ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話 作:冬に生まれたかも
リング状のアンテナと突出した黒いブレードアンテナに紫色に光るデュアルアイ、『ジェターク・ヘビー・マシーナリー』と『ベルメリア・テクノロジーズ』の共同開発によって作り上げられたMSシュバルゼッテは、ついにパイロットを乗せた試験運用にまで開発を進められていた。
シュバルゼッテの強みは運用形態の多さにある。
刀身を覆う"攻撃用ビットステイヴ"4基と
ビームブレードを軸として全ビットを
ビットを分離して群体遠隔操作を可能とする──現時点では想定していたレベルの操作はできていない──形態である"ガーディアン・ドロウ"
各ビットを機体背部に接続し、機動力の向上させたまま"ガーディアン・シース"と同様に全面に電磁バリアを展開できる"ガーディアン・マリオネット"
と3つの形態を使い分けて遠・中・近の全てのレンジに対応できることがシュバルゼッテのパイロットに求められることだ。
では、この機体のテストパイロットに選ばれた男はどれほど使いこなせているのか。
答えは明確で、全然ダメであった。
まず基本モードである"ガーディアン・シース"ではビームガトリングは問題なく使ってみせたが、全方位攻撃であるオムニ・アジマス・レーザーはGUNDフォーマットを用いた上でAIの補助を用いなければ標準を定める事ができないため、純粋な技量不足で使うことができなかった。
"ガーディアン・ドロウ"は搭乗者本人の強い希望と開発陣のストップによって未だに試す事すらできていない。
"ガーディアン・マリオネット"は今でこそ何とか使えているが、初使用の時はひどかった。
パイロットが宇宙空間にカタパルトで射出されたと同時に使用し、一瞬で加速度によるGに耐えきれず失神したのだ。
それは「シュバルゼッテ、出るぜ」と発言してから2秒後の事であった。
ここまで良いところが無い男、エラン・ケラスが何故にテストパイロットになる事が許されたのか。
それは『ベルメリア・テクノロジーズ』の社長であるミオリネの意向もあったが、『ジェターク・ヘビー・マシーナリー』の
ジェターク社CEOヴィム・ジェタークはエラン・ケレスを高く評価していた。
そして
しかしジェターク社内で強い権力を持つのはパイロットや技術者ばかりで、経営能力は求められず評価されない傾向にあった。
それはアスティカシア学園のジェターク寮の中でもトップカーストに立てるのはパイロット科とメカニック科の生徒ばかりで経営戦略科の生徒がいない事からも窺える。
だからヴィムはエランがここで、パイロットとして経験を積むことを良しとしたのだ。
そして、息子たちと違って彼が
こうしてエランはシュバルゼッテのテストパイロットになる権利を獲得したのである。
そんなこんなで、無事にテストパイロットの座を獲得したエランは今、強化人士4号が操縦するザウォート・ヘヴィと模擬戦をしている。
エランが操縦するシュバルゼッテには"ガーディアン"以外にも強みがある。
それはジェタークの次世代機ダリルバルデと同じく自動操縦を可能とする複合ベイズ予測を用いた"意志拡張AI"を搭載している事だ。
当初はシュバルゼッテに自動操縦機能を組み込む予定は無かったのだが、搭乗から2秒で失神したエランを見てヴィムが搭載させたのだ。
エランの圧倒的に足りない技量をAIで補おうということだ。
そのために意志拡張AIに4号の動きを学習させようとしている。
理想としてはエランの意志が介入しない精度にまでAIの予測を鍛えることだが、当然そこまでの性能は無い。
だから今は移動方向と攻撃方法だけをエランが選択して、その後の行動はAIに任せるという方法をとっている。
気分は格ゲーだ。
と言うよりは超進化版、戦場の絆と言った方が分かりやすいだろう。
この呼吸の乱れと、脳に直接情報を叩き込まれる不快感と、体にかかるGの辛ささえ無ければ、楽しい。
いや嘘だ。全く楽しく無い。
パイロットの技量不足を解決するだけで無く、負担を軽くすると思われた"意志拡張AI"だったが、全くそんな事はない。
何なら試験を重ねる度に負担は上がっていった。それはパーメットの性質に由来するものだ。パーメットはお互いに情報を共有しあう性質を持っている。
もう何が言いたいか分かるだろう。
"意志拡張AI"は擬似的な"
エランが体験している擬似ゼロシステムの性能を解説しよう。
それは現在の戦場における様々な情報を観測し、それらから事前分布によって得られた演算値を直接脳にフィードバックすることで擬似的に未来を垣間見ることができる*1システムだ。
因みにこの予測された未来はベイズ予測によるモノなので、事前にデータを取っていない敵機には事前分布の分散が大きいので予測精度が著しく下がるぞ。
ざけんな。
操縦者の意志まで拡張して来んなよ。
オレの意思は要らないって言え。
何で、身体への負担を減らしたら脳への負荷が増すんだよ。欠陥兵器にも程があるだろ。やはりガンダムは呪われたMS。デリングが正しいって証明されたね。
あっ鼻血が出てきた……あれ……意識が……
この鼻血を噴いて失神した日からシュバルゼッテから"意志拡張AI"にオンオフがコクピットから出来る機能が追加された。
開発チームからはまだ使用する事を止められているし、4号からの強い説得でオンにする事を止められている。
いや、言われなくても使わないぜ?死んじゃうから。
でもあの日は相手が悪かったから倒れたと言う側面もあると思っている。
対戦相手は4号のザウォート・ヘヴィであったのだが、それはビームキャノンと追加推進ユニットのベクタードブースターを装備し、4号の高い技量にあわせてチューニングした高機動仕様のザウォート・ヘヴィであった。
言うなれば強化人士4号専用ザウォート・ヘヴィである。
それは
だから意識を飛ばされる程の負荷を受けたのだ。
いや、だからって他の相手であればAIをオンにすると言う話では無いが。
これ程までに、高性能なザウォートを組めた事には『ベルメリア・テクノロジーズ』がペイルに代わる御三家としてベネリットグループに参入できた事が大きい。
ペイルの傘下企業をそのまま吸収する事ができたのだ。
これに表立って反発する企業が少ないのは、エランのペイルの元トップグレードと言う経歴も関係していたが、それよりもデリングの力によるものと表現した方が正しいだろう。
この独裁者に逆らえる者など、グループ内には居ないに等しい。
そしてミオリネは嫌がるだろうが傘下企業の譲渡先が総裁の娘の会社だと言うのだから、尚更だ。
このアド・ステラと言う家柄や血族支配の意識が強い時代においては総裁の娘とは大きな意味を持つ。
うん。もしもの時は4号にオリジナルエランとして学園に通ってもらおう。
そうしよう。サングラスでノースリーブの改造制服着て貰えばなんか丁度いいだろ。高機動機乗ってるし。
それと、もう1つ鼻血を噴いた日から変化した事がある。
それは模擬戦の相手にグエル・ジェタークが加わったことだ。
担架で運ばれるオレを偶然見ていたそうだ。
元々、父親との家族の時間を奪っておいて彼の評価軸であろうMSの操縦の腕前でも全敗であるオレを、気にかけるとかどれだけ高潔なんだコイツ。
5号とオレが同一人物と言う誤解も解けているようで聞いた話によると彼とも良好な関係を築いているらしい。
光属性過ぎないか?
コイツ主人公か?
何にしても4号だけでは無く、不定期とはいえ同世代では最高峰のパイロットであろう現ホルダー様の指導を直接受けられるのは、意志拡張AIの補助を受けられなくなったオレには、ありがたい話だ。
訓練の後に毎回ボロボロになって倒れるオレを心配しすぎて、説教の面子に1人加わった事と……
ラウダのオレを見る目がイっちゃってる事に目を瞑れば。
そんな日々をエランはシュバルゼッテのテストパイロットとして過ごしていた。
ところ変わってミオリネはシャディクが働くグラスレーの1室にいた。
ペイルの傘下企業の多くを奪い取った現御三家の一角としてのグラスレーへの業務連絡もあったが、それだけでは直接シャディクに会いには来ない。
それだけならメッセージや電話で済ませてしまうだろう。
では何故来たのか?
それは、シュバルゼッテの開発で滅多にオフィスに顔を出さなくなったベルメリアに、シュバルゼッテの重力圏での運用試験の為に地球に行ってしまったエランと4号、気軽に会話を楽しむ事ができる面子が自分の周りから一時的とは言え居なくなってしまって……何となく寂しくなったのだ。
もちろんそんな理由はシャディクには教えてやらないが。
恥ずかしくて。
「フォーカード17地区の契約、見事にアンタが取ったそうね。おめでとう」
「ありがとう。ははは、彼のおかけでさらに地区開発の契約の競争が激しくなってね。苦労したよ」
元々ベネリットグループによる戦争シェアリングのために開発地区の担当を手に入れる事は大変な競争であったが、今では更にその競争が激しくなってしまっている。
それはエランが行った復興支援によるものだった。
エランが復興支援を行ったのは、これから紛争を起こすとして利益が薄いと判断されて開発を後回しにされていた地域であった。
そこを発展させただけならばベネリットグループが彼を評価する事は無かったであろう。
しかし、エランはデリングにその力を認められる程に評価されている。
ではエランは何をしたのか?
それは簡単な事で彼はその復興支援を局所的に行ったのだ。
そうして、あえて不均衡を作り出す事で防衛を目的とした兵器需要を生み出した。
元々、戦争によって豊かさを奪われた人々が住まう土地だ。安定した生活を手に入れたのならば、次に欲しがるものなど分かりきっている。
そうして、防衛以外にはMSを使用しない事やテロに加担する、もしくはその容疑が掛けられる事があれば、即刻、問答無用で制圧するなどの大いにスペーシアンが有利な条件での契約を、彼が支援した様々な地域で纏めたことで、戦争シェアリング以外でのMSの販売実績を、前例を作ってしまったのだ。
ベネリットグループとしては、ぽっと出の若造にそんな事をされてしまっては、面目が立たんと以前よりも地区開発に力が入るのは当然と言えよう。
そしてその競争を「苦労したよ」と一言で済ませてしまうシャディクの能力の高さは流石としか言いようが無い。
と、連絡事項も伝え終わり、雑談もひと段落したタイミングでミオリネが「ところで」と話を切り出す。
「この前のアンタとエランの自転車の件なんだけど」
彼女がこれから始める事が分かった。
これから始まるのはお小言だ。
それは先日のシャディクがグラスレーの一室で過ごしている時に起こったことだった。
その日シャディクは普段通りに仕事をしていた。
自分を支えてくれている同胞たち、サビーナ、レネ、イリーシャ、メイジー、エナオ、彼女ら5人も一緒にいたが、シャディクと彼女らの優秀さも相まって早々にやるべき事を終えて、休憩時間を取ることに成功したのだ。
だからシャディクは1人、その部屋に残ってぼーっとしていた。
そんな時だった。エランがやって来たのは。
その背中に自転車を担いで。
アスティカシアの学生生活、決闘委員会、いくつかのグラスレーの子会社の運営、サリウスの義息子としての人間関係、暗躍、忙しすぎる毎日を過ごすシャディクが、1日丸々と休みになる事など無い。
だからエランは約束を果たすためにシャディクの休憩時間を狙って突撃してきたのである。
一緒に練習をする約束をした時点でこうなる事を予測できていたシャディクが椅子の上で動じることなく、エランとの会話をしている内に、エランは勝手に先程までシャディクの同志5人が座っていたソファや机を端の方へと勝手に片付けると、近くまでシャディクを呼んで練習を始めたのだ。
しかし、一向に上手くならない。
転ぶ回数が20を超えたところでエランは、一度も自転車に乗ったことのないシャディクに見本を見せて欲しいと要求する。
そしてシャディクの初挑戦は、見事に成功した。一度も転ぶことなく。
驚きで目を丸くするエランに気を良くしたシャディクは、そのままウィリー走行を披露して見せた。
もはやエランの瞳はキラキラと輝いている。
そうして、テンションを上げた2人は2人乗りで部屋の中をグルグルと回っている。
その中でシャディクがエランを後ろに乗せたままでウィリーを決めるとエランが燥ぐ。
楽しかった。
そうして随分と2人で笑いあっていた。
足元で響いたパキッという音に気付かずに。
そして到頭、部屋の中でグルグル回るのに飽きた2人は、人がいないのをしっかりと確認した後にグラスレー社内の廊下を爆走していた。
誰もいない廊下に風を切る音と笑い声だけが響いていた。
この2人の確認は確実であった。
目撃者など出る筈が無かった。
しかし、燥ぐ彼らを見た者が1人だけ居た。
部屋にリップを忘れた為に、取りに戻ってきたレネ・コスタだ。
リップを落としてしまっていたのだ。
パキッと音のしたあの部屋に。
それからは説明する必要も無いだろう。
散々怒られたのだ。
シャディクだけでは無く、彼女らと殆ど面識の無かったエランも一緒に。
幸いにも、義父にはこの事は伝わらなかったようで、説教を受けるのは5人からだけに留まったと思っていたが、いつの間にか彼女らの内の誰かからミオリネに伝わってしまったようで、
「エランが調子に乗るからやめなさい」
と注意されてしまっている。
その姿は兄弟を叱る母親のようであった。
「良い?アンタがエランにノっちゃうからエランも暴走を止めないのよ。次からはきっちり注意してやってよね」
シャディクは、その言葉には思うところがあった。
言っていたさ、周りに他の誰かが居たのならば……
シャディクにとってエランと遊ぶ時は、彼が子供でいられる時間であった。
メリットを提示する事でしか人間関係を作れなかった自分に、それだけじゃない関係を作れた友達。
それがエランだ。
確かに悪いことをしたと思っている。
もう2度と同じ過ちを繰り返す事も無いだろう。
でも、それでも、この行いを悔いる事は無い。
俺は俺の罪を肯定する。
だから、俺が言うべき言葉は1つだけだ。
「ハハハ、ごめんって」
なんて言ってその場を流す。
ミオリネもシャディクを叱るのは、本気で怒っているのでは無くて、エランに対する注意をすればそれだけで良かったようで直ぐに説教は止まった。
そしてまた、話題が変わる。
「エラン、アイツは……何であの婚約を断ったのかしら……」
ミオリネの雰囲気がしんみりとしたモノに変わる。親に口を出されたのは気に食わないが、それはそれとしてエランの内心も気になっているらしい。
まだ恋とは言えないまでも、好印象を相手に抱いているミオリネを見るシャディクは面白く無かった。
「普通に、他に好きな
シャディクはミオリネに憧れている。
薄汚れた自分が隣に立って良い存在では無いと鬱屈した思いを抱える程に。
それでも、他の誰かがミオリネの隣に立つのを認められる程、大人になれてもいない。
「彼の部屋に知らない娘とのツーショットを飾ってあるのも見たし」
シャディクとエランは友達だ。
だから知っている。エランに元カノが存在する事を。その娘とは、とっくに破局して今は部屋に写真なんて無いことも。
失恋に泣くエランを慰めたのはシャディクなのだから。
だけどミオリネがエランに悪印象を抱くように思考誘導する事をやめない。
俺は俺の罪を肯定する。
だが、ミオリネが食いついてきたのは、その話題では無かった。
「ちょっと待ちなさい。なんでアンタがアイツの部屋を知ってるのよ」
「何でって、泊まった事もあるからだけど」
「なっ……私は何処で暮らしているかも知らないのに……」
シャディクは思考誘導する。
「合鍵を持っているけれど貸そうかい?」
エランとは友達ではあるが、それが2人が結ばれる手伝いをする理由にはならない。
もう1人の昔馴染みであるグエル程の誠実な人物ならともかく、あんな無茶苦茶な生き方をするエランになんてミオリネを任せられるとは微塵も思わない。
「住所の方も送っておくよ。ほら」
ミオリネの通信端末にメッセージが入る。
そこには、きっちりエランの住所が送られていた。個人情報が気軽に出回ってしまう。
そしてシャディクはエランが部屋にグラビア雑誌を隠しもせずに持っている事を知っている。
どの娘が1番可愛いのか議論に花を咲かせた夜もあったから。
シャディクは思考誘導をやめない。
ミオリネとエランが結ばれるのは面白くない。
恋を知らない少女が、グラビア誌に抱く印象なんて嫌悪感ばかりであろう。
ミオリネの気持ちが恋になる前に摘んでみせる。
エランにミオリネは任せられない。
俺は俺の罪を肯定する。
エランの部屋の合鍵がシャディクからミオリネに手渡された。
シャディク……お前……
エラン……頑張ってくれ……ごめんな……