ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話 作:冬に生まれたかも
シュバルゼッテの地球圏、重力下での試験はエランが復興した地区の周辺で行われた。
それは此処に売りつけたMSの防衛演習の陰に隠れるためだ。
それに、試験するのは"ガーディアン・マリオネット"での飛行性能の確認だけなので、大した準備も必要なかった。
試験は人のいない山間部で行ったが、万が一の事態や環境への影響を考えてビームガトリングや腕部の実弾兵装は使っていなかった。本当に軽い試験だったのだ。
そして、多分に余った時間はその地域を散策して過ごした。
現地に住まう人々との交流やその子供たちとのお遊び、久々に再開した東南アジアで雇った畜産業の指導員と飲み明かしたりなど、実に有意義な時間であった。
自分から人とコミュニケーションを取ろうとする4号を見たエランは実に満足気に笑っている。
「おーい4号!この子たちがサッカーに混ぜてくれるってよ!こっち来いよ!」
何て言ってそれぞれが別のチームに混ざる。
その結果と言えば、意外にも会話の少ない4号が的確なパス回しで同じチームの子供たちを見事に活躍させて人気を獲得していた。
そうして自分に纏わりついてくる子供たちに、どうして良いか分からずにオロオロしている4号を眺めるエランは、後方腕組み師匠面である。
そんなドヤ顔のエランは、その楽しげな雰囲気を作る能力によって子供たちに懐かれてはいたが、どちらかと言えば、試合中に大した活躍をしなかった事から舐められていると言われた方がしっくり来る具合であったが。
だけど、そんな長閑な時間だけが流れていた訳では無かった。
それはエランの局所的な支援による当然の結果であるのだが、スペーシアンによって作られた格差に抗うためのテロリストたちの襲撃だ。
定期的に防衛演習を行わなければならないのだから当然そんな事も起こる。
覚悟はしていた事だ。
何ならそれを予測してこの場所を試験場所に選んだ側面もある。
やむを得ない事情として自分が実践経験を積むために。
あの穏やかな時間の後では、更に自分の計算された黒さが強調されるようで嫌になる。
援護のため、出撃のために入ったコクピットの中でエランは数秒だけ動きを止めて考え込む仕草をみせる。
シュバルゼッテはガンダムだ。
その上で、このアニメの世界に転生して来た身として考えることがある。
創作上でのガンダムは希望の象徴では無かったか?
子供たちのヒーローになるような、そんな存在では無かったか?
いや、過去の作品群の中で悪役が乗ったガンダムだって有る事は知っている。
この世界の
別にガンダムに乗った自分が主人公だなんて思い上がるつもりも無いし、今更になって戦争のある世界で、人の命を尊ぶ不殺の聖人を気取るつもりも無い。
もう自分の起こした行動の結果によった人が死んでいるなんて分かっているし、ここまで来るのに直接その命を奪ったこともある。
だけど……
いつからだろうか?
この世界に来た時から?
いや、違う……それよりは後だ……
ファラクトに乗ったあの日から……
いや、正確には、パーメットスコア3を体験したあの日からか……
パーメットがその性質からこの体に宿っていた本来の魂の情報を記憶したからなのか……
夢は……悪夢しか見ない……
眠るたびに自分の内側から声が響いてくる……「俺の身体を返せ」と……
そしてコクピットに座るたびにソレを思い出す、理解させられる……オレは……この世界で目覚めたその瞬間から人殺しであったのだと……
オレは、異世界からの来訪者として何かを致命的に間違えているのでは無いか?
なんて出撃前のコクピットでするには無駄な思考を振り切るために目を閉じてフーッと息を吐く。
そして開き直る。
今まで、夢の中で追及される前から、この世界で目覚めた時からその……人殺しの自覚を失くした事は無い。
もしかしたら最早自分は善人だとアピールしても無駄な人間なのかもしれない。
しかし、自分はこのやり方しか知らない。
だから、自分を変えるつもりも無い。
ただ、こんな自分が作った復興支援地区、その景色の暖かさに少し気が緩んだだけだ。
オレはブレない。揺れない。
いつも通り、好き勝手にやらせてもらうさ。
出撃の口上は決まっている。
「シュバルゼッテ……エラン・ケレス、出るぜ」
行きます。とは口が裂けても言えないよな。
それを言えるのは主人公だけだ。
そんな穏やかさと激しさが同居した地球での日々を乗り越えて、エランと4号は宇宙へと帰ってきた。
過ごしてきた時間か、そこでこの身体は生まれたからか、エランには重力に支えられた大地よりも、何者にも縛られない宇宙空間の方が居心地よかった。
そうは言っても、エランは疲労困憊で「もう動けねぇ」と駄々を捏ねて自宅まで4号に負ぶわれて帰ってきた。
これはエランが4号の住処を、勝手に自宅の隣に用意したからできた事だ。
一緒に暮らしても良かったのだが、自分と同じの整った顔立ちで、この年齢から御三家の一角の企業に勤めるエリートで、ミステリアスな雰囲気を纏った男というのは、モテるだろうと考えて、もしそうなった時に気まずく無いようにと考えて。
より正確に言うならば、誰がヒロインで誰が主人公なのかも分からないこの状況で、仮に4号が主人公だったとして、物語を終えてヒロインと一緒に帰ってくるだろう家にオレが一緒に住んでいたら明らかにおかしいだろうと考えて、「プライベートは大事だから」と言って4号のための住処を用意した。
とはいえ、それで用意するのはお隣りなのだが。
その帰り道は、エランにとっても4号にとっても楽しい時間だった。
エランは「もうダメだぁ、歩けない」と言っておきながら、その口は軽快で会話は弾んだし、4号から初めてプレゼントを貰ってしまった。
これには勝手に4号の保護者を気取っているエランも涙ちょちょぎれである。
まあ、その内容がハーブティーであって自分のポーカーフェイスを貫いて不調を感じ取った4号に、人を良く見るように成長をしたと喜ぶべきか、自分の詰めの甘さに気を引き締めなければと思わされるのか判断に困るところであったが。
とにかく嬉しかった。
だが、4号と別れ自室の扉を開けると流れが変わった。
まったく楽しくない。
何故なのかって?
部屋中が荒らされていたからだ。
よもや、強盗が入ったのでは?と疑うべき位に。
これには、すっかり一休みをしようと考えていたエランも、何が無くなっているのか確認するために片付けを始めざるを得ない。
手伝って貰うために今し方別れたばかりの4号も呼ぼうかと考えたが、自分の部屋には彼の情操教育に良く無い物も混ざっているので、仕方なく1人で進める事にした。
そうして、片付けを進めていると奇妙な事に気付く。金目の物は何も奪われていないのである。
強いて見当たらない物を挙げるとしたら、シャディクに煽りも込みで
そんな物だけを奪っていく強盗なんているか??
そこまで盗難の確認が済んだところでバカらしくなったエランは、片付けを後回しにしてシャワーを浴びる事にした。
今思えばこれが間違いだった。
シャワーを浴びるエランは、自分からグラビアを盗んだ犯人として、4号を疑っていた。
しかし、部屋を荒らしたのが4号だとは微塵も思っていない。
ただ合鍵を渡している4号はエランの部屋から本を無断で借りていく事が多いのだ。
哲学書ばかりを好んで読んでいたが、最近はシェイクスピアに凝っているようで、前に本棚を確認した時は、タイタス・アンドロニカスが抜けていて後日、それを読む4号を目撃したことから分かったことだ。
その延長線上でたまたま好みの女の子が写っている本を見つけた4号が持って帰ったのでは無いかと判断している。
もしそうであるのならば、保護者気取りとしては、随分と分かりやすいが捻れていない性癖に安心すべきであろう。
うん、頼むから4号が犯人であってくれ。
グラビア強盗とか存在が怖すぎるし、シェイクスピアでも悲劇ばかりを好んで読む4号の性癖を疑いたく無い。せめて悲劇は悲劇でもロミジュリくらいのメジャーな物を好んで欲しいものである。
ゲームを持って行ったのは確実にシャディクであろうが、グラビアは違うだろう。アイツの好みは知っているが、巨乳には反応が薄かったのを覚えている。だからグラビアを持って行ったのは4号だ。そうであってくれ。
それに、2人ともこの家の物の配置はしっかりと把握していて目的の物を探すまでにここまで荒らすとは考えられない。
だから部屋を散らかした犯人だけが分からない。
なんて壁に手をついて、シャワーから流れ出るお湯を頭から浴びながら
「この事態をどう考えたら良いんだ……」
と的外れな推理をしながらも、部屋を荒らした犯人の予想は立たない事に頭を悩ませている。
濡れた髪は顔に張り付いて、開いた瞳の上から視界を塞ぐ。
その時、ガチャリと鍵の開く音が聞こえてきた。
この部屋の合鍵を持っているのはシャディクと4号だけだ。
シャディクならば、勝手に入ってくることもあるが、来れば挨拶はするだろうし推理した流れと同じように4号が何か本を借りに来たのであろう。
何かリビングの方からゴソゴソと音がするから間違いではないはずだ。
ならば、盗られたグラビアの内でお気に入りのものだけは返して貰おうと、強盗の可能性を忘れてエランは、サッと濡れた体を拭くと腰にタオルだけ巻いて、まだ乾かない髪をフェイスタオルで拭いながらリビングに向かって行った。
今思えば、これも間違いであった。
けれど、それほど頭が回らない位にはエランは疲れていた。
リビングの扉を開いたエランと、そこにいたグラビア強盗兼部屋荒らしの犯人が言葉を発したのは同時だった。
「なぁ4号、オレの大迫りょ……」
「散らかして悪かったわね。片付け手伝いに来たわよ」
リビングには、ミオリネがいた。
リビングには、何故かエランのジャージの上着を羽織ったミオリネがいた。
リビングには、この部屋の不可解な現象の全ての解答としてミオリネがいた。
それを見てエランは全てを理解した。
お気に入りのあの娘たちはもう、この世にいないであろう事も。
シャディクが何かやらかしたに違いないという事も。
「「……………………」」
ミオリネもエランの格好に目を丸くして絶句している。
だってエランがその身に纏っているのが、タオルだけなのだから……
デリングに今まで守られてきた箱入り娘には刺激が強い光景だった。
「「……………………」」
静寂が痛いくらいに響く。
お互いに口を開くことができないでいる。
汚れを落としたばかりのエランの全身から滝のように汗が溢れる。
この状況は非常に不味い……あと疑ってごめん4号……
2人きりの部屋の中で、ほぼ全裸の男と明らかにサイズが合っていない男物の服に身を包むベネリットグループ総裁の1人娘が向かい合っている……
ツーアウトってところか??????
君は生き延びることができるか?