ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話   作:冬に生まれたかも

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必要なのは2つだけ

 

 ペイル・テクノロジーズの会議室では厳かな雰囲気が漂っていた。

 

「売上収益は前年度に対して───売上原価が──」

 

「連結損益計算書では───また、連結貸借対照表からは───」

 

 ここで行われているのは目前に控えたペイル社の株主総会にそなえた報告事項の報告と決議事項の確認と報告事項,決議事項の質疑応答における想定問答の組み立てだ。

 あらゆる作業が予め決められていたかの様に流れる様子にはCEO4人がいつも浮かべている笑顔と同じ様な不気味さがあった。

 そして、全ての仕事を片付けるとその場は解散となり、CEOたちとエラン・ケレス以外の人間はさっさと出て行った。

 ピリリとした緊張感のある部屋の中に1人だけ少年が混ざった光景は今までも酷い違和感だったが、初老の女性と少年のみになるとより不自然さが際立った。

 

「今期も何事もなく乗り切れそうね」

 

 人が少なくなったことで取り戻した静寂を破ったのは4人のCEOの中でもトップのような振る舞いをするニューゲンCEOだ。

 そしてそれに続く様に他3人も話しだし、その中にエランも混ざる、会議室は彼女らと彼の雑談場へと変化した。

 

「貴方は何か報告、無いのかしら?」

 

 会話の流れの中でエランに話題提供が求められる。

 

「そうだね、そう言えば言わなくちゃいけない事があったんだ」

「まぁ、なんでしょう」

「ベルメリア・ウィンストン、彼女のことなんだけどオレがMS開発部門からもらう事にしたから。事後報告で悪いね」

 

 軽い調子で何でもないことのように話す。

 

「随分な勝手をなさいますね」

「別に良いだろ?強化人士計画も原案は完成してるんだ。後は調整だけだろ。それなら彼女抜きでも成り立つさ」

「耳がいいのね貴方って」

「そんなに褒めないでくれよ」

 

 皮肉をお互いに掛け合うと、口元の微笑みを消さぬまま目付きを威圧するように少し細め、相手を試す様な声色で問いかける。

 

「でも良いのかしら、彼女は『魔女』よ。それ位わかってて引き抜いたんでしょう?貴方がどうこうできる存在じゃないわ。下手に扱えば身を滅ぼす事になる」

「そうはならないさ」

「何故?」

 

 4人の初老の女性たちが無言の圧をかける中、少年は一呼吸を置いて答えた。

 

「オレがそう判断したから」

 

 そう言い放った顔には彼がいつも浮かべている人好きのする笑顔ではなく、挑発的な笑みが浮かべられていた。

 

「今まで聞いてきた返事の中で群を抜いて頭の悪い回答だわ。でもそうね、そこまで言うのなら好きにしてもらいましょう」

「言われなくても」

 

 その返事を機に会話に一段落ついたとその場の空気が弛緩する。が、ここでまた一つ爆弾が落とされる。

 

「それともう一つ大事な報告があるんだ」

「あら、まだ何かあるのかしら」

 

 今まで壁に寄りかかりながら話していたエランは歩き出し、CEO4人が座る椅子の対面を通り過ぎながら胸元から通信端末を取り出し指先を動かしてから話しを続ける。

 

「これを提出したくてね」

 

 そしてCEO4人の目の前に着信音の後にメッセージが表示され、それを見た4人は動きが止まる。

 

「は…辞表?」

 

 フリーズした4人の中で最初に言葉を発したのはゴルネリCEOだった。

 

「ペイル社の次期リーダーっていうのも便利な肩書きだったんだけどね。ペイル・グレードの下じゃ飼い殺しだからさ」

 

 信じられないものを見るかのような彼女らからの視線が突き刺さる。

 

「じゃっ」

 

 今度は挑発的な笑顔ではなく、いつもの温かい笑顔を浮かべながら軽く手を挙げると彼はその場を退場した。

 

" Thank you everything .(今までお世話になったね。) I'm quitting peil .(オレはペイル社を辞めるよ。) Best Wishes . (それではお元気で。) "

 

 今までにないほどに会議室が静まり返る。AIといった外部に自分たちの行く末を任せてきた彼女たちにとってペイル・グレードにトップ・グレードとして選ばれながらそれを不意にする選択肢を取る人間がいることが信じられなかった。

 そしてまた長い沈黙の後に最初に声を発したのはゴルネリCEOだった。

 

「か…風向き、変わりそうね」

「ええ…」

 

 ニューゲンCEOがそれに答えるとまた、会議室は静寂に包まれるのだった。

 

 

 

 

 

 会社を作るには何が必要なのか。ベルメリア・ウィンストンは考えていた。

 1人の少年に着いていくと決めた翌日の昼下がり、彼女は呼び出された。が、約束の時間になっても自分を呼び出した筈の少年が来ないので最初はファラクトに関する資料の整理などをして過ごしていたのだが、元々の几帳面さが災いして直ぐにやることが無くなってしまっていた。

 だからこれからの事を考える以外のやることが無かったのである。

 

「お待たせぇ、予想以上にバアさんたちの話しが長くてさ」

 

 待ち合わせに遅れかなりの時間を待たせたにも関わらず悪びれる様子もなく件の少年エラン・ケレスがやって来る。

 

「多少の遅刻は気にしないけど、これは流石に待たせすぎじゃない?」

「ハハハ、ごめんって。それで今後のこと話したいと思ってさ」

 

 軽い謝罪で流すと真剣さを孕んだ表情をつくる。一瞬で場の雰囲気も変わってしまったのでそれ以上の追求もできなくなる。

 

「それで、今後のことって何なのよ」

「取り敢えずオレたちの辞表は出しておいたから」

「は?」

 

 重大な情報を突然に言い出す彼に思考をフリーズさせられる。

 

「何で貴方はそう大事なことを何の相談もなく進めるのっ。勝手に私の辞表も出してっ」

「何を言ってるんだ。昨日話しただろオレと来いって。それに相談なら今してるだろ?」

「なっ…………………、…………、………、もう良いわよ。貴方がそういう人だって分かってたもの」

「だいぶ言葉を飲み込んでくれたね」

「怒るわよ」

「ごめんって」

 

 一通りラリーが終わったところで気になっていたいたことを聞く。

 

「で、具体的に会社をつくるって何をするの?私そういうの良く知らないの」

「必要なのは2つだけさ」

 

 注目を集めるように素早く指を2本あげる。

 

「2つ?」

「そっ、必要なのは資金と人材の2つだけ。株式会社の作り方はね、設立登記申請書を出して自社株を持つ。んで完成」

「それだけで?」

「だいぶ端折ったけどね。意外と簡単だろ。で、作りたてホヤホヤの会社がどれだけ力を持てるかが資金と人材さ」

「なら、その2つをどうやって集めるのかが課題になるわけね」

 

 真剣な表情で呟くが直ぐさま否定が入る。

 

「違うぜ」

「何でよっ」

「オレが誰か言ってみな」

「誰ってエラン・ケレスでしょう。それ以外に何があるのよ」

「そうじゃなくてさ、分からない?」

「そう言ってるじゃないの」

 

 何も分かっていない子供を見る様な目で見られ、ため息を吐かれるが理不尽だ。

 

「今日から元が付くとはいえペイル・テクノロジーズのトップ・グレード様だぜ?資金なんて腐るほどあるさ」

「何でよ。貴方、何もさせて貰えて無かったじゃない」

「えっ…ベルってもしかしてオレのこと社内ニートか何かだったと思ってる?」

「実際そうだったでしょ。私は貴方の暇つぶしが始まりでここまで巻き込まれてるのよ」

「まぁ、否定できないのが辛いところだね。仕事を貰えなかったのは本当だから」

 

 今度は別の意味でため息を吐くエランだったが間も無く気を取り直して話しを進める。

 

「何も働くだけが金を稼ぐ方法って訳じゃない。仕事が無くてもオレには有っただろ立派な肩書きが」

「それで?」

「ペイル社の次期後継者という信用をチップにして有利なオプション売りを繰り返したのさ。簡単そうなんて言ってくれるなよ?保険数理士なしで自力で計算してたんだから」

 

 得意気な顔で語る顔は謙遜の色が微塵も無く、人を怒らせる睨めっこが有るとしたら余裕を持って優勝するだろうといった具合だった。

 

「す…すごいわね。貴方と話していると年齢の概念があやふやになるわ」

「そっ、だからオレたちが集めるべきは人だけで良いんだよね」

「こうやって話しを聞いているとなんでも簡単に進められる気がしてくるわね。なら求人の方法ももう有るんでしょう?」

 

 今までの会話で相当な信頼を集めたのか期待を込めた表情で質問をするベルメリア。

 

「いや、無いよ?何でもかんでも素敵な最適解があるってのは勘違いだぜ」

「え…?じゃあどうするのよ、先に言っておくけど私の伝手を辿るのは無理よ。私は自分の身一つでペイル社に降ったんだから。その時に他の人達の行方なんて追っている余裕は無かったもの」

「そうなんだ。でも気にしなくて良いぜ、そこら辺はあんま期待してなかったから」

「そう…」

 

 あまりに明け透けな台詞に怒りを覚えそうになったがグッと堪える。

 

「最適解が無いとは言ったけど案が無いとは言ってないぜ?」

「そうなの?」

「取り敢えず募集ページを作ろうか」

「そこは普通なのね」

「最適解がないならできることは全部やらないとね」

 

 やるべき事が纏まったところである事に気付く。

 

「募集ページを作ろうにも会社の名前を決めてないわ」

「あぁ考えてなかったね。何か案ある?」

「いきなり言われても困るわよ」

「適当に決めちゃう?『ペネリットグループ』とかどう?」

「全方面に喧嘩うってるの?」

「冗談だよ。そうだなぁ、じゃあ『株式会社ガンダム』とか?」

「どこかに喧嘩を売らないとしょうがないの?怒るわよ」

「ごめんって、次の案は真面目さ」

「取り敢えず教えてちょうだい」

 

 一呼吸おくとエランは緩かった雰囲気を引き締めて口を開く。

 

「オレからすれば君のことを知ったから始まる会社なんだ。だから付ける名前なんて考えるまでも無いだろ。『ベルメリア・テクノロジーズ』これで決まりだ」

「私の名前をつけるの!?嫌よっ。貴方なら自分の名前をつけると思ってたのにどうして」

 

 決定事項のように話す彼に抵抗を試みるが昨日と同じ様に目を合わせられる。

 

「言わせたがりか?昨日言ったろベルの罪も呪いも一緒に背負うって。ならオレたちの会社がやる事なんてGUND技術の為のものに決まってるだろ。ならその第一人者が尊重されるのは当然だろ」

「…………………」

 

 この瞳だ。これに見つめられると何も言えなくなってしまう。だから抱えていた筈の不満も全て飲み込んで提案を受け入れてしまう。

 

「仕方ないわね……もうそれで良いわよ。ページは私がそれで作っておくわ。他にやることはある?」

「あるぜ、来週これに行くから予定空けとけよ」

 

 サラッと勝手に予定を決められていることには最早なにも言うまい。エランは胸元から手紙らしきものを取り出す。そのに書かれていたのは…

 

「パーティーの招待状?」

「ただのパーティーじゃないインキュベーションパーティーさ、ベネリットグループ主催のね。良い人材が居たら速攻で勧誘できる」

「どうやってこれを?」

 

 またあの表情を見せる。得意気な全くもって謙遜のない鼻っ柱の高い、人を煽ってないとは信じられない表情だ。これで2回目だ。

 

「オレが誰か言ってみな」

 

 ベルメリア・ウィンストンは無言でエラン・ケレスを殴った。

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