ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話   作:冬に生まれたかも

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立場が逆転

 

 

 

 

 

 その日は、ジェターク社の研究チームと混ざって働いているベルメリア・ウィンストンもエランたちのオフィスにいる珍しい時であった。

 そんなアスティカシア高等専門学校へ入る少し前の日の出来事である。

 

 オフィスに現れたエランはいつものスーツ姿では無く、特徴的な緑に近いブルーの服を纏っていた。

 アスティカシア高等専門学校の制服だ。

 

「じゃーん!どうよコレ」

 

 そう言って、部屋の真ん中でくるくると回る姿は年相応の子供らしさが感じられて、彼が来るまでは固い雰囲気で、モニターと見つめ合っていたベルメリア・テクノロジーズの社員たちとベルメリアは、微笑ましい表情でそれを見守っている。

 

「制服って改造できるだろ?だからオレもちょっとだけイジってみたんだよな。センス良いだろ?」

 

 エランは足をバタバタさせて、普通の制服とは違う部分に注目を集める。

 そうするとシャカシャカ音が鳴った。

 制服のハーフパンツが色は変わらないまま素材がスポーティーなものに変えられている。

 そして、幅の広い裾から出てくる足はピタッと厚手の黒いスポーツタイツに覆われている。

 

「やっぱりパイロット科たる者常に動きやすい格好が良いと思ってね」

 

 ドヤ顔で胸を張るエランからは、パイロットに成ることを、シュバルゼッテのテストパイロットになる事を、ミオリネの足に縋りついてまで拒否したことを知らないベルメリアと社員たちに、本当に学園に通う事を楽しみにしているんだな、と感じさせた。

 

 それに答えるようにエランはスニーカーをキュッキュッと鳴らしながらオフィスの真ん中で楽しそうに踊っている。

 

 そして、手をパンパンと叩いて合図を送ると、エランと同じように、アス高の制服に身を包まれたエランと同じ顔の少年、強化人士4号がオフィスの中心まで寄ってくる。

 しかしそこで、空気がピシリと固まった。

 そしてエラン以外の全員の心の中での声が揃う。

 

 うわダッサ!っと……

 

 その格好は、人類が宇宙に進出し巨大な経済圏を作った時代アド・ステラにおいても異端だった。

 ハーフパンツは色はそのままにスキニーに変更されて4号の綺麗な脚の線が強調され、足は制服と同じ特徴的なブルーのブーツに包まれている。

 そこまでは良い。

 いや、マトモなのはそこだけとも言えた。

 上半身のファッションセンスがイカれているのだ。

 まず袖が無い。

 肩から先の布がバッサリと断ち切られており、鍛え上げられた腕が露出しているが肘の少し下辺りからは制服と同色の革手袋で覆われている。

 ネクタイが外され、開けた首元は襟が大きくされてより注目を集めるデザインになっているが、その首はタートルネックに覆われてノースリーブとの組み合わせで季節感の無い格好になっていた。

 そして顔だ。

 強化人士4号はその整った顔を隠すように、顔の中心に目が覗けない程に黒くデカいサングラスを装備していた。

 全身青緑のノースリーブグラサン男は、もはや変態にしか見えなかった。

 

 空気が凍る。

 ベルメリア・テクノロジーズの社員は元々はペイルに所属していた人間だ。

 だから当然いる。アスティカシア高等専門学校出身の人間が。

 その人物らの心中は一致していた。

 このまま4号を学園に通わせては確実に虐められると……アス高の治安は悪いのだ。

 

 そんな地獄の空気が漂って、誰も言葉を発せない中、突然オフィスの扉が開く。

 入って来たのは、今日お互いに制服のお披露目を約束していたミオリネだ。

 彼女は自分のセンスを誇るように、まるでモデルかの如くヒールをコツコツと鳴らしながら、エランたちがいる中心まで近づいてくる。

 ショートパンツから覗く脚は、シンプルでありながら印象的なラインが前後に入ったタイツに包まれて、ミオリネの魅力的な脚を更に際立たせている。

 その姿は、その自信満々といった雰囲気に相応しく高貴なオーラに溢れていた。

 そして、そのままエランに言い放つ。

 

「アンタは合格だけど、4号は却下ね。ダサすぎるわ」

 

 あまりにも気不味い時間を過ごした社員たちには、ミオリネが救世主に見えた。

 

「4号の制服は私がデザインし直すわ。文句ないわね?」

「えぇ、この服にも意味はあるんだぜ?」

「何よ、言ってみなさい」

「理由は2つさ。まずは視認性だろ。ここまで違えばオレと4号が同じ顔には見えないだろ?それにもう一つはもっと重要だ」

 

 指を2本立てて、これから重大な事実を発するような雰囲気をエランが作る。

 

「学園に入るに当たって4号の市民IDを作ったんだよ。まさか強化人士4号なんて名前で登録できるはずも無いだろ?」

「それで?」

「ん、コイツの新しい名前はクワトロになった訳よ。これなら今まで通りの4号って呼び方もあだ名として使えるだろ」

「だから何なのよ」

「いや、クワトロが着る服って言ったらノースリーブ以外あり得ないでしょ」

「その発想があり得ないわ。どこの常識よ。とにかく4号の制服は私がデザインし直すからね!分かった!?」

 

 その時、エランに詰め寄るミオリネを社員たちが安堵の表情で見る中で、否定の声が上がった。

 

「いや、僕の服はこのままで良い」

「はぁ!?」

 

 4号だ。

 もはや、その服を着させられることすら虐めなのでは無いかと思える格好をさせられている本人が、言い出したのだ。

 

「良くないわよ。そんなダサい奴が自分の隣にいるなんて。こっちが恥ずかしいわ」

「それでもこれは、エランが僕にくれた物だから大事にしたい」

「ダサいのは否定しないのね。でもダメよ。エラン、アンタからも説得しなさいよ」

「はいはい」

「はいは一回!」

「はい。なぁ4号、その服はオレの悪ふざけが過ぎたんだよ。制服の事はミオリネに任せてくれないか?」

「分かった。君がそう言うならそうする」

「ん、良い子」

「なっ……」

 

 ミオリネは4号のエランに対する、あまりの全肯定っぷりに絶句したが、自分の隣に変態じみた格好の男が立つ心配はなくなったのだから良しとしようと納得した。

 そして、手元のタブレットで制服の発注を始める。ハーフパンツは、そのままにタイはリボンタイに変更し、二重袖の部分を少し短く、黒色に変色させて、両手は白い手袋を用意する。

 エランは知らないが、アニメでの原作通りの衣装を4号が身に纏うことが確定した。

 もしも、エランが原作での衣装を知っていたら、これが所謂『物語の強制力』かと戦慄していたであろう。

 それまでの流れにひと段落ついた所でエランが声をあげる。

 

「んじゃ、そろそろ学園での動き方も決めようか。皆んなも悪かったね、仕事の邪魔して。もう戻って良いぜ」

 

 それだけ言うと返事を待たずに来客用のソファまで移動してドカッと腰を下ろす。

 それに続くように「ちょっと待ちなさいよ!」と声を荒げたミオリネと4号とベルメリアが後に続く。

 残された社員たちはそれが何時ものことのように、特に気にせずに自分のやるべき事へと戻ったのだった。

 

 

 

 そして、緊張感に包まれたソファで作戦会議が始まる。

 

「で、動き方って言うのはアンタがホルダーになる方法って事で良いのよね」

「さっすがミオリネ話が早い。ならその為の大きい壁も分かってるだろ?」

「シュバルゼッテね」

「そう、それが壁」

 

 間を挟まずにグングンと進んでいく相談に理解がまだ追いついていないベルメリアが疑問の声をあげる。

 

「どういう事なの?」

「ベルはオレがホルダーになるために欠かせない物は何だと思う?」

「それはやっぱり、パイロットとしての腕を補うMSじゃないかしら」

「そうシュバルゼッテが必要だよな。それが問題なんだよ」

 

 確定事項を話すように淡々と語るエランにベルメリアは、開発者として首を傾げる。

 

「確かに技術的な問題は残っているけれどシュバルゼッテの性能は十分決闘で結果を出せるところまでは来ているわよ?」

「相手が誰であってもね」

「つまり?」

「まだ分からない?そのシュバルゼッテを作っているのはウチとどこだっけ?」

「ジェターク社……そう言うことね」

「そっ、現在のホルダーであるグエルに勝ち得る可能性がある機体をあのヴィムさんが使わせてくれると思う?」

「無いわね……」

 

 諦めムードを漂わせるベルメリアに、その事実が何でもないかのように軽い調子でエランが言葉を続ける。

 

「だからオレたちは、学園に入って直ぐにグエルに決闘で勝つ必要がある。だから4号も学園に通うのさ。ベルメリア寮のエースパイロットとしてグエルに勝ってもらうためにね」

「それでも難しいんじゃないかしら」

 

 自分が作った人工の最強パイロットである強化人士の性能を理解した上でベルメリアは考え込む。

 脳裏に浮かぶのは過去に2回のジェターク社の御曹司、グエル・ジェタークの戦闘シーンだ。

 エランが乗っていると言うハンデが有ったとは言え、同じく御三家の御曹司であるシャディクの操るMSを一方的に達磨にした1回目と、ガンダムであるファラクトに現行機の性能でしか無いディランザで勝利してみせた2回目の腕前。

 断言できる。彼は天才だ。

 果たして、強化人士と天才どちらが強いのか、それは誰にも分からなかった。

 

「だから4号が確実にグエルに勝てるようにオレたちは、その土台作りから始めなきゃって訳よ。その作戦会議」

「なるほどね」

 

 そこで、4号が口を挟む。

 彼はエランを頂点に連れて行くと決めている。そのために誰にも負けるつもりは無い。

 

「そんな事をしなくても僕は勝つよ」

「誰も負けるとは思ってねぇよ」

 

 が、間を開けずにエランも返事を返す。

 

「だけど、オレたちはチームだ。一緒に戦おうってだけだよ」

「カッコつけるのは良いけど、そこまで言うなら何か案はあるんでしょうね」

「大まかには2つだな。オレがメインで人脈を広げるパターンとミオリネがメインのパターン。この2つを同時に進めて行く」

 

 そう言ってミオリネの問いに、また大きく指を2本立てて、誇らしげな表情をして答える。

 

「オレがメインのプランは、シャディクと協力して進めるから、現時点で話す事は無いね」

「アイツが素直に協力するかしら」

「おいおい、シャディクはオレたちの支援者(スポンサー)だぜ?」

「それでもよ」

 

 ミオリネは知っている、シャディクのやり方を。そのミオリネが知るシャディクが素直に提案を受け入れるとは思えない。

 彼ならば此方にとっても、都合が良いが彼にとっても、より都合の良い様にプランを変更してくる事は容易に想像ができた。

 エランの想定通りに動いてくれる可能性は低いとミオリネは思っている。

 

「まぁ、もしも断られてもあるだろ。あの学園ならではのシンプルな解決策が」

「よしなさい」

「シャディク・ゼネリに決闘を申し込むさ」

「受けてくれないわよ」

「いいや受けるね。そのために挑発もしておいたし、とっておきも有る」

「何よ。手を打ってるって事は、アンタもシャディクが素直に協力するとは思ってないって事じゃない」

「友達だからね。オレだってシャディクのことは分かってるつもりさ」

「友達ね……ならどんな挑発をしたか分からないけど、心は痛まなかったの?」

 

 その挑発に自分を使われたと自覚の無いミオリネが、友達と言うワードに反応して問いを投げかける。

 父から人間関係を支配されていたミオリネにとって、その言葉は言葉以上の意味を持つものらしい。

 

「別に、友達なら喧嘩ぐらいするだろ」

「そう。なら良いわ」

 

 目を伏せて頷く素振りを見せたミオリネはそれ以上聞きたい事は無いように引き下がる。

 

 そして、話題はもう1つのプランの話しへと移る。

 

「で、今日話したいのは、ミオリネがメインのパターンの方だ。こっちには全員の協力が欠かせないからな」

「報連相ができるなんて成長したじゃない」

 

 少しだけ感動しながらエランの考えたプランを聞こうとするミオリネに、それを裏切る提案がされたのは、エランが話し始めて直ぐの事だった。

 

「学園の中でのシーソーゲームに絡むのは、何もバックの企業の力だけじゃ無い。それが分かったのは、シャディクの周りにいる彼女らのおかげだ。集めた人気は力に変えられる。特に、サビーナ・ファルディンにこそ注目すべきかな。彼女は学園に入って1年も経たない内に同性の憧れを集めて、グループを作る事に成功している」

 

 話しが怪しい方向へ流れ始める。

 

「エナオ・ジャズも同様に、学園内に寮の垣根を無視した支持者を増やしている。この彼女らの手際は恐らくアス高に入る前からの経験から来るものだろうな。それはグラスレーの育成プログラムであるアカデミーの情報を集めれば、容易に想像がつく。人気を集めることが、そのまま生存戦略に繋がる訳だ」

 

 絶句するミオリネを無視して、自身の分析結果を誇らし気に語り続ける。

 

「オレとしてはアカデミー時代の彼女らを参考にするなら、メイジー・メイくらいの人気のバランスがやり易いと思っているが、環境を作り易いのはレネ・コスタだろうな。でもタイムパフォーマンスの面とミオリネの人格を鑑みるに、既にできあがっているエナオ・ジャズとサビーナ・ファルディンのファン層を狙うのも良さそうだよな」

「さっきから何の話しをしてるのよ」

 

 エランの話す内容から、大凡の概略を把握したが、それが間違っていて欲しい一心でミオリネは尋ねた。

 が、返ってくるのは予想と何も変わらない物、いやそれ以上に酷かった。

 

「なに、簡単な話しさ。オレたちでミオリネを学園のナンバーワンアイドルにするってだけのね」

「ッ……スーッ…却下!」

 

 大きく息を吸い込んで出した否定の声が部屋全体に響いた。

 が、もう遅い。

 この男が何の下準備も無しに動く事は無いのだ。

 

「甘いなミオリネ。ミオリネグッズのサンプルはすでに完成しているぜ。ベル、例の物を」

「え…ええ」

 

 珍しくベルメリアがここに居るのは、偶然では無く、このために呼び出されたのだ。

 

「見よ、これがベルメリアの元々の技術とジェターク社で学んだAI技術によって生み出された『喋る!ミオリネ人形』だ!」

 

 そうして、2頭身のデフォルメされた人形がミオリネに突きつけられる。

 

「そして、こうやって電源をオンにして話しかけると」

 

 エランが人形の足の裏をカチリと鳴らす。

 

「おはよう、ミオリネ」

『遅い。5分前にはくるもんでしょ?』

「ごめんって」

『今回は許すけど、次は無いから』

「と、いった感じでミオリネの声で会話ができる優れ物だぜ。しかもAI搭載だから会話を重ねる毎に仲良くなれる機能付きだ」

 

 エランは殴りたいほどのドヤ顔だ。

 いや、本当は殴りかかってるがエランの隣に座るノースリーブグラサン男に捌かれて、手が届かないだけだ。

 

「なに無駄な物作ってんのよ。お金と技術の無駄遣いの極みじゃない!」

「いや、需要はあるぜ」

「無いわよ」

「有るんだって」

 

 本当に有る。

 本人には言えないが、既に1人にミオリネ本人に無許可で試作品を1つ売っているからだ。

 エランは心中で、過去の出来事を振り返る。

 そう、それはミオリネたちにも秘密で1人である男に呼び出された日のことだ。

 

 まだ完成品は目の前のこれと試作品の2つしかない状況で、量産体制も整っていない事から信じられないほど値が張るのに、迷わず購入するとは恐ろしい男だ。

 デリング・レンブラン……

 まさか、雑談の中でポロりと溢しただけのミオリネ人形にあれほど食いつくとは思わなかった。

 彼も1人の娘を思う親だったと言うことか……

 

「マ、そう言う事だから。ミオリネは覚悟だけ決めておいてくれ」

 

 ミオリネは知っている。

 こうなったエランは誰にも止められない事を。

 

「じ、慈悲の心は無いわけ?」

 

 いつぞやのテストパイロットを決めた時のような光景がくり返される。

 今度は立場が逆転しているが。

 

「ハハハ、ごめんって。だけどもう決まったことだから」

 

 ミオリネは知っている。

 この男が何の下準備も無しに動く事は無いのだ。

 エランは朗らかな笑顔で冷酷に告げる。

 それはミオリネが1番聞きたく無い答えであった。

 

「ほら、もうファンクラブサイトも作っておいたから。オレたちチームで一緒に頑張ろうぜ」

 

 絶叫が部屋中に響き渡る。

 

「いやぁぁぁぁああああああ!!」

 

 

 

 

 

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