるのならばまず、現地の文化を味わなければならないだろう。
それに加えて、海の時とは違い4人で居るのでは無い。
今日、話を聞いてくれた方々と一緒なのだ。
つまりこれは接待だ。
接待ならば仕方ない。
仕方ないから遊びじゃない。
そしてエランは今、トングをその手に持っている。
聞いたことがある。この地に住まう人々にとって肉を焼くことはアート、シャディクやヴィムさんとは会話でお互いの器を測ったが彼らは、バービーにかける姿勢で、自分の焼く肉で、こちらの器を測っているのだ。
どれだけ耳触りのいい言葉を並べられても最終的に、人と人が繋がる時は相手の器を調べてからじゃ無いと始められないのだから。
ミスは許されない。
ビールを手に持ち、赤らめた頬でこちらを見つめる周りの髭面たちも心なしか、瞳は鋭い気がする。
だから、その場を盛り上げることも、全体の会話を回すのも、ミオリネが馴染めるように会話を誘導するのも、自分が楽しいのも、仕事なのだ。
仕方がないことなのだ。
楽しい時間ほど過ぎ去るのは早いもので、エランとミオリネはホテルへと帰る準備を完了していた。
明らかに交渉の場には向かず呼べなかった4号と、その監視のために、彼の側に居たベルメリアは何をしていたのだろうか。
そんな会話をしながら、呼び出したタクシーを2人で待っていた。
遠くに沈む夕陽を眺めて、ミオリネは先日から気になっていたが、なんとなく聞けずにいたことをエランに尋ねる。
「ねぇ、アンタはさ……その……アスティカシアには行く気は無いの?アンタもシャディクと同い年じゃない」
「あぁ、行かないね。少なくとも今は」
「なんでよ」
「そもそも、オレを推薦してくれる人間がいないよ。行ける道理が無い。オレたちはまだベネリットグループに入れてすら無いんだぜ?」
その返事を聞いて、ミオリネは目を伏せる。前髪と長い睫毛が目元に影を作る。
「嘘ね、アンタならそんなのどうにでもなる。シャディクもジェタークCEOも……それに
「なんでそう思うのさ?」
「だって好きでしょ、人が集まる場所がアンタは。私の知ってるエランなら、人材確保の大チャンスだぜ、なんて言いながらウキウキですっ飛んでくわよ」
「確かに、行きたく無いなんて言ったら嘘になるな」
「だったら──
追求を続けようとするミオリネを遮る。
「でも学校に行くよりもやりたい事が沢山あるんだよ、今は」
「それでもアンタなら、やりたいこと全部総取りするでしょ。なんで今回はそうしないのよ」
「1年くらい経てばさ、ミオリネは通うことになるだろ、アスティカシア」
「そうとは決まってないわよ。クソ親父の指図なんて受けないわ」
「いや、自分の意思で行くことになるよ」
エランは俯いたミオリネを覗き込んで、目線を合わせて続きを語りかける。
「オレたち、ベルメリア・テクノロジーズは1年でベネットグループに参入する」
真っ赤な太陽に照らされて、その光を反射する瞳はキラキラと輝いている。
「ミオリネは総裁の娘としてでは無く、オレたちの代表として、学園に通うんだ。そしてオレも自分の力で、ミオリネの推薦で編入する」
普段は打算的に動く癖にこういう時の彼は、その表情も明るくて……
「でもって2人で一緒に勧誘をしようぜ。そっちの方が面白そうだろ?」
夢を語る彼はいつも楽しそうだ。
「結局、なんだかんだ言って私の為ってことじゃない」
「違ぇよ、誰かの推薦で入って、寮だの所属だのの、煩わしいシーソーゲームに巻き込まれたくないだけさ」
「なら、そう言うことにしておいてあげる」
会話がひと段落したところで、タクシーがやって来る。
「タイミングが良すぎるね。オレと話すために遅めに時間を指定して呼んだだろ」
「そんな訳ないでしょ、自意識過剰よ」
「なら、そう言うことにしといてあげるよ」
車の後部座席に2人で乗り込み、エランが身を前に倒して目的地を小声でそっと告げる。
声が小さい上に、ひどい現地訛りのある言葉遣いでの運転手とエランの会話は、上手く聞き取れなかったが、それが宿泊地を言っていないのは分かった。
「何処に向かうつもり?」
「着くまでのお楽しみってことで」
なんとなく聞き取れた、サラマンカと言う単語から、大体の目的は察せられたが、追及はしないであげた。
そっちの方が楽しそうだったから。
2人は会話をまだ続ける。
「で、やりたいことって具体的にまず何をしたいのよ」
「4号を本当の意味で仲間に加えたい。だからアイツの感情を取り戻させる。心の底からオレに付いてくる理由が欲しい」
「できるの?」
「できるさ。ここが腕の見せどころってね」
「えらく自信満々ね」
「と言うわけで明日から別行動ね」
「はあ?聞いてないわよ」
ミオリネがエランに詰め寄る。胸ぐらを掴んでブンブンと振り回すせいで、タクシーが揺れる。
運転手が無言で睨みつけてくる。
「ごめんって。でも前々から地球に来たら、1人の資産家としてやりたいことが有ったんだ」
「何よ?」
「恵まれない地域の復興支援」
「なんで?どうやって?」
なんでなのかと聞かれれば理由は複数あるが、どれも人様に話せるモノでは無い。
その内の1つの理由は、世界に善人であることをアピールするためだ。
ここで言う世界とは、地球や宇宙、人々の生活圏のことでは無くその外側、ここが現実の世界なのか虚構の世界なのかと言う話だ。
あまりにこの世界での生活に馴染み過ぎて忘れそうになるが、ここは物語の中の世界でもあるはずだ。
そんな状況で自分の今までの行動と、これから取るであろう行動を鑑みる。
そうすれば思い当たる、多種多様な無茶な身の振り方、およそ正義の味方には見えない行いの数々。
自覚は有る。
しかし、自分はこのやり方しか知らない。
だから、自分を変えるつもりも無い。
よってオレは、自分が物語の流れによって消されて良い人間では無いのだとアピールしたい。
でも、そんな事を言い出せば自分はただの異常者の1人に成り下がる。
だから、誰にも言えない。
そんなことを考えてエランは、その顔に苦難の表情が浮かばせる。
答えられない疑問には、表情の動かしかただけで応える。
ミオリネならば前後の文脈と顔色だけで内容を自分で補足して、納得のいく答えを自分の中に作ってくれるだろう。
それを持って
だから
「方法は考えてある。中世の実業家が行なっていた支援のやり方を丸パクリする」
「もっと具体的に教えなさいよ」
「鶏ばら撒き作戦で行く」
先程までの表情はガラリと失せて、いつもの自信に満ち溢れた顔に戻って言葉を続ける。
苦しそうな顔色からの、あまりな変わり様に少しだけ、心配をしてしまったことに怒りを覚えて反論をする。
「アンタ、養鶏のノウハウなんて知らないでしょ」
「知らないなら、知ってる人間を見つければ良い。だからオレと4号は明日から、ブロイラーの養鶏も盛んで、しかもここから近い東南アジア南部まで飛ぶぜ。明日からは交渉とかはベルと2人で頑張ってくれ」
そして、ムカつく顔で歯を輝かせて笑いサムズアップをするエラン。
先程は別行動とは言っていたが、そこまで別々に、離れ離れに動くとは思ってもいなかった。
「はぁぁぁああ!?聞いてないんだけど!!」
理性がプッツンするのを感じながらも、何で今日の間だけで地域特有のものを楽しでいたのかも理解して──
そう言えば地球に降りたった時も、その宇宙とは違う本物の重力の感覚からか、軽い体の不調を感じて各自、ホテルの自室にて休憩する運びになった際も、1人で遊びに行っていたことを思い出す。
彼のバイタリティを考えて、おかしいと思いつつも、ただ浮かれているだけだと思っていたけれど……
お土産に地産のワインを持って帰ってきた時は、自分も行きたかったと彼に詰問したものだ。
葡萄畑に行っていたなんて狡いと。
本人は時期的に収穫ができないのだから、興味があるなんて思っていなかったと言い訳をしていた。
その時は、まだ地球に居られる時間もあって行く機会なんてまた有るだろうからと許してあげたのだが。
点と点が結びついていく感覚が広がっていく。
それが更にミオリネを苛立たせる。
タクシーがまた、大きく揺れた。
帰ってきた2人の様子は、とても楽しげだった。
それぞれの手には沢山の荷物が抱えられている。ミオリネが持っているのは主にオーガニック野菜や果物、エランが持っているのは工芸品や民芸品が主だった。
そんな2人の違いがなんとなく面白くて、何をしていたのか聞こうと近づいて来るベルメリアの横を素通りして、エランは椅子に座り、何かの本を読んでいる4号に話しかけに近づく。
その本の表紙を見れば哲学書だった。その著者は確かペシミストだった。
ペシミズムを簡単に言えば物事をなんでも悲観的に捉える、人生を生きる価値のないモノと考えるように発展していく思想のはずだ。
一見エランとは相性が悪そうに思える事柄だが、冷静にそれを4号の人格を探る有用な情報として脳内で処理していく。
そして4号の直ぐ近くまで歩み寄ると、彼の腰掛ける椅子の側で腰を折って、背もたれに手をつけて目を合わせ、正面から語りかける。
「なぁ4号、明日からはオレと2人で行動することになったけど構わないよな?」
「別に、なんでも良いよ」
「よし、なら今からオレと少し歩こうぜ」
「なんで?」
「明日からは、ここから離れて海を超えた場所に行くからね。最後に夜の観光と洒落込もうぜ」
「1人で行けば良い」
エランは袖にされても、めげること無く構い続ける。しかし、何故なのか、その表情ゆえか、声色ゆえか、とにかく彼の持つ雰囲気ゆえに、
「流石にオレも夜に1人で歩くのは怖い。君が守ってくれ、我が社のエースパイロット」
そう言って胸を張ると、気候に合わせた服装だからか、良く言えばスラッとした体型が強調されて言葉の説得力が増す。
確かに弱そうだ。
「でも、同じ顔が並んで歩いていたら奇妙だよ、それで絡まれるかもしれない」
「髪型を変えて、サングラスで誤魔化せるだろ」
「今は夜だよ」
「眼鏡の代わりだと思われるだけだろ」
会話が続くが……
エランのパーソナルスペースの狭さからくる圧による強引な説得は、4号相手には通用しない。
心を閉じた4号には説得するための技術なんて何も通用しない。
通用しない、が……
そもそも、そんなモノ全てが受動態な人間に必要なんて無い。
「分かった。行こう」
ある程度、問答をくり返せば勝手に折れてくれるから。
まぁ、相手を間違えれば嫌われる手法なので、あまり使うべきでは無いのだが。
こうして少年たちは、会話に花を咲かせる女性陣を置いて、夜の街へと繰り出すのであった。