ミリしら転生者がアドステラで好き勝手やるだけの話 作:冬に生まれたかも
そこには煌びやかな世界が広がっていた。会場一体に施された華麗な装飾、展示された傷ひとつないモビルスーツ、誰も彼もが着飾って綺麗なスーツに派手なドレス、手にはグラスを持ち、雑談、商談、噂話。彼ら彼女らの傍の机には豪華な料理が並び、ステージに目を向ければカラフルな楕円を散りばめたり素敵なイラストを動かして自分らの事業計画の資料を語っている者たちがいる。
会場は人の声に溢れ、その全てがキラキラとしていて華やかさとそれでいながら下品にはならない奇妙な貞淑さがあった。
「今の良いプレゼンでしたね。惜しくも目標金額の達成には届かなかったけど」
今まで壇上に立ち話しをしていたスーツ姿の男たちが階段を下ってから何かを話しながら歩いていると黄緑色の髪の白い正装を纏った少年が話しかけてきた。
「どちらのお子さんかな?迷子なら他を当たってくれ」
「そんな用で話しかけたんじゃ無いですよ。大人には見えなくとも迷子になる様な年齢には見えないでしょう?」
「じゃあ何なんだい?さっき迄のを見てたのなら分かるだろう。おじさんたちも暇じゃ無いんだ」
「勧誘ですよ勧誘、今の会社を辞めてオレのところで働かないかい?あなた方の話しに可能性を感じたんだ」
「ハハハ、それは景気のいい話しだね。また今度詳しく聞かせてくれ」
素気無く断ると男たちは何処かへと向かっていった。自分たちの上司にでもプレゼンの是非でも聞きに行くのだろう。
その場に1人残された少年に会場の中で珍しく気合の入っていない格好をした女性が近づいて来る。彼女は技術者であるから今までこういったパーティーに足を運ぶことも無ければ服装への興味も薄かったのであろう。
「ちょっとさっきから何やってるのよ」
「オレたちはここに勧誘にきてるんだぜ?なら決まってるだろ」
「だからって手当たり次第じゃない」
「仲間はどれだけ居てもいいだろ?あっ。今あそこのステージでプレゼン終わったな。ちょっと行ってくるわ」
「あっ。ちょっと…もう」
少し話しをするとまた急いで勧誘に向かってしまうエランにベルメリアはため息を吐く。パーティーで勧誘をすると聞いた時は目的の人物がおり、その獲物を抜群のコミュニケーション能力で会話を盛り上げてスッと懐に入り込んでヌルりと目標を達成してしまうと思っていたが違った。
「なに夢見がちなこと考えてんだ?」
また失敗したであろうに顔に翳りを見せることもなく帰ってきたエランに声を掛けられる。
「!?いきなり考えを読んでくるのは止めてちょうだい」
「大方オレのことをナンパ成功率100%の魔法使いだと考えてたんだろ?そんな訳ないのに」
「普段の貴方を見てるとそうも見えてくるわよ」
「それが夢見がちって言うんだよ。勧誘でもナンパでも面接だって人と人が向かい合って成立すんもんだ。それで絶対に信頼を獲得するなんてそんな
「それはそうでしょうけど」
「だから手を尽くすんだ。相手を見て話して持ってるカードから適してそうなのを選ぶ。その繰り返しだ。だから時間がかかることも往々にしてあるし、上手くいかない場合なんて当たり前にある」
「なら今日のことも無駄になるのかしら」
「それは運次第だろ。そろそろあのグループが降壇するからこの話しはここまでな。行ってきます」
何の気負いもない調子で向かって行き遠目で見ていると直ぐにまたフラれたようだった。そして今度からはこちらに帰って来ずに次の相手へと向かっていく。そんなことを繰り返していた。
彼は誰にでも話しかけ、断られても次から次へと絶え間なく勧誘を続ける。プレゼンを終えた人間だけではなく料理のすぐそばで歓談に勤しむ者や壁の花に徹する人間、手持ち無沙汰そうに1人でグラスを傾ける者にも。
その姿に初めて会った時のことを思い出した。
昼下がりの部屋で時間を持て余していた時だった。あのとき突然開いた扉で自分の人生は大きく変わった。変えられてしまった。
そうだ、自分も最初から惹きつけられていた訳じゃなかった。自分も話しかけられた日は部屋から追い出そうと思っていたのだった。それでも懲りずに話しかけにくるから段々と言葉を交わすようになり時間が経つと共に絆されていったのだった。彼のコミュニケーション能力の本質はどれ程無碍にされても懲りない根気に有るのではないか──それでも相手に不快感を与えない空気感の作り方は才能であろうが──そう思うと今日もやっぱり何だかんだで上手くいくような気がしてきた。
そう思いながら遠巻きに眺めていると壮年の男性と話していたエランがいきなりコチラを向きチョイチョイと手招きをする。
それに少し慌てながら駆け足にならない様に近づくと彼女を見ていたエランは相手に向き直るととびきりの笑顔で会話を続ける。
「彼女がそうなんですよ。今まで話していた凄腕の技術者。もう雰囲気だけで只者じゃ無いって分かるでしょう?」
「確かに…ううむ、言われて見ればそう見える」
呼び出されて近づいたら前後の流れを説明することもなく話しを合わせることを要求される。
「何せ彼女はね若いながらに、ここだけの話しですよ?かの『ヴァナディース事変』を鎮めた伝説の機体『べギルべウ』の開発にも携わった超凄腕なんですから」
息を吐くようにとんでもない嘘が飛び出してくる。隣にいるだけで緊張で震えるのに…今は吐きそうだ…がグッと堪えて平静を装う。
「ほぅ。あのグラスレーの…」
「そうその!その関連でアンチドートの技術にも明るくてね。貴方ならそこら辺のシステム気になるでしょう」
「話しを聞かせてくれるのかい?」
「ベル頼むよ」
無茶振りである。が、できてしまうしそれを把握して言い出しているのだろう。そうすれば信頼に応えなくてはという気持ちにもさせられる。だから声が震えないように気をつけて口を開く。
そうしてその男性との会話にどれだけ時間が経ったのだろう1時間も話した気もするし実際にはそれ程時間が過ぎていないようにも感じる。
ただ場は大いに盛り上がりドッとした笑い声が響くことをあった。
そして、本題に入るように雰囲気が変わる。
「それで君たちは私にどうして欲しいんだい?」
「ああ勧誘ですよ、オレたちと一緒に働いてくれる人を探してるんです」
「へぇ、それで?」
緊張感が今日で最高に張り詰めていく。
「オレたちの会社に入社しませんか?貴方が」
「は?」
活気のあるパーティー会場の中でトボトボと歩く2人がいる。1人は意気消沈と言った様子でもう1人は平然としている。
「入る訳ないじゃない!人を紹介してもらうだけでも良かったのに…」
「何事も挑戦でしょ」
「貴方あれだけ盛り上げておいて相手の話しを何も聞いてなかったの!?相手はブリオン社の重役だったのよ!」
「そんな大物がウチに入ってくれるならそれが一番でしょ。彼が入ってくれたらそれだけで最強のカードだったよ」
「入ってくれればね…」
彼の滅茶苦茶さには慣れてきたつもりだったが甘かったらしい。今日だけで何度目か分からないため息を吐く。
それからも何度も声掛けを続けて行く。何も話しを聞いてくれない相手もいたし最初から苦い顔を隠さない相手もいたし途中までは乗り気で話しに乗ってくる相手もいた。けれど全員が最後は首を横に振って離れていく。
そしてベルメリアが緊張で会話するのも難しいほど疲弊してしまったのでホールを離れて設置されているベンチに腰を下ろす。
「お疲れ様、大丈夫か?」
そう声を掛けるエランの手には2人分のグラスを持っており座ってから動けなくなってしまった彼女にオレンジ色の液体が注がれてる方を差し出す。
「貴方…メンタルどうなってるの…データストームも耐えきれそうな図太さよ…」
「ハハ、オレが強化人士に思えるって?」
談笑を続けられる程の体力も残っていない。出てくるのはため息と愚痴だけだ。
「私を最初に呼んだ時の…あの時の人…あの人と上手いこといってればこんな目に遭わずにすんだのよ…」
「だね」
「だねって…分かってるならそうしときなさいよ…」
「ハハハ、ごめんって」
「いつもみたいにそれだけで済ますつもりなのね…はぁ」
そしてとうとう何の音も出さなくなってしまった。
「あちゃあ、無茶させすぎたかな」
「…………」
『へんじがない。ただの しかばね のようだ。』
「誰が屍よ」
「おっ動いた」
「怒るわよ」
ギロリと睨みつけるが力がない。疲れがそうさせるのか経験からくる諦めかもしくはその両方か。そんな相手に対して颯爽と信じ難いことを言い放つ。
「じゃ、そろそろ本命のとこに行こうかな」
「はあ!?」
誰彼構わず突撃していた彼に目的の人物がいると言い出したのだ。本当に今までの時間は何だったのか。
「そんな人がいたの…だから何人に断られてもヘラヘラしていられたのね」
「いいや?本命が一番期待薄さ」
「大丈夫なのそれは」
「だからこの一週間はその準備に追われるハメになったね」
彼にしては珍しく本当に自信が無さげだった。その様子に驚き一体誰を誘おうか考えているのか一層気になった。そしてそのまま好奇心のままに問いかけた。
「誰に狙いを定めたのか、そこまで言う相手は誰なのかいい加減教えてちょうだい」
「面白い話を聞いたんだ、御三家の御曹司とベネリットグループのお姫様のことは知ってる?」
「ええ、まぁ。幼馴染だそうね。え…そんな…まさかね…」
「その子らちょっと前に事業コンペに企画出したんだって」
何を言っているのかわからない。理解を拒む。話しの流れを読むととんでもない結論がその口から語られそうで、考えることを止めてしまいたくなる。
「これはつまり、子供ながらに仕事がしたいってことだろ?もしくは大人たちに自分はこんな事もできるんだぞって見せつけたかったか。あんな恵まれた立場にいる子らが。まあ、気持ちはよく分かる。長いこと飼い殺しにされてたオレなら」
やはりとんでも無いことを言い出した。
「そ…それで…つまり?」
「今なら誘えるってことさ。素晴らしすぎる人材が」
「くる訳ないわ」
「言うだけなら
彼に初めて会ったのは義父さんに連れられてパーティー会場に来ている時だった。
インキュベーションパーティー、グループ内の社交パーティーであり、新規事業を始めたい者たちが集まってプランを語り投資を募る。そういう支援イベントでもあるのだがとても退屈だった。
出てくる話しは中身が薄かったり古かったりどれもこれも自分ならばより良いものを作れる。そう思わせられるものばかりだった。
だからグラスレーの後継者として人と顔を合わせる以外にやることもない。義父さんに紹介された人物との軽い歓談を終えると途端にやることが無くなってしまった。
いつもならこんな時に雑談に付き合ってくれる同じアカデミーに通ったサビーナたちも今日は来ていない。幼馴染であるベネリットグループ総帥の娘ミオリネ・レンブランもこんなイベントには興味が無いようで来ている筈もない。
見知った人間を見つけては会話を弾ませるが直ぐに話題も尽きて大した時間も経たないうちにお別れになる。
義父さんに連れてきてもらったのだから信頼して貰えるように愛想良く過ごして行きたかったがこうも退屈が続くと笑顔を保つのも億劫になり帰ってしまいたくなる、が気力で耐えて人好きのする笑顔を維持する。
そんな時だった。彼に声を掛けられたのは。
「やぁ。はじめまして。貴方がシャディク・ゼネリ様?」
「えっと君は?」
「これは失礼、オレはエラン・ケレス。気軽にエランって呼んでくれ」
「はじめましてエラン。なら俺のこともシャディクって呼んでもらおうかな」
黄緑色の髪と瞳で白い正装で身を包んだ少年に握手で応えた。彼が何者なのかそれは分からなかったがどんな奴なのかそれはしばらくして一瞬で分かった。
「君に見せたいものがあるんだ。着いてきてくれないかな?」
「へぇ何だろう。気になるね」
彼と2人で歩いてると段々と人気の無い場所に誘導されていく。そして辿り着いたのは誰もいない廊下の端だった。窓に映る景色は暗闇の中で星が瞬いていていつも通りでは有るがパーティーで疲れ切った脳には輝いて感じられた。
「君が見せたかったのはこれかな?意外とロマンチストなんだね」
「そんなこと言わないでくれよ。警備の時間の隙間を狙った星空だけの景色なんだぜ」
そこで彼とどれだけ言葉を交わしただろうか。適切な間での相槌や奇想天外な体験談、とても楽しい時間ですぐに彼のことを好きになってきてしまった。だがそんな時間の中で窓の外の景色にふと違和感を覚える。
星と星の間からコチラに近づいてくる光がある。近づいて来るにつれてそれが何なのか分かった。それは常軌を逸した速度で飛行するMSだった。だけどそれはあり得ないことだった。何故なら会場を護るために配備されているMSは全て把握している。だが目の前に現れたのは見たこともない機体。
ソイツはコチラに向かって銃を構える。これはテロだ。このままでは確実に死ぬ。あわやそう思った時に警備隊のMSが間に合う。
そして目と鼻の先で戦闘が開始された。
激しい戦闘が続いた。攻防は一進一退で機体の性能で圧倒する襲撃者と技量と連携で迫る警備隊、どちらに軍配が上がってもおかしく無かった。だが膠着した戦況に変化が訪れる。今まで圧倒的な速度と機体制御を見せていたMSが一瞬だけ赤く輝くと高性能なスウォーム兵器を操り出したのだ。射出されたビットがビームライフルの隙間を縫い装甲に張り付き爆発する。手足を奪われ無力化される警備隊機が現れ始める。
「まさかあれは…
眼下で繰り広げられる激しい争いに目が奪われる。が、そこでふと隣から聞こえてくる布が擦れる音が気になって目を向ける。するとエランがポケットから通信端末を取り出していた。
そして何かしらのアプリケーションを起動すると目の前の光景に信じられない変化が起こった。
ガンダムと思われる機体がいきなり動きを止めたのだ。
突然動かなくなった襲撃者はコクピットを撃ち抜かれ完全に撃破された。
「このテロは君が起こしたのか?」
「そんな訳ないだろ濡れ衣だ。証拠がない」
「なら君が見せたかったものって?」
「ただの星空だよ、それ以外は何も」
完全にシラを切る彼がどんな奴だか理解した。悪事に対するブレーキのぶっ壊れたヤバい奴だ。それに会話の端々から感じられる知性、もう証拠は何処にも残されていないのだろう。関わっちゃいけないタイプの人間だ。
だけど同時にとても面白い奴だ。俺をここまで連れてくる手際、ことが起きるまでその場に縫い止める空間演出能力、極めつけはこんな大それたことを実現させる準備力。
無意識のうちに彼を探ろうとする自分がいた。
「改めて自己紹介をしようか。俺はベネリットグループ御三家が一つ『グラスレー・ディフェンス・システムズ』の御曹司、シャディク・ゼネリだ。君は何者なんだい?」
相手の目を見つめ自分の立場が持つ力を押し出し嘘をつくことを許さないように威圧を込めて口を開く。
「オレはエラン・ケレス。ただのエランだ。肩書きは何も無い」
だけど返ってきたのは期待とは違うものだった。
「そんな筈ないだろ?」
「本当だよ。つい先週起業してね。これから何かしようって人間なんだ」
「なら自分の会社が有るじゃないか」
「出来たてホヤホヤで何の実績も無いからね、態々言うものでも無い」
「そうかな?俺は君のやることに興味がある。例えばさっきの戦闘の間に君が起動していた何かとか」
そこまで会話するとエランは目を輝かせてすごいことを言い出した。
「実はオレの会社『ベルメリア・テクノロジーズ』は近いうちに採用面接をやるんだ。良かったらそこに来てくれないかな?」
「俺を雇いたいって?無理だよ立場があるんだ。人の下には行けない」
「来てくれるなら君が社長で良い。それなら君の周りも兼業を認めてくれるだろ」
「は?」
ベルメリア・ウィンストンは避難誘導に従って倉庫のような場所に移動していたが事態が落ち着き自由に動けるようになったのでエランと別れたベンチまで戻ってきていた。
そこにエランも程なくして合流してきた。
「ベル無事で良かった」
「今までの騒ぎ貴方は関係して無いでしょうね」
「そんな訳ないでしょ」
別れる前と表情は変わらずにいる彼を見て取り敢えずは無関係だと思うことにする。
「色々有ったし今日はもう帰ろうか。パーティーももうお開きだろうしね」
「そうね、もう今日は何もできないわ」
そうして2人は帰路につくのであった。これは帰りの輸送船内の会話である。
「貴方のその雰囲気を見る限り本命にも上手くいかなかったようね」
「それはどうだろ?もしかしたら今度の採用面接の時に面白いことが起こるかもな」
不穏なことを言った気がしたがコレはいつものハッタリだと自分に言い聞かせてもう眠ってしまうことにした。
募集ページに記載した面接の日。ビルの一室を借り、そこを面接会場としていた。
そして面接官である2人、ベルメリア・ウィンストンとエラン・ケレスは想定外の事態に目を丸くしていた。
「ある人にこの会社のことを伺って来ました。ミオリネ・レンブランです」
何でシャディクじゃなくてコッチが来てんだ??
あれぇ???