ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話   作:冬に生まれたかも

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あばばばば

 

 

 

 

 

 アスティカシア高等専門学校に新入生が加わり、移ろう環境に誰もが心を躍らせる。

 学園の中は喜びの声で溢れる日に、薄暗い決闘委員会のラウンジにシャディクは1人でいた。

 その目線はとある動画、ミオリネのファンクラブサイトが、SNSに上げたものを映す自身の通信端末へと注がれて、目元が光に照らされている。

 

 気難しいあのミオリネをどう説得したのかは分からないが、それは彼女の日々を追ったドキュメンタリー動画であった。

 地道に資料と向き合い、真面目に働き、時折地球に赴いては現地の人間と懸命に付き合い、交渉し、歩く。

 それは宇宙でも同じく、自分たちの傘下となった企業の元へも赴き、デリングの強権によって上場もしていない会社の下へと追いやられたと考える、不満を溜め込んだ人々とも馴染もうと努力し、懸命に話す。

 たったそれだけの映像であったが、それを見た人間が抱く印象は同じ。

 最初は七光の恩恵を受けているだけだろうと、ミオリネを腐そうとしていた人々も、純粋にその容姿に惹かれて動画を再生しただけの人々も、誰もが同じく──

 直向きに仕事と向き合う十代の女の子に心を奪われる。

 

 上手くやったものだ。

 これならスペーシアン、アーシアン、学園内のカースト上位、下位、所属寮、それらを無視して、全員から人気を集めることができる。

 それほどまでに出来の良い映像であった*1

 そうして、何度も繰り返して視聴した、その動画を閉じて、今度は音楽配信のサブスクを開き、そこで公開されているミオリネが歌う曲を目を閉じて聴く。

 

 そのタイトルは『祝福』

 その歌には、誰かの背中を押す力があった。少なくとも、この学園に通う人間には特に刺さる人間が多いだろうと思える。

 ここに来る人間は誰もが自分たちの後ろにいる企業に多大な影響を受け、大人に利用される子供という共通点を抱えている。

 そんな子供たちにとって、この歌はまるで麻薬だ。雁字搦めになって動けないでいる自分をそっと肯定されて、いつの間にか前に進んで行こうという気にさせられる。

 自分もエランと言う人間を知らずにミオリネが歌うコレを聴いていれば涙を流し、救われたかのような錯覚を受けていただろうことは想像に難く無い。

 

 誰もがミオリネの歌に自身の境遇を重ね合わせて慰めとしたり、自身を奮い立たせる中でシャディクは、シャディクだけは違う想いに、思考を費やしていた。

 シャディクが感じ取ったもの。

 この歌の解釈。

 それはこれが、エランの曲だと言うことだ。

 

 歌詞の中に見られる孤独の絶望感、世界から一歩引いた目線、まるで本当に運命があるかのような口ぶり。

 それらは、紛れもなくエラン・ケレスから(こぼ)れたものだとシャディクは解釈していた。

 世界を外側から見ているからこそ作ることのできる歌詞だと。

 

 目を閉じて、ミオリネの声に酔いながら、シャディクは深い思考の海へと潜って行く。

 

 誰もエランの隣に立っていない…立とうともしていない……俺以外は……

 ミオリネも、強化人士4号も、ベルメリア・ウィンストンも、誰も彼もがエラン・ケレスと言う男を正確に認識していない。

 エランの本質を理解しているのは俺だけだ。

 エランは俺と同じく、世界から自分を切り離して眺めている側面がある。

 シャディクはエランに自分と似通った人間性を確かに感じ取っていた。あるいはそう言うところがエランの隣にいて息がしやすい理由なのかもしれない。

 

 世界には薄汚く汚れた黒い部分と、誰もが笑ってくらせる白い部分があって、自分は黒い世界で生まれた人間で、甘くフワフワした優しい景色の中に混ざる自分を想像できずに、そこに踏み出すことのできない人間であると、根は変えられないと、シャディクは自覚していた。

 それと同じように、隣から見るエランは世界を……そう、例えるなら画面(ガラス)越しに眺めている。もしくは、客席から舞台の上を見るように第4の壁を隔てるように世界を認識しているように見えた。

 エランにその自覚があるかどうかまでは分からないが、エランの横に立つだけでその事実はありありと伝わってくる。

 

 だからこそ許せなかった。

 自分と同じく眩しい世界を眺めることしか出来ないはずのエランがミオリネの心に踏み込んだらしいあの出来事が。

 それが許されるのは誰もが心を焼かれるほどの光り輝く存在だけだと言うのに。

 自分と本質を同じくする人間であれば、近づいてきたミオリネを突き放すだろうと勝手に思って、それに腹を立てている自分。

 その無様さを自覚して顔が歪む。

 

 シャディクの中で、アーシアンのために……いや、より正確に表すならば自分と同じく黒い部分で生まれてしまった存在を救うために、切り捨てねばならない子供らしい気持ちが2つに分かれて、身を引き裂きそうになる。

 野望のためにそれを捨てたい自分。

 子供のように駄々を捏ねてエランをミオリネから遠ざけたい自分。

 汚れた世界を忘れて、無邪気に笑っていられる場所を捨てられない自分。

 シャディクの中の幼さがミオリネとエラン、それぞれに執着をみせる。

 

 ギュッと拳を白くなるまで、震えるほどに握りしめる。

 自分の心が溢れてしまう、この葛藤はシャディクを同胞として、共に行動するサビーナたちに見せることは決してできない。

 薄暗い決闘委員会のラウンジにシャディクは1人でいた。

 

 

 

 

 ここはアスティカシア高等専門学校に行くための運搬船の中。

 窓の外には宇宙の暗闇と星の輝き以外は何も見えない。

 新入生と帰省から寮に帰る学生の多いこの船に、パイロット科の生徒として自分のMSを持ち込む必要がある強化人士4号と、豪華な内装のシャトルを手配していたにも関わらずそちらを断って道中の話し相手のために此方を選んだミオリネがボックス席に向かい合って座っている。

 

「なかなか帰ってこないわね」

「そうだね」

 

 会話が続かない。

 エランが少し席を外しただけで、言葉のラリーが終わってしまったのである。

 目の前の打ち込むことが無くなったミオリネは周囲から集まる視線に落ち着かなくなってそれを意識から逸らすために懸命に4号へと話を振り続ける。

 

「いつも読んでる本はどうしたのよ?」

「エランがいる時は読まないよ。彼の言葉を逃したくないからね」

(お…思いが重い……)

 

 その後もいくつか質問を続けたが、返答しやすいものが無く、4号の側から質問も来ないのでミオリネは会話を続ける事に難儀していた。

 

 助けてエラン……

 なんて重たい空気なのよ。これは私は悪く無いわよね。なんでこの子は相手の気持ちを汲み取る気が0なのよ……*2

 

「おまたせぇ、ん?なんで頭を抱えてるんだ?」

「ちょっとアンタどこ行ってたのよ!」

「雉を打ちにだけど」

「もっと早く帰ってきなさいよ!」

「そんな無茶だろ。結構大物でさ」

「汚い!」

「いや、話を深掘ってきたのそっち」

「なによ?」

「はい、すみませんでした」

 

 こうして、ミオリネが望んだ楽しい道中の時間が帰ってきたのだが──

 

「この席どうにかならないのかしら?周りの目が煩くてしょうがないのよ」

「なら予定通りシャトルで行けば良かっただろ?」

「それとこれは別よ」

「それでも、人気者の証明なんだからプランが上手く行ってることを喜ぼうぜ」

「アンタが勝手にやったことじゃない」

「ノリノリで歌ったくせに。なっ?4号」

「うん。いい歌だった」

 

 その歌を気に入っているらしい4号も満足気に頷いている。

 それに満更でも無い表情でミオリネは、更にエランからの称賛を得ようと褒められ待ちの顔で黙って視線を4号の隣に座る男に固定する。

 ミオリネがエランの用意してきた曲『祝福』を歌う気になったのは、それがエランが自分のために作った曲だと思ったからだ。

 普段はミオリネなら当然だとばかりに信頼を向けてきて、あからさまに持て囃すことの少ないエランが自分をこんな風に思っていたなんてと、こそばゆい気持ちになったが可愛い所もあるのね。と、感情の乗った歌声を披露して高い完成度で歌を配信できた訳だが。

 

 当然、作品の主題歌を使えば作中の世界でもバズるでしょ。

 と安直な発想で、異世界だからと遠慮も著作権も無視してミオリネが歌う曲を選んだエランに歌に込めた思いなんて無い。

 

 無いが、エランは目の前の相手の気持ちが手に取るように分かる男なので、望んでいるであろう言葉を発する。

 

「心に響くいいものになったとオレも思ってる。ミオリネのおかげだな」

 

 嘘偽りの無い笑顔を真っ直ぐにぶつけられたミオリネは「ふ、ふーん」とだけ相槌を打ってニヤニヤとしている。

 これがミオリネが運搬船での移動を選んだ理由であるのだが、こう言う時間だけが続く訳がない。

 エランの提案で再びミオリネは試練に挑まされる。

 

「ミオリネが真面目にアイドルをやってくれそうで助かるよ」

「そうとは言ってないわよ」

「でさ、ついでにミオリネにレベルアップして欲しいんだよねオレとしては」

「いきなり何よ」

「ミオリネにはもっと人と話せるようになって欲しいとパパは思うわけ」

「誰がパパよ。1つ違いでしょうが」

「だから彼に話しかけてきてよ」

「は?」

 

 エランの視線がミオリネの更に後ろへ運ばれる。

 そこには先程からこちらに視線をチラチラと向ける大人しそうな学生がいた。

 彼は突然、キラキラした雰囲気を纏う集団の視線が自分に集まったことに驚き、目を逸らして俯いてしまう。

 

「なんでよ」

「彼の姿勢、猫背でストレートネックだろ。それは長時間、資料と向き合う必要のあることを表してるな。そして、男の子にしては綺麗で細い指、彼はミオリネと同じ経営戦略科の生徒だよ。それに、さっきから様子を見てたけど彼の纏う雰囲気は緊張が殆どでずっとソワソワしてる。新入生なんだろうね。仕事とは関係の無い初対面の人間と話す練習には打ってつけだろ」

「何で私がそんなことを」

 

 拒否しようとするミオリネの言葉を遮る。

 

「できないの?」

「できるわよ!」

「じゃ、目指せパーフェクトコミュニケーションってことで」

 

 そう言って手を振るエランに仕方なくミオリネは試練に立ち向かうことにする。

 鋭い雰囲気を放ったまま突然立ち上がったミオリネが件の少年の元へと歩いていく。

 可哀想な少年は蹲りながらも耳はしっかりとミオリネたちへ向けていたので心臓がドクドクと暴れている。

 

「ここ座るわよ」

「えっあっすっえっ……は」

 

 少年が「い」の発音をする前にミオリネは彼の隣に腰を下ろした。断られることを微塵も想定していない、独裁者の所業だ。

 

「あなた、名前は?」

「えっと、僕ですか……?」

「他に誰がいるのよ」

「あの、えっと、その……」

「はぁ、もう良いわよ。あなたは何でこの船に乗ってるわけ?」

「それは入学するためで…はい……」

「なんでなのよ」

「スー……はい、えっと親にそう言われて」

「それで頷いてきたのね」

「あ…あ、はい……じゃなくて、はいです」

「そうなのね、で?さっきからコッチを見てたのは何なのよ」

「あ、あの、えっと、それは、あの、ミ、ミミ、ミオ……レンブランさんの歌を聴いて、あの、その凄く、感動して、その……」

「ちょっと、目を見て話しなさいよ」

「えっ…あっ……スーッ」

 

 それきり、震えるだけで何も話さなくなってしまった少年にズケズケと「悪かったわね」とだけミオリネは言って、エランたちの居る席へと戻って行った。

 そこには手で目を覆って天井を仰ぎ見るような姿勢をして絶望しているエランとエランの真似をして同じ姿勢をとっている4号がいた。

 

「今のは向こうに問題があったわよね。アンタ、私の練習の相手ならちゃんと選びなさいよ」

 

 この言い草である。そうだミオリネには自己主張が薄く、気の弱い人間とのコミュニケーションの経験が無いことを失念していた。

 ミオリネの成長とドキュメンタリーの撮影のために普段はエランが行っている仕事の一部を任せて、こちらに敵意のようなものを持つ相手との対面の練習は経験させていたから今回も大丈夫だと思ったのがエランの敗因だ。

 エランは思う。

 なんでこの子は相手の気持ちを汲み取る気が0なのよ……*3

 

「あのねミオミオ、今のはイジメなんじゃ無いかなってオレは思うよ?」

「はぁ?どこがよ。普通に会話しようとしただけじゃない」

「もっと優しい話し方しないとダメかも。もっと自己主張の弱い人間との会話の練習をしてからじゃ無いとだったね、ごめんね。4号、残りの移動時間だけでもミオリネの練習相手になってくれ」

「ん。分かった」

 

 ミオリネの試練は続く。

 案山子に徹することにしたエランは、俯いたまま動かない被害者にそっと黙祷をする。

 今はそっとしておこう。

 そして今度会った時はちゃんとフォローしなくちゃな。と決意したのであった。

 

 が、エランは知らない。

 その俯いた名前も分からない彼が、今も座席に残されたミオリネの研ぎすまされた印象さえ与えるような、冴えわたる潔い香水の残り香にドギマギしながら、一連の会話を振り返って、心の中で何万回も反省会を開いていることも……

 この経験によって性癖を歪まされ、女の子に冷たくされることで、興奮を覚えるようになってしまったことも……

 彼が今後、ミオリネへの廃課金をやめられないディープなファンへと落とされてしまったことも……

 実はミオリネが行った辛辣な会話がパーフェクトコミュニケーションだったことをエランは知らない……

 

 

 

 そんな誰にとっても地獄のようだった移動時間を終えて、アスティカシア高等専門学校に降り立った3人はそれぞれの目的地へと足を進めて行った。

 4号はMSの格納庫へと。

 ミオリネは寮へと。

 そして、エランはシャディクと話すために決闘委員会のラウンジへと向かって行った。

 

 エランはこれから始まる交渉もしくは、するかも知れない決闘に備えて精神を整えながら歩いていた。

 驕りはなく、昂りもなく、憂鬱さもない。

 勝負の前としては理想的な精神状態であった。

 

 そのエランの通信端末が震えた。

 ベルメリアからのメッセージが届いたのだ。

 

"貴方の事だから、学園に着いたら直ぐに勝負に向かうだろうから一応忠告しておくわね。"

 

 何か重大な知らせが有るらしい。

 

"シャディク・ゼネリとの交渉へのとっておきとして『喋る!ミオリネ人形』の試作品を使おうと思ってるのなら諦めてちょうだい"

 

 スクロールしながら読み進めると、その心配事は杞憂である事は分かったが、どんな問題があるのかと続きを確認する。

 

"貴方には伝えていなかったけれど、あの人形の試作品には欠陥があったのよ。でも心配しないでサンプルの方では直しておいたから"

 

 エランに冷や汗が流れる。

 その欠陥を抱えた試作品はすでに怒らせてはならない男の手に……

 いや、落ち着け。まだ、致命的な欠陥だと決まった訳じゃない。何かしらの言葉の発音に問題があるとかそれぐらいだろう。

 自分に言い聞かせる。

 が現実は無常である。

 

"あれね、いくら話しかけても親密度が上がらないの。情報は蓄積されていくから話せる内容は増えて行くんだけど……

 そう言うわけだから、あれは交渉には使えないわ。ごめんなさいね"

 

「は?」

 

 エランは思う。

 言うのが遅く無いか?と……

 報連相は大事にしろよと……*4

 

 と言うことは、つまりそうか。

 デリング・レンブランは決して好意的な返事が返ってくることの無い娘の人形へと話しかけ続ける哀れなオジさんと化してしまった????

 

 エランの勝負に備えて整えたメンタルなどどこかへ飛んで行ってしまった。

 彼の思考は混乱の中にいる。

 

 あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば

 

 

 

 

 

 

*1
動画はミオリネに無許可で撮影し、編集をベルメリアに手伝わせ、無断でアップロードしたものだ

*2
普段の自分の言動も思い返して欲しいものである

*3
帰ってきたブーメラン

*4
再びのブーメラン

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