ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話   作:冬に生まれたかも

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テストパイロットはアンタよ

 

 

 

 

 ジェターク社の社長室から扉の外へと歩み出したエランとミオリネの2人は、廊下をゆっくりと歩いていた。

 その顔は一方は大きな獲物を目の前にした獣のようで、もう一方は緊張、不安、悲しみもしくは怒りの感情が見て取れた。

 

「アンタ、あのクソ親父からの呼び出しの理由に何か心当たりは?」

「パッと思いつくだけでも審問会でのファラクトの件か、ペイルから有能な社員を大勢引き抜いたことか、ティックバランを丸パクリしてベネリットグループからシェアを奪った件か、と言うよりはペイルに売った喧嘩はベネリットグループに売ったに等しいからな。もしくはGUND義肢を地球で売り捌いた件か……やらかした事が多すぎるな」

 

 そう言って、まだまだ自分が行ってきた悪行*1の数々を指を折って数えながら羅列していく。

 その数のあまりの多さにミオリネは目を覆いたくなる。

 

「あぁ……そうだったわね……そりゃそうなるでしょうね、それだけ好き放題やったんだからいつかはこうなっていたわよね……」

 

 そうため息を吐くミオリネは肩を落とし、纏っていた雰囲気をショボンとした物に変える。

 が、直ぐに立ち直ったような顔を作る。

 諦めが強い覚悟に繋がることもあるのだ。

 そして、挙げられた膨大な量の心当たりの中から一般的な父親ならば真っ先に挙げるであろう、エランがミオリネの生活の面倒を見ている事をさり気なく除かれていた事に、気づかなかった、もしくはその気遣いを理解して黙ってスルーしたミオリネは、もう一度ため息を吐くと、ピシャリと自分の頬を両手で打って気合いを入れ直して

 

「今回は私がアンタを助けてあげるわよ」

 

 そう、無理やり作ったような誇らしげな(ドヤ)顔でエランに笑いかけてみせる。

 そんなミオリネの覚悟の籠った言葉に

 

「はわわ……素敵……」

 

 なんて言って頬を赤く染めて気色悪くクネクネするエランにミオリネは冷ややかな目線を送る。

 

「…………」

「…………」

 

 2人の間に沈黙が流れる。

 

「…………」

「…………」

「「プッ…アハハハハハハハハハハハ」」

 

 そして2人同時に笑い出すと先程までのまるで決戦に挑むかのような2人の面持ちは何気無い日常を過ごす時のような楽し気なものに戻る。

 驕りは無く、昂りも無く、憂鬱さも無い。

 運命の別れ道を決めるには、天王山を迎えるには最高の精神状態だと言えた。

 

 

 

 そうして歩いているうちに、2人を迎えに来たデリングの使いの者と合流する。

 その彼は無駄な言葉を話さずに必要な分だけの情報を与えると、ただ娘たちだけを迎えに行くだけには大きすぎる宇宙船にまでスムーズに案内し、2人が客室に着くとその場を離れてコックピットへと向かって行った。

 操縦者でもあったらしい。

 

 そして、あまりにもガラガラな客室をミオリネが見渡すと自分たちの他にもう1人搭乗者がいた。

 長い金髪を頭の後ろで団子状に結った大柄で飄々とした軟派な雰囲気を纏う男、シャディクだった。

 彼もミオリネとエランの2人を見つけると、笑顔を浮かべて寄ってきて移動時間中の談笑が始まった。

 

 シャディクがここに居ることで、デリングの呼び出しの理由が見えてきた。

 

 ベルメリアテクノロジーズ社は上場をしていない。

 これが意味するところは、ベルメリアテクノロジーズ社の株主は会社を立ち上げた時のメンバーであるエランとベルメリア、そしてその支援者(スポンサー)であるシャディクのみであるという事だ。

 そしてその持ち株比率はエランが50%、ベルメリアが30%、そしてシャディクが20%だ。

 つまりベルメリアテクノロジーズの株の過半数が今、デリングの元へと向かっている。

 

 まだ、確定では無いがデリングの呼び出しの理由は自分から会社を買収(ぼっしゅう)する事なのでは無いか……そうミオリネは感じ取っていた。

 

 

 

 そしてたどり着いた大広間にデリングは1人で待ち構えていた。

 エランが直接、デリングの顔を見る機会はこれで2回目だ。

 そして、そのどちらでも言葉を交わした事は無い。

 エランのコミュニケーション能力の根幹は精度の高い観察眼によって支えられている。

 自分が投げたボールに対する相手の反応によって出方を変えて、戦略を変えて、タイミングを見計らって、懐に入り込む。

 だが、会話なくしては内面を探る事などできず、エランはデリングがどう言った人間なのか知らないと言っても過言では無い。

 過去の記録だけで、人からの伝聞のみで相手の人となりを把握することなどできない。

 

 しかし、その観察眼によって、いやそんな物が無くても嫌と言うほどに目の前に立たれただけで伝わってくるものがある。

 

 彼こそがこの宇宙で最も頂点に近いところに立つ人間だ。

 

 ベネリットグループの総裁。

 

 独裁者とは彼を指す言葉なのであろう。

 

 彼は常に選ぶ立場にある。誰を認め、誰を(しいた)げ、何を取り込んで、何を切り捨てるのか。

 彼の放つ言葉は議論を生むことも無く、そのまま決定となる。

 

 彼の前で意見を持つには、どれだけ少なく見積もっても御三家ほどの力を持っていることが最低条件だ。

 

 それだけの覇気をただ目の前に立つだけで放っている。

 分かっていた事だが、審問会での件は自分たちが上手く出し抜いて成立したのでは無い。見逃されたのだ。おそらく、GUND-ARM(ガンダム)に興味を見せる不穏なグループ会社を炙り出すために。

 随分と危険な橋を渡ったものだ。自分もヴィムも……

 格が違う。自分どころか……ニューゲンCEOとも、ヴィム CEOとも……

 心臓の音がバクンバクンとまるで水の中にいるかのように自分の内側から響いてくる。

 

 それでも、エランの隣にはシャディクがいる……そして……ミオリネがいる……

 

 だから、飲み込まれない。驕りは無い。昂りも無い。憂鬱さも無い。

 いつもの様に人好きのする笑みで話しかける。

 

「初めまして、エラン・ケレスと申します。本日はお招きいただきましてありがとうございます」

 

 そう名刺を渡そうと近寄ってくるエランを掌を向けることで静止する。

 

「前置きはいらん。本題に入ろう」

 

 その場にいるミオリネの存在を無視するように一切の視線を向けずにエランだけに語りかける。

 

「ベルメリア・テクノロジーズ社の株式を買い取る」

 

 言い切る。

 相手に意見を挟む余地を与えない。

 

 その言葉にエランはまるで、恭順を示す様に片膝をついて床にひれ伏す。

 

 シャディクはこうなる事が分かっていたかの様に黙って成り行きを見守っている。

 

 ミオリネはワナワナと腕を震わせている。怒りが抑えきれていない。感情のままに怒鳴りつけようとするが、エランに言ったことを思い出す。

 

『今回は私がアンタを助けてあげるわよ』

 

 そして、冷静さを取り戻して父親の決定に口を挟むために声をあげる。

 

「アンタの言う通りには、させないわよ」

 

 感情による不安定な揺れのない透き通るような声だった。

 それに初めてデリングが顔を向ける。

 

「何で口を開いたミオリネ。私の前で言葉を発する事ができるのはそれ相応の力を示した者のみ、だがお前は違う。何の力もないただの小娘だ」

 

 ミオリネを顧みることの無い発言に思わず食ってかかる。

 

「ん……アンタっていつもそう。上から目線で説明もなしに勝手に決める」

 

 がデリングはそれに取り合わない。

 

「誰が私の言葉を遮って良いと言った。続きがある。私はそこの少年を評価している。ジェタークを利用して、ペイルを手中に収め、ベネリットグループから見事にシェアを奪ってみせた。中々の手際だ。見込みがある。だが、物事の超えて良いラインの見極めが甘い。私はすべてのGUND-ARM(ガンダム)を否定する。お前たちが地球でばら撒いている義肢、それも例外ではない」

 

 ミオリネに冷や汗が流れる。

 このまま自分が父親に噛みつき続ければ自分たちの会社はヴァナディース機関の二の舞になるのでは無いかと。

 

 だが、それに続いた言葉は違っていた。

 違っていたが、ミオリネにとっては何よりも残酷な事だった。

 そしてシャディクにとっても。

 

「だから彼を私が育てよう。エラン・ケレス、お前はミオリネ(これ)と婚約し、私の義息になれ。そして、ミオリネ(これ)が17歳となった暁には結婚し、私の後継としての勉強を積んでもらう」

 

 デリングは言い切った。

 相手に意見を挟む余地を与えなかった。

 

 ミオリネは目を大きく広げて動けなくなる。感情がはち切れそうになっていた。

 昔からそうだった。

 習っていたピアノはやめさせられた。

 友人も勝手に決められた。

 自分の意向は無視されてきた。

 そして、とうとうエランとの関係性を決められようとしている。

 土足で入られた。2人の間に。

 ミオリネにとってエランは誰にも茶々を入れられたく無い相手だった。

 仲間だと思っていた。

 親友だと思っていた。

 家族のようだと、父親のようで、兄のようで、弟のようで……

 もしかしたら初恋は彼になるのかも知れないと……

 誰にも口出しされたく無い関係だった……

 

 シャディクもこれは予想外だったようで固まっている。

 幼少の頃から続いてきた重くて、熱い、恋心の終わりがまさに今、唐突にやってくるとは思いもしなかった。

 エランにミオリネを紹介したのは自分だ。

 だけど、それはエランの内情を探る人員が欲しかったのも理由の1つであったが、それだけならサビーナたちの誰かから1人を送れば済む話だ。

 そうしなかったのは、父親に自由を奪われ続けてきた彼女に息のしやすい場所が作れたらと思ったからだ。

 それだけなのに、その結果は……

 

 そして、エランは…………

 

 まだ、口を開かない。

 

 平伏した姿勢のまま手を床に突く。

 

 そして……

 

 そして……

 

 床に手を突いたまま腰を浮かせる。

 

 手を離すのと、後ろに引いていた足を前に踏み出すのは同時だった。

 

 風を切って進んで行く。

 絶対的な権力を持つ独裁者へと向かって。

 

 走り出した足を揃えて床を強く蹴り出して大きく跳び上がる。

 

 完璧な助走からのジャンプ、そして地面から離れた両足が着地したのはデリングのヘソの辺り。

 

 

 それは綺麗なドロップキックだった。

 

 

 ドゴッと大きな音を立てて受け身を上手く取れなかった両者はゴロゴロと転がって行く。

 

 そしてエランがデリングに馬乗りになった。

 

「私にこんな事をして……覚悟は出来ているな?」

「こんな狂犬に娘はやれませんね」

 

 が、上を取れていたのは一瞬で、転がってきた運動エネルギーを利用して巴投げのように投げ飛ばされる。

 

「ガハッ……」

「それだけでは無い。ベネリットグループとしてお前たちを擦り潰すこともできる」

 

 蹴られたダメージも無いかの如くサッサと立ち上がってまだ、仰向けで倒れて起き上がれずにいるエランに上から語りかける。

 

「命が惜しく無いのか?」

「嘘つきですね」

「なに?」

「何で貴方は側近も護衛も付けずに1人でここに居るんですか?それにこの大広間、監視カメラの1つも付いて無いじゃないですか。

そして、軍人上がりの貴方が素人の蹴りを躱せないはずも無い。どうです?オレの見極めは甘いですか?」

 

 まだ起き上がれないのか倒れたままで下から自信満々な表情で、瞳で、デリングを見つめている。

 

「仮にそうだとして、ミオリネとの婚約を断ったところで意味が無い。アレの自由を守ったつもりだろうが、そうはなら無い。お前が婚約を断ると言うのならアレはアスティカシアのホルダーと結婚させる」

「そうはなりませんよ」

「なんだと?」

 

 デリングからの圧が強くなる。

 が、それに臆することなくエランは答える。

 

「オレがホルダーになる」

 

 言い切った。

 意見の挟まる余地を残さないほどに。

 

「できるのか?」

「できますね」

「何故だ」

「貴方がそう判断したから。私の評価をホルダーよりも上に」

 

 そのエランの明瞭な答えにデリングは返す。

 

「ベルメリア・テクノロジーズはベネリットグループに参入していないはずだが?」

「話を戻しましょう。私の持つ株式、それを全てお譲りしましょう。ただしその見返りはミオリネの婚約者じゃない。私たちをペイルに代わる御三家として迎え入れていただきたい」

「尊大だな」

 

 覇気を緩めることの無いデリングだが、エランはそれに臆する事なく何時もの調子で答えた。

 

「でも断らないでしょう?」

 

 

 

 

 

 帰りもまた、同じ船で帰ることになったエランたち3人は、全員が客室でグッタリと力なく席に腰掛けていた。

 そんな中でも一番顔色が悪いのはエランだ。

 そのエランを気遣うようにシャディクが横から話しかける。

 

「良かったのかい?あんな事を言ってしまって」

「いやヤバい、マジでヤバい。終わった……ホルダーになるって何だよ。オレは自転車すら乗れないんだぞ」

 

 そう言って青い顔でブルブル震えている。

 普段は何事にも余裕そうな顔を保っているのにこの2人の前では取り繕うことをしないらしい。

 

 なんて弱みを見せて落ち込んでいるらしい雰囲気を漂わせているくせに、エランとシャディクは今度の休みに、一緒に自転車に乗る練習をする約束を取り付けていた。

 楽しそうに。

 MSの操縦の練習では無くて自転車の練習を約束しているのを見ると実は、不安がっているだけで内心は余裕なのではないかと疑いたくなってくる。

 

 そんな会話にミオリネは混ざれないでいた。

 何が『今回は私がアンタを助けてあげるわよ』だ……結局は今回も助けられたのは自分じゃないか。

 そう考えて俯いていると、話が自分に振られる。

 

「ねぇ?ミオミオ?オレのMSどうしよう?」

 

 その媚びるような声色にエランが何を恐れているのかが分かる。

 彼はGUNDフォーマットに乗りたく無いのだ。

 ファラクトでの事がトラウマにでもなっているのだろう。

 そして、今日のことを考えて彼にこれ以上の負担をかけたく無いと思ってしまう。

 だから、「新しいMSの開発については帰ってから考えましょう」と言ってやりたくなる。

 そして、そう言おうとしてそこで口が止まる。

 ミオリネの中に違和感が生まれたのだ。

 何かが引っかかる。

 

 でも何が引っかかっているのかが分からない。だから黙って今日のエランの行動を振り返る。

 そうして思い出されるのは、あのドロップキックだ。

 

 ドロップキック……ドロップキック……

 

 そして、思い出す。自分もエランに同じように蹴っ飛ばしてやった日があった事を。そして、その理由を。

 

「ねえ?エラン、アンタが遅刻してきた日が有ったわよね?」

「ああ……有ったね」

「遅刻の理由……聞いてなかったわよね?」

「そうだっけ?」

 

 この顔を知っている。

 後ろめたい事を全力で隠している時の顔だ。

 

「なんで遅刻したのかしら?」

 

 一見優しく微笑みかけて聞いているように見えるが違う。この問いを誤魔化せば恐ろしい事が起こる。それだけは分かる。

 

「…………」

「…………」

 

 しかし、エランは答えない。視線だけをあちこちに泳がせている。

 

「なら、質問を変えるわ。何でクソ親父はGUND義肢について知っていたのかしら?私たちはただの高性能義肢としてしか宣伝していなかったはずよね?」

 

 それが(とど)めだった。

 

「オレが情報を流しました……」

 

 エランが正直に話した事で説教にはならなかった。

 やはり何事も素直が1番である。

 

「御慈悲を……御慈悲を……」

 

 そうエランはミオリネの足に縋り付く。

 

「何を怖がっているの?大きな問題が2つも同時に解決したのよ?喜びなさい」

「ミオミオ?まさかそんな酷いことは言わないよね?」

 

 そんなエランにミオリネは笑顔で冷酷にエランに告げたのだった。

 

 それはエランが1番聞きたく無い答えであった。

 

「シュバルゼッテのテストパイロットはアンタよエラン」

 

 絶叫が館内に響き渡る。

 

「いやだぁぁぁぁああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ミオリネにバレている範囲での






 前回はアンケートにご協力頂きありがとうございました。

 ごめんねエラン、君が苦しんでいるのを見たい人が1番多かったんだ。いつも勝負運が弱いね君は。
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